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目を引くなんてものじゃないと気づいたとて遅すぎようが指針は決まる。

黒地に鮮やかな刺繍が入っているとゴージャスですよね。

ということで、おそろいにしたかったと言うだけの話なんですけれども。

「さあ、わたしに見せてくれ。」




そういって少しだけ懇願するような甘えるような表情だったのを思い出し。

別室に移動して新しい出来上がった素晴らしいドレスをみやる。

アンヌにデイドレスを再度脱がされながらちょっとだけ顔が赤くなるのがわかりました。


わたくしだって女の子なのですから、そりゃ好きだと気がついた方に少しでも可愛いと思ってもらいたいですし・・・。

それにエル様が送ってくださったこの美しいドレスは見せるのが惜しいような気もしましたが、一番に

見ていただきたい気持ちも勿論あります。



「アンヌ、カレン、あの・・・お化粧は今と大きく変えなくてもよくてよ。あのね、でも・・・。

今日エル様はグレーのシャツをお召になっていたでしょう?

少しだけそれに合わせて大人っぽくなることはできる?ちょっとだけでいいんだけど・・・。

ほら、わたくしは銀の容量が多いでしょう?そんなに気にすることはないのだけれど、わたくしその・・・。子供でしょう?エル様よりも12も歳が下ですし。

エル様の隣にたっても少しだけ気後れしないくらいには見れるようにしてもらえないかしら?」




それを聞いた侍女二人はピキッと一瞬かたまった。

この・・・この世の美を集めたような美しい年若い淑女が何を言った?と。

この国の影であるこの二人はもちろん諜報とともに自分の姿を変えるために化粧も得意だ。

どのような姿形にでもすることができる。

が。

この主と仰ぐにふさわしい、そして今後一生お仕えするだろうこの姫君。

エルンハルト陛下がこの美しい人を、優しい人を離すはずがないとわかっているアンヌはすぐに気力を

立て直して穏やかに伝えた。



「ナディアレーヌ姫はいつもそのままでもお美しいですわ。エルンハルト陛下のほうが霞むことでしょうとも。」

「まあ、アンヌ!何をいうの!エル様ほどにお美しい殿方はいらっしゃらないわ。お兄様たち以外には。」

「ええ、もちろんフレディ様とカイン様もとてもお美しゅうございますが、我が国の太陽は少しだけ

色味が違いますものね。」

そういうと、きちんとコルセットを締めるために両腕をゆったりと上げてくれた姫様が笑った。

「本当に。そうね、兄様たちが銀色だものね。エル様は暖かな太陽のような柔らかな金だわ。」

そんな穏やかなことを言うのは実際ナディアレーヌ姫しかいないというのに・・・。



そう思いながら二人の侍女は締め付けることさえ必要ないほどの細い腰に感嘆の息を吐きながら

軽めにコルセットを締める。

無駄な肉なんて何もない、スッキリとして美しい筋肉を纏うしなやかな身体。

その線は少し細いながらも、多くの人々の目を奪うものだとそろそろ本人にも理解してもらいたい。

どれほどの方々がこの姫様のお美しさに惑わされるだろうかと思うとほくそ笑む思いと、表面だけを

見る輩に見せたくないという気持ちも湧き上がる。



ナディアレーヌ姫は稀有な主人であると思う。



「あと一週間しかないのだけれど、エル様がお忙しくてちょっと話を詰めていられないのだけれど・・。アンヌ、レオルド様たちとのすり合わせとエド様との音楽や料理の打ち合わせはどうなってるのかしら?

