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愛おしいという人の存在

カインが来ました。

小競り合いです(笑)

自分の腕の中にいた存在が信じられないまま、何とはなしに降ってきた花をそのまま眺めれば。

早くわたしもその花を拾うべきだと叱られる。


ああ、なんて幸せな存在なんだろう。彼女は。



わたしの腕の中で笑っていたと思ったのに。

あんなに可愛らしい顔をしていたのに。

あんなに可愛らしい顔でわたしのことをすきだといったその口で。


この花のもたらすであろう効能を嬉しそうに話す。



「ああ、こんなにテスカの花が!それにこれは加護を受けて降った花ですもの!エル様!!

これでお茶を作るのとエル様のおくすりを作るのをお許しくださいませ。

ああどうしましょう!これがあればエル様!ヤグルマギクと合わせれば咳が止まるだろう効能が。それからこれを薬として蒸留精製すると免疫を高める事もできますのよ!しかもこの可愛らしい見た目ですもの。

可愛らしいおくすりが出来上がりますわ!」



正直可愛らしい薬ではなくともわたしは飲むし、ナディアが創ってくれたものならば毒でも飲む。

まあ、わたしには効かないが。

彼女がわたしの生殺与奪を握っていると言っても過言ではないのに本人はいたって何も頓着していない。

自分の地位にも価値にも過分に欲しもせず理解もしていないだろう愛しい人は、ドゥーゼットの未来の国母というだけで命を狙われる可能性も上がったとはっきりりかいしていないかもしれないが。



そんな事を心配するのはわたしの仕事だ。

ナディアに傷一つ、何も損なうことなく一生護ると心に決める。

何が合っても彼女を手放すものかと、彼女の笑顔を見ながら何度も刻みつける。

そう、ナディアはわたしを護ることだけを考えてくれたら良い。

わたしがナディアを守ればわたしもナディアに守り続けられる。

それでいいではないか。

と、いつものわたしの思考が少しだけ戻ってきたことを感じる。

わたしだってたった今思いが通じ合ったのだ。

少しくらい浮かれていたって良いだろうとは思う。



今はわたしを治すというその薬のもととなるものだと、女神の祝福たるその端を拾おうとして慌ただしく駆け出し、わたしの腕の中から軽やかにかけていったナディアを見て笑ってしまう。

