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本当にそういうところだと思うと周りは思っているということだらけ。

久々にですがルーゼハルト様も登場いたしました。

ここでアンジェが何故運命的にもルーゼの亡くなったときと間をおかずに

儚くなったのか。

その事実を少しだけ。

昼餐の場所は違うところなので、エル様に手を取られてわたくしは歩いております。

エル様が衣装合わせの場に呼んだのか、それともエド様への先触れの時間が間違っていたのかは

わかりませんけれども・・・。


何故か一緒に歩いて移動しております。

わたくしは一足先にドレスを脱ぐ予定だったのですが、一緒に部屋の前まで行くと言って聞かないエル様

にわたくしは根負けしてしまったのでした。



昼餐の場にお呼びする予定だったのではないかしら?と、ふとエド様を見るとクスクスと笑うエド様に

微笑まれました。

「レーヌ姫、わたしの登場が早かったからですか?実は呼びつけられて衣装を持っていったのはわたし

ですよ。ちょうど二人の衣装も見たかったしねぇ。」

そういってニヤニヤと笑う。

レオルド様はもちろんエル様の護衛ですのでいつも一緒におられますもの。

見られても恥ずかしいわけではありませんが、わたくしお化粧が夜会仕様ではないのにあのような

華やかなドレスを着てしまいましたわ・・・。



そう思って少し落ち込んでいるとエド様が慌てたようにおっしゃいました。



「とても可憐でしたよ。エルンと並ぶとこれまた美しい花が咲き誇るほどに鮮やかな空間でした。」


そういってわたくしに向き直り、胸に手を当てて軽く紳士の礼を取られました。

本当にいつも思うのですが・・・。

「エド様はいつもいつもお美しくあられますね。」

そのわたくしの言葉にキョトンとした顔をしてエド様はその後に弾かれたように笑う。

「ははっ。顔を褒めらることはたしかにありますが、それは下心ありとかわたしの愛妾の座を狙ってとか

本当に不愉快なものも多いのですが・・・レーヌ姫は純粋にわたしの顔を褒めてくださってると?」

「だって、エド様はお美しいじゃありませんか?」

キョトンとした顔をしているのは自分でもわかっている。


ん?


え?


違います違いますわ!!



「ちょっとお待ちくださいませ!わたくしそんなつもりはありませんわ!」

慌てたように言うとエド様は楽しくて仕方ないといった顔をして笑っている。

「当たり前ではないですか。レーヌ様がわたしのことを男としてなど見ていないことなど一目瞭然。

ただ単に見たままをお伝えになっていることはわかりますよ。」

そういって慌てるわたくしをみて身体をくの字に折り曲げて笑い始めました。

なんと・・・そんなに面白がっていただけると・・・?

目のフチに涙をためて、ああおかしいと力を抜いたように全力で笑った後に真顔になりました。



「仕方ありませんよ、わたしのこの顔はとてもこの国に有利にいろんなことを薦める武器にもなります。

エルンほどに絶世とも行かず、レオルドほどに雄々しくもなく、女性に好まれ男性には威圧感もなく。

適度な美形ってくらいでしょうかねぇ。」



・・・エド様の基準ってどうなっているのでしょうか?


エド様は非常に絵に書いたような王子様のようなご尊顔に出で立ちで10人が10人、絶世の美貌と

言うでしょう・・・。

比べる方がエル様やレオルド様というのはとりあえず威圧感や覇気が薄れる。

というくらいで、三人並ぶと多種多様の美貌というのがあるのだなぁと。


わたくし、自分の国ではお父様、お兄様方、お母様。それから少し色味は違いますがロウたち。

どちらかというと銀色や硬質の色味が強かったりしがちの人達に囲まれていたからでしょうか・・・。

ちょっと硬質の冷たい見目の美貌というのは見慣れているのですが。


エド様のように柔らかな美貌の方をあまり目にしたこともなくですね。

素直に褒めただけなのです。



そう伝えるとですね、わかってますわかってます。とエド様がくくっと笑われます。

それにわたくしエリーゼルさまや天使ちゃんたちと一緒に過ごすエル様をたくさん見ておりますので

さらにお優しい笑顔もたくさん見ております。




「だそうだ。」

そう言って笑ってエド様はエル様を見る。

「エルン、そんな怖い顔をするな。」

そういってはははっと声を上げて笑うからびっくりしてしまった。



「エル様?怒ってらっしゃるのですか?」

振り返ると少しだけ何を考えているかわからないような顔をしているエル様の表情にびっくりしてしまいましたわ。

「ん?何も怒ってはいないよナディア。でも、エドの顔のほうがわたしよりも好きか?」

「え?」

何を仰っているのでしょうか?エル様のお顔とエド様のお顔は違いますのに?