わたくしは差配することはないのだけれどできるだけお料理と飲み物はエル様が手に取る物はわたくしが

わたすものだけにしたいのだけれど・・・。」

そういいながら、ドレスを着せかけられながらナディアレーヌ様は小首をかしげる。

その様な表情もとてもお可愛らしく、年相応ながら話している中身は我が国の太陽の身を護るすべを話し合っているというこの高低差。

もはや今着付けているドレスとの温度差に彼の国の媚薬王女なんか消してしまえばいいとまで影としては思うのだ。が。



それは口に出してはいけないのでぐっと我慢する。

そして柔らかな口調を心がけながら姫に話しかける。

鏡越しにとは言え、お美しい吸い込まれるような紫色の瞳に吸い込まれそうな気さえする。



「この後の時間を取りましてではお話し合いをされるのがよろしいかと。

昼餐をとりながら先に陛下とお話されますか?そちらにレオルドもおりますし、エドガルド様には

先触れを出しましょうか。よろしければその場に料理長を呼びましょう。それでよろしいかと。」

少しだけ考えた姫様はうんとうなずいて、「ではそのように。」

そういって、私達にお支度を任せてくださいました。




「本当に美しいドレスよね。マードルのドレスを着るのはとても名誉なことなのよね?」

そのナディアレーヌの言葉にアンヌは軽くうなずいてそのとおりだと伝える。

現にナディアレーヌ、エルンハルト、エルローズのドレスなどを仕上げるために他の注文はもう受けずに

いたという。

もともとエルンハルトの夜会服をつくるということで仕事は抑えていただろうから、この夜会が決まった

時にはもうマードルはエルンハルトに集中するために今回のドレスをどの一着も受けていなかった。

そのため、マードルのドレスを着るのはとても名誉というか物理的に無理なのだ。



もちろん時期がずれればドレスを作ることはできるし、簡易的な既製服のドレスは売っている。

そちらのほうは修業に入り、人に売るものを作ってもいいと許可が出た若い人材を育て上げるための

マードルの取り組みであり、その既製品であってもマードルの手法はこれでもかと取り入れられている為

大人気でもあり、数もそうあるわけじゃない。

商売として成り立つのはその若い職人を育て上げる手腕と、数少ない注文を必ず成功させる胆力。

そして、その希少さからマードルはマードルたるのであるということをアンヌは柔らかに伝える。



「そうなのね。恐れ多いけれどとても嬉しいわ。」


そういって頬を染める美しい皇女の支度をしながらアンヌは思っていた。

エルンハルト陛下の心臓は持つのかしら?と・・・。





ときは少し前。

エルンハルトがマードル兄妹に先に衣装を見せてもらっていた時の話である。




マードルのドレスは今まで王室に卸されたことがなかったのだが。

まあ、それはおもったよりも高かった。

高かったがエルンハルトは非常に満足行ったかのようにその場できちんと謝礼金とドレスの料金を払い、

それ以上の褒美として、今後のナディアレーヌのドレスの発注もするという約束もかわしている。

そして今回のドレスももちろん想定の金額以上の色もつけてマードル兄妹に支払われた。



大盤振る舞いであった。

後ろで払うための手続きをしていた侍従が青ざめるくらいには。



有り余る資産を今まで活用してこなかったエルンハルトには実際どれだけ使っても使い切れない資産と

それからどれだけでも運営をしている土地、家屋、資産がある。

個人だけでも国の運営費と変わらないほどの資産が。

実際本当に国王の地位に全く未練のないエルンハルトにとっては自分が持っている領地に引っ込み

