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国王陛下の気持ち

長いし少しシリアスです。エルンが意外と重い過去をお持ちなもんで。

「許しておくれ、エルン。私はもう助からないよ。」

「嫌です。ルーゼ兄様、諦めないでください。自分は一人では無理です。私は・・・」

「エルン・・・私のたった一人の弟よ・・・。」

「嫌です。逝かないで・・・おいていかないでくださいルーゼ兄様・・・」



「ルーゼ兄様!!」


自分の声ではっとして、目を覚ます。

額に汗をかいている

ああ、いつもの夢だ。今日もまた兄を引き止めることができなかったから。


そして思い知るのだ。私はもうひとりなのだと。



私が物心つく頃には兄が私のそばにいてくれた。

私の父と母はドゥーゼットの国王と王妃だったが、どちらかというと平凡な両親だった。

愛情を受けたことはあまり覚えていない。

政略結婚だった両親は私を産んだ後に義理は果たしたとばかり疎遠になってしまっている。

父とは交流があったが、母とはほぼ会ったことが無い。

父は亡くなったが母はまだ生きている。だが会うことはない。

二度と。二度とだ。


アンヌの母が乳母として兄を育て、私を育てた。

アンヌの家は元々は王家に仕える影の一族として伯爵領を賜っているがほとんどが

王家につきっきりで領地運営などはしていないし領地自体を必要としていない。

そのためほぼアンヌの一族はこの王家に一番近いながらも影ということを知られてはならないため、

ほとんどが名前だけの伯爵家。

として護衛、乳母、乳兄妹として王家に入っている。


アンヌの姉のアンジェは兄、ルーゼハルトの恋人だった。

兄は国王として22歳のときより国を率いたが婚姻はしなかった。

たった一人だけを愛し、そしてアンジェ以外を望まなかったからだ。

婚姻を結ぶにはアンジェは伯爵令嬢であったとしても反対も多かった。影だということは

公にすることはならず、父も認めなかったからだ。

そして、もう一つ理由がある。


兄も片方の目が銀色だったのだ。

この銀の目は天を統べるものと言われる。

兄は私が生まれるまで片目だけだがこの兆候があったため、それを隠しながら皇太子として

過ごしてきた。

だがこの兆候があるものは疾患を抱える。

兄は体が弱かった。

10歳の時私が産まれたのだが、私は兄と同じように銀眼をもっていたが私は運悪くというか

何ということか両目に12歳の時に兆候が現れたのだ。

そしてそれ故、次の子は健康であってほしいという願いも虚しかったのか母は。

完全に私達から目を背けるようになり疎遠になっていった。


父は無くなる直前に私を皇太子にすべきだと考えたようだったが私は幼かったため、

その間を次ぐようにと兄が皇太子のままだった。

でも、兄はどんどん悪くなっていく体調を押して、私を護るようになった。

そして、悪意を持つものから、無関心な母から、都合よく私を扱おうとする父から。

私を護ろうと決めていたのだった。



兄は分かっていたのかもしれない。神託を受けるのは自分ではないと。

信託を受けなければ命を助けるものは現れない。

信託を受けたものには信託を受ける対のものがいる。

そのものが助けてくれることだけは知らされていた。

でもそれは相手が17歳にならないと神託として下らないのだ。


その相手が何歳なのかもわからない。

だから、私達銀目のものは待ち続けるのだ。そのものが現れるまでは命は尽きない。

それだけは確かだから苦しみながらでも待ち続けるしか無い。

ただ、片目だけが銀眼であったのはいまだかつて兄しかいなかった。

そのために神託のものが現れるのかわからない。



神は最初に決めたのだろうか。

どうして、何故兄には両眼の銀眼を与えなかったのだ。

どうして片目だけを与えたのだ・・・。


そしてアンジェももういない。

兄に沿うように、兄が息を引き取ると同時に命を絶った。

どれだけやめてくれと頼んでも、アンジェは迷うことなく兄の後を追った。