本当に楽しそうで嬉しそうで可愛らしい。



その愛しい人は振り返ってはわたしにも拾えという。



「エル様!早く!エル様も手伝ってくださいませ。」



そう言って笑う。

笑ってわたしに手伝うのが当たり前だろう?と、普通に接してくれるのは彼女も皇女たる立場なのに別け隔てなくご両親に育てられたからだろうと思う。

数ある皇室、王族、王子や姫。そういった存在ながら屈託なく育つことが出来たことがどれだけの心を砕いてもらえたことか。

そして、どれだけ大事に育てられたのか、彼女は当たり前に触れてきたゆえそんなにも大事なことだとも大変なことだとも思ってはいないだろう。




わたしと兄は両親に大事にされたことはなかった。

というか親が居たという感情さえあまりない。彼らはわたし達をこの世に生み出してくれただけの遺伝子がつながっているだけの他人・・・という感情だった。

それにわたしは特に身体が弱く、年を経て両眼銀眼という身体的特徴が現れた。

父王はもうその頃にはわたしたちには興味を失っていたし、美しいと言われ続けていた母もわたし達にはなんの関心も示さなかった。

わたし達には興味を示さずとも、あの両親は他の異性には殊の外興味を示していたようだった。

まあ、どうやら母は見た目だけは極上だったらしいからな。記憶もないがとりあえずなんの感情もわかないが飾られている肖像画を見る限り見目は麗しいのだろう。



本当になんの感情もわかないが。



大体がどこかにわたし達以外にも兄弟弟妹が居たとしても驚きはしない。

わたし達を生んだあとはどうやら責任は果たしたとばかり夫に沿うことはなく他に色々な人と親しくしていたらしい。親しくはまあ、そういった親しいということだ。

そのような妻を持ったからなのか夫がそうだったから妻がそうなったのかはしらないが兎にも角にも似た者夫婦だったということだけはわかっている。

やっぱりどこかに何人かは異母兄弟弟妹くらいはいただろうな。




だが、ルーゼ兄様の粛清に継ぐ粛清のときにもし居たとしてももうわたしの目の前に現れることはないだろう。

兄様がわたしの進む道に憂いを残すなどありえないことだから。

わたしのために道を均し、わたしのために粛清を実行した。

苛烈だったがとても優しく情の深い兄が居てくれたからこそわたしは愛を手放すことなく愛する人をみつけられたのだろう。

愛がある兄が、愛する人を得て幸せにしていたのを見ていたからこそ。

わたしはナディアをきちんと愛することができるのだと思う。



・・・まあ、多分少しは執着が強いかもしれないがそこらあたりはナディアには許してもらおう・・・。




わたしの兄はわたしに過保護だったし、わたし達にはお互いしか居なかった。

家族と呼べるのはルーゼ兄様そしてその内縁の妻であったアンジェのみだ。

広い意味ではその妹であるアンヌ、それからルーゼ兄様の乳兄弟だったレオルドが含まれ、そしてその息子のアーノルドとキュリア、それから娘のシェリィが含まれるだけ。

わたしの血縁上の父と母はわたしにはなんの重きも置けない。ああ、いたな。という存在。

それよりももっと大事にしてくれたのはアンドレア叔父上だ。本当なら自分の兄を憎んでもいいだろうしその子供のわたし達に優しくする理由なんかないのに。

叔父上が居てくれたからこそ、わたしはまだ国王として踏ん張れていて、叔父上がわたしのいとこたちの王位継承権を破棄せずにそのままおいておいてくれているからまだわたしは正気を保てていたのだろう。



そしてそれをわかっているから取り上げるようなことをなさらない。



あの方がわたし達兄弟を護ってくださったのだ。

そう、あの方がわたし達の父であってくれたならどれほど幸せだったことか。

だがしかし、叔父上はわたし達の父ではなく、わたし達の父はあのろくでなしだった。

今思い返しても、年若いわたしのほうが国をよく運営できているのではないかと思う。

そして、わたしの礎はルーゼ兄様だ。



兄が居てくれたこそのわたしなのだ。



そんな事をぼんやりと思っている間にも愛おしい人の声がしてフッと我に返る。


「もう!エル様何をなさっておいでですの?きいてらっしゃいます?」

そう言ってわたしの顔を覗き込む愛おしい人。

少しだけ口をとがらせて、もう!とちょっとだけすねた顔をするのが可愛らしくてたまらない。


「エル様、レオルド様!先程も言いましたが花弁を潰さないでくださいませね。あとでまたこちらの花がたくさんとれましたのでヤグルマギクとお茶にいたしましょうね。ああ、マリーゴールドの花も浮かべれば青と黄色が混ざってきれいなお茶になりますわ!楽しみになさってくださいませね。」



