161.エルガさんのご実家
ここからはエルガ編(?)です!そんなに長くはならないです!
それから、シュミット家の皆さんに見送られて辺境伯領をあとにした私たちは、王都へ向かう街道を南へ進んでいた。
ただし、一直線に帰るわけではない。
王都へは、まだ聖女の魔石を届けていない街に立ち寄りながら帰ることになっている。
まだまだ、この国すべての土地に、聖女の加護を付与した魔石を届けられていないのだから。
「途中に、エルガさんの故郷、ベーネ男爵領もあるんですよね」
馬車の中でそう口にすると、レオさんが頷いた。
「ああ、そうだね。王都に戻る前に寄る予定だよ」
「じゃあ……エルガさんも、久しぶりに里帰りできますね!」
そう声を弾ませて言った私に、エルガさんは一瞬言葉を詰まらせた。
「ええ……そうね」
微笑みは浮かべているけれど、どこか硬い。
喜びよりも、戸惑いのほうが滲んでいるように見えた。
――そういえば。
エルガさんは、ご両親の借金を返すためにトーリで働いていた。
故郷を離れ、一人で生きることを選ばざるを得なかったのだった。
久しぶりの帰郷が、ただ懐かしいだけのものとは限らない。
会いたい気持ちと同じくらい、向き合うのが怖い思いもあるのかもしれない。
……もし私が両親に会えるのだとしたら、それは手放しに嬉しい。
でも、人にはみんな、それぞれ事情がある。
だから私は、それ以上踏み込まなかった。
隣を見ると、レオさんも少し険しい表情を浮かべていた。
レオさんは、エルガさんの事情を把握しているのかもしれない。
「……」
ベーネ男爵領。
エルガさんが生まれ育ち、そして離れた小さな土地。
馬車は静かに進み、雪の名残が消えた街道の先に、次の目的地が近づいてくる。
私は窓の外を見つめながら、そっとエルガさんの横顔に視線を向けた。
どうか、この旅が。エルガさんにとって、少しでも前に進むきっかけになりますように。
*
ベーネ男爵領主邸は、小高い丘の上に建っていた。
雪国ほどではないとはいえ、この地も王都よりは寒い。石造りの屋敷はどっしりとしていて、小さな街の地方貴族としては立派な佇まいだ。
門をくぐるなり、私たちはすぐに出迎えを受けた。
「エルガ! 待っていたぞ、おかえり!」
「あらまぁ、こんなに綺麗になって!」
声を張り上げて駆け寄ってきたのは、壮年の男女――ベーネ男爵夫妻。
その表情は、あまりにも朗らかで、あまりにも嬉しそうで……。
「ただいま戻りました……お父様、お母様」
そう答えながら視線を伏せるエルガさんの反応とは、大違い。
エルガさんは、どう見ても再会を喜んでいない。胸の奥に引っかかるものがある――そんな様子が見える。
「これはこれは、王太子殿下に聖女様! よくぞお越しくださいました!」
「どうぞ中へ! お会いできて光栄ですわぁ!」
「……初めまして、どうぞよろしくお願いいたします」
案内されて足を踏み入れた応接室で、私は思わず周囲を見回してしまった。
……あれ?
壁に掛けられた絵画は、真新しい額縁に入れられている。
テーブルに置かれた銀の燭台も、磨き上げられているというか、最近誂えたものに見える。
絨毯だって、擦り切れた様子はなく、色合いも鮮やかだ。
……借金があるはずなのに。
それに、男爵夫人が身につけている首飾りも――。
石は大きくないけれど、細工が繊細で、安物には見えない。
エルガさんは、トーリで働いていた頃からずっと、お給料のほとんどを仕送りしている。
それは借金返済のためなのに……。本当に、返済に使われているのかしら?
「あらぁ……エルガ、少し痩せたんじゃない?」
「いえ、そんなことは――」
「駄目よぉ、無理しているんじゃないの? でも大丈夫、これからは……ね?」
男爵夫人はエルガさんにそう言って、意味ありげに微笑んだ。
その言葉に、エルガさんの肩がほんの少しだけ強張ったのを私は見逃さない。
二人は私たちを歓迎しているように見える。でも、その裏にはなにかある。
それを感じ取ったのは、私だけではなかったはずだ。
レオさんとミルコさんは最初から表情が硬いし、いつも明るく陽気なヨティさんでさえ、男爵夫妻に窺うような視線をジッと向けている。リックさんに至っては眉間にしわが寄り、今にもなにか言い出してしまいそうだった。
エルガ編!不穏な空気です……!
お付き合いいただけますと幸いですm(*_ _)m
昨日発売したばかりの文庫小説3巻も、よろしくお願いいたします!!
『騎士好き聖女』シリーズ累計10万部突破しました!
いつも応援いただき本当にありがとうございます( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )





