婚約者どうしの会話としてはこれが正解だけれども行動はどうだろう?
エドガルドにとってはエルローズは漠然と義妹になるかもとおもっていたし、どうしてもの場合はエルンハルトの婚約者にしても良いと思うほどに大切にしていた親戚の子だったわけです。
それをやっぱりかっさらわれるのだから仕方ないですよねぇ、カインに対する態度も(笑)
「カインお兄様。エルローズ様を膝の上から下ろしてくださいませ。」
そういって仁王立ちしているのは、エルロッドウェイの皇女であり、ドゥーゼットの国王陛下たるエルンハルトの婚約者であるナディアレーヌ・エミィ・オーウェンその人である。
真っ赤になって顔を小さな手で覆ってしまっているエルローズを見て、ナディアレーヌは走り寄ってエルローズの手を取って言ったのが膝の上からおろしてくださいませ。
という一言だったのだ。
その一言を聞いて、飄々とした顔をしているのは彼女の兄、医療国であるエルロッドウェイの珠玉の矛であるカイン第2皇子その人である。
エルローズを膝に乗せご機嫌でエルンハルトの前に座っているが、エルローズの方は生きた心地がしないというのが実際のところである。
自国の王の前で婚約者とは言え男性の膝の上に乗せられているのだ。
もちろん久しぶりに会えたので触れ合えるのはとても嬉しいのだがそれでも心臓は持たない。
何度も膝からおろしてくれと頼んでみてもカインはその整った顔で「近くにいるのは嫌?」だの「寂しかったのにローズはぼくほどには寂しくないの?そんなにぼくのことを好きではない?ぼくはこんなに好きなのに。」だの・・・・。
繰り出す言葉があまりにも甘すぎて、目の前のエルンハルトが笑ってしまうほどだった。
それにしてもエルローズ嬢はこのように照れ屋だったろうか?と、エルンハルトはふと思い。
まあ、貴族女性はわたしの前ではほとんど普通の顔など見せないだろうということに思い当たり。
それでももともと目の前のこのご令嬢に興味などなかったけれど、カインがこんなに可愛がるのならばどこかにその要素があるのだろうとは思う。
思うが、わたしにとってはナディアのほうが好ましいということだけがわかった。
ふむ。
存外溺れているのはカインだけではなくわたしもなのだな。
と、軽く苦笑いをする。
するとそれを見ていたナディアレーヌが「お兄様!ほら!エル様だって呆れていますわ!!」とこちらを向いてきたのでそのナディアの振り向いた顔にちょっとした甘えのようなものを見つけてこちらも笑顔を返す。
そうするとその背後でカインが不機嫌になりそうになる空気を察知したので、其処いら辺はカインに合わせておこうか・・・とナディアに声をかけた。
「ナディア?どうしてそんなにエルローズ嬢をカインの膝から降ろしたいのだ?わたしは別に構わないが。」
「え、エル様!!」
どうみても構うのはエルローズ嬢の方だとは思うのだが、カインのご機嫌が急上昇したためそのままにしてもらうようにエルローズ嬢にも目配せをする。
一瞬だけ真っ赤になって・・・覚悟を決めたように真顔になってわたしをみる。
そしてそのあと気合を入れるようにそのあとキュッとカインに抱きついた。
「・・・ナディアレーヌ様・・・わ、わたくし大丈夫ですわ。だってわたくしカイン様をお慕いしておりますもの!それに・・・もうすぐわたくしエルロッドウェイに嫁ぎますし、カイン様のお側にずっといれます。」
「ローズ!!・・・ああ、かわいい・・・。なんて可愛いことを・・・やっぱり連れて帰る。どうやってもつれて帰る。義父上の許可はもぎ取ろう。なんなら義父上も連れて行こう。」
「は、はい!!」
ああ、ありがとうエルローズ嬢。完璧にわたしの意図をくんでくれて嬉しい。
ああ、これでカインの機嫌は悪くなろうはずもない。申し訳ないエルローズ嬢。
君のその行動で我が国の国益の6割は達成された。
蝶からのいろんな報告が楽しみである。
それにこうやってわたしの意図を汲み国益を優先しつつカインへの愛も同じく示し、なおかつナディアレーヌがカインに膝に載せられるかもしれないという危惧も取り除いてくれたのだ。
婚姻の際の贈答品はわたしの私財から選りすぐりのものを贈らせてもらうとしよう。
大体がである。
もちろんのことエルローズは今の今まで思いもつかないことだったが、本気でカインはこの夜会が終わり次第エルロッドウェイに愛する婚約者を本気ですぐに連れて帰ろうとしているのだから。
いや連れて帰るに決まっている。