「わたしはエド程笑わないから冷たく見えるだろうか?」

は?エル様よくわらってらっしゃいますが?

そう思って首を傾げて見上げると眉間に軽くシワを寄せてエル様がおっしゃいます。



「確かにわたしのそばにいるものは見目好いものが多いから・・・ナディアはわたしの顔よりもエドや

レオルドやアーノルドの顔のほうが好きなのか?」

そういって首をかしげるように聞いてこられました。

うっ・・・お顔が素敵です・・・。

それにしてもいつものゆったりとした獅子感が本日はあまりありません。どうして?

それにしてもエル様はどうしてそんなことをおっしゃいますの?

わたくしはあまり人の見目を気にする方でありません。どちらかというとその方の中身の方を見たいのですけれども。

でも、そりゃあエル様のお顔は大好きだと思いますけれども・・・。

わたくしエド様ではなくレオルド様でもなく、エル様が好きなのですけれども・・・。



でもそれとこれとは別ですわ。



「それは・・・ではエル様にお聞きしてもよろしいですか?」

「なんだ?」

そういってわたくしの手をゆっくりと取ったエル様に首を傾げながら聞いてしまいましたわ。

「わたくしの周りにも見目好いものは大勢いるでしょう?サラも可愛いしアンヌもカレンも美しい。

エル様はわたくしの顔よりも他のものの顔がお好きですか?」


そう聞くとエル様は少し考えてため息をつかれました。




「比べられないな。わたしは人の美醜は問わない。」

「そうでしょう?」

わたくしもですわ。そう言って笑うと、それでもぐっと手を引かれた。

折しもわたくしはまだ9センチヒールを履いていたのでぐらついてしまいましたわ。

お母様が見てらしたらすぐに叱責の声が飛んだことでしょうとも。

いついかなる時でも9センチヒールごときで体幹がぶれるなどと・・・。

お母様ならこのようなとっさのことでも華麗に収めてしまうでしょうに・・・。


わたくしもう少し鍛錬を増やさなければなりません。



でもふらついたわたくしを嬉しそうに抱きとめたエル様はすまなかった。とポツリとつぶやかれました。

わたくしの髪に触れた手があまりにも自然で、エル様に寄りかかっている状態だというのに姿勢を立て直すことさえしたくなくて。

直ぐにできずにいたのはわたくしが多分エル様に触れていたかったのだと自分ではわかっております。

自覚した自分の思いはそうそうすぐに馴染むものではないのですけれども、それとこれとはやはり別。

大好きな方に触れているという事実がわたくしの体温を上げているのを感じました。



「エルン、離せよ。ほらみたらわかるだろ?」

そう言って笑うエド様の声にエル様はハッと息を呑んでわたくしをゆったりと離しました。

少しだけ寂しい気がして視線を上げると、エル様の頬が少し赤くなっているように見えましたがそのまま

エル様に髪を撫でられてわたくしは姿勢を立て直しました。

ああ、お母様の顔がちらつきます。お許しくださいませお母様!レーヌはお母様から叩き込まれた

淑女教育にも関わらず好きな方にもたれることを優先してしまいました・・・。

何たることでしょう。



訳の分からない反省をしているのをサラはわかっているのか。

小さく(秘密にしておいて差し上げます)と口が動いたので、きちんと後でもう一度9センチヒールの

練習をしなければ・・。

夜会当日に醜態を晒すわけには参りませんわね。

何しろ戦わなければならないのですもの!



