156.本当にモテる人
……すごい。
ミルコさんは、地元でも本当にモテるのね。
「ミルコ様、またすぐに王都へお戻りになるのですか?」
「仕事があるからな」
短い受け答えにも関わらず、女性たちは落胆するどころか、むしろ身を乗り出した。ミルコさんの声を聞けただけで、嬉しそう。
「それでしたら……! 今夜、ささやかな歓迎の席を設けさせてくださいませんか?」
「長い不在の労をねぎらわせていただきたいのです」
「どうか、お時間を少しだけ……!」
一番身なりのいい女性に続くように、周囲も一斉に頷く。
手には、あらかじめ用意していたのだろう、招待状らしきものまである。
「……そうか」
ミルコさんはそれを受け取り、特に表情を変えることもなく、曖昧に頷いた。
「きっといらしてくださいね!」
「何時になっても、お待ちしておりますわ!」
「ミルコ様……どうか今夜だけでも、夢を見させてくださいませ!」
黄色い声が飛び交う中、ミルコさんは軽く一礼すると、
「気持ちはありがたい。だが、期待はしないでくれ」
そう、突き放すでもない言葉を告げた。
それでも女性たちは、まるで〝必ず行く〟とでも言われたかのように満足そうな笑顔を浮かべながら、「きゃ~!」と黄色い悲鳴を上げ、名残惜しそうにその場を離れていった。
「きっとですわよ~! ミルコ様ぁー!」
「これ以上はお仕事の邪魔よ! あとは祈って待ちましょう!」
ミルコさんも、女性たちに背中を向けて屋敷の中へと足を進める。
「……ミルコ、君が嫌でなければ、今夜くらい仕事を忘れて顔を出してきていいからな?」
そんなミルコさんに、レオさんが気遣うように声をかけた。
「そうだな」
それにも、やはり曖昧な返事。
ミルコさんは、女性に興味がないわけではないと思う。でも、深入りもしない。
優しくて、誠実で。でも誰に対しても決して期待を持たせすぎないのは、自分がどういう立場にいるのか、理解しているからだ。
シュミット辺境伯家のご子息で、王太子の側近。そして第一騎士団の副団長も務めているミルコさん。
「……」
なにを考えているのか、私にはよくわからないけれど……。きっと、ミルコさんなりの思いがあるのでしょう。
私は心の中でそんなことを考えながら、そっとミルコさんの横顔を見つめた。
*
翌朝。
部屋を出て廊下を歩いていると、玄関前の広間のほうから低い声が聞こえてきた。
「――ミルコ、今帰ってきたのか?」
「ああ」
レオさんと、ミルコさんだわ。
そっと視線を向けると、そこに立っていたミルコさんは、騎士服ではなく、辺境伯家のご子息としての装いだった。
けれど――なぜか着崩れている。
首元には、本来あったであろうネクタイがなく、シャツのボタンも二つほど外れている。
きちんとしているはずの彼が、あんな格好でいるのは珍しい……。
その胸元からは隠しきれない色気が漂っている。
……昨日お誘いされていた、夜会に行ってきたのね。
「部屋で少し休む」
「……ゆっくりしてくれ」
レオさんは、それ以上なにも聞かなかった。ただ一言、労わるようにそう告げる。
ミルコさんの態度は相変わらず淡々としているけれど、その表情には少しだけ疲労の色が滲んでいるように見えた。
一晩中あの人数の女性に囲まれていたのなら……そうでしょうね。なんとなく、想像できる。
それにしても、朝になるまで帰してもらえなかったなんて……。
「あれ~?」
そこへ、陽気な声が割り込んできた。
「副団長、もしかして朝帰りっすか?」
案の定、声をかけたのはヨティさんだった。
「やりますねぇ! でも、さすがの副団長もあれだけ多くの女性を相手にしたら、疲れたんじゃないっすか?」
けらけらと笑いながら、遠慮のない視線を向けるヨティさん。
けれど、ミルコさんはまったく動じなかった。
「ただの歓迎会だ」
それだけ言って、ちらりとヨティさんを横目で一瞥する。感情の起伏も、照れもない。
「え~? その割には、随分と華やかな匂いが――」
「ヨティ」
レオさんに名前を呼ばれて、ヨティさんは肩をすくめた。
「はいはい、冗談っすよ、冗談。でもまぁ」
にっと笑って、ミルコさんの肩に手を置くヨティさん。
「無事に帰ってきてなによりっす。監禁とかされるんじゃないかと、心配だったんで」
「無用な心配だ」
淡々と返し、ミルコさんはそのまま自室のほうへ歩き出した。
慌てる様子もなく、気まずさもなく。怒ることも、弁解することもない。
ただ、堂々と――すべてを受け流す、たくましい背中。
……やっぱり、本当にモテる人は違うわ。
「ひゅ~、格好いい。副団長って、ほんと罪な男っすよね」
その背中を見送りながら、ヨティさんがぽつりと呟く。
私は思わず、その言葉に頷いていた。
モテているミルコさんを書きたくて٩(◜ᴗ◝ )۶www





