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NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 8. 予言 -Elder Sisters-
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#2 地下

「ヘレナ会長。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか」


 ムツミは丁重に問うた。


「『笛吹き』は何故リリアさまを狙っているのでしょう?」

「……リリアの夢の中は大量の『臓物』で溢れかえっているの。このところ、リリアの呟く言葉は『臓物』の特徴のことばかり。

 パトリックは、夢の中からモノを現実に取り出すことができる。ヤツにとってリリアほど使いやすい武器はないわ。この子の夢を支配すれば、無限に『臓物』を手に入れられるもの。貴女を襲ったのは、その予行演習といったところかしらね」


 「笛吹き」こと、パトリック・ピアースは他人の夢を支配し、そこに出てきた『魔女の臓物』を使役することができる。サチの夢を支配したのは、その練習台だったのだろうか。

 彼はサチへの襲撃を「第一段階」と述べていたが。


「でも、その『笛吹き』はどうやって他人の夢に入るんですか? 襲撃方法が分からないと、守ることも攻めることもできません」

「『GutenNacht』は眠らせる相手に触れる必要があったけど……パトリックはどうやらその力を極めたみたい。魔奏器の発する音を聞かせるだけで、眠りへ誘えるようになったみたいなの」


 事実、サチは何者かに触れられた覚えがない。パトリック、つまり『笛吹き』は、触れることなく眠りに誘えるほどに魔奏を鍛え上げたのだ。

 彼の自信は魔奏器の名を『Totentanz』と改めているところにも表れている。同じように眠りへ誘う効果の魔奏であっても、音を聞いただけで影響下に置かれるのでは防ぐのは極めて難しい。彼が極めた魔奏は、もはや別次元の力だ。


「でもこの場所は地下にあるから、地上からの魔奏は届かない。アイツは絶対、この部屋を直接、襲撃してくるはずよ」

「あんなのとまた戦うんですか……」

「心配は無用よ。私の魔奏器『壊れたクラリネット』は、魔奏を打ち消す力がある。アイツがどれだけ夢を支配する力を持っていようが、それが魔奏器から得た力である限り、私の敵じゃない。

 ただ――――」

「ただ?」

「『壊れたクラリネット』は魔奏を打ち消す力しかない。それだけでは、パトリックを倒すことはできないわ。

 この力はあくまで、学院内での抑止力。私の魔奏器はヤツの作る幻像の『臓物』や幻覚の世界は斬れても、実体――――つまり、パトリック自身を斬ることはできない」


 魔奏士を育成する学院において、ヘレナはあらゆる魔奏の力を打ち消す手段を持っている。その目的が抑止力であることは、サチやムツミの目にも明らかだった。

 何者かが魔奏の力で人類に危害を及ぼす事態に陥ったなら、それを排除する。まさしく、今の状況はその「事態」である。


「それで我々に協力を求めているのですね?」

「話が早いわね。そこで私の『壊れたクラリネット』とサチ、貴女の『剣の舞』で合奏をする」

「が、合奏⁉」

「魔奏を重ねるのよ。そうすれば、私の魔奏を打ち消す力と、貴女の加速の力が二人で同時に使える。

 貴女の刃に、魔奏を打ち消す力を宿せるし、私はあなたの加速の魔奏でリリアを守り切れる」


 サチは「Leviathan」のストゥーリ姉妹のことを思い返していた。彼女らの持つ魔奏器『水の交響曲』は、一本だけでは小さな水を操る程度しかないが、ユニゾンによって1+1の力を3にも4にも、10にも増幅していた。

 だが合奏は、やろうと思って簡単に出来るものではない。ストゥーリ姉妹の強さは、彼女たちが血のつながった姉妹で、完璧な連携が取れたからこその強さだったのだ。理論が分かっているだけですぐ使えるのなら、誰だってやっている。一般的な技術になっていておかしくはないのだ。


「理論や技術を教えている時間はないわ。早速練習あるのみよ」

「わたしにできるでしょうか……」

「セナなら、誰とでも合わせられたけどね」

「やります! やらせてください!」


 セナなら出来たのに、と言われればサチも黙ってはいられない。意気込むサチだったが、緩やかな時間は長くは続かなかった。

 突然、部屋全体が「ズシン」と揺れたのだ。


「前言撤回。練習の時間もなさそうね」

「一体どこから……」


 サチは入ってきた扉の方を見たが、人影はない。


 ズシン ズシン ズシン

 ズシン ズシン ズシン

 ズシン――――


 重く響く音に、部屋全体が軋む。


「上ですっ!」


 ムツミが叫ぶ。

 サチとヘレナが上を見上げると、部屋の天井が崩れて『神経』が落下するところだった。

 ヘレナは素早くリリアを抱きかかえ、サチとムツミも飛び退いてベッドから離れる。つい一瞬前までリリアの眠っていた場所に「神経」が墜落し、天蓋付きのベッドは粉々に破壊された。

 崩れた屋根の建材が降り、部屋に舞う煙。それが晴れると、巨大な細胞体に触手を備えた、風船を逆さまにしたような形状の『神経』がうねうねと蠢いていた。

 その軸索部分に手をかけて、あの二貌のピエロマスクを被った男が一人。

 女子のワンピース制服と同じデザインのジャケットにスラックス。学院の男子制服だ。


「『笛吹き』!」

「おやおや、生徒会長殿」


 マスクを被った男が頭を下げる。手を大きく振る仕草は恭しいのに、声色は半笑い。

 まるで、ステージの上から奇術師が挨拶するような。そんな雰囲気の男。


「ご機嫌いかがですかなァ?」

「リリアは渡さないわ」


 ヘレナは抱きかかえていたリリアを壁にもたれかけさせ、自分はレイピアを抜いてリリアを背に構えた。ヘレナの隣に立つサチも『剣の舞』を抜き、正眼に構える。


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