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月が綺麗なのはあなたのせいです。手を伸ばしたいのはあなたが美しいからです。

長くなりましたが、とうとうエルンが頑張りました!

「ナディア・・・ここにおいで。わたしの腕に。」



そういうエル様はわたくしが今まで見たどのお顔よりも優しくて美しくて、怖いほどでした。

でもためらってしまったわたくしはなんにも間違えていないと思うのです。

ここは先程もエル様がびっくりした通り、木の上なのですわ。

それにわたくしのようになかなかに背がある質量のある女性が飛び降りるとなると。

腕に飛び込むどころか、打ちどころが悪ければエル様に怪我をさせてしまうはずですわ。



「エル様、わたくしのようなものがこんな上から飛び降りればエル様のお体が損なわれます。」

「なぜ?」

そういって首を傾げるエル様は本当にわからないといった顔をしていらっしゃいます。

いやいやいやいや・・・。



「エル様・・・わたくし普通の成人女性よりも背が高くそれなりに武道も嗜んでおりますので本当にそれなりの質量もありますのよ?」

「ふぅむ・・・だがしかしアーノルドは軽々と抱き上げていたではないか?」

「アーノルドは騎士ですわ。エル様は国王陛下でいらっしゃいますもの。」

そう言って笑うと、エル様は少しだけふてくされたような顔をされました。

「わたしを傷つけることは、ナディアにはできない。わかっているだろう?」



傷つけることはできない。

そう、私はそれを解っております。

わたくしはエル様を治すために守るためにここにいるのですもの。

わたくしは・・・。



「それは、わたくしが銀眼のものだからでしょうか?」

そう自分の口から出た言葉は思った声音よりも少し硬質だったような気がします。

そんなこと聞かなくても解っております。

エル様がわたくしに優しくしてくださるのはわたくしがエル様の命をお救いし、病を治すことを宿命つけられている対のものだから。

わたくしが銀の瞳を持っていなかったとしたら、エル様と出会うことはなくわたくしは普通に国の為を思い

きっと今頃は他国または自国の有力な貴族との婚姻の話が持ち上がっていただろうと思います。

そう・・・わたくしではなくても銀目のものはきっとエル様にふさわしい人が現れたことでしょう。



「どういうことだ?ナディア?」

柔らかな声が少しだけ不機嫌そうな声にも聞こえて、少しだけふっと瞳を向けると・・・。

「わたしがあなたを腕に囲いたいからだけだとは思わないのか?」

・・・・・・は?

わたくしを腕に?囲いたい?とは?




「離れているのはもう嫌なのだ。降りておいで、わたしのナディア。」




いろんな疑問はありつつも、頬に熱が集まるのだけは許していただきたいのですが・・・。

エル様一体どうなさったのでしょうか。

これではまるで・・・まるでわたくしのことを・・・。




「エル様それでは・・・わたくしのことをただ離したくないと言っているように取られてしまいますわ。」

そう言うと不思議そうな顔をして首を傾げる。

いつの間にかよくエル様もするようになったこの癖。

わたくしの癖がエル様に写ったように思うのはわたくしの気の所為なのでしょうか?

そのような顔をすると少し幼く感じるのは恐れ多くもこの国の太陽たる国王陛下に思う気持ちとは少しおこがましくでも・・・。

それをわたくしだけが見られるという特権的な思いもあって・・・。

それが独占欲だと、わたくしの中にそのような感情があったのだと・・・。

人を好きになるということは綺麗なだけではいられないのだとお兄様たちは言ったけど、きれいな思いだけをかかえていたくても・・・。



エル様がこの可愛らしい癖を他の人の前で見せることを考えるととても悲しくて辛い。

それくらいにはわたくしは・・・。



「だからそう言っている。わたしはナディアを離す気はないのだが。」



きっぱりと告げられたその言葉に、ナディアの頭は混乱を極めた。



「え、エル様・・・?」

「そのように可愛らしく首を傾げられたら何でも許してしまいたくなるな。あなたがわたしから離れるという選択以外は。」

「あの・・・。」

「知っている。あなたはわたしの身体を直したら一番にエルロッドウェイに帰ってしまいたいと思っていることは。」



・・・エル様に気づかれていたとはなんという手落ちでしょうか・・・。

まあ、隠してもいませんでしたが公に口に出したわけでもなかったのですが・・・。

すこし居心地の悪い思いをしていると、エル様がふっと立ちくらみのように体を揺らして目をつぶってしまわれました。




はっとしました。

わたくしとしたことが!