そしてそれは義理の父になるだろうグリルフォント侯爵が泣こうがどうしようがどうやっても実行してしまうだろう。
ということは幼なじみ兼ナディアレーヌの護衛であるロウからすると、やって当然だという事実だけが動かないことで・・・。
ここまで来たら気の毒だがグリルフォント侯爵にはエルロッドウェイ近くにカインの私財で土地を買ったということで、もういつでもエルロッドウェイに引き取るという心積もりがあるということを示している。
もちろんこちらからも私財からお祝いをわたしておこう。
何なら休みも与えておこうと思う。
そのほうがカインが喜ぶ未来しか見えない。そして其れは確実に国益になる。
そう考えるとなんともカインというのは有能な人物であると思う。
人柄も外交的にも好ましく、打てば響くようにこちらの意図も汲み取る。
その上国益に関わることについてはシビアながらきちんと線引きができている。なかなかこの若さでできうることではないのだ。
それは兄であるフレディとジョルディ皇、エルフリーデ皇妃の規範があってこそのことだろう。
そして愛しいナディアレーヌのためか。
だがまあグリルフォント侯爵にとってはそれとこれとは話は別だろう。
なんせエルローズは一人娘。
大事に大事に育てた美しくも心根の真っ直ぐな女性だ。
わたしの婚約者候補としても実は裏で候補に上っていたことは知っているがそれはそれこれはこれ。
わたしは申し訳ないことにエルローズ嬢に全く好意も興味もなかったしな。
養子としてエドの末の弟のアルフォンスが侯爵家を継ぐことも決まっているし・・・。
未だに手放し難く思っているグリルフォント侯爵のことはもう申し訳ないがこれ以上はカインが譲るまい。
本当にもう諦めてもらうしかないとわたしが思っていることも今のところじっと黙っている。
ロウはすべて解っている。解っていて話さないだけだ。カインの決定もなにもかもを。
話せと言われない限り基本主君らの気持ちは代弁しないことにしているのだ。
それはもう徹底的にカインやフレディ、それからナディアレーヌの味方だということだ。
のでドゥーゼットの方では諦めてもらいたい。
グリルフォント侯爵自体は非常に穏やかに保ち貴族社会を渡り歩き、エルンハルト陛下の治世においてはいち早く公平に行動している稀有な侯爵家である。
大体がもはやエルローズ嬢に対する気持ちや行動はただの好好爺以外の何物でもない。
その事だけでも拾い物だとロウ的にはニマニマとしている。
「ええええ・・・・。エルローズ様ぁ・・・?」
そういってカインとエルローズ嬢の目の前で呆然としている愛おしいナディアレーヌをわたしは呼ぶ。
「ナディア、こっちにおいで。」
そのわたしの声を聞いた途端に目の前のカインが顔を上げて愕然とした顔をしている。
もちろんのことエルローズ嬢もだ。
動揺していないのはいつもそばに居る側付きたちだけだったが、そんな不思議なことを言っただろうか?
そう言って首を傾げると、目の前のカインが舌打ちをしそうな顔をしている。
一体何だというのだ?
ナディアは大人しく、否、ぶつぶつとエルローズ様があれになれるにはもう少しかかるのでは?
と言っていたけれどそれはフレディやカインにいつも膝に載せられていたとわたしに言っているわけか・・・。
「ナディア、ほら来て。」
そう言ってわたしはナディアの手を掴みわたしの膝の上に乗せた。
後ろから柔らかく抱きしめて、そっと囁く。
「エルローズ嬢一人が恥ずかしいのでなければいいだろう?ナディアもわたしの膝の上に慣れればいい。」
そういうと腕の中の愛しい人は一気に真っ赤な顔でうつむいた。
「・・・・其れはそれで気に入らない。」
そういって唸るような声がカインから聞こえたような気もするがわたしは気にしない。
「エルローズ嬢を膝に乗せているだろう?その上ナディアも膝に乗せるというのか?それはあまりにも欲張りではないか。
だいたい考えてほしいのだがわたしはエルローズ嬢を膝に乗せることなど永遠にないというのに。」
そのわたしの発言にカインはギリッと奥歯を噛み、エルローズ嬢は思っても見ないことを言われたからか更に顔を真赤にして、腕の中のナディアは少しだけ不安そうな顔をしている。
「ん?どうした?ナディア?」
そういって顔を覗き込むと・・・
「やっぱり小柄で可愛らしいエルローズ様を・・・エル様も抱っこしたいと思いますわよね?」
・・・・・・・・。
一体何を言い出すというのかな?わたしの愛おしい人は?
