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煌めく人というのはいるのだと知る瞬間

お兄様に春が来る。と思います。


「では、わたしも申し込もう。姫よ、わたしとも踊っていただけないか?」



低く澄んだ声がわたくしの耳に入ってきたのでふと振り向くとそこには国王陛下が!?


何故?


そう思って少し戸惑っているとフレディお兄様がわたくしの手を取りながらにこやかに声をあげられました。

わたくしはどちらを見ていいかわからないのでとりあえずフレディお兄様に取られた手をお兄様の腕にかけ直しました。




「ドゥーゼットの頂きたる陛下にご挨拶させていただきます。その言葉を嬉しく思います。

陛下が我が妹と踊っていただけるとは。」

「いや、本来ならばわたしの方から姫をエスコートしないといけないと解ってはいたのだが所要で少し抜けなければならなかったのでこのような時間に。

それで大事な妹御をわたしに預けていただけるのですか?」

その言葉を聞いてぴくっと兄様の腕が震えたのだけを感じたのだけどさすがはフレディお兄様。顔は全く変わらずにこやかな微笑みをたたえたまま。

お兄様がわたくしを溺愛していることは解っておりますがダンスまでは今まで他の誰にもゆるしたことがなかったのですわよね。



私はいつもお兄様たちかお父様。そしてロウ。そのあとはサラッと引っ込んでいましたしね。

ああそういえばわたくしが踊る兄達や父以外となると陛下が初めてになるんですねぇ。

わたくし、踊るのは苦手ではないのですが他の方と踊ったことがないのでどの程度自分が踊れるのか全く解っていませんが・・・。

あの母が教え込んだので多分及第点は取れております。少なくとも陛下に恥をかかせるほどではないと思われます。

よし大丈夫ですわ。

そう思って兄の腕をきゅっと握ると、お兄様は仕方なさそうに力をぬきました。

あくまでもお顔は全くにこやかなまま。これは家族だからわかることでなんともフレディお兄様の意図はわかりませんけれども政治的な駆け引きにでもなるのでしょうか?わたくしと踊ることは?



そうですわよね、お兄様は陛下と同じお歳でらっしゃるし、同じく(規模は違えど)国を率いていく王になられる方々だもの・・・。

色んな打算や計算や、もはやわたくしには理解できない色んなことが頭に渦巻いているでしょうとも。

それはカインお兄様も一緒のことだと思うんだけどもはやカインお兄様の方まで視線を投げかけるわけにはいきません。

国王陛下が目の前にいらっしゃるのですもの。



わたくしは皇女の仮面をきっちりとかぶり直し、フレディ兄様の腕から緩やかに手を解きました。

フレディお兄様が少しだけため息を付いたような気もしたけどそこは気にしない。

エルンハルト陛下が今望んでいるのはわたくしとのダンスということならばわたくしに断るという選択肢はないのですもの。



だいたいドゥーゼットの国王陛下ののぞみを断ることは出来ないし、だいたいわたくしこの方に望まれたことは断れないのだから。お兄様だって知ってらっしゃるくせに。

わたくしは最大級の礼を取るために深く膝をついた。一番公的な淑女の礼をとる。



「陛下、大変ありがたいお言葉。わたくしでよろしければダンスのパートナーを務めさせていただきたいと思います。」

「ああ、あなたが膝を折ることなどあってはならない。あなたはエルロッドウェイの唯一の皇女なのだから。」

そう言いながら陛下がわたくしの前に・・・。




ちょっとまってー!いやーーーー!!!やめてくださいませーーーーー!!!

陛下まで何故膝をついたー?!やめてくださいませー!!




ダラダラと冷や汗が背中を伝ってしまいそうになる。

あの・・・軽く息を呑む声や軽く悲鳴が聞こえたのですがそれはこの陛下のこの行動のためですか?わたくし命を狙われるフラグが立ってしまったというやつですか?

違いますー!わたくしなんの意図もございませんー。お願いです刺さないでくださいませ視線が痛い。

どうしたらよろしいですか?わたくしの斜め後ろからわたくしを射殺さんばかりの鋭い視線がビシビシとかんじられるのですけれども。

ああ、アンヌが言っていたお嬢様がいらっしゃるあたりからもう絶対零度的な冷たい風が吹いてきそうな気もしますー。わたくしそんなつもりはありませんのにー・・・。

でも顔に出すわけにはいきません。これでもわたくしエルロッドウェイの皇女なので。

それくらいの矜持はあります!



でもでもでもでも!!!

