恋に落ちる瞬間のそれぞれ
両片思いの始まりです。
エルンハルト陛下がわたくしの目の前に来てピタリと止まりました。
ああ、止まってしまった・・・。
とは思いつつもにこやかさは保つようにしている。
「姫、私と踊ってくれないか?」
「はい。わたくしで良ければ喜んで。」
わたくしの手を取りフロアの中ほどまで進んでいくなか、後ろからきゃあきゃあという声やヒソヒソとした話し声やあからさまな視線も受けているのを感じました。
違いますー・・・わたくしはあなたたちの国の陛下を取りに来たのではありません!わたくしは治しに来たのですからね!!
だらだらと冷や汗をかきそうな私の手を取りながらすました顔で隣を歩く陛下の顔を見ようか・・・と思いやめたのはわたくしの危機管理能力の賜物かと思われますわ!
あの辺りのご令嬢方からの視線が痛いですー。ああ、絶対絶対わたくしを邪魔者だと思ってらっしゃるわ・・・違うのにー。
「姫?」
「・・・は、はい?」
「どうされたのだ?体調でも悪くしたのか?それならば・・・」
優しい声だと思う。低くて心地よい声・・・いけないいけない!うっかりと聞き惚れておりました。
「いえ、緊張しているだけです。私はあまり人前に出ることがありませんから。」
「なぜだ?」
ふと、ヒタリと視線を合わされた。まだホールまで歩ききっていないのにその中でわたくしに視線を合わせるなんて?と少し不思議に思いながらも穏やかに進む。
少し迷ったが話すことにしようと思ったのはなぜなのかはわからないけれど隠すこともないしと思い声を少し落としたところエルンハルト陛下も少しだけ耳を寄せてくださいました。
「内緒にしてくださいませね。私は小さい時は身体が弱かったのです。人前に出ると咳が止まらなくて緊張して具合が悪くなることも多かったのでございますわ。」
「ほう。」
小さな声でささやくように会話しながらゆったりと歩いている二人は、とても体調のことを話しているとも思えないほど穏やかな二人に見えたため、ドゥーゼットの貴族はびっくりしている。
エルンハルトは成人した女性に自ら近づくことも近づかせることもないのが当たり前だったからだ。
それがどうだ。
エルロッドウェイからやってきたこの美少女とも言える淑女になりたてなほどのうら若き女性が話す時に自国の陛下が顔を寄せられたと。
長らく国王陛下のお妃候補は素気無くすべて目もむけてもらえず国の重鎮たちが憂えていたところにこの皇女がやってきたのである。
自国での令嬢ではないものの、この逸材を逃すべきではないと考えるもの。
排除しようかと考えるもの。
たくさんの思惑が交錯しようとしていることをまだ二人は知らなかった。
そしてそれは。
エルンハルトに恋い焦がれている令嬢たちも心穏やかではいられない状態でもある。
フロアの真ん中までやってきた二人は穏やかなワルツをスタートさせる。
ナディアレーヌは滑るように動き出した陛下の動きに合わせているだけで、完璧なこのリードをこの人がどうやって身につけたのかをしりたいとさえおもってしまっていた。
なんてお上手なのでしょうかねぇ・・・。
「陛下は、大変踊るのがお上手なのですね。私こんなに踊りやすいのは初めてです。」
「ほう、それは嬉しいな。」
そういってくくっと低く笑う。
その声が響くほどに身体を半身つけているのだから響いてきて思わず背中に汗が伝う。
ああ・・・このドレス汗で背中がしみになっていませんように。後でサラに謝らなければなりません・・・。
「姫は・・・」
「はい?」
声につられて見上げると思ったよりも近くに顔があっておののきそうになる。慄かないけれども。
「いや、姫はよく踊るのか?」
「私は舞踏会では父と兄、それから乳兄弟としか踊ったことがありません。」
「何故?」
穏やかな声に釣られてクスクスと笑ってしまった。
「さあ?私には良くはわからないのですがいつもそうなのです。
私は、親兄弟、乳兄弟以外で踊ったのは陛下が初めてです。だから私が踊れているのかどうかも実際わかりませんの。兄たちは私をその・・・溺愛しておりますし、父は元々かわいがってくれます。
そのため私の踊りの評価は母が下すだけなのでございます。淑女の見本でもある母から及第点を取れたのは二年前くらいでしょうか?」
わたくしの話を聞いて、陛下は真顔になられましたがそのあとははっと笑われました。
機嫌が良さそうで何よりです。
そんな面白いことなんにも言ってないのですが・・・。
「そうか。わたしが姫の初めての男というわけか。」
わたくしは真っ赤になりながら否定してしまいました。
「ち、違います!そのような誤解されるようなことはおっしゃらないでくださいませ。」
赤くなった頬を隠すようにうつむくとまた低い声が聞こえてきます。
ああ、また笑ってらっしゃる。アンヌが言う通りいたずら好きな方に違いありません!