最後にルーゼ兄様の願いを聞き笑顔で見送り。そして迷わなかった。



「エルン様、あの方のお側に行きます。あの方のもう片方の目になりに行きます。

二人で見守っていますから。あなた様には神託の方が現れます。それまで。それまで耐えて

くださいませ。お許しください。」



くっと唇を噛み締めた時には。

奥歯に仕込んであっただろう薬が彼女の命を連れ去った。


兄の側で笑うアンジェを見ているのが幸せだった。

恋だったとは思わない。ただ、兄を幸せにしてくれる彼女が大好きだった。

ルーゼ兄様の一つ歳上の美しい人だった。

そしてその姉を見送ったアンヌは私の影になった。

兄の護衛を務め、兄の一番の理解者であったレオルドは、そのまま私の護衛についた。

兄を守れなかったからなのか私に対して大層に過保護な男だった。



影であるアンヌとレオルドは惹かれ合い、夫婦となった。

兄たちが婚姻が許されない分、代わりのように彼らが結ばれるのを兄達は喜んだ。

彼らの子供が産まれたのを殊の外喜んでアーノルドという名前まで与えた。

今その子は私の近衛騎士として正式に護衛として付いてくれている。

母が影だからと言っても父は護衛騎士なのだからそちらに習うべきだと私は伝えた。

その意志を持ち、レオルドは私の一番の側近の護衛騎士として。

アンヌはずっと変わらず影で有り続けてくれている。



何故このような夢を見たのだろうか。


理由はわかっている。




ナディアレーヌ・エミィ・オーウェン。

17歳の神託が下ったのはエルロッドウェイ皇国の第一皇女だった。



私が12歳の時に銀眼が両目に現れた。

そう、私の一番最初の神託はこの時に下った。

漠然と感じていた不安は12歳の時に現実となり。両目として現れた銀眼は隠されることになる。

私の神託の相手は12歳一回り違う歳で産まれたようだ。

私が29歳の歳まで出会うことはないだろう。

女性なのか男性なのかもわからない。どこの国にいるのかもわからない。

でも、ある日神託がくだるのだというのだから待つしか無い。


ただ待つだけだったこの間にたくさんのことがあった。



父が亡くなり、母が宮殿を去り、兄が国王になった。

すべてのものを引き受けるように仕事に没頭する兄を心配しながら私は必死で帝王学を学び

兄のそばにいることだけを夢見た。

兄を支え、兄のために生き、私の疾患を治すのではなく兄を治してもらおうと頼むつもりで

生きてきた。神託なんぞくそくらえだと思っていた。

兄は父のぬるま湯だった国政を一掃しようと必死になっていた。それもこれもきっと

私のためだったのだろう。

自分が亡き後でも私を支えることができる人材を必死で作ろうとしていたのだと思う。

そして。

その心労もたたったのか兄の病は悪化の一途をたどりはじめた。

私の拙い力ない手で一生懸命つなぎとめようとしても兄の命は零れていった。


逝かないで、一人にしないで。寂しい。

ルーゼ兄様がいればそれでいい。一緒にいたい。兄様・・・。



でも、兄が息を引き取りアンジェが後を追った後。

そういった感情はその時に捨てた。


16歳にして私はこのドゥーゼットの国王になったのだ。




優しく頼りなく、兄に甘えていた私は巷では冷酷な心を開かない国王だと言われるようになった。

兄がいない。大事な人がいない。

だから愛想を振りまく必要もない。心を開けば誤解を生む。

特に女性は苦手だった。


自分の見た目になんの興味もなかったが、女性たちにはそうではなかったようだった。



どれだけ冷たくしても、どれだけ無視しても近づいてくる。

薬が効かないと知らない彼女たちは色んなものに薬を混ぜてくる。

特に媚薬は最悪だ。

私の体に変化は現れないが、とてつもない吐き気に襲われるのだ。

これが夜会のたびに繰り返される。


頭が痛くなる。

馬鹿なのか?


一度手を付けたからと言ってどうして王妃になれると思うのだろう。

逆に薬を盛ったのだとしたらそれを逆手に処分してしまえばいい。

だいたいそんな身持ちの軽い女を王妃にするわけがないだろう?アホなのか?