誰とも会わずに静かに息を引き取りたいとつい事の間まで考えることもあったくらいだ。



もちろんのこと国のことを放り出すことも本当にはするつもりもなく。

自分のこの銀眼を隠しながらきっと国のために尽くして自分は死ぬのだろうと思っていただけだ。

いつもいつもどこか乾いていたエルンハルトは水を得た魚のように今後ナディアレーヌにつぎ込むだろう

とエドガルドは思っており、その一端としてはまだはした金である。

でもそう使わせてももらえないだろうな、とも思っているのがエドガルドである。

レーヌ姫は自分の着飾ることに重要視せず、そしてもともと恵まれていたからこそ執着もない。

簡単にエルンはドレスなんかプレゼントさせてもらえないだろうな、とエドガルドは理解している。

そしてそれはエルンには言わない。



自分の敬愛する王が生きるのぞみを見つけたのだ。

乾いていたあの心を潤してくれる存在を見つけたのだ。

ならば自分はその方をはなさないようにと外堀を埋めるまで。

エルンハルトには最強の参謀がついているのだ。




まあ、たしかにではあるが。

侍従が青ざめたのはこういったことに使うことがそうなかったため、服飾専門の侍従がなれていないだけ

である。

運営や資産の管理の侍従にとっては小銭ほどの動かす金額であるが服飾部門としては桁がいつもと違う。

そのため今後のことも考えて若者も登用しているのだけれども緊張は隠しきれていなかった模様である。

そして確実にエルンハルトはナディアレーヌにプレゼントを買い与えていくはずである。

それは経済を回す効果もあり、そして結局はエルンハルトの資産運用となっていくのだけれども。



その仕組を考えていくのはこの今青ざめている侍従であるけれども、この侍従はナディアレーヌの友であるユーリスの想い人である。

その話はまた別のお話があるのだけれども・・・。



ナディアレーヌのドレスの件については勿論口約束ではなくきちんとした契約である。

きちんとした契約書を以て成ったものであり違えるものではないのだ。

そしてマードル兄妹は今後。という言葉に軽く震える。今後がある。それは確約された未来。




「励むように。」



そう言って笑う獅子の顔が、もはやハンターのようだったとは兄妹はとても言えなかったが。

このドレスがきっかけになりお若いお二人の踊りに彩りを添えることができるようにとそれだけを思う。

もちろんこのドレスはエルンハルト陛下はナディアレーヌ姫よりも先に目にしている。

自分の黒の墨色のような黒とは違い、少しだけ明るみを感じる軽めの黒のナディアレーヌ姫の衣装には

裾の方にも全体にもテスカの花が刺繍で入っている。

そしてその刺繍の色はエルンハルト陛下の髪の色だった。

ソフィアン渾身の染め上げたその絹の糸は惚れ惚れするほどの美しさだった。

そしてそのドレスの刺繍はまるでエルンハルトの腕が触れるところに抱きしめているかのように入っているというもので。



少しやりすぎたか?と、ソフィアン自身は思っていたけれども自分の色をまとわせようとしたこと。

そしてマードルのドレスを着せようとしていること。

初めて女性に送るドレスだということ。

それを控えめに考えても、許されるだろうと思ったのだ。

そして、もちろんのことエルンハルトの衣装にも対になるようにこっそりと刺繍を入れている。

墨色の黒に少しずつポイントのようにナディアレーヌ姫の瞳の色を入れさせてもらった。

そう。ダンスのホールドをする時にその刺繍に沿うように華やかな小花を袖口に。

そして、手を取った時に身体を近づけるときに少し胸元に。

墨色に溶けるようにラベンダーを入れて、そして銀糸を足した。