意味がわからずとりあえずじっと顔を見ていると。
だって・・・わたくしは小柄でもありませんし可愛らしくもありませんし・・・とボソボソとつぶやいている。
「かわいい・・・。」
「「かわいい・・・」」
ん?わたしのこぼれた声と同時に前方二人からも同時に声が発せられた。
カインとエルローズ嬢もあまりのナディアの可愛らしさに思わず声が出てしまったらしい。
ふふっと笑うと、ナディアが更に小さくなって小声でボソボソと可愛らしくなりたいですわ。とつぶやく。
その行動自体が可愛らしいのだとどうしてこのかわいい人に気がついてもらえないのだろうかと。
気が遠くなりそうになる。
ああ、愛しい。これが愛しいということか。自分がおかしくなりそうな気がする。
ぎゅっと抱きしめるとそのまま抱え込んだ頭に頬ずりする。
カインの意図を察したように嫌々ながらロウが動こうとしたのを今度はアーノルドが止める。
ん?と、楽しそうに笑うロウにアーノルドが淡々と返す。
「我が君と我が主の邪魔をするならロウ様でも立ち向かいます。」
その言葉に居を突かれたように目を見張り、その自分にロウは思わず笑い、カインに向かって首を横に振る。
「そろそろカイン諦めようか。レーヌはもう可愛い妹だが俺たちのものじゃない。エルンハルト陛下のものだ」
其れを聞いたカインは本当に嫌そうに。
射殺すほどの殺気を一瞬放ったためレオルドが流石に前に出ようとしたがそれをカインが止める。
仕方がない。兄からの妹を取るなという牽制だと鷹揚に流す。
それを受けてカインが本当に悔しそうに唇をぎゅっと噛む。ふむ。存外やっぱり我が義兄殿はかわいいな。
それを見ていたロウがクスクスと笑う。どうやらカインが諦めるように勧めていたのがやっと実を結んだとホッとしたのかもしれない。
「ほら、アーノン。心配するな。レーヌをカインの帰国と同時に連れて帰ったりしないから。」
「・・・そういう意味では心配してないです。」
そういってちょっとだけツンケンした態度でナディアレーヌの後ろに控えるアーノルドとその美貌に歳を重ね色気を足しに足した状態の近衛隊長レオルド。そしてカインの後ろにはそのレオルドの息子で影のキュリアが。
そして入り口にはアンヌが控えている。
仕事の上でとは言え、家族勢ぞろいである。一番末の妹だけが成人していないのでここには居ないがこちらもこちらで仕事が割り振られるだろう。
「それにしてもナディアと呼ぶようになったのはなぜ?」
カインに聞かれたエルンハルトは説明した。自分をエルと、ただ一人だけの名を呼んでもらうのとナディアも自分ひとりだけしか呼ばない呼び名だと聞いたから。と。
「え?曽祖父様が何度かナディアと呼んでいたけれど?」
なんと・・・わたしだけではなかったのか?と悲しい気持ちになりナディアを見上げると・・・。
「そんな・・・だってわたくし覚えておりませんもの。」
「まあ、それはそうだな。レーヌが2歳の時から会っていないからな。」
まさかお亡くなりになった方と張り合うわけにもいかない・・・とエルンハルトが思っていると。
「あ、ちなみに他国に薬の研究に行っている。90をいくつか超えられたが今でも元気だ。」
そのカインの声にくくっと笑う響きがあった。
「ナディア・・・ナディア・・・・ディア・・・ディー・・・」
「え?エル様?」
「カイン、ディアと呼んでいる方は?」
「ディアは・・・・いないなあ、ちなみにディーは時々父が呼ぶが?」
「ではディアにする。」
「は?曽祖父様はほとんどお会いしない方だぞ?いいだろう?」
「わたしはわたしだけが呼ぶ名がほしいのだ。わたしのことをエルと呼ぶのはナディア・・・ディアだけだ。ならわたしだって特別な名前を彼女を呼びたい。」
「・・・はあ、とんだ独占欲じゃないか・・・エルン、ぼくのことを笑えないよ?」
「自覚はある。が、治すつもりはない。」
そう言ってぎゅっと腕の中の愛しい人を抱きしめる。
「ディアと呼んでいいかい?愛おしい人。親愛なるという意味もあるけれど・・・いっそこちらのほうがしっくり来るな。ディア。」
「・・・・エル様がよろしいならそれで・・・。」
そういって真っ赤になって小刻みに震えている愛しい人の髪をサラリと撫で下ろす。
「カイン様はそのままのお名前でお呼びしますわ。」そういって鈴のなるような可愛らしい声のエルローズに向かってカインは笑う。