勝手に急に気合を入れたわたくしを見て、ロウやサラはいつものわたくしだとわかっているのか

やれやれといった顔をしておりました。それにアーノルドも加わっております。

いつの間にこんなにわたくしの護衛はロウよりロウっぽくなったのでしょうか・・・。




そうこうしているうちにわたくしの着替えを置いてある部屋についたので一旦エル様から手を離し・・・。

というか離そうとした時点でエル様に引き止められてしまい、ふと見上げると。

エル様もまだ衣装を脱いだだけで、中のシャツはグレーのシャツ。

ただ上にお召になっていたのだと気が付きました。

わたくしのために軽く着付けてくださっただけだったのだと、思わぬ時間を取ってしまったことを

申し訳なく思いつつ。

でも、一度見れてよかったと思い直しました。


あれを当日に見たらわたくし悲鳴を上げてしまいますわ。

エル様がとっても麗しくあらせられるので・・・。



ドアの前で向き合うようになったのでわたくしはなんとなく気恥ずかしくなり早口で言ってしまいました。

「にしても・・・完璧にお揃いですわよね?この衣装では・・・。」

色味を薄めるために手持ちのガウンでも羽織ろうかと伝えようとしたのですが。



遮るように少し飛び込むように紡がれる言葉。

「わたしは構わない。嬉しい。」

そう言うとエル様はわたくしのドレスの肩に触れ、すっと指でなぞる。

その動きに固まってしまったお子様なわたくしにまたくくっと笑ったエル様は楽しそうに言う。



「わたしはうれしい。ナディア、あなたを着飾ることが出来て。

そしてわたしとともに戦ってくれるのだろう?これ以上ないくらい素晴らしい出で立ちだ。

美しいということは一つの武器だよナディア。」

そう一度言葉を切ってきっぱりという。



「そしてこの国でもどこの国でも、エルロッドウェイでも変わらない。

美しいことはそれだけで武器だということをあなたの兄たちは知っているし有効活用出来る人たちだ。」

エドのようにな。とエド様を笑って見ると機嫌が治ってよかったというふうに肩をすくめるエド様と

目があって笑われる。

それを見て、仕方ないといった風に笑うエル様が再びわたくしをじっと見つめられました。



「そしてあなたも知ってほしい。あなたは美しい。わたしの隣にあっても更に美しい。」

「え、エル様・・・褒めすぎでは?」

慌てたようにそう言って離れようとしたのを視線で押し留めたエル様はわたくしの肩を撫でた指を。

そっと自分の唇に当ててふっと笑う。



それを見た瞬間、頬に熱が集まったのがわかりました。

エル様が。わたくしに触れた手を・・・ご自分の唇に・・・・。

あまりの色気に当てられるというのこのことかと、腰が砕けそうになるというのはこのことかと。

実感して背中にそっと当てられて手に軽く背を預けてしまいかける。

くくっと低く笑う声。

そして唇に当てたそのわたくしの肩に触れた長く美しい指を軽くエル様が噛んだ。




ぅうううううううううううーーーーーーーーーーーーーーー。



声も出ない。

なんという色気というかわたくし息が・・・。

どうされたんですの?エル様最近わたくしにたいして時々こういった思わせぶりな態度を取られますが

わたくし耐性がないのですが。

わたくし、本当に息をするのを忘れるんですがこんなことありますの?



「レーヌ!息して息!!」

その少し慌てたようなロウの声に思わずはっと、息を吸う。

本当に息を止めてしまっていたのですねわたくし。




するとふっとした時にエル様の髪からほろ苦いあの香り・・・。


ふはっと息を吸って吐く。

きっとわたくし顔が赤くなってますわよね・・・。でもこれは、この香りは・・・。




「エル様はグレープフルーツですわね?」

そういって噛んだ指と逆の腕を軽く引っ張って髪に近づき、少しだけ香りを確かめる。

うん、そうですわ。

わたくしが精製したあのグレープフルーツの髪につけるオイルですわね。

この香りだけを取り出すのは簡単な方だったのですけれどもそれをオイルにして体につけるのではなく

髪につけるようにオイルにしたのにはわけがあります。

もともと、グレープフルーツの皮には少し油のような成分が取りやすくてですね。

香り自体もとても良いし、なんとも言えず呼吸器官にも悪い影響はなく、ラベンダーの香りとも

相性がよかったのですもの。

実はこの成分、体に良いものが多分に含まれておりましてですね、肌の生成にも適しているのです。

ただ、まだ直接化粧品といったもの肌につけるものまで実験が及んでおらずに。

とりあえずは髪につけてみるのもいいかと思い自分で試してみたあと良いものが出来たのでエル様にも

香りを確かめていただいて気に入っていただければ使ってくださいとお渡ししました。



うん、良かった。

精製した甲斐がありましたわ!