「だた、わたしが姫と踊った家族以外の初めての男だろう?」
「・・・そう言ってくださいませ。」
一瞬淑女の仮面が外れてしまい、取り繕えなかったけれども落ち着かなければ。
というか顔が赤くなったり青くなったりすると、皆さまから何を思われるのか・・・例えばお兄様たち・・・・・。
わ、笑っているけど何故かしら?フレディお兄様がロウに肩を掴まれているというその図・・・。
カインお兄様は・・・ああ、もうエルローズ様の手を取ってらっしゃる・・・
一瞬気が遠くなりかけたところをふっと手を握り直されて踊ることに集中する。
「・・・姫は私が苦手か?」
「苦手ではありませんわ。」
何故そのようなことを?すぐに返事をした事に対してもびっくりされてしまっているようだ。
わたくしはたしかに逃げたいとは思っておりますが苦手だとはおもっておりませんし、陛下の御身をお助けしたいとも思っております。
ただ、治った後にわたくしは自由になれるのかどうかという緊張感はありますが。
ええ、苦手ではありません。お美しいとも思っておりますわ。
「怖くもない?」
「怖くありませんわ。」
一体全体どうしてそのようなことを言われるのか全くわからない。
ふと首を傾げるとエルンハルト陛下と目が合う。
本当は銀色の瞳。
わたくしの色と同じ色のはずの瞳。
我が国の秘薬でダスティーブルーの瞳の色に変わっている。
ああ、良かった。
本当にきれいな色に変わっている。
「姫の瞳の色はきれいなラベンダー色だな。」
「・・・ありがとうございます。」
知っているくせにと思う。私の瞳の色の秘密も。
それを隠して、私に今の瞳の色の髪飾りを送ってきたのだ。それならばとわたくしも話し始める。
「陛下、わたくしはあなた様の身体を治すために来たのです。」
「・・・解っている。」
そう言った途端に軽く力を入れて軽く手を引かれたのでわたくしはターンをして踊ることにする。
ふふっと笑う陛下はやっぱり少し意地悪だと思います。
「陛下、わたくしと約束してほしいことがあるのです。お身体のためです。」
「何だ?」
そのたびに陛下はわたくしの手を強めにひく。それを合図にまた私はターンをさせられる。
もう!!話をしたいと言っているのに。させる気がありませんの?
少しだけ注意を引きたくて重ねている手の指に力を入れました。
注意が引けたのかじっと顔を見ていると、観念したようにまた笑う。
「聞こう。」
早くそういえばいいのに。
「陛下、必ず私が作った薬を一日三回。それから寝る前にお飲みください。」
「私に薬は効かない。」
「それでもです。それでも判断するのは私ですわ。お飲みください。」
「薬は好きではないが・・・姫が必ずわたしに手渡してくれるのであれば飲もう。見知らぬ者の手を介したものは飲めぬ。」
まあ、今までのことを考えればそうか・・・どのようなお薬を盛られたことがあるのかもわからないけど媚薬の一見でも大概なものだとは解りますものね。
「わかりました。私が必ず陛下の目の前で調合いたします。」
「ならば良い。」
まあ、ここまでの言質が取れればいいか・・・と考えていると今度は逆に問われた。
「姫は神託をどこまで聞いたのだ?」
「どこまでとは?」
首を傾げるとまた笑われる。この方はよく笑う人なのだなと思ったわたくしは仕方がないと思うのです。
本来の陛下はこんなに笑う人じゃないと知るのは少し先の話しで。
うーんと考え込んで、端的に答えました。
「羽根が降りましたわ。」
「本当に降ったのか?」
また楽しそうに笑う。そして少し手を引いてわたくしの身体を軽く抱き寄せる。
ああ、周りの方に効かせたくない話ですものねぇ。
などとわたくしはまったく構えることなく笑顔を浮かべてしまった。
思わず気を抜いてしまったのはしかたないとおもうのだけれど・・・。
わたくしをじっと見つめる陛下が軽く目を見張ったのを不思議に思いながら答えました。
「はい。羽根が降りました。まあもうその羽根は私が薬の材料にするために分解を・・・」
「分解?」
そういった後に・・・・くはは!と笑い出した。
「分解・・・分解・・・。」
そんなに変なことをした覚えはありません。しかたないではないですか!それさえ貴重な資源なのですから。
というか神託のときに降る羽根なんて薬の材料にしかならない素材ではないですか!!!