「ああ、一人だけが呼ぶ名か。・・・ぼくもなにか考えようかな。ローズに呼んでもらえる一人だけの特別な名前・・あ!そうだ!」
「待てカイン!!真名はだめだ。」
ロウからツッコミが入ります。わたくしもびっくりしてしまいましたわ。
我がエルロッドウェイの皇家男子には真名があります。
それらを持って操れる力があるのですが、もちろん生涯愛する人一人に告げることができるのが真名です。
とてもこのような他の人間がいる場所で告げる言葉でも名でもないわけです。
一般的なのは初夜の晩に伝えるということでしょうか。
皇家なのでもっと緊張感を持って真名を扱っていただきたいですわ。
あ、ちなみに女子にはありませんの。
皇女の場合は降嫁したり異国に嫁いだりするのでもともとエルロッドウェイのためにという真名は授かりません。
ただ、結婚の意志なし。生涯皇家に仕えエルロッドウェイのために生きると決める皇女もおります。
その場合は40歳を過ぎてもなお意思が変わらない場合にのみ、新しい真名を授け皇家のために新しい力を獲ることを念頭に授けることがあります。
もちろんのこと自分の意志で皇家に残る方、それから家を興す方には授けられますが。
もちろん長い歴史がありその中でも何人かはおります。そしてその方々は研究や医療の発展のために名を残していらっしゃる方々ばかりです。
わたくしですか?わたくしにはそのような気概も才能もございませんし・・・。なにしろわたくしはエル様に嫁ぎますので真名を授かることはございません。
「ローズ・・・ぼくの真名は君にしか明かさないけれど・・・其れは決まった日、決まった夜。君がぼくのものになる日にきみだけに伝えるよ。」
その言葉を聞いて腕の中のエルローズ様が真っ赤に染まります。
「カインお兄様がおっしゃると・・・何故かとてつもなく卑猥に感じます。なぜでしょうか?」
そういってカインお兄様をじっと睨むと、困ったように。でも壮絶な色気を醸し出した表情でわたくしを見ます。本当にやめていただきたいですわ。色気が凄すぎます・・・。
「おや?至極最もなことを普通に言っているだけだけど?ぼくの真心だが?」
「カインお兄様は自覚があってそれをされるので本当に敵に回したくもありませんし、嫌ですわ。」
「レーヌがそんな事を言うなんて!エルン・・・君、ちょっと愛情表現が足りてないんじゃないの?」
思わぬ方向に話が言ってしまいましたわ・・・。
「カインお兄様!なにをおっしゃいますの?」
「そうなのか?足りないと?こんなに愛しているのに・・・そうか・・・それはわたしの至らなさだな。
反省せねばならない。」
そういってわたくしの髪を一房すくい上げると、そのまま唇を落として、わたしの髪も伸びただろう?触るか?と上目遣いでおっしゃいます・・・。
「・・・・・い、いいえエル様・・・もうそれくらいで・・・。」
「だがしかしわたしには色気が足りないとディアは言うのだろう?ちなみにわたしには真名はないのだが・・・どうしようか。」
そう言ってくるっと首をかしげて髪をさらっとそのまま指からほどきわたくしの目元をすっとなぞられます。
「確かに意思を持って女性に触れるのは初めてだからな。自ら触れたいと思ったのも。ディアの頬には触れたいと思うし髪もその柔らかな体にも触れたいし、この良い香りのする首筋も・・・。」
わたくしの耳元でわたくしにだけ聞こえるように「良い香りだ。」といって抱きしめます。
あわあわと逃げようか、それともじっとしているべきが判断がつかなくなるくらいに慌ててしまいましたわ。
恐ろしいことにエル様はお兄様と違ってそれが素だとわかることでしょうか・・・。
カインお兄様が苦虫を噛み潰したような顔をしてらっしゃるような気がしないでもありませんけれどもかと言ってこれはどうしたら・・・。
「はい、そこまで!!!!」
そういって今まで黙って見守っていたエド様が「もういいかな?」と顔に怒りを載せて書類を持ってたってらっしゃいます。レオルド様も流石ににがわらいをされてらっしゃいますがアーノルドやロウ。
それからアンヌたち侍女たちは全く表情が変わりません・・・。
逆に何故止めたエドガルド様!という空気を感じているのは主君であるエル様の希望を止めるな。といったあたりでしょうか。アーノルドなんか本当にエド様を睨んでます。
逆でしょうアーノルド。注意するのはエル様にでは?