エル様がずっと上を見つめている状態を作り出してしまったのですわ。

ずっと上を見上げていれば首の後ろの血管が圧迫されて、かるく脳貧血に成ってしまうおそれがあります。

最近は体調が良いことも多くなり、大丈夫だと過信していたのはわたくしの手落ちでしょう。



わたくしとしたことが・・・。

治すべきわたくしがエル様のお身体を損なうような真似を・・・・。



「エル様!」


そういって腰掛けていた枝から飛び降り・・・ようとして地面につく瞬間の足の衝撃を覚悟したところ・・・。



え?と思った瞬間には硬い地面が触ることはありませんでした。

飛び降りたといっても三メートルにも満たないほどの高さからだったのですから。

降りるまでの時間も一秒あるかないかなはず。

それなのに一瞬ふわっと身体が浮いたような気がして、明らかに落下のスピードというか体感が違いました。

降りているはずが浮き上がるような気がしたのです。

反射的にどうしていいか解らなくなったわたくしは力を逆にフッと抜くことにしたのは。

武道で背負投や投げられる瞬間に見を固くすると怪我をする事が多いからであって、どうしようもない状況なら力を抜いて落ちようとしただけだったのですが・・・。




瞬間手を伸ばしたエル様にさらわれるように地面の衝撃を覚悟した足は、ふわっと浮いてエル様の腕の中にたどり着きました。

え?どういうことですの?なにかの魔法でしょうか?

わたくしの質量が突然減ってしまった?だなんてそんな非現実的なことはありえませんわよね?

それよりも一秒にも満たないそんな時間の中、めまいを起こしてしまったエル様がどうしてわたくしを抱え込むことができるのでしょうか?

わたくしは何故、エル様の腕の中にいるのでしょうか・・・。




呆然としたわたくしにエル様がくすっと笑ってお答えになりました。

「わたしの身体を損なうことがないようにと現れたあなたが、何があってもわたしを傷つけることはないという証明だよナディア。あの女神がそんなこと許すはずがない。」

「エル様でも・・・。・・・女神?」



「しーっ。」



そう言ってわたくしの唇にエル様の指が当てられて小さな声でエル様が囁くようにおっしゃいます。

エル様は少し笑ってそのままわたくしを抱えたままその柔らかな草が揃っている地面にゆったりと座ってしまいました。

もちろんわたくしを抱えたまま。膝の間に閉じ込めるようにしてわたくしを囲ってしまわれました。

わたくしは混乱してしまって膝の間から抜け出そうとするのを咎められるようにしっかりと抱き直されてさらに抱きしめられてしまいました。



「逃げてはならないよ?それ以上はいけない。わたしは我慢強いほうだ。でもわたしから離れていこうとしているあなたを許すことはないよナディア。」

優しい声なのに少し怒っているように聞こえるなんてエル様はなんと器用な声をおだしになるのでしょうか・・・。

その機嫌には気がついていましたけれども、それでも一言は言っておかなければなりません。



「倒れそうな振りなどなさらないでくださいませ。わたくし・・・とても怖くて仕様がありませんでした。」

そうポツリというと、エル様はギュッと一度抱きしめて嘆息をこぼして一言。すまなかったとおっしゃいました。



「もう、冗談でも倒れるような真似などなさらないでくださいませ・・・。それに・・・。

もう大丈夫ですわ、こ、こんな事をしてわたくしをからかってらっしゃるのでしょう?

お願いですからもうお離しくださいませ、エル様・・・」

これ以上は本当にわたくしもう心臓が耐えきれる自信がありません。好きだと自覚した方の腕の中にいる事実と抱えられて膝の間に囲われている事実で頭がおかしくなってしまいそうです。

いったいわたくしはどうしたら良いのでしょうか。

腕の中でじっとしていることしかできず、さりとて離れたいような気もして、でも傍にいたくて。

こんなに混乱しているのはわたくしがエル様に抱えた恋ごころゆえでしょうか。



エル様から香るのはわたくしがお渡ししたあのグレープフルーツの香油の香り。

それからほんの少しだけ清々しい香りが立っているのはほぼなにも自分で選ばないエル様が好んでつけられるあの日と同じ緑のバラ・・・・ロサ・キネンシス・・・。




呆然とし途方に暮れているわたくしを抱え直したエル様は、わたくしの髪を耳の上からゆっくりと梳きおろして行く。

細く長い、でも男の人の指がわたくしの髪をゆっくりと解きほぐしていく。

さらり。さらり。

触れていないのに感じるはずがないのに、髪にエル様の温度を感じた気がしてしまいます。

何度かゆっくりと櫛削る指は、頬を包むように形作り、また髪に指を通すのだろうとそのままにしているわたくしをふと微笑んで眺める。



優しい視線に、思わず目頭に力を入れなければ理由もわからない涙が溜まりそうになっていました。

髪に触れ、そのまま背中まで流れる髪を辿った指はそのままわたくしの背中に触れ、そし再びあっという間にギュッと抱きしめてきてしまった。

そして低くつややかな声がわたくしの耳に囁く。



「やっと落ちてきた。」と。



それはあのときと同じ。歌うように、そしてわたくしの気持ちをかき乱すほどにつややかな声が響いてきてそれがどうしようもなく涙が堪え切れないほどに溢れてしまいそうになりました。



好きです。と、一言。

言えたならわたくしは言っていたでしょうか?

