↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NIGHTMARE RAVENS  作者: 96500C/mol
Chapter 20. 旋慄 -Coda-
104/107

#2 黒煌


「リリア、これは一体……っ!」


 近づくヘレナが足を止めた。

 リリアの眉間が裂けている。横に開いたその傷口から、深紅の眼がぎろりと覗いていた。


「おはよう、姉さん」


 リリアははっきりと喋ったが、顔はまだ眠ったままだ。


「いい朝ね」

「あなた……リリアじゃないわね」

「何言ってるの。たった二人の姉妹じゃない」

「リリアから離れて! 私のリリアを返して!」


 腰の鞘から『壊れたクラリネット』を抜くヘレナ。


「違うわ、姉さん」


 ヘレナに向かって腕を伸ばすリリア。

 勝負は一瞬だった。ヘレナが一歩、踏み出すより早く。リリアの掌から召喚された赤黒い血の槍が発射され、ヘレナの心臓を一突きにした。


「今は私(・)のリリアよ」


 サチたちも動けなかった。サチたちが動くより早く、リリアは槍を発射したし、一瞬の出来事にどう反応していいか分からなかった。


「会長!」

「うーん、この格好」眉間に開いた第三の眼で、リリアは自分の腕や足をみやった。「趣味じゃないわ。ちょっと姉さん、私の服になってくれる?」

「が……っ」


 リリアが再度ヘレナに手をかざすと、心臓を刺し貫いていた赤黒い槍が引き抜かれて、無数の血滴になった。

 とめどなく零れだすヘレナの鮮血も血滴となって浮かび上がり、リリアの元に集まって衣装を形成していく。

 赤黒いドレスにローブ、そしてぐにゃぐにゃに折れた、鍔の広いとんがり帽子。ニヤリと笑う、人を見下した黒い微笑み。魔女然とした姿……彼女を見て、誰しもが思うだろう。この女こそ、あの“黒き煌きの魔女”である、と。


「あらあら」


 ヘレナが倒れる。血の大部分を奪われた体は青白く、体からは血と一緒に生気まで失われていた。

 目の前で起きた惨劇に硬直していたサチたちに、リリア改めシャリオは笑顔で語り掛けてきた。


「『9つの音階』も、もうたったの4つになったのねぇ」

「……っ!」


 4つ―――サチは自分の後ろにいるのが、ライラ、ムツミ、そしてヴェルナの3人であることに気が付いた。


 『9つの血塗られた音階が集い、魔女の眠りを覚ます』。それがリリアの残した予言だった。そして、『NIGHTMARE RAVENS』の構成メンバーも9人。

 リリアは忠告していた。「9つの音階を集めてはならない」と。

 音。それは魔奏を奏でる魔奏士の暗示。それは何らかの現象でも、聖遺物の類でもない。『NIGHTMARE RAVENS』に9人の魔奏士が集うことが、リリアの予言だったのだ。


「おかげで私はこうして現世に舞い戻ることができたの。ありがとうね」

「わたしたちが、あなたを……?」

「そうよ。でも、自覚が無くても仕方ないわね。あなたたちは何か失敗をしたわけじゃない。あなたたちが9人集まることと、私の復活には直接の因果関係などないのだから」

「仰っている意味がよくわかりませんが」


 平常運転のムツミに対して、ライラはいつも以上に殺気を纏っている。サチも自分の腰から『剣の舞』を抜き、戦闘態勢をとった。


「私はリリアにちょっとしたヒントを与えただけ。必ず起こる未来。『最強の楽団に、9人のメンバーが集まること』、そして『魔女シャリオの復活』。リリアはそれを勝手に解釈しただけ。『9人のメンバーが集まると、魔女が復活してしまう』と。

 リリアは焦ったようね。私の授けた予言の通り、あなたたちは最強の仲間を9人集めてしまった。

 それが現実になった以上、もう一方の未来も確定している。リリアは必死になって、私の企みを暴こうとした。その繋がりが、私の魂を彼女の体へと導いたのよ」


 シャリオは自分の体――肉体自体はリリアのものである――を、愛おしそうに抱きしめた。


「ああ、リリア! あなたのお陰で、私は自分の未来をより確実なものに出来る!

 ありがとう! 私をこの時代に導いてくれて!」


 サチは背筋が凍った。このシャリオという魔女は、どこまで計算しているのだろうか。

 リリアの予言にあった『9つの音階』には、シャリオの復活と直接の関係はない。それはただリリアを焦らせ、彼女が魔女シャリオを知ろうとその魂にアクセスすることを、見越して渡したヒントだったというのだ。


「私にはこの時代でやるべきことがある」シャリオは恍惚の表情でサチたちに語り掛ける。「まず一つ目。私の復活を阻止しうる、ファクターの排除」


 ぎろり、とシャリオの第三の眼がサチたちを見据えた。

 『剣の舞』を握るサチの手に、冷たく汗が滲んだ。


「まずはヴェルナ・ハンニネン。あなた」


 ひゅっ、とサチの吸った息が、肺に行かずに鼻から噴き出た。


「あなたは37年後、私の瘴気を中和する薬剤の開発に成功する。それ以降、私は二度と復活できなくなってしまう。殺すだけならこの先いつでもできるけど、早いに越したことはないわ」


 未来予知。それはリリアの力だ。

 リリアの予言の魔法、セレブラントとしての能力は、本来シャリオが復活する器の目印として与えたものだった。それなら、今のシャリオがリリアの力を使えても不思議なことはない。


「それからあなた。トロイライト・カルミナリア・ベルーシュ。あなたはこの先、私に殺されるまで竜剣士として何度も私の復活を阻み続ける。邪魔者は排除しておくに限るわ。

 それに魔導機械人形。あなたたちの襲撃のせいで、私は昼も夜も穏やかに暮らせなくなる。あのユーレンとかいう女もろとも、殺しておいたほうがいいわね」


 にやり、と嗤うシャリオ。ふっ、とその場から姿が消えた次の瞬間には、シャリオはヴェルナの背後にまわり、首筋を狙って手刀を振り下ろしていた。

 反応できたのはサチだけだった。加速の魔奏でシャリオとヴェルナの間に割り込み、手刀を『剣の舞』で受ける。


「ふふっ、いい反応だこと」シャリオはまだ嗤っている。

「ライラ! ヴェルナを安全なところに! ムツミ! ライラとヴェルナが逃げる時間を稼ぐよ!」

「おっけー」「了解です」


 ライラとムツミもそれぞれ動いた。

 ヴェルナをお姫様抱っこでひょいと持ち上げたライラは、すたすた走って中庭から逃走する。

ムツミは加速の魔奏を発動し、シャリオに襲い掛かったが。シャリオはムツミの攻撃をするする避けて、距離をとってしまった。


「安全な場所なんて、どこにもないのにねぇ」


 シャリオが魔法陣を展開し、無数の火球を発射する。

 一発一発の威力は大したことはない。だが、そのすべてを防ぎきるのは不可能だ。サチもムツミも、加速して避けるのが精一杯である。無数の火球はロアノール城の壁に命中し、無数の穴を作って屋内に火事を起こした。


 ロアノールの学び舎が、地獄と化した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。