お茶会は恋が実る場所でもありますから!
お茶会の始まりはわちゃわちゃしますわよね!とナディアなら開き直ると思います!
エルロッドウェイの珠玉の皇女にお会いするのは。
ドゥーゼットの頂きたる国王陛下にお会いするのよりも難しい。
それがナディアレーヌがあの夜会に出てからこっち時間がいくら経っても、どれだけ謁見の申込みをしてもはねられてしまう状況を鑑みた貴族たちの結論だ。
なんのことはない。
もともとナディアレーヌは社交を嗜むタイプでもなく、過保護なエルンハルトがすべての管理を
エドにするようにと頼んだ結果。
ロウとともに毎回辟易するお茶会、夜会の招待状をばっさばっさとはねていくだけの話である。
エドにしてみればエルンへの取次などという下心込みの謁見や茶会の申込みなど言語道断。
もはやエルンハルトの唯一とも言えるナディアレーヌを政治のコマに使うなどという気も欠片もない。
一日三回の薬をエルンに手づから運ぶ美しい少女。
そしてお茶を楽しむ時間をこよなく楽しみにしている心優しいナディアレーヌ姫。
エルンに薬は効かない。
でも、規則正しい生活、そして改善された食事による栄養状態。
咳が出ることが減り夜眠れるようになったからこその毎日青かった顔色が改善されて機嫌もいい。
薬が効かなくても治すといったナディアレーヌは心を込めて毎日大事に、一つ一つの行動を繰り返し
新鮮な薬草を手に入れ、エルンの食事の世話をし、のびのびと過ごしている姿をエルンが見て笑う。
幸せそうに微笑むのだ。
失う訳にはいかない。
何一つ損なうわけにもいかない。
もはやナディアレーヌ姫はエルンハルトの唯一であり自分たち家臣にとっても信頼に足る貴人。
そのような姫を、全幅の信頼と、純然たる好意で誘っている貴族も確かにいる。
その場合は姫にこちらとはいずれお付き合いできる方々ですよ。と、お伝えしてカードを書いてもらうようにしている。
そして、エルンの目の届く公式の夜会を経て、いつかは交流をさせようと思っている。
エドは決めている。
此度カインについていった先で絶対に手に入れる道筋をつけてくる。
そして。
ナディアレーヌ姫を絶対にエルンの妻。王妃にすると。
エルンハルトは無理強いすることを拒むだろう。
でもあの全てを諦めていた、諦めて生きることを受け入れていたエルンハルトを。
きちんと意思を持って喜びをもたらしてくれた。屍のように生きていただけのエルンを幸せとともに生き返らせてくれた大事な人。
それは自分たちにとっても命をかける人と同じくである。
それだけで自分の些末な命など捧げてもかまわないほどの大恩だ。
絶対にエルンのために道を開いて、彼女を正当に我が国が手に入れる。
まずはエルロッドウェイの皇に会わねばならない。
そのためにはどれだけの仕事を前倒すか、省くか、を考えながらここ最近の調整を進めている。
エルンは優しい。
だからともすればあきらめてしまうかもしれない。
ずっと一緒にいたい気持ちを押して憚らずレーヌ姫が帰りたいと望めばその道まできちんと用意し、
そしてきっと王位を退き一人で生きて行くつもりに違いない。
だからナディアレーヌ姫が自分の心に気がつくまで。
エルンを誰にも渡したくないと気がついてくれて奮い立つその日まで。
恋をしたことがあるものならわかるあの表情。
愛するものを手に入れたことがあるものならわかる、あの微笑ましいやりとり。
それを我が君もその我が君の愛しの姫もまだよくわかっていない。
だからこそ尊く、だからこそ大事に育ませたい今の時期。
彼女の心を惑わす悪意は今はいらない。
でも心配もしていない。あの姫はなかなかに強かだから。
一番守りたいのはそれを目の当たりにして許せないほどに怒るだろう悲しむだろう主の心。
結局はエドはエルンのために生きているのだ。
そういったわけで。
今日のお茶会までこぎつけるのは少し時間がかかってしまった。
レーヌ姫の望む三人を集めるのは簡単なことだったが、ほかを排除するとなるとなかなか調整が
うまくいかなかった。
姫に取り入りたい有象無象を叩きのめしつつ、やっと調整したお茶会だ。
「楽しんでもらえたら重畳。」
我ながら楽しげに響いたその声に、思わず笑みがこぼれた。
「エルローズ様、カテリーナ様、ユーリス様!!!」
そう名前を呼ぶと三人が嬉しそうに笑ってくれた。
自分で主催するお茶会とも言えないほどの私的な集まりであってもわたくしにとってはお招きした側!
初めてですもの。嬉しくて仕方ないですわ。
「ナディアレーヌ様!!」
そういってエルローズ様がきゅっと抱きついてきてくださいました。
ああああ・・・・かわいいですわー・・・。
わたくしよりも小柄で可愛らしいですわ。そして何よりもこの方はカインお兄様の婚約者ですもの。
わたくしの義姉になられるのですわ!!