いいえ、きっと先程までのわたくしならとても言えなかったと思いますの。

エル様はとてもお優しい方だから、わたくしがお体を治すためにここにいることをわかっているからとてもとても優しくしてくださっているのだと。

12歳も年下のこんな小娘が、大人のエル様を好きだなんていったらきっと困らせてしまいます。

それにわたくしはこれでもエルロッドウェイの皇女であり、人に簡単に好意を伝えて言い訳がありません。

わたくしが紡ぐ一言は国が動くこともありえるのですから。

皇族としての努力はして来たつもりです。そして、今後もそのつもりなのです。

ただ、どうしても今の今。



わたくしはエル様に一言だけ、お慕いしていますと・・・。

一度だけでも告げることができたらそのままもうエルロッドウェイにカイン兄様と帰ってしまおうと思ってしまったのは確かなのです。

人を。家族以外を好きになったことはありませんでした。

エル様が正真正銘の初恋なのです。

辛いことから逃げたいと、これ以上好きになる気持ちからも逃げたいと。

混乱しているのはわたくしが稚すぎるせいでしょうか。



今までどのような方のことを好きになることもなく、そのようなことにも触れることなく大切にされて育ってきた自覚はあります。

わたくしのような所詮箱入りはこのような大国の太陽たる陛下のエル様には気持ちを伝えることさえ憚られるのです。

わたくしがいくらエル様を好きでも。ここに残りたくても。

エル様が望まなければここには居られません。

治療師として望まれてもここに残るしかないという事実が。

好きだと自覚した今どうしても引っかかりを感じてしまいます。



でもわたくしは他の誰かがエル様の隣に立っても平気でいられるほどの度量もありません。

エル様が他の方を腕に抱いているのを見てしまえば、きっともう立っていられるはずもありません。

国のことを思えば、医療国としての矜持を持って最後まできちんと何者にも左右されずにいなければならないとわかっていても。

きっとわたくしにはそれはできそうもありません。



何と中途半端な、なんともだめな皇女なのでしょうか・・・。


好きな人のそばにいられないかもしれないなんて、皇女として当たり前のことではないかと・・・。

兄たちは国を治めるという立場があります。

パートナーもそれに際してふさわしい方、心安らげる方を選ぶべきかと思います。

わたくしは・・・。



ただの第三子であり、末娘の皇女です。

国のための婚姻くらいしか大好きな人達の役に立てることも思いつきません。

修道院にいって、のんびりと暮らしたいだなんて思っていてもそれがかなわないことくらいはわかります。

父や母、兄たちはきっとわたくしの選ぶ人を否定することはないでしょう。

でも、わたくしはエル様が良いとはついぞ言うことができませんでした。

お身体を治すためのわたくしに対する信頼を、わたくしの恋情により歪ませることは本意ではありませんし

わたくしの治療をお受けすることをわたくしの好意に気づかれたエル様が拒否することもあるかもしれません。

そうした場合、わたくしは自分の役目を放棄して戻らねばなりません。

そして、戻ったならばきっと・・・



もう一生エル様にお会いすることはかなわないでしょう。

治しきって、わたくしの役目が終わり。

そしてエル様は治療を施すだけのわたくしではなく他の方を望まれて他の方の手を取るだろう。

そうしたらわたくしは役目を終えてエルロッドウェイに帰るでしょう。

でも、もしかしたらいつか。いつの日か、ひと目だけでもおあいできることもあるかもしれません。

それはエル様の婚儀かもしれませんし・・・わたくしの婚儀かもしれません。


途中で辞めることは考えられません。

咳で眠れない日をなくして差し上げたい。

ゆったりと眠れる日々を手にすることが当たり前にして差し上げたい。

熱で苦しむことがないようにお手伝いしたい。



・・・・大好きだから。


わたくしの涙が一雫。

頬を滑り落ちるのを見たエル様が柔らかく微笑まれました。




「何故銀目のものが守るべきものの請い願うことを叶えなければならないかわかるか?ナディア?」

唐突にそう問われ、わたくしは首を横に振ります。

わたくしはエル様が望めば、そのままこのドゥーゼットにいることになるという説明しか受けていないのでそうならなかった場合を想定して動いていました。



いつかはこの場から離れ、修道院にでも入り薬を作り、植物を育て、料理をして、生きていきたい。

そう思っていたから。


出来得る限りちゃんと皇女としてすごさなければ。

エルロッドウェイという国に迷惑をかけないように。


そしてエル様とすごすドゥーゼットというこの国の記憶にも毅然とした皇女として居なければと。

フレディ兄様が皇となった暁にはわたくしとカイン兄様が広告塔とも言える状態になるだろうことはわかっていましたから。

わたくしがここにきたのは今後エルロッドウェイに帰ったときにもう引きこもってはいられないということだと覚悟はしてまりました。