他にどの果物と合わせましょうか・・・と、小さく首を傾げている、愛おしい人。


この人がわたしを好きになってくれていたという奇跡。




そう、奇跡だ。



じっと見つめてしまう。

不思議だった。

自分の好きな人がわたしのことを好きで居てくれたという事実に全く実感がわかない。

わたしは面白みもない男だし、どちらかというとたくさん話をする方ではない。

話を聞くのは上手だと思うが、どうしても仕事上裏を疑ってしまうことも多い。

素直に言葉を額面通り受け取ることはなかなか少なかったりする。



身体も強くないし、運動神経は悪くはないだろうが圧倒的に持久力はない。動き続けたくても先に呼吸が苦しくなってしまうからだ。

それなりに鍛えることが出来ているのは、医師団の努力の賜物によるものと、少しだけでもとコツコツと毎日続けている剣を降ることだけだろうか。

その場で振るだけなら体力を使いすぎることもないため、わたしの好きな鍛錬の一つだった。

思い切り走り続けたことはないし、鍛え続けたこともない。

自分で誇れることと言えば、椅子に座り仕事をし続けても大丈夫なことと、書物を読むことは好きだから勉強は苦ではないことくらいだろうか。



以前ナディアにそういったところ。



「まあ、エル様はそんな特技がございますの?執務をし続けられる体力があるということは、忍耐力と精神力に優れているということですわ。

身体が弱いのは悪手ではなく、それ以上に体力を損なわず使い方を知っていて的確適所で己の持っている脳力を遺憾無く使えるということですわ。

少々呼吸が苦しくなるほどのことは優れた資質を損なうことではありません。」

そう言って笑ってくれた。

「わたくしは詰め込み型のお勉強は得意ですが、かと言って机に向かい続けることは得意ではありませんの。どちらかというと途中で身体を動かさねば知識を入れ続けることは出来ません。

そこでできるタイムロスがエル様にはございませんのでしょう?何と素晴らしいことなんでしょうか!

