表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/171

156.本当にモテる人

 ……すごい。

 ミルコさんは、地元でも本当にモテるのね。


「ミルコ様、またすぐに王都へお戻りになるのですか?」

「仕事があるからな」


 短い受け答えにも関わらず、女性たちは落胆するどころか、むしろ身を乗り出した。ミルコさんの声を聞けただけで、嬉しそう。


「それでしたら……! 今夜、ささやかな歓迎の席を設けさせてくださいませんか?」

「長い不在の労をねぎらわせていただきたいのです」

「どうか、お時間を少しだけ……!」


 一番身なりのいい女性に続くように、周囲も一斉に頷く。

 手には、あらかじめ用意していたのだろう、招待状らしきものまである。


「……そうか」


 ミルコさんはそれを受け取り、特に表情を変えることもなく、曖昧に頷いた。


「きっといらしてくださいね!」

「何時になっても、お待ちしておりますわ!」

「ミルコ様……どうか今夜だけでも、夢を見させてくださいませ!」


 黄色い声が飛び交う中、ミルコさんは軽く一礼すると、


「気持ちはありがたい。だが、期待はしないでくれ」


 そう、突き放すでもない言葉を告げた。


 それでも女性たちは、まるで〝必ず行く〟とでも言われたかのように満足そうな笑顔を浮かべながら、「きゃ~!」と黄色い悲鳴を上げ、名残惜しそうにその場を離れていった。


「きっとですわよ~! ミルコ様ぁー!」

「これ以上はお仕事の邪魔よ! あとは祈って待ちましょう!」


 ミルコさんも、女性たちに背中を向けて屋敷の中へと足を進める。


「……ミルコ、君が嫌でなければ、今夜くらい仕事を忘れて顔を出してきていいからな?」


 そんなミルコさんに、レオさんが気遣うように声をかけた。


「そうだな」


 それにも、やはり曖昧な返事。

 ミルコさんは、女性に興味がないわけではないと思う。でも、深入りもしない。

 優しくて、誠実で。でも誰に対しても決して期待を持たせすぎないのは、自分がどういう立場にいるのか、理解しているからだ。


 シュミット辺境伯家のご子息で、王太子の側近。そして第一騎士団の副団長も務めているミルコさん。


「……」


 なにを考えているのか、私にはよくわからないけれど……。きっと、ミルコさんなりの思いがあるのでしょう。


 私は心の中でそんなことを考えながら、そっとミルコさんの横顔を見つめた。




     *




 翌朝。

 部屋を出て廊下を歩いていると、玄関前の広間のほうから低い声が聞こえてきた。


「――ミルコ、今帰ってきたのか?」

「ああ」


 レオさんと、ミルコさんだわ。

 そっと視線を向けると、そこに立っていたミルコさんは、騎士服ではなく、辺境伯家のご子息としての装いだった。


 けれど――なぜか着崩れている。


 首元には、本来あったであろうネクタイがなく、シャツのボタンも二つほど外れている。


 きちんとしているはずの彼が、あんな格好でいるのは珍しい……。


 その胸元からは隠しきれない色気が漂っている。


 ……昨日お誘いされていた、夜会に行ってきたのね。


「部屋で少し休む」

「……ゆっくりしてくれ」


 レオさんは、それ以上なにも聞かなかった。ただ一言、労わるようにそう告げる。


 ミルコさんの態度は相変わらず淡々としているけれど、その表情には少しだけ疲労の色が滲んでいるように見えた。


 一晩中あの人数の女性に囲まれていたのなら……そうでしょうね。なんとなく、想像できる。


 それにしても、朝になるまで帰してもらえなかったなんて……。


「あれ~?」


 そこへ、陽気な声が割り込んできた。


「副団長、もしかして朝帰りっすか?」


 案の定、声をかけたのはヨティさんだった。


「やりますねぇ! でも、さすがの副団長もあれだけ多くの女性を相手にしたら、疲れたんじゃないっすか?」


 けらけらと笑いながら、遠慮のない視線を向けるヨティさん。

 けれど、ミルコさんはまったく動じなかった。


「ただの歓迎会だ」


 それだけ言って、ちらりとヨティさんを横目で一瞥する。感情の起伏も、照れもない。


「え~? その割には、随分と華やかな匂いが――」

「ヨティ」


 レオさんに名前を呼ばれて、ヨティさんは肩をすくめた。


「はいはい、冗談っすよ、冗談。でもまぁ」


 にっと笑って、ミルコさんの肩に手を置くヨティさん。


「無事に帰ってきてなによりっす。監禁とかされるんじゃないかと、心配だったんで」

「無用な心配だ」


 淡々と返し、ミルコさんはそのまま自室のほうへ歩き出した。


 慌てる様子もなく、気まずさもなく。怒ることも、弁解することもない。


 ただ、堂々と――すべてを受け流す、たくましい背中。


 ……やっぱり、本当にモテる人は違うわ。


「ひゅ~、格好いい。副団長って、ほんと罪な男っすよね」


 その背中を見送りながら、ヨティさんがぽつりと呟く。


 私は思わず、その言葉に頷いていた。



モテているミルコさんを書きたくて٩(◜ᴗ◝ )۶www

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