銀糸を減らしたのはナディアレーヌ姫の髪を下ろすことを考慮したことと、派手になることを喜ばない

陛下のためであった。のだけれども・・・。



マードルの刺繍を手掛ける上で全神経を傾けてデザインし、組み合わせ、そしてわかる方にはわかるよう

対にしてみたのだ。分かりづらく、わかったならば納得できるようなデザインにした。

そして胸元につながる刺繍にはエルンハルト陛下の瞳の色のダスティーブルーに少しずつ変わるように

刺繍を施した。

そう。文字通り渾身の一作でありこれは連作でもあるのである。



エルンハルト陛下とナディアレーヌ姫のドレスは対になるように。

そしてナディアレーヌ姫のドレスとエルローズ様はこれまた対になるように。

だけれどもエルンハルト陛下の夜会服とは同じように見えないように。

もう、振り絞って考えた。もうみんなで必死で考えた。考えに考え抜いた上のデザインである。

そして、エルローズ様のドレスが出来上がった際プレゼントとしてカイン皇子にもテスカの花をモチーフ

にしたタイを贈らせていただいた。

こちらはエルローズ様のドレスの胸元。左胸のあたりのテスカの花には花弁には薄紅色を。

そしてカイン皇子のタイにも同じモチーフを。



悩みに悩んだ挙げ句の命を永らえる方法を考えついたものだと、マードル商会全体で安堵の息をついた

これまた渾身の作だった。

確かにナディアレーヌ姫のドレスを見たら妹を溺愛する兄は激ギレするだろうと思うのだ。

聡い人がわからないはずがないくらいの対の状態である。

だがしかし、愛しの婚約者も妹と同じに色違いでデザイン違いではあるが・・・。

あのテスカの花の刺繍をまとってくれるならまだお会いしたことがないかの美貌の皇子も少しは和らぐ

・・・のではないかと・・・。


それをエドガルド様にお伝えしたところとても良い。と笑顔だったので・・・。

マードル兄妹はエルロッドウェイに睨まれることはない。と、信じたい・・・。

と、軽く空を仰いだのはつい先日のことであった。





さて、エルンハルト陛下の方だけれども。

その衣装の説明をしてどちらのほうがホールドするか、そして身体を寄せるのはどちらのほうかと

少しだけアルザックがエルンハルト陛下に聞いたところ。

では、一度ナディアに着せてみたいと言い出したのだ。

アルザックとしては最後の仕上げにほんの少しだけテスカの花に色をたそうかと思っていたのだ。

わかるかわからないほどに淡紅色に染めたダスティーブルーの糸を一指しだけ。

わかる人にわかるほどの、その魔法をかけようかどうしようか迷っていたのだけれども。



そして兄妹は本当に敬愛するこの国の太陽たるエルンハルト陛下がかの姫を。

大事そうに「ナディア」と呼ぶことを聞いた。

聞いたのだ。それはもう、エルンハルト陛下が自覚しているだろうかはわからないけれどもとてもとても

甘い声で。




驚愕である。

商売人として職人としてあらゆることを想定しているがこれは衝撃が強かった。

だがそれらを振り払い、最後に一指し仕上げの色を入れたいのだけれど、エルンハルト陛下との対に

なるように作ったものだからと、できればどちらの衣装にも少しだけ色を足したい。

と、伝えるとわかりやすく場所はどこだ?と聞かれたので、ダンスを踊る時に重なるようになる場所

なのでナディアレーヌ姫は胸元。そして陛下は袖でしょうか?と伝えると・・・。



では、場所を決めるためにはナディアに着てもらわなければな。

とご機嫌になった。それはもう本当に見たことがないほどにご機嫌だった。




いや、プレゼントしたドレスを着た姿を先に見るなどと、それはどんなことなんだ?