でも、エル様は穏やかに話を続けます。

いつものように落ち着いた、低い声はわたくしを少しずつ落ち着かせていきますがそれでも涙は止まりません。

涙が止まらないわたくしにちょっとだけ困ったような、でも優しい笑顔で頬をなでて。



「何も望まず、何も欲しがらず。わたしを治したらすぐに出ていけるようにと何も持たないようにしている。

やっとお茶の木を植えることを了承したかと思えばすぐに人の手に委ねようとする。」

言っていることはちょっとした苦情ではないでしょうか・・・。少しだけ気まずい思いで目を上げてしまいます。

「それは・・・。」

そこまで言うとエル様はまたふふっとわらって頬をくすぐるように涙の跡を指でたどりながら言いました。

「やっとドレスを贈らせてもらえると思えば、あなたはそれ以外の貴金属は望んでもらえず。

すぐにでもわたしを置いて飛んで行こうとする。」

「そんなことはな・・・。」

否定をしようとしたわたくしを軽く体ごと抱きしめて黙らせてしまいます。

「そうだろう?あなたはだってわたしに何も望まないのだから。」

エル様・・・わたくし呼吸が止まってしまいそうです・・・。

ただでさえわたくしエル様を好きだと意識した途端ふれあいが多いエル様に戸惑うことが多くなってきていて・・・上手く交わすこともできなくて反省続きだというのに。



これはいまは間違いなく抱きしめられている・・・。

いつものようにただの戯れではなく、わたくしを離さないというように・・・・意思を持って・・・?

そこに思い至ったとき。

わたくしの耳が赤くなっているのを感じます。そしてきっとそれに気が付かれたエル様がふふっと笑って少しだけ力を弱めておっしゃいました。




「ではわたしが教える。ナディア・・・。何故わたしに望まれたらわたしから離れることはできないか。

銀目のものは何故執拗に手元に置こうとするのか。・・・・」

その後にことさらに低い声でつぶやかれた言葉は聞き取れず、ふと見上げてしまいました。

エル様は何と仰ったのでしょうか?


こぼれ落ちた涙を細く長い指ですくったエル様はわたくしの髪をまたゆっくりと梳きおろして笑う。




「それは、どの時代にも居ただろう。銀眼のものがその一人の人を助けるために同じ銀眼のものを救うように宿命付けられていても望めばずっとそばにいなければならない。だがしかしそれは決まりではないのだ。

手放そうとするものもいたし、開放しようと悩みに悩むものもいたのだと聞いた。」

誰にとははっきり言わないかわりにエル様はわたくしの髪を梳き下ろす手と反対の手でご自分のシルバーのイヤーカフをさわっておられました。

「ただ、どの時代でも、どの人間でも手放せないだけだったのだ。」

手放せない?どういうことなのでしょうか?

「あなたは信じないかもしれないが、女神の声をわたしは聞いたのだ。」

「え?」

勢いよく顔を上げたわたくしの髪にエル様の髪が絡み、軽く引っ張られて痛みを感じた。

慌てたように髪から手を抜いたエル様はそのままわたくしの頭を慌てたようにくしゃくしゃとなで始めて・・・



あまりにも慌ててわたくしの頭を撫でるので涙がこぼれたことも忘れて、くすくすとわらってしまいました。

なんて優しくて、なんて温かい手なんだろうと。

そしてエル様の腕の中は何と心地が良いのだろうと。

ああ、やはりわたくしはこの方が大好きなのだと・・・。



申し訳ない。と小さくつぶやいて、撫でるのをやめたエル様は、ふうっと一息ついてわたくしの顔を覗き込む。

そのまま抱きしめてしまったのを無意識のうちに行ったようで、わたくしはそのままじっとしていた。

エル様も気がついたのだろう、少しだけ体が震えたけれどわたくしは気が付かないふりをいたしました。

エル様のお顔は少しだけ白味を帯びて・・・なんだか少しだけ怖そうな空気も感じましたが気が付かないふりをいたしました。

そしてエル様の顔を見上げると、少しだけ言い難そうな顔をしたのに目が合ったのを機に意を決したように言われました。




「ナディア。しばらくわたしの話を聞いてくれないか?」

その言葉にこくんとうなずくと、エル様は微笑みながら抱きしめていた手を解いて。

わたくしの両手を柔らかく握られました。


柔らかい力なのに振り解けるような手ではなかったのです。

エル様の手はとても冷たくて・・・

緊張しているのだと、わたくしは感じました。

何を言われるのか怖くて・・・でも聞かなければならないと感じたので全神経を傾けました。



「毎日毎日、あなたはわたしに朝の朝食を用意してくれた。わたしはあなたが来る以前はおおよそ食事というものに全く興味がなかった。

それほどに生きることはわたしには苦痛で。毎日襲われる咳、不調、それから何よりもわたしには何もない。

いつもいつも辛かった。」

エル様から語られるのはわたくしが合う前のエル様のお話なのでしょう。



「わたしは王としては失格だろう。でもわたしはいつのどの時代もどの瞬間も王になりたいなどと思ったことはなかった。やらねばならないのはルーゼ兄様に託されたこの国をただ繋いでいくこと。

