162.エルガさんの未来のために
「――絶っっ対、エルガの仕送りで贅沢してるじゃないっすか!」
その後、夕食までの間。私たちは客間に通され、ゆっくりしているよう言われた。
お茶を淹れてくれた使用人が出ていった瞬間、耐えかねたようにヨティさんが口を開いた。
「まず間違いないな」
「どうするんすか、殿下! ここにはシベルちゃんの魔石を置きに来ただけっすけど、見過ごせないっすよね!?」
「……そうだな」
ヨティさんの意見にリックさんも同意し、レオさんも深刻そうに頷く。
エルガさんだけは今、この場にいない。ご両親に話があるからと、呼ばれていったのだ。
一体どんな話をされているのか……。私はそれすらも心配。
「叩けばいくらでも埃が出そうだが、問題はエルガの実家ということだ。彼女にも話を聞こう」
「まぁ……そうっすね」
王太子様がいるのだから、調べようと思えば徹底的に調べられるはず。
そう思い、安心したのか、ヨティさんは少し落ち着きを取り戻したようだ。
――コンコンコンコン。
そのとき。遠慮がちに、扉がノックされた。
「お休みのところ失礼します。少しよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
レオさんが答えると、白髪交じりの初老の男性が姿を見せた。背筋はまっすぐで、仕立てのいい執事服をきちんと身に纏っている。
「この家で執事を務めております、ヘルマンと申します」
そう名乗ると、彼は一度深く頭を下げ、ゆっくりと顔を上げた。
その表情は、どこか覚悟を決めたように硬い。
「王太子殿下、そして聖女シベル様。どうか……少しお時間をいただけませんでしょうか」
レオさんと視線を交わす。
レオさんは小さく頷き、落ち着いた声で応じた。
「構わないよ。どうぞ話して」
「……ありがとうございます」
ヘルマンさんは、扉の外を一度だけ確かめるように振り返り、音を立てないようそっと閉めた。
そして、声を低く落とす。
「単刀直入に申し上げます。この家の主――ベーネ男爵とその夫人には、重大な問題がございます」
事実が明らかとなる予感に、喉がごくりと鳴った。緊張感が部屋を包み、みんなが彼の声に耳を傾けているのがわかった。
「私は先代――エルガ様のお祖母様の代から、この家に仕えて参りました。あのお方は誠実で、領民を想い、この地を本当に大切にされていた……」
一瞬、懐かしむように目を伏せてから、彼は再び顔を上げる。
「しかし、現男爵と夫人は違います。金遣いは荒く、領の収支を顧みないばかりか、本来納めるべき税を誤魔化し、エルガ様からの仕送りにまで手をつけております」
「……!」
その言葉に、私は思わず息を呑む。
「帳簿は巧妙に改ざんされ、私一人の力では、もはやどうにも……」
震える手を、ヘルマンさんはぎゅっと握りしめた。
「このままでは、領は立ち行かなくなります。そしてなにより――」
そこで、彼の声が少しだけ揺れた。
「エルガ様の未来が……踏みにじられてしまう」
その言葉に、私の胸はきゅっと締めつけられた。
やっぱり……。
あの豪華な調度品も、羽振りのよさも、今日一日だけのものではなかった。
エルガさんが必死に稼いで仕送りしていたお金が、返済ではなく、贅沢や悪事に使われていたのだとしたら――。
「私はこの家に仕える者として、本来なら主を告発するなど、あってはならないことだとわかっております」
ヘルマンさんは、再び頭を下げた。
「それでも……この地と、エルガ様を守るために、どうかお力をお貸しください。レオポルト殿下、そして優秀な王宮騎士団の皆様……」
ヘルマンさんの声が、一層力強くなる。
「男爵夫妻を、捕まえていただきたい」
「……」
重い沈黙が、客間に落ちた。
レオさんはすぐには答えず、しばらく考え込むように視線を伏せていた。
そして、静かに口を開く。
「話は理解した」
「はい……」
「まずはエルガ本人にも話を聞こう。証拠を集めて事実を確認し、彼女の意思を確かめたうえで、公正に判断させてもらう」
「……ありがとうございます」
私は胸の前でそっと手を握りしめ、ほっと小さく息を吐いた。
たとえエルガさんがどう言おうと、ヘルマンさんが言ったことが事実なら……男爵夫妻は処罰される。
でも、それでも――。
レオさんは、エルガさんにも配慮してくれる。
それだけで、少しだけ安心できた。
たとえなにがあっても、私はエルガさんの味方でいたい。
でも、どうかエルガさんがこれ以上傷つきませんように。
そう、祈らずにはいられなかった。
エルガさん……!( ;ᵕ;)
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