ロウに至ってはニヤニヤしたいのを我慢してるってわたくし解っておりますわよ!
「エルンもカインもそれぞれお姫様たちを降ろせ。じゃなきゃこちらにも彼女たちの気を引く方法はいくらでもあるんだぞ?」
「「なにをだ?」」
膝から愛おしい人を取り上げられるというその時点で二人の機嫌は悪くなったのだけれどそれに怯むエドさまではございませんし・・・。
軽くため息を付いたあとにちっと軽く舌打ちをされたことはわたくし見ておりませんし聞いておりませんわ。
ええ。聞いておりません、舌打ちなんて。
「レーヌ姫、エルローズ。」
義理とは言え弟がエルローズ様のご実家の次期当主でありもともとが親戚で仲良くしていらっしゃるエド様はエルローズ様をこの場でも普通に呼ばれるようになられました。
まあ、それはカイン兄様へのからかいとも取れますけれども・・・。
「本日我が所領からレーヌ姫とエルローズのご婚約のお祝いとしてバラの香りを詰め込んだお菓子とお茶。それから新種の香りの良いバラ、色味の良いバラを用意しておりまして。
このバカどもが話を進めないなら、先にわたしが姫様方をエスコートしましょう。」
そういって蕩けるように微笑む金髪碧眼のエド様は、まるで王子様のようですわ。
なれているだろうエルローズ様まで頬をバラ色に染めて、エド兄様!とパッと表情を明るくされました。
「ちなみにエスコートはわたしだけではむさ苦しいでしょうから・・・。」
全くむさ苦しくなく恐ろしいほどの麗しさの塊のエド様はそのようなことをおっしゃいます。
「別室に我妻と子どもたちが控えておりますので・・・。」
その言葉を聞いた途端、エルローズ様が膝の上でソワソワし始めました。
なるほど。エド様を見て嬉しそうにしたということはエリーゼル様のことを聞けるからですわね?
実はエルローズ様はエド様の奥様、エリーゼル様に大変懐いてらっしゃるとのお噂でしたし、お腹に赤ちゃんがいる状態ですが体調不良が今日は解消されているということでしょうか。
「体調の方はよろしいのでしょうか?」
そうわたくしが聞くと蕩けるようなほほ笑みを浮かべたエド様は「はい。」とゆったりと頷かれます。
「良かったですわ・・・。そうですわね・・・エル様わたくし、エド様と・・・。」
「あの、カイン様。わたくしの大好きなエリーゼル様のお腹に赤ちゃんがいらっしゃって、なかなか体調不良のところやっとお会いしていいとエド兄様がおっしゃってくださってるんですの。カイン様・・・。」
その言葉を聞いたエル様とカインお兄様がそれぞれわたくしたちをやっと開放してくださいました。
それをみたエド様はニッコリと笑い・・・。
「レーヌ姫、エルローズ。うちの天使たちがお昼寝中なんだ。やっと我が愛しの妻も一息つける状態で多分一緒にゆっくりしていると思うんだ。
先に済ませることを済ませて、ゆっくり我が家の天使たちに会いに行こうか。
さあ、エルンもカインも。きっちりと話し合いを詰めないと明日だぞ本当に。」
わたくしたちにはとてもお優しいお父様の幼な顔を見せるエド様ですが。どちらかというとエル様たちにはいつも厳しいのですわよね・・・
もはや多分わたくしのことやエルローズ様のことなんてエド様からしたら五歳児くらいの扱いですわ。
大切にされているとは感じますが100%保護者ですもの視線が。
だからカインお兄様も怒りきらないのだと思いますの。
「エド様はまるでわたくしのお父様でも良いですわよね。お優しい顔で笑ってくださいますし。」
その言葉を聞いてエル様は軽く顔をしかめてらっしゃいます。
「おや、わたしとレーヌ姫は親子ほどの年の差はございませんよ?」
そう言って楽しそうに笑うので今まで思っていたことを言ってしまいまいました。
「でも、感覚的に見た目ではなく・・・わたくしのことを娘位の感覚で接してくださっているではないですか。」
「なにをおっしゃいますか。我が君の伴侶となられる方を娘と同列に扱うとは・・・。」
そういって苦笑いをされてらっしゃいますがわたくしは知っております。絶対にエド様はわたくしのことを子供かなんかと一緒くたにしてらっしゃいます。あの天使ちゃんたちに及ばずとも。
「だって。ロウとアーノルドもそう思うでしょう?」
そう言ってわたくしはエル様に断って膝から降りたあとに、エド様の目の前に立ち抱きついてよろしいですか?