しかも男性用なのでオイル自体にも艶をつけるよりも、髪が絡まらないように。くらいの効能しかなく

香り自体も強いものではないでエル様が気に入ってくださったら、他の方にも配ろうと思っておりました。

一昨日お渡ししたものなのに早速今日もうつけてくださっているのですね。

近づいたからこそ、わかるくらいの控えめなものとエル様が起きてから持続する香りはこれくらい・・。

ならもう少し違う成分を足せば女性用に改良することも出来ますわね。


うーん、髪に直接つけたのかブラシに付けて髪を梳いたのかどちらでしょうか。

男性はどちらが多いんでしょう?



「早くもっと伸びたらいいのに。ねぇ?エル様・・・。」

編み込みをさせてくださるとおっしゃいましたよね?そう続けようとしたわたくしの口が

縫い留められたように止まりました。

なぜならおもったよりも近くにあったエル様の顔に、びっくりしてふと身体をひこうとした瞬間。



「悪い子だなナディア。」

そういってわたくしの両頬をその唇に当てた指で軽く挟んでしまわれました。



更に近づきそうになったエル様の目の前でわたくしは目をつぶってしまったのですが、何も起こりません。

怒られるのかな?とそろりと目を開けると。

じっとわたくしを見つめているエル様の美しいダスティーブルーの瞳とかち合ってしまいました。

そのままニコッと微笑まれ、額にキスを受けました。



「さあ、着替えておいで。」

そういって頬をつまんでいたエル様の長い指が離れ、ドアを開けてくださいました。

「昼餐の場所で待っているよ。わたしもこれをアルザックに渡して仕上げをしてもらわねばならない。

ああ、ナディアも手直しが必要だそうだ。それを着替えたあとにアンヌに持っていってもらおう。

さあ、行っておいでナディア。」

そう言われて部屋に入る様に促されたので、そのまま入ってしまうことにします。



視線でアンヌとカレンにエル様が叱られていたとか。

サラが笑っていたとか。

色々ありましたけれども・・・とりあえず部屋に入ってわたくしは熱くなった頬の熱を冷ますので

精一杯でした。








無言でレオルドとエドと一緒に無言で歩く。

わかっている。言いたい事があるだろうことはわかるんだが。


言外に何も今は言わない。

と言った風な空気を纏ったエルンハルトが自分の着替える部屋に到着し、急いで入る。


そして、入ったとたんにカウチに崩れ落ちた。




「危なかった。あれは本当に危なかった。理性を振り絞った・・・。」




そうつぶやいていて、エド様に「ばかだなぁ、そのままやっちゃえばよかったのに。」

と言われてエル様に背中を叩かれているとか。

レオルド様に「まあ、廊下ではないな。」と苦言を呈されて落ち込んでいたりとか。

色々大人の男性だって事情があるということは愛おしい歳下の彼の人には内緒である。

勿論側近たちだって、王宮の周りの侍従侍女たちだって物言わぬ家具だが当然ながら人だ。

だけれども。

直視は許されず視線は下げていたものの、我が国の太陽が熱烈にエルロッドウェイの皇女を口説いている

ことは周知されつつある。

勿論それに異を唱える者はいない。そのように太陽に邪な思いを持つものはとっくにこの王宮の深部内部からは淘汰されている。



たまに新人や外部から来たもの、王宮の私室に近い場所や執務室外で働く侍女たちには王の美しさに不埒な考えを持つものがまだいたりもするが。

そういった者は大体が遠ざけられ、離される。そしてエルンハルトの近くには一生寄れない。

故に若くてこの深部内部に到達できたものは、敬愛以外のものを持たない者たちばかりだ。

そしてそれは古参の侍従侍女からの目をもってして認められなければここにはいられない。

我が国の太陽が小さいときから体調に不調を抱えながらも年若き時に唯一の肉親である先王をなくしてから人が変わったように。

そう冷酷に、だけれども国のために心を砕いてきたことを長く努めている侍従侍女たちは知っている。



年若いときから女性に狙われ、勝手に愛を押し付けられ、毎回夜会から帰れば体調不良と吐き気に悩まされる。

吐いたものは全て集められ、解析に回され、それが多種多様の媚薬であると侍医や看護師、薬師たちが

知るたびにあまりの仕打ちに皆が心を痛めた。

29歳の男盛り、美しく強く優しい自分たちの敬愛する主がどの女性にも心を開かずにこのまま国の為に