「あの羽根一枚で、解毒薬も免疫薬も作れるのですよ?大事な素材です!」
「そ、素材・・・。」
そう言ってまた笑う陛下を見ながらちょっとだけ不機嫌になってしまいそうです。
大体選ばれてなきゃっていうもしもはわたくしには存在しないのですから。こっちは生まれた瞬間誰かの病気を治すことを義務付けられているわけですので。
ちょっとぶーたれてしまいそうです。
だいたい私だって普通に生きていきたいと思っておりましたのに。
ひとしきり笑った後に陛下は真顔になってぎゅっとわたくしの手を握り込めてきました。
「ああ、姫・・・笑って申し訳ない。ただ許してくれ。私も戸惑っているのだ。」
「え?」
この麗しい人がなににとまどっているというのだろう?
「私の身体は薬が効かない。治す方法はあなたの手でしか治らない。しかし私はあなたに会うまでは治らなくてもいいと持っていた。」
これまたわたくしが来たかいがないようなことを言われてしまいました。
じっと見上げると困ったような優しい目と声に出会う。
そしてその時に告げられた言葉はわたくしの想像とは違う言葉だったのです。
「治してほしいのは私ではなかった。兄の・・・兄の病を治してほしかったのだ。」
「お兄様でらっしゃいますか?」
亡くなられたというお兄様のことをおっしゃっているのだろうか。
「私はまだ幼き頃。姫の国に行ったことがある。兄の病を治してほしくていったのだ。」
あのときだろうか?あの時少年の陛下とお会いしたときのこと?
わたくしが覚えているのはその時の記憶ともちょっと違う。
その時から五年後に、一年に一度。5月1日に陛下のことを写真のように画像が浮かんでおぼえていたのだ。覚えていたというよりも忘れさせてもらえないというか・・・。
あの時うずくまっていた陛下はたしかに苦しそうだったけどお一人だった。お兄様と一緒にいらしたという話は聞いたことがない。
でも現にお兄様がいらっしゃらず陛下が国を治めているということは・・・。
「姫のお父上には断られたのだ。」
頭が理解するよりも先にそれを聞いた途端に陛下の手をぎゅっと力いっぱい握ってしまった。
わたくしの父が断ったということは理由があるはずだ。何もなく断るはずがない。父は、そんな・・・
「わかっている。怒らないでくれ姫・・・。」
そういって軽くわたくしの身体を引き寄せて。
一瞬わたくしを陛下は抱きしめた。
周りの人たちが息を呑んだのが解ったけれどそれどころじゃない。
一瞬抱きしめた後に柔らかく手をほどき、緩やかに優雅にターンを促される。
ああ、もうすぐ曲が終わる。
間をとっているのはわたくしだけではない。きっと陛下もなのだ。
「わかっている。もう手遅れだったのだ。手の施しようがなかったのだ。そして兄がそれを望んでいないことは知っていたし解っていたのだがどうしても頼まざるを得なかった。
全てが私のわがままだったのだ。解っていたのにどうしてもエルロッドウェイの皇には失礼をしてしまった。
姫のお父上は正しいのだ。私が愚かだったのだ。」
違う。あのときうずくまったあの小さな細い背中は・・・今の陛下とは違うあんなに細い背中は・・・
「父を・・・お許しくださいませ。エルロッドウェイをお許しくださいませ。」
悲しくなってしまう。まだお小さい時の陛下は今よりずっとお身体も弱く、苦しかっただろうに。
最後の望みの綱だったのではないだろうか。断られた時の少年の気持ちは幾ばくかと。
いたたまれず涙がこみ上げる。
我がエルロッドウェイは医療国。このように最後の望みを持って訪れる方も多い。
全ての方に満足出来る治療法も薬もお渡しすることはできない。解っているけれどいつも辛いのだ。
「ああ、姫そのような謝罪は望んでいない。」
そういって曲の終わりに近づいていたため陛下はステップをゆっくりと踏んでいく。
それに合わせてわたくしも身体の動きを緩やかにしていく。
曲が終わった時。手をほどこうとした瞬間。陛下はそれをやめてわたくしの手を取った。
「今は違う。あの時のわたしとは違う。
そんなわたしを姫は治してくれるのだろう?私を助けようとしてくれるのだろう?」
そういって真っ直ぐにわたくしを見つめて来るダスティーブルーの瞳は少しだけ不安に揺れている。
「わたくしの命に変えてもお助けしますわ。必ず何があっても陛下をお助けします。」
それが神託というものなのかわからないけれども。
わたくしがここにいるということはそういうことなんだと、思い直す。
わたくしがここにいる理由を問われれば、お助けするためだと答えたい。
その後に神託だからと断れない理由にしたくはない。
何故そう思うのかはわからず。
軽く首を傾げてしまった。
そのわたしを見て、陛下はくすりと笑う。
何故かしら・・・わたくしまだ陛下と知り合ってそう時間は立っていないはずなのに?
