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151/171

151.これが、聖女の力

 エルガさんがいたのは、ミルコさんが言った通りの、黒雷が落ちた場所だった。


 その場所からは、瘴気が発生していた。

 瘴気は魔物を引き寄せる。


 思ったように進めない雪道を、リックさんの炎で溶かしてもらいながらなんとか到着すると、エルガさんが魔物に囲まれていた。


 瘴気が強くて、聖女の魔石が役に立っていない。


 このままではエルガさんが危ない――!


 そう思ったときには、ミルコさんが誰よりも早く飛び出し、エルガさんに襲いかかっていた魔物を斬りつけていた。


 すごい……ミルコさんは、他の誰よりも雪に慣れている。


 それにしても、尋常ではない速さだった。

 これが、王宮第一騎士団副団長様の本気。


 それを見た気がして、私は興奮と緊張でごくりと息を呑んだ。


 フリードリヒ様も戦っていたけれど、一人では相手にしきれない数の魔物がいる。


 私はまずエルガさんの無事を確認すると、胸の前で手を組み、祈った。


 魔物ごと、あの瘴気を浄化してしまわなければ、どんどん魔物が湧いてくる。


 ミュッケの湖に発生した瘴気を浄化したときのように、やってみる。


 あのときは結局湖に落ちて、無意識に力を解放してしまったのだけど……。

 あのときよりも今のほうが、力の使い方に慣れている。


〝ヴォォォオオオ――!〟


 そんな私に、一体の魔物が襲いかかってきた。


「!」

「シベル……!」


 エルガさんが私を庇うように前に出る。

 でも。


 ザシュ――ッと、鋭い刃が魔物の肉体を斬り裂いた。


 レオさんだ。


「ありがとうございます……、レオさん!」

「シベルちゃんは安心して、浄化に集中してくれ」

「はい!」


 レオさんやミルコさんたち、皆さんの頼もしくてたくましい背中を目に焼きつけて、私はもう一度目を閉じ、祈った。


〝悪しき瘴気よ、魔物とともに浄化されよ――!〟


 私の身体を、ふわっと風が吹き抜けたかと思ったら、辺りがあたたかい光に覆われた。目を閉じていても感じる。


 瘴気が浄化されていく。

 同時に、魔物が倒れていくのを感じながら、私は祈り続けた。


「――終わった」


 瘴気が完全に浄化されたのを感じて目を開けると、先ほどまでいた魔物の姿は一体たりとも消えてなくなっていた。

 真っ黒に染まっていた瘴気も消え失せ、そこには焼け焦げた木の根だけが残っている。


「シベルちゃん、大丈夫?」

「はい、なんとか」

「すごいね、シベルちゃん! 湖を浄化したときよりもスムーズだった!」

「おかげさまで」


 ヨティさんの言うように、今回は気を失わなかったし、浄化も一回で成功した。

 やったわ! やっぱり私も聖女として、少しずつだけど成長できているのね。



「これが、聖女様の力……」


 歓喜ムードの中、フリードリヒ様がぽつりとそんな言葉をこぼした。


「父上が言った通り、聖女様の力が必要不可欠だった」


 みんなが一斉にフリードリヒ様に注目する。


「今回のことは、俺一人では、どうしようもなかった」


 反省の言葉を口にするように呟いているフリードリヒ様。あんなに強気だった人が、こんなに絶望的な顔を見せるなんて。


 きっと本当に後悔しているのでしょうけれど……。


「自分の力でどうにかしたいというお気持ちは立派ですが、エルガさんを巻き込んだことは、私も怒ってますよ」

「シベル……」


 それだけは言わせてもらわなければ。

 私の大切なエルガさんにもしなにかあれば、私はきっと自分自身を許せない。


「本当に、申し訳なかった」

「ごめんで済むかよ。シベル、エルガ、許すなよ。副団長、このことは辺境伯様に報告しますよね?」

「……そうだな」


 私以上に怒っているリックさん。その問いに、ミルコさんも頷いた。フリードリヒ様はなにも言えず、俯いている。


「ってことは、辺境伯を継ぐのは、副団長ってことになるんすかね?」

「っ!」


 フリードリヒ様は、ヨティさんのその言葉にぴくりと反応した。


 確かに、場合によってはそうなるかもしれない。


 でも、もしそうなれば、ミルコさんがレオさんの側近を務め続けるのは、難しくなるでしょうね……。


 それは少し、悲しいわ。


「ミルコ……おまえなら、この地を立派に守ってくれるだろう」

「どこへ行く」


 ふと立ち上がったフリードリヒ様。彼はそのままフラフラと、山小屋とは反対の方向に足を進めた。



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