疲弊していくのを見るのは、周りの人間がいつも苦しく思っていたことだった。

口にだすことは決してない。

物言わぬ家具であることを皆誇りに思い、言葉をかけられる立場にあるものはまた誇りに思っている。

エルンハルトという人に仕えることを。

そして、古参のものは頼まれているのだ。



エルンハルトの兄である、先王ルーゼハルトの頼みを。

エルンハルトが幸せになれるようにとそれを祈っていた苛烈ながらも優しく強く、弟を愛した兄。

仕える意味があるのか?とまで思って疲弊していた先々代の王の時代の自分たちを救ってくれた、

若く聡明な美しい兄弟。



命をとしてお仕えする価値がある方々だと、この場にいる者たちは思っている。


その太陽たる人が求める人がいる。



年若い少年のようにはしゃぐ主を見て、苦笑いしつつも微笑ましく思わない者はこの場所にはいない。

それだけで報われた思いをするものだっている。

エルンハルトよりも少し歳の嵩を重ねているものは心のなかでそうじゃないのです・・・そこじゃなく

何故押さないんですかそこで。とヤキモキし。

エルンハルトと同年代の者はあー、まだるっこしい・・・もう押せばいいのに!とモヤモヤし。

エルンハルトよりも若いものは、そんな勢いで陛下が押すとあの美しい初な姫様はパンクします!と

ドキドキしていると。



エルンハルトは知らない。

知らないけれども見守られている。



そんな場所にしてくれたルーゼハルトはエルンハルトのイヤーカフからそれを眺めて笑っている。

またそれも絶対に皆に知られることはない。

でもルーゼハルトにとってはそれはどうでもいいことだった。

少し遠い場所から。触れることは出来ない存在でも、見守ることは出来る。

彼が愛した弟が、自分の愛する人を見つけたこと。自分が開いた道だけれどそれを愚直に守って進んで

それを守る人たちも守り守られ幸せにいること。




テスカの花が降った意味を、エルンも早く知ればいいのになぁ。

「羽根ではなかったのか?」と聞かれた意味をもう少し早く知りたいと思ってくれないかなぁ。

エルンが本気で好きじゃなきゃテスカの花なんか降らないって。

腐っても母なんだから自分の子供の本当に望む心くらいわかってる。

エルロッドウェイの皇たちだけ知ってるのはズルすぎるだろう。

あの小さな皇女に一度だけあったことを覚えている。

薬をもらい、背を撫でてもらったことをエルンは覚えている。



それの意味をエルンは早く知るべきだ。



その時からきっとエルンは・・・。



さあ、また神託の女神につきまとってやろうかなぁ。

ここは穏やかで暖かな場所だけれど愛しの弟が愛しの義妹まだだけどと少しのことでも迷ったり

悲しんだりすることがないように。それは許せないしなぁ。

あまりエルンをいじめることないように護るようにって。




あの国はよろしくない。

スーガイアの第二王女。

あの女は俺も一番キライなタイプだ。




そう思っていると暖かな空気に誘われて微笑む。

「エルンは可愛いよねえ、アンジェ。」

赤くなったり青くなったりしてぐったりとしている弟を見て幸せな気持ちになる。

あのエルンが恋をしている。深く愛する人を求めている。

自分と同じく、自分の半身を求めるほどの生への執着を見せてくれた。



なんて嬉しいんだろう。



ふわっと愛しい半身が寄り添ってくれたことに気がついて、スーガイアのあの王女を思い出した時の

嫌だった気持ちがなくなる。



ルーゼハルトは身体がなくなった分、身体の苦しみは全くなくなった。

あの時の苦しさはもう無くそれと同じくして自分の感情を隠すことがなくなり好悪をはっきりと表に

出すようになってしまった。

そんな自分をずっと変わらず愛し続けてくれる愛おしい人。



背中からそっと抱きついてきた愛おしい人の手を握ったルーゼハルトに笑ってアンジェが張り合うように

伝えた。

「アンヌも可愛いでしょ?ちょっとお姉さんぶってエルン様に圧かけたり。」

「ああ、たしかに。」

そういって愛しい人の妹が自分の親友とともに弟を護ってくれている事実に素直に喜ぶ。

「俺たちは出来ることをしてあげなきゃねぇ。」

「そうよ私たちが出来ることなんてたかが知れてるけどね。」

「まずは女神にご機嫌伺いに行こうか。」

そう言って笑うルーゼにアンジェは呆れたように笑う。



「嫌がらせの間違いじゃないの?」