本当にわたしは自分の後継など考えていなかった。運がいいことにバーゼット公爵・・・わたしのおじで父とは違い本当に良くしてくれたアンドレア様がいたから。

叔父上はご自分の王位継承権は破棄されたが二人の息子の継承権はそのままにしてくれているのだ。

わたしが亡くなってしまったらそのどちらかがわたしのあとを継ぐだけだ。」

そういってふうっと息を吐く。少しだけ安堵したようなため息を。



「そんな保証を残してもらっているだけでもありがたいことだ。わたしは29歳の今まで誰とも婚姻を結ぶことはなかった。婚約者さえ居なかった。いや、作らなかったのだ。

そしてそれを許してくれているのは偏に叔父上の保護あってのことだ。

わたしは自分で言うのも何だが幼いときからこの見目のせいで女性に言寄られることが多かった。

恐ろしいことにまだに12もならないときに部屋に女性が入ってきたことさえある。恐ろしくて逃げ出した。

ひどい嫌悪感に襲われてしばらくはベットから起き上がることもできなかった。

それを境にわたしは女性を避けるようになった。その時はまだルーゼ兄様がいたからわたしはただ守られているだけで良かったのだ。ただ、怖いとまだ泣けただけだ。」

あまりの話にわたくしは息を呑むのをおさえることができませんでした。

それを軽くほほえみ、小さな声でありがとう。とエル様はおっしゃいました。




「だがしかしわたしは王になってしまった。ルーゼ兄様が亡くなってしまったから。

そして一国の王として女性と踊らないわけにもいかないし、会話をしないわけにも行けなかった。

彼女たちからしたらわたしは一番の優良物件だ。それはわかっている。

だがしかしわたしは16になって夜会に出るようになると媚薬を盛られるようになった。本当に辛かった。

毎回薬は効かないくせにわたしは媚薬は身体が全拒否するのか吐き気に悩まされるようになった。」

こんどは思い出したのか苦々しげに息を吐く。

わたくしは思わずギュッと手を握ると・・・。

力が抜けたようにエル様が笑う。ああ、そうかこの方はこんなにもつらい思いをずっとしてらしたのだわ・・・。



「そのうちわたしは身を守るために影で周りを囲むようになった。わたしに懸想するものは王宮にはいないだろう。わたしの苦労を知っている侍従や侍女、それから官吏たちがわたしを守ってくれる。

だがしかしそれでもわたしはただ最低限の生命を維持するくらいのものしか食べることもなく、体調が悪化してもそのままにした。」

あなたは怒るだろうが・・・と小さくつぶやいて。




「わたしは早くルーゼ兄様のところに行きたいとさえ思っていたのだ。」

それはエル様がもう生きることを惰性だと思っていたことにほかならず、わたくしは思ったよりも激しいショックを受けたのです。



「でも。あなたが来て変わった。ナディアはわたしに朝起きて今日の朝食がなんだろう?と最初に思う楽しみをくれた。今日のお茶はなんだろうと思う。ナディアはどんな食事を持ってきてくれるのだろうかと。

あなたが焼いてくれたお菓子を食べ、あなたが入れてくれたお茶を飲み、あなたと料理長が必死に考えてくれた食べ易い優しい味の食事をいつの間にか楽しみにするようになった。」

そう言ってまた小さくありがとうと、エル様はいう。



お礼なんて言わなくてもいいのに。それがわたくしの仕事・・・仕事?

わたくしはそれが確かにお役目だとは思っていたけれどいつの頃からかエル様に召し上がっていただくお菓子やお料理を毎日楽しく考えるようになっていたじゃないのかと・・・。

ふと思いました。

わたくしのほうが、生まれ育ったエルロッドウェイに帰りたいと思うこともなくただエル様のために美味しいものを考えることだけの時間を過ごすことができていたのではないかと・・・。

わたくしのほうが、幸せにしていただいていたのに。



「咳が出て眠れない日があっても、ナディアが気遣ってくれる。もうこの苦しみも、眠れないほどの咳も

いつも止まることがないのではないかと・・・震えたり、怖いこともなくなってきた。

長生きしたいとまでは思わないけれど明日の朝食を楽しみにするようになったのだ。このわたしが。

ありがとうナディア。あなたが居なければわたしはもうとっくに諦めていただろうと思うのだ。」



温かな手が・・・急に冷えてきた気がして。

そして・・・。



「エル様、具合が・・・」悪いのですか?と続ける前に、ふとエル様が片手を離してわたくしに見せる。




「ほら。あなたがわたしをどう思うかということを思うだけでこう、手のひらに汗をかくのだから・・・。

フレディに言われた。」

「お兄様に?何を言われたのでしょうか?」

「・・・こうやってあなたを腕に抱けばわかると。ナディア。あなたに嫌がられないか嫌われないかと思うだけでわたしは緊張して手に汗をかく。

それほどに身体の素直な反応を引き出す相手。それは恋をしている相手だと。

わたしは自分でも薄々わかっていたのにナディアの兄上に指摘されたのだ。」

え?

とっさにエル様の口を恐れ多くも自由になった方の片手で塞いでしまいました。

とんでもないことをエル様が口にしているような気がしたのです。さっきからポロポロと。



これではまさか、エル様がわたくしのことを好いているような・・・。

わたくしのことを好ましく思っていると何度も言っているような・・・。

わたくしの傲慢な思いかもしれませんが、これをエル様にこの後を言わせて良いのでしょうか?


ええええ?良い訳ありませんわ。だって!!!

