151.これが、聖女の力
エルガさんがいたのは、ミルコさんが言った通りの、黒雷が落ちた場所だった。
その場所からは、瘴気が発生していた。
瘴気は魔物を引き寄せる。
思ったように進めない雪道を、リックさんの炎で溶かしてもらいながらなんとか到着すると、エルガさんが魔物に囲まれていた。
瘴気が強くて、聖女の魔石が役に立っていない。
このままではエルガさんが危ない――!
そう思ったときには、ミルコさんが誰よりも早く飛び出し、エルガさんに襲いかかっていた魔物を斬りつけていた。
すごい……ミルコさんは、他の誰よりも雪に慣れている。
それにしても、尋常ではない速さだった。
これが、王宮第一騎士団副団長様の本気。
それを見た気がして、私は興奮と緊張でごくりと息を呑んだ。
フリードリヒ様も戦っていたけれど、一人では相手にしきれない数の魔物がいる。
私はまずエルガさんの無事を確認すると、胸の前で手を組み、祈った。
魔物ごと、あの瘴気を浄化してしまわなければ、どんどん魔物が湧いてくる。
ミュッケの湖に発生した瘴気を浄化したときのように、やってみる。
あのときは結局湖に落ちて、無意識に力を解放してしまったのだけど……。
あのときよりも今のほうが、力の使い方に慣れている。
〝ヴォォォオオオ――!〟
そんな私に、一体の魔物が襲いかかってきた。
「!」
「シベル……!」
エルガさんが私を庇うように前に出る。
でも。
ザシュ――ッと、鋭い刃が魔物の肉体を斬り裂いた。
レオさんだ。
「ありがとうございます……、レオさん!」
「シベルちゃんは安心して、浄化に集中してくれ」
「はい!」
レオさんやミルコさんたち、皆さんの頼もしくてたくましい背中を目に焼きつけて、私はもう一度目を閉じ、祈った。
〝悪しき瘴気よ、魔物とともに浄化されよ――!〟
私の身体を、ふわっと風が吹き抜けたかと思ったら、辺りがあたたかい光に覆われた。目を閉じていても感じる。
瘴気が浄化されていく。
同時に、魔物が倒れていくのを感じながら、私は祈り続けた。
「――終わった」
瘴気が完全に浄化されたのを感じて目を開けると、先ほどまでいた魔物の姿は一体たりとも消えてなくなっていた。
真っ黒に染まっていた瘴気も消え失せ、そこには焼け焦げた木の根だけが残っている。
「シベルちゃん、大丈夫?」
「はい、なんとか」
「すごいね、シベルちゃん! 湖を浄化したときよりもスムーズだった!」
「おかげさまで」
ヨティさんの言うように、今回は気を失わなかったし、浄化も一回で成功した。
やったわ! やっぱり私も聖女として、少しずつだけど成長できているのね。
「これが、聖女様の力……」
歓喜ムードの中、フリードリヒ様がぽつりとそんな言葉をこぼした。
「父上が言った通り、聖女様の力が必要不可欠だった」
みんなが一斉にフリードリヒ様に注目する。
「今回のことは、俺一人では、どうしようもなかった」
反省の言葉を口にするように呟いているフリードリヒ様。あんなに強気だった人が、こんなに絶望的な顔を見せるなんて。
きっと本当に後悔しているのでしょうけれど……。
「自分の力でどうにかしたいというお気持ちは立派ですが、エルガさんを巻き込んだことは、私も怒ってますよ」
「シベル……」
それだけは言わせてもらわなければ。
私の大切なエルガさんにもしなにかあれば、私はきっと自分自身を許せない。
「本当に、申し訳なかった」
「ごめんで済むかよ。シベル、エルガ、許すなよ。副団長、このことは辺境伯様に報告しますよね?」
「……そうだな」
私以上に怒っているリックさん。その問いに、ミルコさんも頷いた。フリードリヒ様はなにも言えず、俯いている。
「ってことは、辺境伯を継ぐのは、副団長ってことになるんすかね?」
「っ!」
フリードリヒ様は、ヨティさんのその言葉にぴくりと反応した。
確かに、場合によってはそうなるかもしれない。
でも、もしそうなれば、ミルコさんがレオさんの側近を務め続けるのは、難しくなるでしょうね……。
それは少し、悲しいわ。
「ミルコ……おまえなら、この地を立派に守ってくれるだろう」
「どこへ行く」
ふと立ち上がったフリードリヒ様。彼はそのままフラフラと、山小屋とは反対の方向に足を進めた。