「だって、まあ今生ではと言うかこの世界ではまあ、俺の親父が神託の女神の親父ってことは・・・。

嫌だけど姉弟・・・兄妹?ってことになるじゃないか。」

「まあ、その概念が通じるならそうなんじゃないかしら?お父様も楽しそうだしね。」

そういってアンジェは笑う。

そうそう、あのクソ親父は本当にアンジェのことを気に入っているので俺にもだがアンジェのことも

猫可愛がりすぎる。

王だったときには父親なんて落とし込むか断罪するか消すことしか考えていなかったが、ここの場にいる

父という存在はもう鬱陶しいほどかまってくる。

本来の父と言うのはああいったものなのかとびっくりするほどに。



「んで、ナディアレーヌの方は神託の対の姉の方の子じゃない?だからナディアレーヌの方の女神も

俺の姉弟・・・ってことになるだろう?」

「まあそうねぇ。ややこしいけど。」そう言ってまた笑う。




「あの姉たちがそれぞれに加護とか与えてるから伝わる意図とかちょっと変わるんだから。

あれはあのクソ親父のせいだともう。」

そういって軽く怒ってるのは、大体エルンが苦しむ時期が12年も出会うのが遅くなったのが

ナディアレーヌが生まれるから絶対に!だからそれまで待つ!と言い張った姉のせいだし。

まあ、今では待ってくれててありがとうって話なんだけど。

よかった、うっかりあの姉がカインとかに加護降らせなくて。

「でも、繰り返しそうやって自分たちの子を幸せに導いているんだからいいじゃない。」

そう言って笑うアンジェに、まあそうか。と思う。

どの世界に生まれても、女神たちの子は同じ役割を持って生まれ変わる。



ついでにいうと俺はもう生まれ変わらないらしい。

ここの親父がそう決めたようだ。

俺はこれからずっとエルンたちが生まれ変わるのを何度もこれから見守る。

そういった位置に来てしまったのだけれどまあそれはそれでいいか。

アンジェもずっと一緒にいられるとあのクソ親父が言うのだからそれでいいか。



「エルンがエルンの間に、きちんと何度か会わせてくれるなら、エルンが幸せに息を引き取ったあとは

繰り返すその運命に付き合ってやる。神のいたずらでもなんでも付き合ってやるから。」

そう言ったルーゼを父たる神が愛おしく思わないはずがないじゃないかとアンジェは思う。

そしてアンジェを気に入ってくれているのはルーゼが自分を選んだから。

それさえも腑に落ちないまま、親の愛に恵まれなかったこの愛しい人はいま、あふれるほどの愛を受け

幸せになろうとする弟を幸せなまま見守っている。



感謝したいのは自分だと、アンジェは思う。

先に先触れのように唐突に一人の時に話しかけてきたお父様。

錯覚だとも思えなかった。当たり前に受け入れたのはそれが神の啓示だったからなのだろうか。



「わが息子が命を失うと、息子が愛している君も命を失う。今生だけではなくずっと未来永劫息子の

側にいたいのなら君も連れて行く。

未来永劫を選べないなら君の命は取らない。でもルーゼは連れて行く。

いずれ私とかわるものだ。だから連れていく。どうする?今選ぶが良い。」



その言葉に一も二もなくうなずいた。



「わたしはルーゼの側にいます。未来永劫。この命を失っても更にその先も一緒にいると誓ってます。」


その言葉に満足そうに笑うその神たる父に一言だけ言わせてもらったけれど。


「でも、ルーゼハルト様の身体がずっと苦しかったこと。この世での父がクソ野郎だったこと。

親の愛を受けられなかったこと。エルン様とこんなに早く離れなくちゃいけなくなること。

それだけは文句言わせてもらいますからね!馬鹿野郎!!」


その私の啖呵を聞いて、破顔したお父様は喜んで私も連れて行ってくれた。



「なあ、アンジェ。とりあえずどっちの神託の女神に嫌がらせに行こうか?」

そんな楽しそうなルーゼを見ながら、わたしも笑う。

「まあ、先にエルン様の方に行って、次にナディアレーヌ様の方に行きましょうか。わたしたちには

たくさんの時間があるのだから。」

そう、もう苦しくない。ルーゼはいくらだって好きなだけ動けるしもう息も切れないし苦しくない。

それだけでもいいじゃないかってわたしは思っている。

「また花を降らせるように言ってやろうか?」

「あまり頻繁に神託を使わせるのはどうかと思うわよルーゼ?」

そう言ってアンジェが笑う。