と、アルザック的には思うところはある。

着た姿はプレゼントと一緒だ。

最大級のお洒落をした姿を見せたいものだと一言声をかけようかと思った。思ったけれども。



あまりにもニコッと年相応の笑顔を浮かべている太陽の笑顔たるや。

曇らせるわけにもいかないだろう・・・。


そう納得し、ナディアレーヌ姫様申し訳ありません。と心のなかで謝っておく。

スポンサーであるエルンハルト陛下の意向をすべて叶えるのがアルザックの仕事である。


テスカの花の話をエドガルド様に聞いたのか、エルンハルト陛下から下問があった。

淡紅色を足すのか?と。

・・・バレているとは思ったが軽くうなずくとそれはそれは美しい微笑みで侍従に頼んだ。

「ああ、アルザックたちに更に東方の国から贈られた絹があったな。大変美しいものだった。

それを褒美に取らせよう。手配するように。」

その言葉を聞いて、侍従たちが動き出す。

「ああ、だがわたしの袖口と胸元にその色を足してくれないか?ナディアにはまだ渡していないから

彼女の胸元には控えめに。カインに叱られるかな・・・フレディもか・・・。」

そういってくくっと笑う。




あまりの色気にソフィアンが倒れそうになるほどに慄き、アルザックでさえ息を呑む。

かの美しい姫はここまで我が国の太陽の心をつかんでいるのか・・・。


と。




そしてその二人の更に度肝を抜くことが起きるのだ。

直接聞いたソフィアンが動きが止まったのは・・・。

「エル様。」とナディアレーヌ姫が呼んでいることを知ったソフィアンのこれまた驚愕たるや。

陛下は基本女性に名前を呼ばせることはない。許すのは自分の地位に近い方やわきまえている淑女。

それから身近におられる方々でさえエルンハルト陛下と呼ぶことはそうない。



自国の王を愛称で。「エルンハルト様」ではなくしかも聞いたことがない愛称だ。

ということはそう呼んでいるのはナディアレーヌ姫だけ。

すなわちそれを許し、それを呼ばれてよしとされているのはこの御方だけなのだ。



驚愕。何度目かのディープインパクト並みの驚愕であった。


周りにいる侍従、侍女、それ以外の仕える人々の声なき声のうなずきを聞いた気がしたのはこれまた秘密である。

もちろんのこと周りの使えている侍従たち、侍女たちはそれを強請ったのは太陽たる王であることを

知っているが勿論のこと口にするものはいない。

そしてその事実を知るのはもう少し先のマードル兄妹であり、もちろんのことそれを知ったとしても

マードル兄妹とその配偶者だけの共通の秘密となったのである。





「本当に美しいし・・・軽いわ!」

そういってくるっと一回転したナディアレーヌ姫の動きを見てアンヌやカレン、そしてサラは笑う。

そう。淑女のドレスは本当に重い。

これに更に重みのある宝飾品が体にかけられるのだ。

その上で踊らなければならないし、そしてさらにいつもは走れる程度の5センチのヒールを愛用している

ナディアレーヌだけれどもドレスの際には9センチヒールを履く。

ナディアレーヌは体幹もあり鍛えてもいるのでそんなに辛くもないのだが、他の令嬢たちは大変だろうと

ナディアレーヌは思っている。

それに、あまりにも高いヒールは履き続けていると体調を崩すのに・・・。

とこっそりと思っている。



「靴もかしら?」

「マードルのソフィアン様が刺繍を少し調整したいからとおっしゃっておられたので陛下とのバランスを

見られるのであれば靴もそのヒールの高さをお召になるべきかと。」

それはそうである。靴が違えば支える場所が違ってくる。そうするとバランスが崩れるためにソフィアン

には死活問題である。

その辺を汲んでいるアンヌとサラはきちんとしたヒールを目の前に揃えた。

「ううう・・・わたくしあまり高いヒール好きではありませんのに・・・。」

「知ってますがそういったことを仰るなら皇后様に一言蝶を飛ばして・・・。」

「いえ。わたくしとっても9センチヒールが履きたい気分ですわ!!!」

サラはくすっと笑う。

「それはそれは。もちろんのこと毎日報告はしてますけれども・・・。」

「え?」

「は?」



そうやってびっくりした顔を向けると、サラはごく当然のように伝えてきた。

まあ影も蝶もちょうど中間地点で報告をし合っているとは思っておりました・・・。

「まあ、キュリア様が頻繁に行き来されておりますしね。」

「え?キュリア様が?」


カインお兄様に心酔しているというキュリア様ですがあの様な華奢なお方ですが大丈夫ですの?

とアンヌに聞いてみたら・・・。

「わが息子はそのように繊細には出来ておりませんし、あの子も実際アーノルドやレオルドのことを

慕っておりますし。勿論シェリィと手合わせもしておりますわ。」

まあ、わたくしにはたどり着けませんけど。と笑うアンヌの壮絶な美しさに背筋が凍ってしまいそうですわ。



影の長たるアンヌには隠密行動ではたどり着けない模様・・・。

ドゥーゼット恐るべしでありますわね。

その代わり表立って会えるレオルド様にはきちんと会えているということでしたわ。

良かったですわ・・・レオルド様本当に家族大好きだって接するたびに思い知らされるくらいには

キュリア様がいらっしゃらないことを寂しがっている模様。



まあ、それもアンヌとシェリィが話してくれるのですけれども。

それにしても頻繁に行き来というのも大変なことではありますわよね。でもそれにも事情があるのですわよね・・・要はカインお兄様に頼まれてエルローズ様に接触するため。

ですわよね・・・。

そういうと、それもありますが勿論のことあのお兄様のことですよ?レーヌ様のことも気にかけるに

きまっているではありませんか!と本気で呆れられた。

気が付かなかったのか?と・・・。


なんと・・・。

筒抜けということはあの撹拌の実験をしたがりアーノルドを困らせたことも筒抜けかしら?