あ!だからこそドゥーゼットがこれほどまでにまた最盛してらっしゃるのでしょうか。

エル様とエド様は敵に回してはなりませんわね。」

そういってくすくすと楽しそうに笑っていた。



言っている内容は楽しくもなんともなかったのだが。

どうやらわたしとエドは国を運営するには非常に良いパートナーだとナディアは思っているらしい。

たしかにそうだが。

その時も結局はわたしの気持ちをすべて伝えきれるわけではなかったからそれがなんとなく自分で気に食わずナディアの手を掴み、そっと引き寄せたんだったな。



「ならばナディアがそばにいてくれれば更に頑張れるような気がする。わたしのそばにいて、わたしの膝の上に座っていてもいいから。・・・わたしから離れないで。」

いつもの通り離れないでくれ。と言うのは簡単なはずが。

離れないで。と、何故か子供の時のように懇願してしまうのはわたしが好きな人に対してする癖のようなもの。


かつて、レオルドにもそう甘えたこともある。

それを見て知っているレオルドは笑いをこらえているのか、口元を引き締め過ぎて変な顔をしている。

一瞬咳払いでもしようと思ったが、眼の前の愛おしい彼女の頬がバラ色に染まるのを見てやめた。

こんなに可愛い人を見逃すなんてそんな時間のもったいないことは出来ない。


ああ、かわいい。かわいくて食べてしまいたくなる。



「そ・・・そのようにお願いなさらないでくださいませ・・・。」

少し困ったように、とても盛大に照れながらナディアが小さな声で言うのが本当に・・・。

「かわいいな。」

その言葉にまた肩がびくっと震える。

・・・ああ、かわいい。



「わたしを一人にしないで。わたしのそばにいて、わたしの世話を焼いてくれないか?ああ、必ずあなたからのものは完食するように努力するから。

薬もあなた手づからのものならばどのようなものでも口にしよう。

あなたがわたしのそばにいてくれるならば、わたしだってずっとそばに居続けたいのだから身体を治すことを一緒に頑張って努力するから。

だから・・・一人にしないでくれないか?」




そういって手を取って軽く口付ける。




「・・・・・一人になんてしませんわ。わたくしお側にいると決めたのですから。」



そういってわたしの手を逆に取ってナディアから頬を擦り寄せられる。





・・・・こちらが逆に照れてしまった。それを見ていたレオルドが口をパクパクとさせるのでじっと見ていると・・・。




「逆にやられるなんて情けないぞエルン?」

そう言ってニヤッと笑われた。聞こえないが絶対にそう言っている口だった。



という流れまで思い出した。

そうだ、わたしが気を抜くと、すぐにナディアにやられてしまう。

自分のほうが12も歳上なのに、骨抜きにされている自覚はある。自覚はあるがそれが嫌ではない。

その時点でもう、同仕様もなく彼女に溺れているということだろう。



だがしかし少しは頑張らなければならない。

わたしだって伊達にナディアよりも長く生きているわけではない。

そりゃもう、びっくりするくらい女性に免疫などないけれども。その上口説いたこともないけれども。

なんなら触れたこともないけれども。

触れたくなかった訳では無いが、媚薬など盛ってくる血気盛んな女性などと触れ合う趣味は毛頭なかった。

結局はナディアが、神託の相手が、自分の比翼だということで。

わたしのすべての愛と、すべてのこれからの初めてはナディアのものだということだ。



わたしから触れることも。

わたしからダンスを申し込むことも。

わたしから愛をささやくことも。

そう、口づけさえも。




すべてがナディアのものだということだ。







「ということを、カイン、君にもわかってもらいたいのだ。」

「・・・・・一つ良いかな?エルン・・・。」

そういって目の前の美丈夫は眉間にシワを寄せて剣呑な顔を隠しもしない。

「あーっと・・・一体何を聞かされているのかな?それも愛しい愛しい婚約者のローズに会う時間を割いてまでここに来て、その上最愛の妹へのその恐ろしいほどの執着を聞かされる兄の身になってくれないか?」

目の前の機嫌の悪い銀色の色合いの年下の義兄がとても不愉快そうな目で見てくる。



そうこれだ。


これがフレディがかわいくて仕方がないと言っていたカインのことなのだろう。

うん、かわいい。これは本当にかわいい。

そしてフレディが心の底から羨ましくて仕方ない。

もとからこんなに可愛いナディアとカインの兄なのだ。どれだけの徳を積んだらそんな素晴らしい家族の長兄などになれるのだろうか。

きっとルーゼ兄様とフレディはとても気が合うと思う。



それにしてもだ。

美しく見た目は非常に麗しいのに中身がびっくりするほどに素直で真っ直ぐで可愛らしいカイン。

24歳だと言っていたがこんなに中身が素直でかわいくて大丈夫なのだろうか?

非常に長けた外交官だとは思うが、それを全く見せずに素の状態を晒してくるなんて、なんてかわいい。

ナディアの兄だがわたしよりも5つも年若い、かわいい義兄だ。



そう思っているのはフレディやエルンハルトくらいのもので、エドにしてみればこんなにわかりやすく気が合う腹黒具合の人間は居ないし、敵に回ったものからすれば息もできないほどの攻撃を繰り出してくるし、仲間としては背中を預けるにしろ何にしろ頼もしいのがカインだ。

可愛いという感想が出てくるだけで、普通の感覚とは違うということを全くエルンハルトは気がついていなかった。



もちろん婚約者のエルローズにはそういった黒い部分も強い部分も全く見せず。

ただひたすらに愛を請い、甘く甘く甘やかす最強の婚約者であり愛おしい人なのだが。

そういった面も臆面もなく出すということが今までなかったカインの周りの人間からしてみれば驚愕の事実という状況なのだとエルローズはエルロッドウェイに行ってから思い知ることになる。



縦にも横にも置かないほどに溺愛される婚約者であり愛する人として、大切にされるのだから。






ほぅ・・。



と、エルンは息をつく。

と、カインはそれを本当に嫌そうに見てくる。


「一体何なんだエルン?」

首を傾げるその仕草がわたしの愛おしいナディアと重なってこれまたかわいい。

弟は居ないからアーノルドたちをかわいがっていたが、それよりも年が近いせいか少しずつ崩れていく丁寧な態度や物言いがぶっきらぼうになっていくのが嬉しくて仕方ない。

家族の情に薄い自分としては運がいいというしかない。

もう自分には父とも母とも呼ぶ人は居ないと思ったが、ナディアとカインの・・・フレディの父上や母上を自分の義理とは言え両親といって憚らない状態で過ごせるとは。

それだけでも嬉しいというか・・・幸せだというか・・・それになんとも言えず。



「カインは可愛いと思って。」

そう言われた瞬間、白皙の美貌の青年の頬が真っ赤に染まる。

「か、可愛いなどというな!バカなのか!」

「レオルド、カインは可愛いと思わないか?わたしに向かってあんなに素直にまっすぐに感情を見せてくれるなんてかわいいではないか?」

そういって背後に立っているレオルドを見上げるエルンを見てもレオルドには答えることが出来ない。

「陛下・・・カイン様にはお時間がありません。エルローズ様がいらっしゃる時間まであと少しでらっしゃいますが?」

「ああ、それだ。明日にでも会えるのにどうして今日エルローズ嬢を呼ばねばならなかったのだ?」

「何故今日やっと時間を繰り上げてまでここに来て、明日夜会のあとにはもう連れ帰ろうかとまで考えている愛おしい婚約者に会える時間を削らなければならないのだろうか?義弟殿。」