振り返りたい。振り返ってカインお兄様に頭をなでていただきたい。

フレディお兄様に抱きしめていただきたい。ロウにからかわれてもいいからそばにいて欲しい。

もう本当は逃げ出したいくらいです。

でも顔に出さずにこの場を乗り切らなければなりません。

お兄様たちもきっとそれを望んでくださいます。

レーヌはちゃんとできる子です!お兄様たちにも安心してレーヌは出来ると解って頂き、そして憂いなくエルロッドウェイに帰っていただかなくては。



くっと自分のお腹に力を入れました。頑張れ私の丹田!!


「陛下、恐れ多いことですわ。わたくしは礼を尽くしているだけですのに陛下まで膝をつかれてはなりませんわ。」

そう言いながら表面上だけでも少し困ったように微笑んでおく。

それを見上げた陛下はくすっと笑いすっと姿勢を正して立ち上がった。

「ああ、そうだな。許してくれ。この国には姫といった存在がいないのでどう扱っていいのかがわからずに申し訳ない。同じ皇籍であるというのに上下はないだろう?姫にはわたしに出来得る限りの礼を尽くしたいのだ。」

そういって礼をとき立ち上がったわたくしの右手は陛下に取られた。

そのまま両手で柔らかに握られたとおもったら。

え?と思っている間にそのまま手にキスを受ける。



周りからどよめきが起こりびっくりしてしまいました。

え?どういうことですの?これは普通の挨拶ですわよね?誰でも紳士ならされますわよね?

ん?でも陛下はそんな事はしなくてもよろしいのでは?

しかも私の手に唇を当てたまま私の瞳をじっと見ていらっしゃいます。わたくし取り繕っておりますが非常に恥ずかしい。泣きそうです。耳が熱いですー。わたくし耳が赤くなってないでしょうか?

これってあれですか?羞恥プレイでらっしゃいますか?イタズラ?

もはや陛下はイタズラが大好きだと?

アンヌがいっておりました。そうでしたわ!寂しがりやだと。

寂しかったのでしょうか?



怪訝な顔をして陛下の顔を見上げると、軽いリップ音を響かせキスを終わらせ、ニッコリとわらってわたくしの右手を開放してくださいました。



「ふむ、姫はわたしのキスなどには動じてくださらないのだな。」

そういって楽しそうに笑う陛下の笑顔につられてわたくしも思わず言ってしまいました。

「そんなお戯れを。ただのご挨拶のキスにいちいち反応するほどではございませんわ。陛下。」

わかってますよ、イタズラだったのですね。了解です!

そういった気持を盛り込みながら陛下のお顔を見上げます。

わたくしでさえ背は高いほうです。それでも見上げなければならないということはカインお兄様と同じくらいの背の高さでいらっしゃるのでしょうか?

体調が悪かったとおっしゃっていたのに美貌と体格には恵まれるなどと素晴らしい資質。

わたくしに触れた手も冷たくもなかったので体調自体は悪くないのだろうと判断します。

本当は手首に触れて脈を取りたいところですがここでは診察するわけにはいかないのはわかっております。皇女らしく微笑むままにしておきます。



ふふっと艷やかに笑う陛下の低い笑い声に少しだけ緊張した気になるのは何故でしょう?

お兄様方とはまた違う色気をまとってらっしゃる・・・。

こんな滴るような色気を垂れ流すなどとは陛下恐るべきですわね。わたくしにはこれ系の耐性が少し弱いのでそれでわたくしもあてられているのでしょうか?

少しだけ考え込みそうになる意識をふっとあの香りが邪魔をしました。

これはあの少しほろ苦いと聞いた柑橘の匂い?あと・・・これは?

どこから香るのかはちょっとはっきりしないほどかすかな香り。

これはわたくしがいろんな植物から希釈して香りを取り出し、化粧品やオイルを作っているからだとおもわれます。それくらいかすかに一瞬だけ。



そう思っていたのも一瞬だけだったのか、わたくしは後方にいたカインお兄様に緩やかに腰を取られ陛下から少しだけ距離を取らされました。

それに気がついた陛下も若干の苦笑いをなさっています。



「何も奪おうとしているのではないのだが。」

そう言ってくすっと笑ってカインお兄様に声をかける陛下の楽しそうな声の中には避難の声は混ざっておらずホッとしました。

「いえ、陛下そういった理由ではございません。我が妹は少しだけ今まで大事にしすぎてきておりましたのであまり夜会に出していないのでございます。」

「ああ・・・。そういった理由で。と?」

「はい。申し訳ありません。お気分を害されていないことを祈りつつ先に引いたことをお許しを。」

庇うようにたったお兄様はそう、お嬢様たちから視線を遮ってくださっております。助かります・・・なんとなくホッとしたわたくしの顔を見て陛下は微笑まれました。



そして素晴らしく良いおバリトンボイスでほほえみ付きでおっしゃいます。

「良いのだ。わたしもやりすぎた。では姫、わたしは挨拶をしてこなければならない。それにわたしが踊らねば皆が踊り出せない。ファーストダンスをお願いしても?」

「・・・わかりました。」

「では、後ほど。」



そういって歩いていくと後ろにはあの黒髪の騎士が。そしてその横にはもうひとりクスクスと楽しそうに笑っている男性が。どういったことでしょう?