女性は嫌いだ。香水の匂いも私には苦痛だった。

まいど繰り返される吐き気のために、流石にこちらも手を打つようにした。

影であるアンヌに夜会のパートナーを頼むこともあった。

きちんとレオルドも私の護衛についているし、私には姉のような存在だし。

都合よく影を使うのもどうかと思ったが、私にはなぜか女性が寄ってきてしまう。

国王というだけではなく、きっと何かの力も働くのかなんなのか。

この銀眼のせいかもしれない。魅了後からでも働くのか何なのか。

でも私には全くなんの興味もなかった。ただ避けたかった。



それだけでは避けきれない。無視をしても冷たくしても素気無く扱ってもこりない。

令嬢たちはあらゆる意味でハンターのようだった。

だから私はいやいやながらも処世術を身につけた。



無視をせずに優しく受け入れる。ダンスも踊るしお茶も飲む。

手を取ることもあるし肩を抱くくらいだったらどうとでもできる。我慢すればいいだけだ。

ただそれ以上は許さない。それ以上に私に触れることは許さなかった。

私の身にあちらから触れることは許さず、私がとった距離に近づくことも許さず

笑顔で躱し、笑顔で拒否をした。



いつの間にか私は孤高の国王陛下と言われるようになっていた。




だいたい王位になんの執着もない。

私の従兄弟が育ったならもうさっさと譲ってしまってもいいのだ。

叔父はいい人だ。

こんないい人が王宮で王子として育っていただなんて信じられないくらいの

良心の塊だ。

だが馬鹿なわけではないし、どちらかというと裏から操るほうが好きだったと

笑いながら毒を吐くところが私は気に入っている。


父に何ら似たところがない。

それはそうだな、我が父とは母が違うのだから。

母親の身分が低いからと言って第二王子に甘んじたのは叔父自体がきっと王位に

なんの魅力も感じていなかったからだ。

叔父は叔母を見初めた時に王位継承権を変換した。

庶民だった叔母をどうしても妻にしたかったからだ。

王位継承権を返し、公爵としてたち、王家を支える方を選んだ。


叔父の息子たちは幼くとも聡明ではつらつとし、そして健康だ。

私の疾患は治るかもしれないが、それがどうした。

私はいつか、このいとこに王位を譲りたいと思っている。


そう言うと叔父は困ったように笑う。


ルーゼにエルンのことを頼まれているんだ。だから公爵でいるんだよ。

仕方なくね。

本当ならもうやめて妻と共に引きこもりたいんだが。



そう言ってため息をつく顔はとても幸せそうだった。


そういうところも私は好きだ。


私は恋をしたことがない。誰かに心を動かされたこともない。

誰かを愛おしく思うことはもうきっとできない。

そんな心は兄様がもっていってしまったのだろう。

ただふっと思い出したことがある。



あの日。



兄の命をつなぎとめるために医療国に行ったことがある。

その医療国に行けると分かった時点で兄には黙って、エルロッドウェイ皇国に密書を送った。

返信が来た為外交を兼ねての国の顔見世の時に立ち寄った。

兄は多分私を派遣した時点で、私を国王と定めることを決めていたのだろう。

私はそんなことには全く気づかず、ただただ兄の命を延ばすことだけを考えていた。

その時私はもうすぐ兄の命が付きかけることだけに怯えていたのだ。



「この国の医療を兄に施していただくことは出来ませんか?」

その私の言葉にエルロッドウェイの皇国の王は穏やかに言った。

「兄上が望まれましたか?エルンハルト様?」

「兄上は・・・兄にはまだ知らせておりませぬ。」

「ならばなりません。」

「何故?!」

表情がなくなっただろう私の方に手を置きエルロッドウェイの王は静かに行った。

「納得しない医療は、毒ともなり得るのです。薬を飲ませればよいのではありません。

私達は医療を生業にしておりますが押し付けるわけではないのです。」

「分かっています。分かっています。私はただ兄を助けたいだけなのです。」


今にも泣いてしまいそうな私を見て、王は背を屈めたのを覚えている。



視線を合わせたその瞳は、痛ましさを滲ませてた。

私が泣きそうだったからだろうか。

今はもうわからない。私にはわからない。


「エルンハルト様。私達はその方を見て診断をしなければ薬を処方することも

治療することもかなわないのです。

本来だったらここにいらっしゃるのはルーゼハルト国王陛下なはずでしたが

あの方は来られなかった。そしてここにいらっしゃるのはあなただ。

ルーゼハルト国王陛下はあなたを診ろとおっしゃっているのではないですか?」



それを聞いて頭が真っ白になった。



何故だ。何故?兄上を助けたかったのに兄上は私を助けたがってしまう。

私が弱いから。弱いからだ・・・。