「当たり前ではありませんか。レーヌ様のことは全て筒抜けですわよ。カイン様が行くまで待て。との

ことでした。それからこの夜会が終わったらやっと映像が解禁されますのでそれまでがんばってくださいね。」

「映像・・・え?!お父様やお母様。お兄様たちにお会いできるということ?」

「はい。」



そういってサラはニッコリと笑う。



カインが今回やって来る時に、画像でも繋がれるようにエルロッドウェイの魔術を凝らした媒体になる

鏡のようなものを作るのに成功したと聞いたのは少し前のことだったのに。

もう実用化に踏みきってきたのかしら?とナディアレーヌはふと思う。



「ああ・・・カインお兄様が我慢ならなかったのね?」

その言葉にサラはくすっと笑う。

「まあ、それもありますがフレディ様とカイン様。それからジョルディー皇とローズリー皇妃様の

ご意向です。みなさまレーヌ様のことを溺愛されておりますので。」

「それにしてもこの国につながるものを置くことをエル様はお嫌ではなかったかしら?」

そのわたくしの言葉にアンヌが笑う。

「何をおっしゃいますか姫様。陛下がナディアレーヌ様のためになることを厭うことはございませんわ。」

「ではこちらの方に持ってきてその魔術を展開してもかまわないとおっしゃったと?」



なんと太っ腹なんでしょうか、エル様は。

びっくりします。

魔術をこちらでも展開すると、少しだけこちらの空気、風土にある魔素に触れて媒体を作るのです。

わたくしの場合は主に薬草になるのですが、それらを国外に出すのも初めてのことですし、それを

説明し受け入れてもらった国があるというのも驚きです。

魔素を知れば土をしれます。

そうすれば医療国の我が国ではどの様な作物や薬草が育つかがわかっていくことになります。

それらはドゥーゼットの宝ではないのかしら?とも思ったのですが・・・。



「我が国の国王陛下はナディアレーヌ様の為になることは全て叶えるでしょう。」

そういって微笑むアンヌに少しだけびっくりしてしまいましたわ。

わたくし、そんな価値もないし、治したあかつきにはこの地を去らねばならないというのに・・・。

「そう?」

それだけ言ってわたくしは少しだけ悲しくなってしまいましたわ。

でも、お茶の木も手に入れてしまいましたし薬草園も手に入れてしまいましたし。

そして今度は魔術展開してエルロッドウェイに帰ることがなくても両親にも兄にもお会いできるように

なりましたわ。

わたくし、こんなに甘やかされてもよろしいのでしょうか・・・。



「エル様は治ったらわたくしのことなどいらないでしょうに・・・。」

そう小さくつぶやくと固まるように顔をこわばらせたアンヌが首をゆっくりと横に振りました。

「ナディアレーヌ姫、得難き人はそのようなことを口になさらないでくださいませ。わたくしは・・・。

わたしはあなた様が大好きにございます。」

そういって少しだけ結い直し、もう一度つけられた一番最初にもらった髪飾りに触れ、わたくしの頭を

ゆっくりと撫でてくれました。

母に長らくあえてないわたくしは少しだけ嬉しくて、照れくさくて、笑ってしまいました。

「そうね、エル様はわたくしにそんなことはおっしゃらないわよね、いらないなんて。」

「はい。そんなこと思ってらっしゃいませんわ。わたくしが保証いたします。」

そういってわたくしの手を取ってくれました。



「さあ、姫様。その美しいドレスと姫様の笑顔を我が王に見せて差し上げてくださいませ。」

そういって淑女の礼を取るアンヌは。

何故か時々エル様が見せるようなちょっと怖い目をしていたのだけれど・・・。




姫の手を取りながら歩く。その時に通り過ぎ前を歩くように足を早めたカレンを見ると・・・。

カレンも力強くうなずく。

離すものですか。

それはこの国のエルンハルト陛下のそばに仕えるものの総意である。

エルンハルト陛下が望まれた唯一の方なのだから。

姫の隣を歩くサラを見ると目が会い、肩をすくめてちょっと笑っている。

ナディアレーヌ姫。

得難きこの少女は自分にどれだけの価値があるのかわかっていないのだろうかと頭を抱えたくなる。

その映像を映し出せるものをこちらにも置いてもいいと言った意味を姫はわかる日はもう少し先だと

わたしは思っている。



エルンハルト陛下はナディアレーヌ姫を返さないと決めた。

そしてエルロッドウェイのジョルディー皇はそれを了承したという意味だ。

あとはナディアレーヌ様だけの問題である。


だがそれが覆るためにはエルンハルト陛下に頑張ってもらわねばない。

わたしよりも歳下の、弟のようにも思っている大事な主のため、そして大事な姫様のために。





ドアを開ける瞬間のエルンハルト陛下の顔を想像すると。

自然と口角が上がってしまうのも許してほしいと、影の長であるアンヌは思うのだった。





「エル様も着てくださったのですか?」


自分が着付けてきただけだと思ったのに、目の前には黒よりも墨色に近い深い黒の夜会服をまとった

美丈夫がいた。

驚くほどに美しく、驚くほどに纏う空気は艶っぽくてナディアレーヌは正直真正面から見ることを

ためらうほどだった。



それに思ったよりも・・・。



「エル様・・・あの・・・わたくし今気がついたのですけれども・・・。」

「なんだ?ナディア?」

そういって美しく笑う大好きな人は滴るような色気を纏ってわたくしに近づいてくるものですから

こちらとしては本当に息も詰まるというかなんというか呼吸がしづらいというか・・・。

わたくしの手を取り、安心しろといった風にくすっと笑うエル様に正直に言うことにいたしました。



「あの・・・これだとわたくしたちとても・・・ひょっとしてお揃いのようにも見えますでしょう?