黒髪の騎士はわたくしと目が合うと黙礼をしてくださいましたので、自然と礼をとります。

もうひとりの男性はにこやかに微笑んでわたくしを見ているので同じく礼を取りました。

誰かはわかりませんが、あの黒髪の騎士様と一緒にいらっしゃるということは陛下のお蕎麦近くにいらっしゃる方ということで間違いないはずです。



頭の上から細く長い息を吐く音が聞こえ、思わず見上げるとカインお兄様と目が会いました。

「レーヌ、あちらは見てはいけないよ。ちょっとわたしが黙らせてくるからね。だからちょっとだけアンヌとフレディお兄様と一緒にいてくれるかい?」

「ええ、もちろんですわ。」

「いい子だ。ああ、よかったらまたエルローズ嬢たちとお話していればいいよ。じゃあ、何があっても振り返ってはいけないよ?」

「・・・・わかりました・・・わ。」



こうやって念を押されるときは一瞬でも振り返ってはいけないと我が身に染みて解っております。

フレディお兄様がカテリーナ様たちとわたくしをお話しやすいように近くまで連れて行ってくださいました。もちろんかの方向は一切見せていただけません。

見てはいけないということですね。

アンヌがクスクスと笑いながらわたくしの前でお手本のような淑女の礼をとってくれました。

ああ、わたくしまだまだですわね。ちょっときちんとカーテシーの練習をしなければなりません。

「ナディアレーヌ様、あの黒髪の騎士はわたくしの夫でございます。」

「え?」

本当にびっくりしました。あんな美しい人はやっぱり美しい人の旦那様なのだなぁ・・・とか馬鹿なことを思ってしまいましたわ。

「隣にいた金髪の男性はエドガルド・フォル・アズムデルともうします。この国の宰相補佐で陛下の親友でございます。」

「はあ・・・。」

「きっと今後たくさんお会いすることが多いと思いますわ。・・・・フレディ皇太子様・・・エドは既婚者で美しい妻と二人の子供がいますのでそのようなお怖い顔をなさらないでくださいませ。」

「いや、そのようなつもりではないんだよ?」

「さようでございますか。出過ぎた真似を申しました。お許しくださいませ。」


・・・これはきっとフレディお兄様もアンヌには勝てませんね。

きっとお兄様はアズムデル様がお美しい方だったのでちょっと嫉妬されたのでしょう。



というか。

この国こそ美男美女の塊なのではありませんの?怖い国ですわ・・・。




カテリーナ様やユーリス様、エルローズ様たちと合流して和やかに談笑しているとカインお兄様がやってまいりました。

とても良いお顔をされています。

フレディお兄様が軽いため息をついているということは・・・いつものアレをやらかしたのではないかとヒヤヒヤします。

カインお兄様は独身というカードを根限り有効かつ最強のカードとして扱います。

そりゃ、自国のエルンハルト陛下ほどではないですが、それでもどの国からも引きがあるエルロッドウェイの我が国の第二王子、そして宰相補佐。

このカードで女性をふわふわと良い気分にさせた後気に食わない場合は素晴らしい勢いで心を叩き折りますものね。まさか自国ではあるまいしそんな事は・・・。

「カインお兄様?あの・・・。」

「ああ、レーヌ。思っているようなことはしていないよ。ただ、餌をまいてきただけさ。まあ、餌としては食い尽くされようとその後に身になるか毒になるかはねぇ・・・。」



ああ・・これは毒にする体のやつですわね。お気の毒ですわあの方々。

振り返ることは出来ませんが、華やかにきゃあきゃあ騒いでらっしゃる皆さまの声は大分私に対しても和やかになってらっしゃいます。

助かりました・・・ん?でも全員が懐柔されたわけじゃありませんわよね。

それでも刺さる視線は感じます。



エルローズ様がくすっとわらってカインお兄様におっしゃいます。

「とても素晴らしいお手並みでしたわ。みるみる間に皆さまの顔が変わっていきましたもの!私、かの方々が・・・その・・・。」

「あまり得意ではない?」

カインお兄様は蕩けるような笑顔でエルローズ様の顔を覗き込みます。

「は、はい・・・いつも陛下に対して近づこうとする気概があまりにも強すぎて私とは相容れないと・・・。それに私は生まれが侯爵家につき陛下にお会いする事も多いのですがいつもその・・・」

「何か言われてしまうと?」

「はい・・・わたくしは陛下を目の前にするだけでも緊張しますしあのようにお美しい方は遠くから見ているくらいがちょうどよろしいのですわ。それに私はお嫁に行くわけには・・・」

ふむ。と少しだけ真面目な顔をしたお兄様がエルローズ様の指先をそっと握りました。

え?お、お兄様?は?