その言葉を聞いて、全くわたしと同じような事を考えるものだと思ったのと同時に。




「レオルド!カインがわたしのことを義弟と!弟だとみとめてくれたということはナディアとのことを許してくれたということで間違いはないな。」

そう言うと、カインが本当に呆れたような顔をした。

「・・・エルン。我がエルロッドウェイの皇が認めた婚姻だ。しかも・・・認めたくないと言ったとしても・・・・。」



「完璧に作り上げていった玉璽まで押された勅書だぞ。しかもドゥーゼットは運がよく大国なんだ。

わかっているだろう?エルン?」

そういって金色の美丈夫がわたしの私である部屋に何事もなくにこやかに現れた。

カインの顔が自分に向けるよりもより感情豊かに歪められたのを見て、少しだけ悔しい気もする。

「エド・・・。」

「もう、この俺が手づから完璧に最初から最後まで作り上げたものだからな。外交的にもどんなことにも不備もないように完璧に整えたものだ。」

それを聞いて、ぎぎっとカインの歯がなった。

どうやら悔しいらしい。そんなきやすい態度をとるほどに二人は仲がいいのか・・・



「エド。ずるいぞ。」

「何がだ?」

「不敬だ。わたしよりもカインと仲が良いなどとそんなことなど認められることではない。」

「いやいや、だからお前は何を言っていんだ?エルン・・・疲れているのか?レーヌ姫を呼ぶか?」

「ナディアを?」



・・・それは嫌だ。カインに会ってしまったらナディアはすぐにカインの方に行ってしまう。

久しぶりに会う兄妹だったならば絶対に愛おしいあのこはわたしを気にしながらでも絶対に絶対にカインに先に笑顔を見せるだろう。

そしてきっと抱きついてしまうに違いない。



「嫌だ。」

「ほう、だめではなく嫌だと来たか・・・。」

そういってカインはニヤニヤと笑う。

「わが義弟殿はよほど我が妹に心を傾けているということか?」

「どうしてそんな意地悪を?悲しいだろう?義弟と呼ばずエルンと呼んでくれないか?」

そう言って真顔でカインの方を向くと、カインはぽかんとしてわたしの顔を見ている。

「エルン・・・ひょっとしたらレーヌが自分に向けるより先にぼくに笑顔を向けるのが嫌だと?それに伴い何故ぼくがエルンの頼みを聞くと?ナディアに会わせてくれ。久しぶりなんだから。」

「そんな事をいうのならわたしが先にエルローズ嬢に会ってこよう。カインは来なくて良い。」

「そんなわけにいかないだろう!!本当に何を言っているんだ!エド!ここの国王おかしくなってるぞ!!」

そういって立ち上がると自分のところまで長い脚を伸ばし、やってくる。

エドはといえばまあなぁ・・・と苦笑いだ。



「とんだ駄々っ子だな!ぼくがどんな気持ちでレーヌをここにおいていったかわかっているのか?それに見たぞ。レーヌを腕に抱いていたな!」

「まったくどこに蝶が潜んでいたんだ?ちなみに腕に抱いただけではなく口づけも交わしたが?」

「・・・・・ぼくが黙ってれば許してると思ってるのか?」

その勢いとともに銀色の冷たい空気が吹き出す。

ほう・・・・どうやらカインの方も軽く魔術?魔法?なりのものを使えるらしい。



カインの勢いに押され、レオルドが軽く圧を全面に押し出すと、カインははっとしたように両手を上げる。

敵意はないと示すためだが顔が不服そうなのだ。それがまたかわいいと思ってしまう。

不機嫌そうな低い声でカインは恨み言を言い始めた。

「そんな事を聞かされる身にもなってみろとは思わないか?レオルド殿もその場に居ただろう?」

「わたくしはただの護衛ですので。」

そう言って微笑むと、一瞬だけ背後に意識を飛ばしたのを感じたけれどもカインはそれを気にもせずいう。

「ぼくの護衛もかなり優秀だ。あとで少しだけここにおいていく。」だからエルンを少しは抑えろ。と口では言わずに視線で恨みがましく伝えるとレオルドは思わず瞠目したあとに・・・。