あの・・・今気がついたのですけれどもとてもとても他の方々の目を引いてしまうのではないのかと・・・。」



その言葉に周りがピシッと固まる。

今更か?と。



もちろんの事本気でそう言っていると周りの人間はわかっている。ナディアレーヌという人となりを

分かっている侍従、侍女、影、なんなら表立ったレオルドやアーノルド、エドガルドだってわかってる。

分かっているがそれを口にして今の今気がついたというナディアレーヌの箱入り具合に。


みんなが固まったのである。



そしてそれは本当にそうだったのか?と、本日何度目かもわからないディープインパクトを受けている

マードル兄妹の心を打ち抜く一言であった。

一生お使えしようとソフィアンが口にしてしまい、うっかりとうなずいてしまうアルザックの行為に

侍従たちだって追従したい。追従したいが慣れてしまってもいる・・・。



もう、早くどうにかなって欲しい。

それが身の回りの人間の総意なのだから。



それに気がついているだろう太陽たる国王陛下は、初心で可愛らしい想い人をこれ以上ないくらい

愛しいと伝わるだろう瞳で見つめているのだけれども、肝心のその姫が慌ててしまっていて目が会わずに

クスクスと笑っている。



「ナディアはいやか?わたしとお揃いだと思われるのは?」

そう言って視線を上げるようにと促すと、真っ白な肌を淡紅色に染めて恥ずかしさ故に潤んだ瞳でみあげられるという・・・。

エルンハルトにとって息の根を止められるほどの攻撃を受けたのだけれども。

なんとか大人の余裕で受け流す。受け流せているかはわからないけれども。

指先まで薄紅色に染まったその少しいつもよりも高い体温の手を取り、ゆっくりと視線を合わせ口づける。

ああ、かわいい。これが愛おしいということなのだろうと思う。

この薄紅色に染まったその体も、自分がそうさせたのだと思うとほの暗くも満足感を得る。

どうしようもないな、わたしは・・・。




「ナディア、こっちを見て。こっちを見てくれないか?」

そう言うと恥ずかしいのかずっと視線を合わせてくれない。軽く目線はあってもすぐに逸らすナディア。

恥ずかしいのだと全身で言っているのにそれをわからないふりをしてもう一度手をぎゅっと握る。

逃がすものか。

わたしのものにするまで全部、全てをわたしのものにするまでわたしは手を抜かないと誓ったのだ。

「どうして目をそらすのか?それではわたしは寂しい。」

そこまで言うと、ナディアは軽く震えながらわたしに視線を合わせる。

「いや?わたしとお揃いは?」

そう聞くと、首を横に降ってくれた。美しい銀の髪がふわっと揺れる。

「エル様は嫌ではありませんの?わたくし地味にしようと思っただけなのです。このようにお揃いに

なるなんて本当に思ってなくて・・。」

「ふふっ。ナディアはそうだね。わかってなかっただろう?」

うなずくナディアに安心させるように再びそのギュッと握った手をゆるく握り直し、その指先にチュッと

音を立てるように口づける。



流石にアンヌから咳払いが聞こえたが・・・。


知らないフリで押し通す。


「この美しいドレスを着て、わたしと共に踊ってくれるだろう?そしてわたしを守ってくれると。

あなたはそう言ったではないか。」

少しだけ拗ねたように言うと、顔を真赤にしたナディアが見上げて言う。

「勿論お守りしますわ!わたくし、エル様をお守りします!!」

そうだった!と思い出したかのように守ると言い切る愛しい人を腕の中に抱きしめる。

慌てたようにナディアの肩が跳ねる。

それを顎で軽く押さえ、肩に顔を埋めて耳元で囁いた。



「ナディアならそう言ってくれると思っていた。少しだけ踊らないか?音楽はないけど、少しだけ。」

抱きしめられて更に体をこわばらせながらも真っ赤になっている想い人の肩から顔を上げ。

きちんと、更に抱きしめる。

ああ、花の香りだ。

これはナディアから香る、愛おしい香りだ。胸いっぱいにこの香りだけを満たしたい。

わたしのそばに置きたい。わたしのものにしたい・・・そう思って軽く笑う。

自分の気持を抑えられるのはいつまでだろうかと、怖くもなる。

そうなる前に落ちてきてくれないだろうか、わたしに・・・。



抱きしめた腕を離し、軽くホールドを取ると踊るのだということを理解してナディアが嬉しそうに

手を取り体を寄せる。

自分から体を寄せてくれた事実に震えるほどに喜びを感じた。

再び抱きしめようとしたのをアンヌの再びの咳払いがして、我に返る。

これ以上は許しませんからね。と、アンヌの無言の圧力と。

笑いをこらえているエドとロウの顔と。

死んだように無表情のレオルドとアーノルド。

楽しそうにしているのはサラくらいか。


まあ、これ以上は許されないだろう。


そう思って視線を投げると見てませんというように目をそらすアルザックとソフィアン達を見て

思わず笑う。