「ではわたしは?私はどうですか?近づきがたい?眺めたい?おそばにいてはいけない?」

「え?は?え?」

そう言うとエルローズ様は真っ赤になってしまわれました。



周りのカテリーナ様とユーリス様が手を取り合ってきゃあと賑わい始めました。



お兄様・・・これは・・・。

フレディお兄様を見るとニヤニヤとしています。ああ、これはカインお兄様きめられましたか?

「エルローズ様は一人っ子でらっしゃると聞きました。」

「は、はい・・・私がその・・・家を継ぐと・・・。」

「決まっていると?」

「あ、あの・・・まだそう決まったとは・・・。」

ああ、エルローズ様押されています。ああこのままでは・・・。

「解りました。エルローズ様、お父様とダンスを踊られるのですよね。その後に私と踊っていただいても?お父様のところまで迎えに行きます。」

「は、はい。」



あああああ・・・・エルローズ様ぁ・・・。

うなずかれてしまいましたわね。言質を取られてしまいましたわね?



確定です。カインお兄様はとうとう決められたのですね。

それにしてもこんな唐突に恋に落ちてしまうとは・・・エルロッドウェイの令嬢方に少しだけ同情いたします。ああ、こんなことになろうとは・・・。

フレディお兄様はニコっと笑ってエルローズ様に言いました。

「では私も弟と共にご挨拶に参りましょう。」

あ。フレディお兄様も乗ってしまわれました。



ああ・・・。

エルローズ様。諦めてくださいませ。カインお兄様は一度気にいると大変なのでございます。

わたくし然り。わたくし然り。わたくし然り・・・。

これからは同志として語り合えると思われます。心のなかではもうお義姉さまと呼ばせていただこうと思います・・・。



遠い目で見守るわたくしと目があったカインお兄様はにっこりとこれ以上ないほどにご機嫌に笑ってらっしゃいます。はい解りました。まだバラしませんのでご安心くださいませ。

軽くうなずくわたくしをみてまたいい顔で笑ってらっしゃいます。

ああ・・・。




そうこうしている間に陛下がご挨拶されるようです。

皆さま礼をとった姿勢をしていらっしゃいますので、玉座に着かれたのでしょう。

それにしても立ち姿もお美しい方でいらっしゃいますわね。顔色は今日は良いようですわね。先程の手も暖かかったから・・・あとは少しだけ心配なのが目の下の薄い隈なんですがそれが寝不足なのか咳による呼吸の不調からのものなのかは・・・



パチパチパチパチという拍手が響き渡っています。

あ、ちゃんと聞いておりませんでした。



ん?




周りの方たちの視線が・・・・視線・・・・・。



陛下が、玉座からおりてますわね・・・ちか・・・づいてきましたわね?

え?わたくし確かにファーストダンスを踊ることにはなっておりましたがこんな公の場でお出迎えを?いやちょっとおまちくださいませ、だから目立つ!やめてくださいませ!!!



あああああ・・・・。



お兄様たちはかたまってらっしゃる。

国交のこともありますからどうにもできませんわよね、お兄様たちも拒否はされませんもの。

わたくしも先程踊るとお約束いたしましたし、頑張れわたくしの丹田!!力を入れて!!




礼を取ろうとカーテシーをするその寸暇。



陛下のお顔を見る。





穏やかな口元、歩くたびにサラリと揺れるミルクティー色の髪。

薄い体だけど広い肩幅、長い手足。

華美ではないけれど美しい黒の衣装に控えめに銀の糸の刺繍。なにげにわたくしの髪の色では?とおもったけれど見ないふりをしたい。

長い歩幅、優美な足運び。



同じ王族だけど違う。





こんなに美しい人がいるのだと。

わたくしは初めてきちんと陛下のお顔とお姿を見た気がしました。


いつまでもこの時を忘れない予感もしたのはきっとわたくしが背負っている神託のせい。

陛下とともに背負っている神託のせいだと。




一番深いカーテシーをしながら、最上級の礼を取りながら。

わたくしはあらためて自分の責任の重さを知り・・・・。

こんなに煌めく人がいるのだと思い知った瞬間でございました。












レーヌ、これから踏ん張りどころです。

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