160.この地を支えている人
王都へ向けて帰る日の、朝。
シュミット辺境伯家での最後の朝食を終え、私たちが身支度を整えようとしているときだった。
「――よかった。間に合ったようね」
ふいに、やわらかな声がして、顔を上げる。
そこに立っていたのは、これまで一度もお会いしたことがない、一人の女性だった。
「レオポルト殿下、聖女様――そして皆様。ミルコが、いつもお世話になっております」
やわらかく微笑みながら一礼するその所作は、流れるように優雅で、無駄がない。
淡い色合いのドレスに身を包んだその姿は、凛とした美しさと落ち着きを兼ね備えていて――思わず、息を呑んだ。
……この方は、もしかして――。
「ミルコの母です」
「!!」
やっぱり!
にこやかに微笑むご婦人に、私は慌てて背筋を伸ばした。
「初めまして、シベル・グランディオです。お邪魔しております」
「ご挨拶が遅くなってしまって、ごめんなさいね?」
「いいえ、そんな……!」
シュミット辺境伯夫人。
その名にふさわしい、気品と美しさを備えた方。
でも……にこやかな笑顔を浮かべているはずなのに、なぜか、この場に漂う空気が少しだけ引きしまった気がする。
「おお……戻っていたのか!」
そこへ、足早に辺境伯様が姿を現した。後ろにはフリードリヒ様もいて――お二人とも、なぜかいつも以上に姿勢がいい。
「あなた。戻りましたわ」
「出迎えが遅れてすまなかったな」
堂々とした威厳を放っていた辺境伯様も、夫人を前にすると、どこか落ち着きがない。
「異常気象の件で、物資の配分と避難民の受け入れが立て込んでいてな。すべて、妻が取り仕切ってくれていた」
「まぁ……そうだったのですね」
「寒冷地では、ひとつ判断を誤れば人が凍え死ぬ。私やフリードリヒが前に出られるのも、妻が後ろを完璧に守ってくれているからに他ならない」
「まぁ……」
夫の説明に、夫人は「うふ」と上品に微笑んだ。
「当然のことをしているだけですわ。領民を守るのが、シュミット家の務めですもの」
その声はやわらかく、穏やかで、決して強い口調ではない。
それなのに――その場の空気が、すっと引きしまるのを、確かに感じた。
「ミルコが王都に帰ってしまう前に、一目会えてよかった」
夫人はそう言って、ミルコさんに一歩近づき、その頬にすっと手を伸ばした。
「お元気そうですね」
「ふふ、ミルコも」
短いやり取りなのに、緊張感のある空気。
「――それから、フリードリヒ」
「はい」
その後ろで、名前を呼ばれたフリードリヒ様が、引きしまった表情でぴしっと背筋を正した。
「あなたとは、後でゆっくりお話ししましょうね」
「……はい」
とても上品な笑顔なのに……威厳がすごい。
ああ……なんとなく、わかってしまった。
この屋敷を、この領地を、そしてシュミット辺境伯家の男性陣を陰から支えているのは、この方なんだわ。
上品で、美しくて、優しげで。それでいて、たぶん誰も逆らえない存在。
それが、ミルコさんのお母様なのだろう。
――シュミット辺境伯夫人は、間違いなくこの家で一番強い人だ。
ミルコに母はいないのかな?と思っていた方、お待たせしましたᐠ( ◜▿◝ )ᐟw
シュミット辺境伯夫人ですからね、この領地でミルコ母がある意味いちばん強い説( ˇωˇ )
そして!!
本日4/3に文庫小説3巻が発売しましたー!!\(^o^)/
Web版より加筆修正してパワーアップしておりますのでぜひよろしくお願いいたします!!(*´˘`*)