と質問して。
本当にしょうがないなあといった感じで笑ってまあ、どうぞ。と返答をいただき・・・。
普通にエド様に横からえいっと抱きつきました。
アーノルドが天井を見上げているのは呆れているのでしょうか。呆れているのでしょうね。
でもわたくしこれくらいしか確かめる方法がありませんもの。
アーノルドにやっちゃだめだって口酸っぱく言われましたけど、わたくし自身がエド様を信用できているか気になりますし。抱きつけたらまあ、アーノルドの次に安心な人ということですわよね?
ロウも帰ってしまいますし・・・
レオルド様にもやるべきでしょうか・・・。確かめるとしたらエド様とレオルド様だけなのですけれども。
「ディア!!」「レーヌ!!」
エル様とカインお兄様の声が重なりましたが、視線を上に向けると・・・。
どう見てもほらやっぱり。と納得してしまいましたわ。
だって、わたくしに対して本当に仕方のない人だなぁって顔に書いておりますもの。
「カインお兄様!エド様はアーノルドと一緒ですわ!ロウもそう思うでしょう?」
そう言って笑うとロウはこらえていた笑いを・・・こらえきれなくなったのですわよね。盛大に吹き出しました。アーノルドも苦笑いですわね・・・怒られますでしょうかあとから・・・。
「ほら、エド。あれと一緒だ。レオルドも陛下も見たことあるでしょうこれ。アーノンに抱きついたあれです。カイン良かったな。心強い父の代わりまで出来たぞ。レーヌはもうこの国でも大丈夫だな。」
その言葉にエド様は軽く首を左右に振って仕方ないなあといった顔で笑う。
「レーヌ姫・・・これきりになさってくださいね。エルンとカインに嫌われてしまいますので。あとでこの状態はエリーゼルに説明してくださいね、少しでも彼女の心が悲しくなるのは嫌なので。愛してるので。
妻だけを愛しているので。あとであちらでも実演してくださいね、こういうことですよって。
まあ、そうですね・・・五歳とまではいいませんが・・・8歳くらいでしょうかねぇ。」
やっぱり!と笑ってしまう。わたくしもエド様は本当に保護者という立ち位置になったみたいですわ。
あ、これも確かめておかねば!
「エド様、わたくしのこと持ち上げられます?」
その言葉にギョッとしたのはアーノルドとロウだった。騎士じゃないぞ!という声にエド様は考え込み・・・
「持ち上げるですか・・・ふむ。」
そういって文字通り持ち上げた。両手で子供を抱き上げるように当たり前に。
ぷらん、とぶら下げられた状態で嬉しくなってしまいましたわ。アーノルドは本当に片手で持ち上げた。だけですがエド様の扱いは天使ちゃん達を抱っこする前の持ち上げる。と一緒。
文字通りもちあげてくださいましたもの!