カタカタと震える体の両肩に手を乗せたエルロッドウェイの王は何も言わずただ

私の震えが収まるまで温かな手を置いてくれていた。



どうやって部屋を出たのかもわからない。一人だ。

ああ、私は一人だ。

護衛で付いてきていたレオルドの目を盗み逃げ出した一人だと実感した。

ただただ皇宮を歩いた。

不安だった。ただただ怖かった。

このままでは兄上は近いうちに亡くなってしまうだろう。

離れている今も兄の体は蝕まれてしまう。この銀色の眼にこんな眼に。

そんな力いらない。私はただ、走り回れる体が欲しかった。すぐに熱が出る体なんか

いやだった。弱い私が嫌いだった。



まずいと思った時には発作が起きていた。酸素が足りないのか座り込んでしまう。



ああ息が苦しい。もうダメだ。

ゼエゼエと浅い息を吐きながらうずくまる。

発作が起きるときは決まって不安なときだ。発作はいっときで収まるけれども

薬が効かない自分にはやり過ごすしか手がないのだ。

ああ、でももうこのまま息が吸えなくなってもいいかな。

兄上がいなくなるのだったら私ももう一緒に逝けばいいのかな。

神託なんかいらなかった。あと何年待たなきゃいけないんだ。

神託が下って四年。その間にもう諦めたほうがマシだと思うほどの発作にも何度も

襲われた。

でも私の命は尽きない。何故ならば私は銀眼をもち神託が下り神託の下った相手が

私の命を救うと決まっているからだ。



バカバカしいと思う。自分で命を捨てることも選択できない。

私は待つしか無いのだ。

待つしか無い自分はどれほどにみっともないというのか。

自分ではどうにも出来ず、自分の力で生きているわけでもない。



嫌だ。もう嫌だ。嫌だ・・・。




「だいじょうぶ?」

柔らかな小さな手が私の背をたたく。

小さな女の子の声だ。背を叩く手の暖かさがエルロッドウェイの王の手を思い出させた。

この国にいるこんな小さな少女は一人しかいないと記憶している。

皇女だ。

そう思ったけれど咳で声が出ない。ゴホゴホと咳をしていると小さな手が背中を撫でる。

やさしい手だ。


「ありがとう、とても安心したよお嬢さん。」

咳は止まらないけれど顔を上げると三歳くらいだろうか。小さな女の子がまん丸の目をして

私の顔を見ていた。

ああ、この子の瞳・・・私と一緒だ・・・。



何故そう思ったのかはわからない。何故だろう。

違うじゃないか、この子は紫色のアメジストの瞳をしているのに。

どうして自分と同じ瞳だと思ったんだろう。

苦しくてもう何も考えられない。こんなところでうずくまっているのが恥ずかしくなって

逃げようかと考えていたのに。


意図せずに丸い薬を口に放り込まれた。


これでも王子だ。口にするものには気をつけているし私には毒は効かないけれど

薬も効かない。

口に広がる独特の苦味とそれを打ち消すようなキットハーブの味は。

何故だろうとてもホッとしたのだった。



いつもどれくらい続くのかわからなくて不安になるほどの発作は。


びっくりするほど早く楽になっていった。




私に薬は効かないのに?

この子が私の口に入れた薬は効くの?

不思議だった。これがエルロッドウェイのちからなんだろうか。

それともこの咳の止まる薬を持っているということはこの子も体調が優れないのか?

じっとみると薄い肌の色に一滴だけピンクを溶かしたような薄い肌の色。

体は強くなさそうだけど、今は苦しそうじゃない。そうか・・・。



「君は僕と同じ色なんだね。」

「え?」

きっと通じないだろう。君もきっと僕と同じようになにかにとらわれれている姫なんだな。


「僕と同じ色の君。君は僕とは違って自由だよ。だからきっと広い世界に行けるはずだ。」


どうしてそんな事を言ったのかわからない。

でも、囚われていると知らない今ならこの考えだってきっと救いの一つになる。

この姫が幸せであってほしい。

この苦しさをいっとき早く救ってくれた銀髪の姫。



僕と同じ瞳の色の髪を持つ少女。



「わかったわ、きっとそうね。私は自由だっておもうわ。だってあるけるようになったの!」



可愛い理由を言いながら背中を撫でてくれる。


ああ、彼女みたいな妹がいてくれたらなあ。

彼女みたいな人がそばにいてくれたらなあ。






そこからの記憶は曖昧だ。


レオルドが真っ青な顔で覗き込んでいる。もう私はベットに横たわっていた。

ああ、もう会えないだろう。

私の帰国の日は明日だ。




それから記憶に登ることはなかったあの小さな私を救ってくれた少女が。








私の神託の相手だったのだ。

長すぎた・・・。

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