154.リックさんと猫
リック視点から始まります。おまけ回。
シュミット辺境伯領は寒い。
山小屋には大きな暖炉があったが、ほとんど雪山を移動していたため、やはり寒かった。
俺が長年暮らしていた隣国バーハンドは、この国よりかなりあたたかい。
寒さに慣れていない俺は、暖を取ったり雪を溶かすために、魔法で炎を出しすぎた。そのせいで、いつもより魔力を消費した。
「はぁー」
正直、今回は疲れた。
風呂から出た俺は、辺境伯邸で借りた一人部屋の客室で、深く息を吐きながらベッドに身を倒した。
雪が積もっていると、足元も歩きにくくて仕方なかった。冷たい外気を吸うと肺が凍りそうなほど冷たく、息もしづらい。
ただでさえ山の斜面を登っていたというのもあり、かなり体力を消費した。
「シベルやエルガにはきつかっただろうな……」
副団長は、こんな雪の中で育ったのか。どうりで基礎体力があるわけだ。エルガを助けに向かったときの俊敏さにも、目を見張るものがあった。
「まだまだ副団長には敵わねぇか……」
心の声が、ぽつりと口から漏れる。
師匠なら、こんな寒さは魔法でどうにかしてしまうだろう。
だが、邸宅内はあたたかい。壁が厚く、窓は二重。熱を逃がさないような構造になっているからだ。
とにかく、今夜はさっさと寝てしまおうと、羽毛布団を被り、目を閉じた。
――それから、どれくらい経ったのか。
ふと、身体に重みを感じて目が覚めた。
……身体が、動かねぇ。
心なしか、息苦しさもある。
冬の寒さは嘘みたいになくなり、むしろ熱が出たように暑い。
風邪を引いたのか――?
一瞬そんな思いも浮かんだが、違う。
何者かが、俺の身体に乗っている――。
「誰だ……!?」
この気配……人ではない。だが、暗くてよく見えない。
そのとき、ふわりと俺の頬をなにかが掠めた。
やわらかく、ふわっとした肌触り……これはまさか、魔物か!?
「く……っ、燃やすか」
だが、そのとき。
「にゃ~!」
「は……?」
「にゃ~~ん」
もぞり、もぞりと、脇腹や腕の辺りでなにかが動く。
これは、一匹じゃねぇ……複数の――。
「猫……?」
「にゃ~~お」
そうだ、猫だ。だんだん暗闇に目が慣れてきて、はっきり見えた。
複数の猫が、俺の身体の上で暖をとって、寝てやがる。
「どうなってんだ……、一体」
「にゃ~」
気持ちよさそうに、ゴロゴロと喉を鳴らしている奴もいる。
しかし、なぜこんなに猫が集まってきたんだ!?
「そういえば、邸内に猫がいるのを見たような……」
それにしても、まさかこんなにいたとは。
「に゛ゃっ!」
「痛……っ」
避けようと身体を無理やり動かすと、胸の上にいた奴に顔を叩かれた。
「う、動けねぇ……」
疲れてるってのに……。
*
今日はとても天気がよく、清々しい朝だった。
「リックさん、おはようございます!」
「……おはよう」
元気いっぱい挨拶をしたけれど、リックさんの眉間にはしわが寄り、目の下には隈ができている。
「昨夜はよく眠れませんでしたか? なんだか疲れていますね」
「……猫が」
「猫?」
はぁー、と深い溜め息をついて、リックさんは言った。
「寝てたら、身体の上に猫がたくさん乗っかってきたんだ」
「まぁ……」
そういえば、この屋敷の中を猫ちゃんが歩いているのを、私も見た。こうして話している今も、リックさんの後ろに数匹いる。
「このお屋敷で飼っているのでしょうか」
私がそう呟くと、どこからともなく現れたミルコさんが口を開いた。
「ああ、うちに集まってくるのを、飼ってるんだ」
「集まってくる?」
「そうしているうちに、いつの間にか増えてしまった」
「そうなのですね」
言いながら、足元にすり寄ってきた猫ちゃんの頭を撫でるミルコさん。
……猫を愛でるミルコさん……たくましいその見た目と、なんだかギャップを感じる。でもとっても素敵だわ……。
「猫たちが自由に移動できるよう、猫ドアをつけているからな。リックの部屋に入っていったのだろう」
「なんで俺……」
「おっはよう! シベルちゃん」
「おはようございます、ヨティさん」
そんな話をしていると、ヨティさんも起きてきた。
「俺の部屋にも一匹来てたけど。やっぱりリックはあったかいから、猫に好かれるんだな。よかったじゃん!」
「……別によくねぇよ」
軽く笑っているヨティさんに、リックさんは困ったように言ったけど……嫌ではなさそう。
なんだかんだ言いながら、リックさんは優しいから猫ちゃんを無理やり退かしたり、追い出したりはしなかったのでしょうね。
ふふふ……猫ちゃんに囲まれる騎士様……尊いわ。
箸休め的なお話でした( ΦωΦ )
これは、コミックス2巻のカバー裏イラストを見て思いついたネタです!!\(^o^)/
猫とリックとミルコさん。
ミルコさんの実家には猫がたくさんいる説……!