「やっぱり!!お兄様!ロウと同じですわ!いえ、それよりもお父様と一緒ですわこの抱っこの仕方。」
「レーヌ・・・抱っこといっている時点でアウトだ。・・・エドも下ろしてくれないか。」
カインが頭を抱えるようにして・・・。
エドはゆっくりと両足をつけるまで支え、その後にご満足いただけましたか?お眼鏡にかないました?と微笑んでレーヌの手を取り指先にキスを送る。
臣下の礼を取ったことでエルンは何も言えずぐっと黙り込んだ。
ただ、すぐにディア。と呼んで腕の中に抱き込んでしまったけれど。
「流石にエルン申し訳ない・・・妹はどうやら邪な面があるかないかを扱いによって判断している。」
「カイン・・・それはもう仕方がないが、淑女の扱いとしてどうかと思うぞエド。」
苦言をエルンハルトに呈されたエドガルドは心外という表情ではっきりといった。
「レーヌ姫に持ち上げろと言われたから持ち上げたまで。」
「・・・エルン。本当になんの他意もないしエドは良い家臣だと思う。ぼくも安心だ。だけどレーヌの父上は
エルロッドウェイのジョルディ皇だからな!エド!。君は父ではないから!!」
「何を言い出すんだカイン・・・。」
そう言って頭痛をこらえたようにそれよりも。と、話を切り替えるように取り落としたバインダーを拾い会議が進まないじゃないか!と怒り出す。
当たり前だ。だが言われてふと思う。レーヌ姫を主君の妻だと尊きお方だと敬う気持ちがあるのと同時に姫が言ったことは的を得ている。
これほどに美しく素晴らしい淑女であっても、自分から見たらやはり小さな娘と同じような保護者であるような気がしてきたしその気持をきっと姫は見抜いていたのだろう。
だから抱きつかれてもなんとも思わず、持ち上げろと言われたら天使たちを持ち上げるのと同じように思って抱き上げてしまったのだ。そもそもが姫を女性とも思っていない・・・とは。
娘と同じように接することにするか。と、思ったがそうすると甘くなるんだが・・・とも思う。
その考え込んでいるエドに近寄ったエルローズを見て、エドは笑う。
「どうした?エルローズ?寂しくなった?」
小さいときに見た、自分がグリルフォントの家から帰るときに見せるような、寂しそうな顔をしていた。
「い、いいえ・・・ちょっとだけ懐かしくなっただけで・・・。」
その言葉を聞いてエドも微笑む。エドはこの歳の離れた一人っ子の親戚のこをとても可愛がっていたし大事にしていた。三兄弟の長男の自分には、素直に慕ってくれる可愛い妹のような大切な子だったのだから。
エルンとは年が離れているが、もう少し時間を空ければ王妃に推したかもしれず、それよりも先に自分の弟と娶せようかと思っていたほどに。
それは叶わず、この可愛い妹のようなエルローズを愛されているとは言え国益も兼ねてエルロッドウェイに送るのだ。自分だって少しだけ妹と引き離されるような気持ちを抱えていると誰にも言ったことはない。
「おいで、エルローズ。」
そういって柔らかく抱きしめてふわりと抱き上げてあげる。小さいときからしてあげてあげたように。
きゃあっと笑ってエド兄様!とエルローズが屈託なく笑う。
年の離れた妹のように、大事な子だったのだから。
妻を慕ってくれて、自分たちの娘と息子をかわいがってくれる優しい子だ。
カインがギリッと奥歯を噛み締めたのはわかったがエドも譲る気はなかった。
「カインに奪われるからね。本当はアルフォンスと君が一緒になってくれるものだと思っていたんだ。
可愛い弟と一緒にいて、ずっとこの国にいさせようかと思っていたんだけど。」
その言葉にカインが真顔になってエドを見る。
その表情にもひるまずにエドガルドは普通にエルローズだけに聞かせるように柔らかい声で続ける。
「カインが思ったよりもちゃんと君を大事にしてくれそうだし幸せにしてくれそうだからね。でもね。」
そういってエドは一度だけカインの方を見て壮絶に美しく笑う。そう、背筋が凍りそうな笑顔で。
「一度だって悲しいことがあったり寂しい思いをさせられたりしたらいいなさい。兄様が迎えに行くからね。
大丈夫だよ、国益も絡むとは言え兄様はエルローズを一度だって悲しい思いをさせたいわけじゃないんだよ。
もしカインが君を大切にしない日があったら兄様がどうやってでも護ってあげるからね。」
そう言って皆に言い聞かせていると周りにいる大人はみんな解っていた。エドは実行する。と。