わたくしが好きなんですもの。だって、わたくしが。



「貴方様が好きです!!大好きですエル様!!」




とっさに出た言葉は、引っ込みがつくわけもなく。

口をふさがれているエル様はいつもよりも目を大きく見開いていらっしゃいます・・・。

ああああ・・・やってしまいましたわ・・・。

言ってしまいました。

でも、エル様が何を言い出すのかわからないのならわたくしの気持ちを先に言ったほうがエル様のためにも

いいとおもったのです。

断る受け入れるはエル様の方に主導があるのではないかと・・・わたくしには乞われればここにいるという選択肢しかありませんし。

でも、できれば好いてもらいたい。それに、なんだか好きだとおっしゃってる気もいたしました。

なら、先に行っても問題はないのかと・・・。



それにとてもじゃないけど、頭の中が沸騰しそうで聞いていられませんでした・・・泣きたいですわ・・・。




エル様は目を大きく見開いていたのに・・・すっと目を細めてしまいました。

少し不機嫌そうな。

わたくしが塞いでいた手をゆっくりと取り、そしてその手をおろして・・・くれない?





そうおもっているままエル様はわたくしのその口元を抑えていた手を取り、手のひらにそのまま・・・。

チュッと音を立てて口づけが落とされる。

え?と思った瞬間には、わたくしの目を見ながらエル様はわたくしの親指の付け根にかぷり。と音を立てて

噛みついてしまわれました。




??・・・?・・・?・・?・・・・・・・???????!!!!!




「わたしの言葉を遮るとは・・・とんだいたずらっ子だな、ナディア。これはその罰だ。」

そういって、真っ白になってしまったわたくしにたいしゆっくりと言葉を紡ぐ。

そう・・・それはまるで狩りをするときの獅子のように、ゆったりと余裕を持って獲物を追い詰めるようなそんな眼をしていらっしゃいまして・・・。


流石にこれはまずいのではないのかしらと、わたくしも思いました。

そう、きっとこれは蛇に睨まれた蛙・・・というか獅子に睨まれた子ねずみ・・・。

背中を伝う汗は、これが冷や汗というものではないかと思うのですが・・・。



「ナディア。先程も言った通りわたしは我慢強い性格だと思っている。だがしかし、自分の言葉を先取りされて喜ぶような男ではないのだが?意味はわかるかい?」

そう言って、わたくしの手をはなさないまま手首にリップ音を響かせてまた口付けられる。

何をなさってらっしゃるのですかエル様!エル様目を覚ましてくださいませ!!!

「エル様・・・もうお許しください・・・。」

その言葉を聞くと更にエル様はまばゆいばかりの笑顔をわたくしに向け、そのまま更に距離を詰めてわたくしの目の前まで顔を近づけてしまわれました。

ああああ、どうやら不正解だった模様ですわ。笑ってらっしゃるのに怒ってらっしゃる?!