一瞬だけほんのりとした口元に浮かんだ笑顔を見てこちらも軽くうなずく。



キュリアを少しだけ父に会わせていこうと思っている間に、エルンがしげしげと見ている。

うちの至宝の珠玉を手に入れておいて、当たり前のような顔をしているのがちょっと不愉快だった。

どこまで行っても自分は妹が可愛いのだと思い知りながらも、ずっと見てくるので仕方なく問いかける。


「なんだ?」

「カイン、少し髪が伸びたか?」

「・・・・婚礼まで自分は髪を伸ばすしもう髪をそのままに流していることもないが・・・。それはエルンだってそうじゃないか?」

「・・・ナディアがわたしの髪を結いたいというのだ。」

その言葉を聞いて一瞬にしてカインの機嫌が悪くなってしまうを見てまたエドが笑う。

本当にレーヌ姫は愛されているなぁと嘯くのを二人はジトっとした目でにらみながら距離を取る。

そうすると、エルンがカインに向かっていう。



「カイン兄様の髪を触るのが好きだったからエル様の髪が伸びたら編み込みさせてくれ。と・・・。」

「ほう、レーヌがぼくやフレディ兄様の髪以外を編みたいと?」

その事実に不愉快になっているカインだったが目の前の金色の美丈夫まで不機嫌そうになっている意味がわからずに首を傾げる。

自分の髪を編みたいと言われた自慢かと思いきやそうでもないらしい。



「レーヌが髪を編みたいと行っているのなら編ませてやったら良いじゃないか。」

そう言いながら腑に落ちないと思いつつ首を傾げると、自分を見てエルンが本当に嬉しそうに笑う意味がわからず戸惑うカインの背中にエドが笑う。

もちろんのことエルンはカインのそのくせが本当に可愛いと思っているだけなのだが・・・。



「でも、ナディアは一番にカイン兄様の髪を触るのが好きだったから。といったのだ。」

少しだけすねたような響きが自分の口調に混じったのを感じたが、そう言いながら目の前の銀をまとう美しい義兄はそれの何がおかしいといった顔でこちらを見る。

「だからそれの何がおかしい?」

言葉にもされてしまった・・・と、エルンは一回で説明できるかわからないほどの自分の中の葛藤を口にすることになるのだけれど・・・。




心底不思議そうに問いかける義兄に、エルンは少し伸びかけてきた美しいミルクティー色の金の髪をかきあげながら、でもすぐにサラリと指から落ちてしまうのはまだまだ長さが足りないから。