言葉通りの意味だけではないことを知っているのは自国の国王と大切なエルローズを送り出す国の皇族だけ。
素直でそのままを信じたのはエルローズとナディアレーヌのみ。
それでいい。レーヌ姫はなぜか震えているけどなぜかな?と、エドは少しだけ笑う。
「大丈夫よ、エド兄様。わたくし幸せになるわ。エリーゼル様に、シャルとライルに会えないのがちょっとだけ悲しいだけ。」
「おや、兄様は?兄様には会いたくないと?他の兄弟たちは?みんなエルローズが大好きだよ?」
そういってエドはぎりぎりと奥歯を噛み締めているカインを見てニヤリと笑う。
「エド兄様は・・・エルロッドウェイまで一緒に来ていただけるんでしょう?エルロッドウェイからお帰りになるときには・・・泣いてしまうかもしれないけれど。」
「泣かせないから!ローズ・・・おいで。もういいだろうエド。わかった。絶対に一度たりとも悲しませないしつらい思いもさせない。離れがたい兄の気持ちは痛いほどに解る。わかったからもう。」
そういってカインは困ったように両手を広げてエルローズを返せという。
大体が愛ありきとは言え政略結婚の一種のようなものだ。王族皇族の結婚が気持ちだけでどうにかなるわけがない。
エルローズがエルロッドウェイに嫁ぎ、ナディアレーヌがドゥーゼットに嫁ぐ。
それは国と国との結びつきであり、一種の契約だ。それでも。
宰相補佐として、未来の宰相としてそこを飛び越えて国益を無視しても大事だとエドは言ったのだ。
その意味をエルローズも解っている。侯爵家の一人娘だ。いつか侯爵家を継ぐかもしれないと自分でも思っていた。
そしてナディアレーヌだってわかっている。自分が嫁ぐ意味を。
銀目だからと、比翼の鳥だからと、それだけでエルンハルトの隣に立てるほどだと甘えるつもりもない。
お体を直し、健やかに保ち、この国を自分の国として支えていく。
少し前の自分は正妃になんてなれるはずがないと落ち込んでいたのだから。
それがエルンハルトの隣に立って一緒に先を見て歩けるのだとエドは言うのだ。
その中で皇女らしくそだっていないわたくしが何ができるのかとは思うけれど。
自分ができることを探して生きていけばいいのではないかと思う。
そしてそれは、明日の憂いをふりはらわなければならないのだから。
エルンハルトは独身のそれも大国の王だ。
自国並びに他国の王女皇女令嬢たちからも引く手あまたの優良物件だ。
それくらいナディアレーヌにも解っている。わかっているけれど・・・。
「あ。わかりましたわ。明日の対処法・・・。」
そう自分の腕の中でポツリと呟いた愛しい人を見つめると、晴れやかに笑う愛おしい人の笑顔に目が潰れてしまいそうだ。と、エルンは思う。
「わたくし!エル様から離れずわたくしたちが大好き同士だと皆様にもわからせれば媚薬を盛る隙なぞないようにお側にいればよろしくはありませんか?」
そうキラキラした目で言われても嬉しいだけだが・・・とエルンハルトは思いながら髪をすき降ろしながら言う。
「わたしから離れないのは当たり前なのだがそれだけでは無理では?」
だいたい他国とは言え潰れかけているとは言え一国の王女を袖にするのはなかなかに外交上難しい。
が。
あの国、必要だろうか?・・・いらなくないだろうか。我が国に国益はもうない。なぜならもう取り尽くしてしまったからな。
そう思ってエドを見ると・・・。
「もう、潰すか。」
意図をくんだようにそう言ってエドが笑う。
ふむ・・・と思う。そうだな、カインがニコっと笑った。本当にいい笑顔だな。
「なかなかにフレディ兄様も一緒になって国の力を削ぎに削いできたからな。もういいんじゃないか?
もう面倒くさいような気もするし。」
「え?」
わたくしが見渡すと、大体がそう決まったような空気感ですがそれでよろしいんですの?
「ま、細かいところはやっぱり詰めなきゃいけないからなぁ・・・。
とりあえずは我が愛しの妻と天使たちに会いに行かないか?」
と、エド様がおっしゃいます。
とりあえず、スーガイアにとっては明日がチェックメイトの日だということが決まったという事実だけはたしかなようですわ・・・。
マーリアとしてはエルンハルトを狙う気が満々なわけで、そんななか他の為政者的にはもうほろぼしちゃおっかな、あの国。
というくらい国力が低下しているんですよスーガイア。
というわけできっちりとエルンハルトやナディアレーヌ、カインもやってくれますのでご安心ください。