一体どうしたら良いのでしょう・・・。



「なにが?何を許せと?は愛しい人に愛しいと告げることを許されなかったから言葉よりも態度でしめしているだけなのだけれど・・・不服か?」

「いいえ、不服ではございませんー。」

先ほどとは違った意味で半泣きになりそうです。

「では、告げていいか?それにまだわたしはあなたの先程の発言に応えていない。応えていいか?」

「は?はい?」

「ほら、ナディアが許可をくれないからわたしは口づけをし続けてしまう。そのうち手首や頬だけでは済まない。このままでは。」

「え?」

「ほら。あなたが許してくれないなら態度で示さなければならないだろう?言って良いか?」

そういって変わらずに今度は頬に柔らかな熱を感じてしまう。

ほら、こうやって先に触れてしまうではないか。と、エル様は低い声でくすっと笑う。

何とも言えない色香により、わたくしの生命は息も絶え絶えです・・・。



「さあ、ナディア許しをくれないか?わたしが愛を乞う許しを。」

「あ、あの・・・。」



そう言っている間に、壮絶に美しく笑ったエル様はわたくしの腕を離し、そのまままたやわらかくだきしめてしまわれました。

「あなたはわたしを好きだといった。」

その言葉を聞いてわたくしはすぐにこくんとうなずきました。

だって事実なので。

「わたしとあなたの気持ちは釣り合っていないだろうけれど、・・・。」

釣り合っていないということはエル様はわたくしを好いているわけではないと・・・。

でも、ではどうしてわたくしを抱きしめているのでしょうか。

そう考えた瞬間にエル様は穏やかな声で、それは違うとおっしゃったあとに・・・。



本当にあなたは可愛らしい人だな。と、エル様は笑う。

「誤解しているだろう?」といって口づけの代わりだ。と、少し冷えたその指先がわたくしの唇を撫でる。

釣り合っていないといえばわたしがあなたを好きではないとすぐに湾曲して考える。

可愛らしいけれどそれはとても許しがたい。

そういってエル様はわたくしの額に額をコツンとぶつけられました。


近い・・・そしてとても良い香りが致します・・・。

エル様の香水や花や果実の香りではない、エル様自体の香りがします。



「わたしはあなたを愛している。好きでは足りない。あなたよりも更に強い思いだろう。

わたしは毎日ナディアがそばにいてほしい。朝起きたときにあなたが隣りにいてほしい。夜眠るときにはあなたを抱きしめて眠りたい。

どれだけ咳が止まらなくてもあなたが居てくれれば苦しくても我慢しよう。

もし明日までしか生きられないんだとしたら、やはりナディア。あなたとともに過ごしていたい。」



あまりの熱量に。

息ができなくなりそうで、声が出てしまいそうで出てくれなくて後ろに身体が逃げそうになっても許されない。

逃さないといった。といってにこやかに笑う獅子のようなエル様。

わたくしは今まで感じたことがないほどの愛を受けていると感じて・・・。

ああ、エルローズ様もこのような心持ちなのかもしれないと。

そう思ったのと同時に。

エル様がわたくしに向けているのが、カインお兄様がエルローズ様に向けているのと同じ思いだと。

唐突に思い知らされた気がして。


本当に唐突に。

わたくしはこの方に好かれていると思い知ったのです。




恥ずかしいくらい赤くなっているのはわかっております。でも・・・。

ここまで来たら・・・・なら、素直になったほうが得なのではないかと思いました。

どうしてそうなった?とあとから思えばそうだったのですが、そのときのわたくしにはそれしかなくて。

好きという気持ちで全部でした。

わたくし、だってエル様が好きなのですもの。

このことだけでいっぱいだったのです。

あとからこの日のこの事を思い返すだけで、いつもあああああ!と叫びたい気持ちになるということを。

今のわたくしはまったくわかっておりませんでした・・・。



それよりも今です。

わたくしが起こすすべての行動はエル様のためのもの。それが愛だと誇っても良いということ。

エルロッドウェイの全てよりも、エル様のおそばにいたいと思ったこと。

命をかけてこの方をお守りしたいと思ったこと。



それはすべてわたくしの選択ですもの!!




「わたくしが!エル様をお救いします。わたくしが、エル様をおまもりします。

それから・・・わたくしエル様を愛しております!わたくしが必要ならおそばに置いてくださいませ。

わたくしだけを愛してくれとは言いませんが、わたくしが一番あなたを愛しているという自信があります。」


そういうわたくしをみて、エル様は軽く目を見開き・・・そしてふうっと息を吐きだしていう。



「あなたはわたしを甘く見過ぎだ。」

そういって急に大きな声をだしたわたくしの唇を、先程わたくしがエル様の口を覆ったように、その大きな手で

優しく覆ってしまわれました。

苦しくはありません。もう距離の近さも同しようもないくらいに好きだと自覚したら嬉しい気もします。

エル様を見上げると・・・可愛い顔だ。と、もう一方の手で髪を撫でられて・・・。



「あなただけを愛している。あなただけをこれからも愛し続ける。わたしのほうがあなたを愛している自信がある。そして。

必要だからあなたをそばに置きたいのではない。あなたを愛しているからそばに置きたいし共に歩みたい。

あなたがわたしを護るというなら大人しく護られていよう。

だがわたしはわたしを護るというあなたごとをすべて含んだそれ以上のものであなたを護ろう。

あなたにはわたしの最上の愛を。溺れるほどの愛であなたを包もう。」



エル様の硬質な美しさからは思いもよらないほどの熱い想いにさらわれてしまいそうになりながら・・・。

できることはうなずくだけだと思って・・・ゆっくりとうなずくと、エル様は微笑みながら手を離しました。




「もう良いか?」

「え?」

「わたしの連理の枝よ、比翼の鳥よ。そしてわたしと同じ運命を持つ双眼銀目の愛しき人よ。

わたしとともに歩むと言っておくれ。わたしを愛してると言うならわたしとずっと・・・。

共にいると言葉でくれないか。


わたしと結婚してくれ。わたしの伴侶に。」




「は?」




「ああ、国母だな。ちなみにもうジョルディ皇の許可は得ている。わたしは待つのは得意だがその場でじっと待つのではなくできることはすべてやる人間なんだ。」

そう言ってエル様は楽しそうに笑う。

「ナディア、どうだ?頷いてくれないか。国王をやりたくない男と、皇后になるだろうなんてこと全く考えてなかった者同士、一緒に道を探さないか?」

嫌になったら、カインを呼んで国王に据えるかエドを宰相から繰り上げて据えれば良くないか?と、エル様は屈託なく笑う。

「それはまた・・・壮大なお話ですけれども・・・。」

「どうだ?わたしを護るというなら一緒にどうせならこの国も守ってみないか?わたしは結局この国の国王で

あることには間違いないのだから。」

「それでエル様を護ることになりますの?」

わたくしが首を傾げると、それと同じようになぜ護ることにならないと?と、同じように首を傾げる。

ああ、似ている癖になってきているのねと、楽しくなる。



「ああ、もちろんだ。あなたがそばにいればそれだけでわたしは生き抜ける努力をする。仕事もまあ・・・嫌いではない。これでも国を運営するものとしてはきちんと出来ているらしいし、なんならエドが褒めてくれるくらいなのだぞ?・・・ただやりたくはないが。」