「でもあの国の王女にだけはエルンをもう二度と苦しめてほしくないよねぇ。そこら辺をどう思ってるか

聞いとかないとねぇ。」

と底冷えしたほほえみを見て、王だったころのルーゼの片鱗を少しだけ思い出す。




愛しいアンヌを残していくのも、影の組織を残していくのも心残りだったけれど。

それでもわたしはルーゼハルト様の手を離すつもりはなかった。

時々まだ、何かをしなければならないという思想に陥りそうになる愛しい人をなだめるのが私の仕事。

「まあまあ、ちゃんと考えてくださるわ。だってもうあと少しでエルン様も抑え切れないほどの

愛を抱えてるんだもの。もうすぐよ。」

それを聞いたルーゼはニコっと笑う。

「そうだよね。じゃあ、とりあえずは・・・ご機嫌伺い行こう!アンジェ。」

可愛い笑顔。美しい人が振りまく邪気のない笑顔はどうしてこんなにかわいいんだろうか。

小さな時から知っている、屈託のない笑顔。ああ、最近こんな愛おしい顔をよくするようになった。





わたしの死の真相は多分きっともう知らせることはない。

神からの掲示だなんてそうそう伝えることでもないし、これはお父様との二人の秘密だ。

もちろんルーゼに言うことは未来永劫ない。

愛している人のそばにいる。

そして笑っている。ずっとそばにいる。

いたずらを仕掛けても、笑っても怒っても、それでもそばにいる。




その幸せをエルン様たちも手にすることが出来る瞬間を私たちは待っているし作り上げていきたい。

そして掴み取ってもらいたいのだ。




「さあ、行こう。」

「ええ、一緒に。」







ふんわりとイヤーカフが暖かくなったのに気が付いたエルンハルトはそっと息をつく。

はあ・・・これはまた見られていたな。

そう思ってちょっとだけ不機嫌にもなる。

29歳にもなる大の大人の男が、仕掛けたつもりが倍返しくらいの勢いで撃沈させられるのを見て

兄は何が嬉しいのだろうか。



最近、小さい時のナディアもよく思い出す。

あの小さな手でわたしの背をポンポンと優しく叩いてくれたこと。

自分の飲んでいる薬でわたしの咳が止まると信じ込んで飲ませてくれたのが本当に何故か効いたこと。

あの可愛かった子が今自分の心の大半を・・・・いやほぼ愛情面では全部を占めていることを。

認めたときから、諦めないと決めたときから。

全部をかなぐり捨ててまで彼女を求めようとする気持ちを抑えるのをやめようとしている今。

どう取り繕えばいいのかも全くわからない。



肩に触れた手を、自らの唇に触れたのは無意識だ。

その後かんだのは思わずその肩に噛みつきたくなったほどの劣情を抑えるため。

自分にこんな欲求があったことにびっくりする。

いつまでわかりやすく大人の男でいることが出来るだろうか。

手を伸ばすことを許されればきっと際限なく手を伸ばすだろう。

そばにいてほしい、抱きしめたい、その思いはきっともう周りにもわかってしまう。



そんなエルンを見て、とっておきの秘密を告げるようにもったいぶったエドの声がする。



「なあ、エルン、わたしはエルローズの婚約の正式な挨拶のために一度エルロッドウェイに行く。

カインが帰る時にエルローズも連れてきっとあの分じゃ帰るときにはグリルフォントの叔父上が

涙に暮れた状態になるだろうしな。カインはきっとエルローズをもうここには帰さないだろうし。」

そう言ってニヤニヤわらう。




「その上で聞いておく。ジョルディ皇に伝えることがあるならその時に伝える。」


言外にさあ言え、望め、それまでに手に入れろ!と煽られている。

そこまで言われると・・・と苦々しく思わないわけでもないが、もうこの気持は抑えられないし

この手からナディアを手放す気もない。


エルンは一度だけ軽く息を吸って吐く。

その後に一気に言った。




「なら伝えてくれ。ナディアを愛していると。愛しているから彼女を正妃に迎えると。」



それを聞いて本当に嬉しそうにエドが笑い、レオルドも破顔する。

やっと言ったか。

本当にそう思われていたんだなと、エルンが苦笑いするほどに正直な二人の笑顔だった。



「それは玉璽をおした書類をしたためて正式なものとなる。わたドゥーゼットとしての正式な

婚姻の申込みだ。間違いないかエルン?」

真顔のエドに、こちらも真顔でうなずいた。

こんなこと冗談でも言えるものか。今まで一度たりとも口にしたこともない正妃の二文字を。