首を傾げたままのわたくしを見つめたまま。
陛下は声を上げる。消して大きな張り上げた声ではないのに。
人に何かを命令する、人をかしずかせるのが当たり前の権威と声。
「さあ、ダンスの時間だ。」
その陛下の一言でフロアに人が溢れ出す。
綺羅びやかなドレスの波と紳士たちのさざめきとを聞き、目に入れながら。
私はまだ釈然としない気持ちでいました。
わたくしは何故、こんなわからない気持ちになっているのでしょう?
ふっと。
その時にふっと何かが香った気がしました。
「これは?」
「ん?」
わたくしの目の前でほんの少し。ほんの少しだけ陛下が首を傾げた気がしました。
わたくしと陛下を気にして周りに陣取る方がいらっしゃることも忘れてもう一度この香りを確かめたくなってしまったわたくしは陛下のお側に体を寄せました。
ざわっと周りで空気が動くほどのことだとはその時思っておりませんでしたが、陛下は身体を引かずにそのままでいてくださったので夢中になってしまったわたくしは更に陛下の首筋の近くに鼻をよせてしまいました。
なんてことを、だの、あの皇女振り払われるぞ、だの、同情するようなあざ笑うような声も聞こえましたがそんなことよりこっちですわ。
固まったようにじっとしている陛下をいいことにわたくしは確認して確信しました。
ああやっぱり。陛下からだわ。
「カモミールの花弁と、ラベンダーの花、それから・・・・ロサ・キネンシス?」
「・・・何故?」
不思議そうに問われた声に思わず淑女の仮面が外れてしまったのも気が付かないまま笑顔を浮かべてしまったわたくしはあとからお兄様たちにかるく注意をされてしまいましたが・・・。
その時のわたくしは全く気がついておりませんでした。
だって、当たったのか答え合わせがしたくてたまらなかったのですもの。
「カモミールとラベンダーはわたくしも湯浴みの時に使いましたの。でも少しだけ香るのはロサ・キネンシスでらっしゃいますか?」
「姫は・・・この花が好きなのか?」
「ええ。原種ですし緑のバラだなんて素敵ですもの。ただこれは香りがそう強いものではないのですけれども陛下から・・・。」
そういってまた香りを確かめようと首筋に顔を寄せようとして。はた。と気がつく。
私何をしようとしておりました?ここは夜会会場ではありませんの?人に溢れた・・・溢れた?
あああああああーーーーーーー!やってしまいましたーーーーー!!!!
わたくし自ら陛下の香りをかごうとしてしまったのではありませんの?
いくら気になる香りだったからと言って!この香りの正体が原種のバラだし珍しいものだからと言ってなかなか出会えないけれどもとてもそこからの亜種のバラに興味があるからと言って。
自ら身体を寄せるだなんて・・・・ああああーーーーー取り返し!取り返しが!ああああ・・・
真っ青になりながら身体を離そうとした瞬間。
ふわっとラベンダーやカモミールの香りに混ざったロサ・キネンシスの香りがした。
わたしの背中に手を伸ばした陛下がわたくしを抱きしめたのだ。
は?と思っている瞬間に真っ青だったわたくしの顔が羞恥に染まる。
真っ赤だろうと思うのだ。耳まで熱い。頬も熱い。だから離して欲しい。
アワアワと思っている間に、すっと後ろに流した髪を一房掬われた。
それをたどるように、陛下の指が滑る。
背中にはらはらと滑り落ちていく髪が、その感触が、わたくしの意識を奪う。
そんなわたくしに気がついているのか気がついていないのか髪が滑り落ちた後の手をまた・・・。
ゆっくりとした仕草で優しく抱きしめ直されてしまった。
わたくしは陛下の想像以上に緊張がピークですのに!!なれていませんのに!陛下ほど異性に慣れておりませんのに!!!
そうおもって恥ずかしさのあまりにふるふると震えてしまった。
そのわたくしを見てか、柔らかい声が頭の上から降ってくる。
「姫からはラベンダーと・・・。」
そういってわたくしを抱きしめたまま首筋に顔を寄せ、柔らかく息を吸ったのを感じる。
あああああーーーー何してらっしゃるんですか陛下ーーー!!というかさっきわたくしこんなことをしたんでしたーーー意趣返し?意趣返しでらっしゃいますか?