あとでエドに箝口令を敷いたほうがいいのか放おって於けばいいのか相談しようと決める。

エドならそのままでいいといいそうだ。



ホールドをしたまま動き出さないわたしの動きにキョトンとした顔でナディアが見上げている。

「エル様?踊らないのですか?音楽がないから難しいですわよね?うーん・・・。」

「いや。大丈夫だ。今日は体調がいいがそうだな、軽く踊るだけだからワルツのおさらいをしようか。

ナディア、良いか?」

「はい!ワルツでもクイックステップでも、なんならフォックストロットでも大丈夫ですわ。」

「音楽無しでフォックストロットはちょっとタイミングがずれそうだな。普通にワルツで。」

そう言うとナディアは嬉しそうにわたしのリードに合わせる。




ソフィアンが刺繍を入れる場所をきちんと見定めようとしているのを感じて、視線を向けると軽く

うなずかれた。

思った通りわたしの袖口とナディアの胸元。そしてわたしの胸元にも薄紅色が染まることだろう。

わたしの夜会服はテスカの花ではない、小さなバラをモチーフにさしてあった。

なるほど、わたしは薔薇のお茶を好むからだろうかと思ったが、わたしのイメージがそういった華やかな

ものだからだとアルザックに言われなるほどと思った。

汗をかくほどに踊る訳にはいかない。このドレスの仕上げは当日に持ち越されると先程決まった。

ナディアには知らせず、わたしだけが楽しみに待つ秘密だ。



「エル様、お上手ですね。わたくし兄たちや父、ロウ以外と踊ることは本当にほぼなくて。エル様は

とても踊りやすいです。夜会の日も踊っていただけますか?」

そういって笑うナディアの身体を持ち上げる。

くるっと抱き上げて軽くリフトをして、その腰の細さにびっくりしてしまった。

それなのに全くブレずに空中で笑い、そして華やかにコツっと言う音一つで床に降りる。

「エル様楽しい!たのしいです!」

そう言って子供のように笑う愛おしい人の屈託の無さに微笑んだ。

わたしが驚くほどに細いのに、わたしが思うよりも強靭な体と心を持つ12歳も年下の愛しい人。



「わたしはもうあなた以外とは踊らない。」

そう言うと、ナディアは不思議そうな顔をする。

「そんなわけには参りませんわ。国王陛下は社交をなさらねばなりません。」

そう言うとナディアは、それでも少しだけ不安そうな顔を一瞬して、それを打ち消すように笑う。

「ナディア、わたしはドゥーゼットの国王なのだよ。踊りたい人としか踊らなくても許される。

そして、それ以外の選択肢はわたしにはない。

あなた以外とは踊らない。あなただけだ。」

そういって軽く抱きしめて、あっと思ったときにはくるっとターンをさせられている。



「ナディア、さあ踊るのは終わりだ。昼餐を取らねばならない。話し合いの時間だ。」



先程の言ったことはもう繰り返してはくださらないし、それに対しての質問は受けないと言っている。

それくらいはわたくしにだってわかります。

わたくしとしか踊らないと、エル様はおっしゃいました。

そのようなことできっこないのに、そう言ってくださったことがじわじわと嬉しくて。

大好きだという気持ちが大きくなる。

ああ、わたくしはこの方が大好きで独り占めしたいのですわ。

わたくしがお側にいれるのはあとどれくらいなのでしょうか。わたくしはこの方と離れても平気なのか

わからなくなっていまいりました。

お側においてくださいと・・・口にしそうになりギュッと口をつぐむ。




ああ、どうしようもないほどに、わたくしはこの方のことが。


すきになってしまったのですね・・・。






「ナディア?」

そう言って心配したように顔を覗き込み、ニコっと笑えば安心したように微笑んでくれる美しい方。

わたくしの髪をサラリと梳くその長い指が。

わたくしを求めてほしいと。だれにも渡したくないと、好きになってほしいと。

そう思った瞬間。

好きになってもらえるように頑張ってみようかとおもったのです。

そうですわ、わたくしが好きなのは変わらな事実。ならば、好きになってもらえるように努力しても

良いのではないでしょうか?



まずは彼の国の王女からエル様を守らなければなりません!!




「エル様、わたくしもお兄様やお父様、ロウたち以外とはエル様としか踊りませんわ。決めましたわ!」


そう言ってエル様の美しい瞳を見上げて笑うと。

本当に嬉しそうに子供みたいにエル様が笑ってくださったので。




わたくしはわたくしの好きを頑張ることに決めたのでした。







ぐいぐいくるエルンハルトのくせにはっきりと言葉にしないもんで、ナディアレーヌは

自分で決めちゃいました。

好きになってもらえるように頑張ろうと。

この二人、ナチュラルにもうイチャイチャしてるんですけど書いていて楽しいです。

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