あんな堂々とした国王陛下としてやっているのにエル様は本当はこんな事を思っていたのかしら?と・・・。

クスクスと笑ってしまう。

ああ、そうか・・・わたくしがそばに居続けるならこの方の隣に立たなければならないのね。と。

ストンと腑に落ちた気がいたしました。



「ええ。エル様、わたくし貴方様の求婚をお受けします。わたくしを差し上げますからエル様もわたくしにくださいますか?わたくし・・・。

今までたくさんの家族や周りの方に確かに愛されて育ちましたの。

でも、わたくしだけを、ただ一人の人として一番に愛してくれる人はおりませんでした。

エル様がそうだと。そう思ってもよろしいですか?エル様だけはわたくしを一番にただ一人の人として愛してくださると・・・そう信じてよろしいですか?」

「ああ、ナディア。そのとおりだよ。わたしはあなたを唯一の人として愛することを誓おう。心配しないでくれ。この国は一夫一妻制。しかもわたし達に世継ぎが出来なくても王位継承者はいるのだから。

だからあなたもよそ見をしてはいけない。ナディアはわたしにとってただ一人の人だから、あなたもわたしを唯一人の人にしてくれ。

わたしも一緒だ。わたしも誰かの唯一人になりたかった。国王としてはただ一人唯一だろう。だがしかしわたしは誰かの一番ではなくナディアの唯一人になりたい。」



「はい。」


わたくしの返事を聞いてエル様はとても嬉しそうに笑う。

そして、柔らかく口づけを交わすと、エル様は本当に、本当に幸せそうに笑った。





え?と思った瞬間にはテスカの花が降る。



「ああ、これだ。祝福の花か?」


その言葉にハッとしてわたくしは叫びました。


「エル様、出来得る限り拾ってくださいませ!エル様のおくすりの素ですわ!!」




その言葉を聞いて、祝福だと言っているのに・・・とクスクスと笑い、慌てて拾い出したわたくしの手を取って抱きしめてきた。

「エル様お離しください!拾わなければ・・・。」

「離せなどというな、ナディア。冗談でも離せなどと聞きたくない。」

「そんなこと言っている場合では・・・。」



「エルンハルト様。僭越ですがわたしが。」

そういって黙っていたはずのレオルド様が颯爽と歩いてきてびっくりしてしまいました・・・み、見られていたのでしょうか?

ゆっくりとテスカの花を拾い始めたレオルド様は、わたくしに微笑まれました。

なんともきれいな美しい微笑みで一瞬見惚れてしまいましたわ・・・。



「ナディア。レオルドは素晴らしい男性だが見惚れるのはなしだ。わたしだけを見ていてくれないか?」

「エルン・・・。」

そういってレオルド様が軽くため息をつかれます。

「ナディアレーヌ様、エルンハルト陛下はこの通り我が物と思った人物については非常に狭量になりますのでお気をつけください。・・・ですが、お慶び申し上げます。

どうか、この恐れ多くも弟のように見守った陛下のことをよろしくお願いいたします。」

そう言って左胸に手を当て、足を引き、騎士の礼を取られます。

「はい。はい・・・あ、レオルド様!花弁をあまり強く握らないでくださいませ!」

「かしこまりました。」

そう言って破顔されたレオルド様は本当に嬉しそうで、座る直前にエル様の顔をじっと見て。

それからエル様の頭を無意識ながらサラッとなでておりました。




こうやってわたくしは好きな人が好きで居てくれる奇跡と。

エルロッドウェイと言う小国で育った皇女として、ドゥーゼットという大国に王妃として嫁ぐということが

もうわたくし以外の人の中ではきちんと決まっていたということを知りました。




「エル様!わたくしがこれを使ってよく眠れるおくすりをお作りしますから!」

「ナディア・・・あなたが隣に寝てくれればわたしはよく寝られると思うのだが?」



真っ赤になったわたくしにエル様は嬉しそうにキスをしました。






「アンヌがそんなこと許すものか。それより先に、夜会だろう?」

レオルド様は呆れながらも私達を見ながら、朗らかに笑っていました。


そうだったな、とエル様が苦々しそうに顔をしかめる中、わたくしはそれでも嬉しいと笑ってしまいました。

「おそろいのような衣装ですのよ?エル様。それにカイン兄様もいらっしゃいます。嬉しくないですか?」

「嬉しくない訳では無いが・・・さて、カインの婚約発表とともにわたしたちも発表を行う。婚約の。

さあ、ナディア。わたしを護ってくれるのだろう?」

そういって顔を覗き込んでくるエル様に「もちろん!」と頷いて抱きつくと、エル様も抱きしめてくださいました。




「わたくしが御守りします。これでもわたくし、そこそこに強いのですわ。でもそれはおいておいても・・。

エル様今日は月が綺麗ですわね。」

そういって抱きついたままいうと、当たり前に抱きしめ返してくださったエル様が笑う。

「ああ、月もきれいだがあなたが綺麗だ。」




さあ、気合を入れなければ!と、意気込むわたくしの頬に柔らかなキスが降りてくる。



これがわたくしたちの本当の始まりの一日でした。





でも結果ナディアが率先して抱きついてしまうというお話(笑)

なんとか一括り。

でも、ここからがちょっとすっきりターンに入ります。入れるかな・・・夜会までなかなかたどり着かないきもするけど頑張ります。

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