涙目になってしまうくらい恥ずかしい。
「カモミールとこれはグレープフルーツか?」
グレープフルーツ?
「グレープではなく?」
我が国には無い柑橘のようであり、柑橘系だと思うのにグレープだなんて不思議。
そう思って陛下の柔らかく囲う腕の中で顔を上げた。
首を傾げるとくくっと微かに笑う声。柔らかな笑い声にびっくりした。
からかっているわけではない?優しい笑い声・・・。
「ほろ苦く、姫の手のひらよりも大きな柑橘類だ。」
柔らかな笑顔の陛下と目があって。
「わたくしの国には無いのです。そうですかそのような名前なのですね。ほろ苦いとは苦味成分があるということですの?大きいのですわね、どれほどの質量なのでしょう?
それにとても不思議に良い香りがいたしました。皮にはなにかまた違う成分がありそうな感じで。
この香りが高くて非常に興味がありますわ。」
未知のものに出会うのはとても嬉しい。そして植物は数限りなくある。
自国では当たり前のものは他国では当たり前ではないのだ。
国を渡ってきたかいがある。ウキウキしてしまう。
くくっとまた笑われた。
「姫はそのように本当は話すのだな。堅苦しくなくて良い。そのように話してくれ。」
その後に腕の中から解放するように、陛下は手を広げた。
ふと気がつくと周りは静寂に包まれていた。
ワルツを奏でる楽器の音だけが流れていて、全視線が集中していると言っても過言ではないほどの圧を感じてしまう。
「あ・・・。」
これはやってしまったのではないだろうか。
全敵指定を受けるのではないのだろうか・・・。
背中を冷たい汗が伝う。ぎぎぎぎ。と音がしそうな勢いでお兄様たちの方を振り返ってみましたが。
笑っている。笑っているけど目が笑っておりませんわ。
これは説教コースです・・・。
「なにをしている?さあ、皆楽しみたまえ。」
そういって一度だけパン!と手を叩いた陛下の言葉を皮切りに人々が動き始める。
「さあ、姫。姫はまだ踊るのか?」
「え?ああ・・・お兄様たちが踊るのならばわたくしはもう少しここに・・・。」
「そうか。楽しみたまえ。」
そういってわたくしの手を取り口付けた後に、出口に向かうように背中を向けた。
「陛下、明日の朝参ります。」
「ああ。」
振り返らずに返事だけが帰ってきた。そう、明日からが本番だ。
そう思ってわたくしも背を向けてお兄様の方に歩いていこうと身体の向きを変えた瞬間。
「陛下、少しだけお待ちくださいませ。わたくしと踊っていただけませんか?」
少し低めの美しい声が響いたため、わたくしは意識を向けてしまった。
ああ、美しい人だなぁというのがわたくしの感想。
金髪に口元にほくろがある迫力美人さんじゃありませんか!
本当にこの国は美人さんと美形さんが多い国だなぁ・・・と、当たり前にその令嬢の手を取るのだろうと思っていた陛下の言葉に思わず固まった。
「今日は疲れたため、レオルドかエドがお相手する。失礼。」
「エルンハルト様!!」
え?踊らないのですか?こんな美人さんと?え?
それよりも険しい表情が気になった。わたくしに向けられたこと無い少し怖いお顔。
「・・・ヘザー・ウォルネット侯爵令嬢。わたしの名を呼ぶことを許したことはない。」
低い声が響いてわたくしはびっくりした。
そしてそれはその令嬢も同じようだった。
「・・・陛下。お許しくださいませ。ただ私は・・・。」
「失礼する。エド、お相手を。」
「はい。」
そういってエドガルド様が手を取りホールへと誘う。
それを陛下は振り返ることもなく。
陛下は会場を出ていってしまわれました。
ヘザー様とおっしゃられましたかしら・・・。
通り過ぎる瞬間。
まるで鬼のような形相でわたくしを睨んでいかれました。
わ、わたくしのせいですの?わたくしオープニングの曲をおどっただけですのに・・・ああ・・・
そういえば嗅ぎましたね・・・陛下の匂いを・・・やってしまいました・・・。
わたくしは知らなかったのです。
陛下が誰も腕に抱きしめたことがないことも。
そればかりか顔を寄せることも身体を寄せることも相手にみずからの行動を許すことがないことも。
そしてわたくしが。
何故か陛下の腕の中が心地よかった意味も。
今のところまだレーヌに自覚はありません。自覚は。