「ああ。決めた。ナディアを手放さない。私からの私心をカインに伝え、そしてジョルディ様にも

お伝えする。そして請おう。ナディアを欲しいと。」



それを聞いて、真顔を崩しホッとした声で柔らかく伝える。

「やあっと言ったか。」

そういったあとに、膝を付き胸に手を当て頭を下げる。

「了解した。このエドガルド・フォル・アズムディル謹んでその勅使承る。

国王の婚姻の申込みは政治でもある。そのあたりは俺に任せてくれればいい。

まあそれまでにレーヌ姫をきちんと落とすように。」



ぐうの音も出ない。しかも申込みをナディアに知らせないままだなんてフェアじゃない。

そう言うとエドはきっぱりとうなずく。そりゃそうだろうと。



「大体があーんな半端な伝え方と触れ方じゃだめだねぇ。もう本気で落とせよ。泣き落としでも跪いても

何でもいいから。プライドなんか無いだろう?29年どんな人にも惹かれなかったんだから

恋の仕方も愛の伝え方もストレートが一番だって、先にそんなことを体験した自分が言うんだから

間違いないって。」

そういって本当にニヤッと笑うからギリギリと奥歯を噛みしめる。



でもそれはきっと正しい。

誰にも本気にならなかった自分がなりふり構わず手に入れたいのはナディアだけだ。

なら足掻こう。




正妃を娶る。



今まで一度たりとも考えたことがなかった。ナディアに出会うまではずっと一人で生きていって

一人で死ぬと決めていた。

彼女に愛を乞う。そして自分の妻になってもらいたいと願うこと。

そしてそれは自分がここで精一杯生きていくと決めたということ。



叔父上にももう心配かけたくないしな。いつ王座を譲りたいと言い出しかねないか心配される甥でよい訳

ないものな。と自重する。

とりあえずはまずはあの目障りな夜会をなんとかしなければ。




「昼餐の場はどこになる?向かおうか。話し合いもせねばならないしな。」

そう言って振り返ると嬉しそうなレオルドの顔に出会い、本当に赤くなってしまった。

「・・・・レオルド・・・何が言いたい?」

「いいえ。我が君。あなた様が決めたことが嬉しいのです。」

「いつも通りに話せばいい。」




「エルン!その意気や良し!」

そう言っていきなり抱きしめてきた兄とも呼べるずっと見守ってくれた人の背を叩く。

「まだナディアに伝えていないしうなずいてもらえるかもわからないけど。でも、わたしはどんな手を

使っても彼女をはなさない。」

そう、いざとなったら離れないでくれと懇願することだって考える。

深く好きになってもらうことは直ぐにできなくても。

彼女の好意を得られるように、なんとか意識してもらえるように。



そしてわたしはもう離す気はないのだから。





エルンは知らないのだ。

ナディアレーヌが自分を愛してくれていることを。

周りから見ればとんだ遠回りなんだが。



一歩を踏み出す自分の主をそれは杞憂だと言ってあげたいのをぐっと堪える。





そして物言わぬ家具たちも影たちも。

ぐっと拳を握りしめて喜びを噛み締めていたことをエルンは知らない。

知らなくてもいいのだと、むしろ知られてはならないのだと。

それは彼らの愛情とプライドなのだから。




「さあ、エルン行こう。姫が待ってる。」

「ああ。」





スッキリとした気持ちでグレーのシャツから白シャツに着替えたエルンは自分の気持ちを隠さないように

しようと決めた。

アルザックたちに自分の胸元にテスカの花を足すように。そしてその花弁を淡紅色に。

袖口の小花の中にも小さくテスカの花を忍ばせるように。

時間は少ないがなんとか叶えてくれ。



という指示を聞いたマードル兄妹もガッツポーズをしたことを。



同じくしてナディアレーヌからもどこかのテスカの花の刺繍にこっそりと淡紅色を混ぜてもらえないかと

頼まれたこと。エル様の髪色そのものと瞳の色を入れてくださりありがとうございます。と。

そしてそれを聞いたマードル兄妹たちが歓喜に震えて膝から崩れ落ちたこと。




それらはエルンもナディアレーヌも。



また知らなくていいことだった。






さあ、いつ話し合いできるんですかねぇ。長らく話し合いせずに申し訳ありません。

実は次も話し合い出来ません(笑)なんだそりゃ。

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