あのとき髪を切らなければよかったかな。などと思うほどにはナディアに触れてもらいたいと思っている。

そう、実際恥ずかしがり屋のナディアは自分に触れてくれることが極端に少ないのだ。

何故極端に少ないのかというと・・・。



エルンが積極的に触りすぎるからなのだが、あまりにも普通に当たり前に触れるので周りも止めどころがわからない上にこの国で一番高貴な人物だ。

その人物に物言える人など片手で足りるしか居ないではないか・・・。

もちろんのことナディアレーヌはもともとがスキンシップの多い家族の中で育ったため違和感もないらしく。

それ故自分から触れるよりも触れられる方が多かった幼少期からの状態化の上、、大事にされてきた末っ子ということで全く当然という状態だ。

だけれども自分から触れてくることがあまりないためそれがエルンハルトには少しだけ不満であり結局自分から触れてしまうだけのことなのだけれども。



その、髪に触れたいと言ってくれていることが嬉しいには嬉しいが・・。




「何故、カインのほうが当たり前でわたしの髪が二番手の扱いなのだ?」

「僕らの髪を触り慣れているし、はっきり言ってレーヌの髪質とぼくの髪質は一緒だからな。なんせ兄妹だから。」

「でも兄妹なだけだろう?わたしは伴侶だ。彼女の夫になる人間で一番愛おしいと思ってもらえる存在なはずなのだが。それなのに二番手とは・・・。」

「ちょっとまってもらえるか?一番愛おしいと思ってもらえるのは何故自分なんだ?僕たち家族を一番だと思っているかもしれないだろう?」

「ナディアはわたしのためにこの国に残る決心をしてくれたのだぞ?」

「・・・ぐっ・・・。」

とろけるような笑顔はきっとレーヌ姫を思い出しての顔だ・・・仕方がないやつめ。

そう思うエドは軽くため息を付いた。



大体最小補佐である自分としてもだしそれを聞いた周りの気持ちは、どっちでもいい。どっちでもいいから早く婚姻のための書簡の取り決めと、日時決めの頭割り、それから国際的な条項、それから外交上の問題での婚姻の警備状態・・・話し合うこと、詰めることは山ほどあるのに全く進まないではないか・・・。

というのが本音である。




エドが頭を抱えると、レオルドも視線をよこし困ったな・・・といった顔をしている。

でもレオルドはそれでもニヤニヤ笑いがとまらない気分なのだ。



これが自分たちの太陽たる王の幸せそうな顔なのだと思えば、少しのことは大目に見ようという気にもなる。それほどに彼は今まで孤独であり孤高の国王陛下だったのだから。

それを救ってくれたあの銀色の髪の美しい皇女をなにがあっても支えていこうとエドは思っている。

そして自分の最愛の妻と大事な息子たちが使えるエルロッドウェイの至宝で珠玉の皇女を同じように大切に思いつけることに決めているレオルドは。

きっとルーだって絶対に絶対に気に入るに決まっている。ナディアレーヌ姫はエルンの唯一だから。

そう思っていれば自然と笑顔も浮かんでしまうではないか。



それに。




エルンに兄弟ができるのだ。

義理でも。

なんでも。

対等な立場、対等に国を治めていく同じ年の義兄と、年下で少しだけまだツンケンしているけどとても頼りになる宰相として国を同じく担う義兄。



わが君である孤高の国王陛下は。

なんと幸せな家族を手に入れようとしているのだろう。



かの皇女のお陰で孤独ではなくなるのだ。それは弟のように思っていても主君でもあるエルンに全て投げ出して護ることは出来ても自分を守ることは絶対に扨せられない。

主君だから。大事な我が君だから。

だからこそ一番に大事で一番に近くに居ても、一番遠かった。



そこを乗り越えてそばにいてくれるかの皇女をこれほどまでに大事に思わない理由はないだろう。





ふとまだ言い合いをしているのかと眺めると。




「ローズとの時間が減るではないか!はやく一刻も早くはなしを詰めようではないか義弟殿よ。もう時間が・・・」

先に折れたのはどうやらカイン皇子殿下の方だったらしい。

まだ不服そうなエルンの顔を見て、エドとレオルドは笑う。




そんな事をしている間に・・・。





「エルロッドウェイの第二皇子であらせられるカイン皇子殿下に面会の申し入れが・・・グリルフォント公爵家のエルローズ嬢からいらしております。お通ししてもよろしいでしょうか?お約束の時間になってもおいでにならないと心配されてらっしゃいまして・・・」



その声にカインが振り向くと愛しい想い人が・・・。




「カイン様?まだお話の途中でらっしゃるならナディアレーヌ様に先にご挨拶に・・・。」

その言葉を聞くやいなや走り出したカインを流石にエルンも咎めることはなかった。




まだ話は詰めることは出来ないなぁ・・・と。



大国の宰相ともなろうとしているエドは書類を綺麗にファイルにしまいながら。





ブハッと笑ったのだ。





このあと、エルローズはカインにぎゅうぎゅうに抱きしめられてみんなの前で離してもらえなっくて

膝の上に乗せられて震えながら自国の王と対面することになるのでした。

もちろんその後にこっぴどくナディアレーヌにカインは叱られました。

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