「エルローズ様、お久しぶりでございます。お会いできて嬉しゅうございますわ。
その・・・兄に困らされてはおりませんこと?あの兄はその・・・」
「ナディアレーヌ様?」
「兄はその・・・愛情表現が少々その・・・暑苦しいというか・・・その・・・」
「レーヌ様そこまでです。」
そう言ってサラがきっぱりと打ち切ろうとしたのですけれども・・・。
全身真っ赤に染め上げたエルローズ様がそれはそれは可憐で可愛らしく。
「離れていても寂しくないほどには、わたくしのことを大事にしてくださいます。」
そういって恥ずかしそうに更にうつむいてしまわれたのでわたくしちょっと気を失いそうになるほどに
可愛らしくてカインお兄様がここにいらっしゃらなくてよかった・・・
と、訳もなくほっといたしました。
もしここにカインお兄様がいらっしゃったらきっとさらって腕の中から離さないに決まってます。
わたくしでさえこんなに撃ち抜かれるのですからカインお兄様・・・・大丈夫なのでしょうか?
「エルローズ様!大丈夫です!お兄様のあの愛情表現はエルローズ様、よくてあとわたくしとフレディ
お兄様、両親そしてフレディお兄様の宝のキャロル様にしか向けられません。
その中でも群を抜いているのはエルローズ様への溺愛ですわ!慣れればどうということはございませんの。なれるまでがちょっとその・・・」
「レーヌ様、そこまでです。」
二度目の注意をサラから頂いてしまいましたわ。ロウも笑っているのであとでロウからも説明させて
おこうと思いますの。
カインお兄様がどれほど愛情深いかは、今度の夜会で思い知るとは思われますが、その前に予備知識。
予備知識としてくらいは入れてもよろしいかと思いますの!
グリルフォントの当主様が心折れることがないようにしなければならないのですけれども・・・
カインお兄様が手に入れた宝物とも言えるエルローズ様を片時たりとも手放すなんて思えませんわ。
ただでさえ離れてらっしゃるのに、もう多分次にあったらさらってしまわれますわ。
ええ。
これが冗談ではないのが怖いところなのですが。
エルローズ様の知らないところで色々と外堀やいろんなことが埋まっているに決まってます。
それを証拠にグリルフォントの侯爵様が次期当主のアルフォンス様に家督を譲られたあとに、いくらでも
エルロッドウェイでくつろげるように専用の離宮を立てているという話を蝶から聞いておりますの。
一人娘のエルローズ様をいただくということでお父様たちも殊の外心を砕いているという話ですし。
まずカインお兄様がエルローズ様に一分一秒でも後悔させるようなことをなさるはずがありませんし
心細い思いなぞさせるはずがありませんものね。
この分ですとアルフォンス様には本当に頑張っていただかなければなりません・・・。
カインお兄様の平穏はエルロッドウェイの平穏なのですわ・・・。
ふるふると首を振り、ちょっと震えているとエルローズ様に「ナディアレーヌ様?」と心配されてしまいましたわ。
いけないいけない・・・。
「ユーリス様もお久しぶりでございます。お会いしとうございましたわ。」
「ナディアレーヌ様!お久しぶりでございますわ。」
そういってわたくしの手を取ってニッコリと笑ってくださいます。
あああああ・・・・美しいですわーーー!!
美しく巻いた金色の髪が、本当にキラキラなお姫様のようですわ!わたくしも皇女ですけれども。
わたくしの銀の髪よりも緩やかに巻いたこの髪の美しいこと。
それに所作もお姿もすごくお美しいのですわ。
前回お会いしたときにも思ったのですが背の高さがわたくしと同じくらいなのです。
そしてわたくし憧れの少し低めの落ち着いた声。
淑女とよんでしかるべき美しい所作と立ち居振る舞い・・・憧れのお姉さまとお呼びしたいくらいです。
「・・・・わたくし・・・お姉さまと呼んでも?」
唐突に口から出た言葉を聞いてキョトンとされているユーリス様の顔を見るとわたくし恥ずかしくなってしまいました。
顔に熱が集まり自分の顔が真っ赤になっているのはわかっております。
ただ、比喩ですわ!ちょっとキャロルお姉さまに似てらっしゃるんですの雰囲気が。
甘えたくなってしまいますの。
「恐れ多いことですわ。お姉さまと呼んでいただくなんて・・・。ナディアレーヌ様のお心がそれで
休まるのでしたら・・・でもお恥ずかしいですわ。」
そういって薄っすらと頬が上気されたユーリス様の美しさと言ったら目眩がいたしますわ・・・。
その状態のわたくしを見てロウは笑いましたけれども、近づいてきてくれませんわ。
エリーゼのそばから動かないということですわね。とりあえずはお茶の準備のお手伝いだと?
困ったわ・・・。仕方ないですわね、アーノルドが後ろに居ますからアーノルドに。
「ロウ・・・は遠いわ・・・。アーノルド。」
「はい、姫様。」
しばしアーノルドを支えに、ちょっと肩に手をおいてその上に頭を載せてぐりぐりっとしてしまい
本当に嫌そうな顔をさせてしまったのは悪かったのですけれども!
「ユーリス様がお美しすぎて、アーノルドも騎士ならわかるでしょう?」
「わたしには全く姫様が何を仰っているのかは意味がわかりませんが。それよりも落ち着かれましたか?
みなさまが回復をお待ちです。」
「ええ、ありがとうもう大丈夫よ。」
そういって普通に休ませていただきましたので復活いたしましたわ。
それを見てあっけにとられている皆さまを見ても意味がわかりません。
帰るまでに絶対にお姉さまと一度は呼びますわ!と心に決めて立ち直りました。
皆様がほおけてらっしゃる。それを疑問に思いましたがまだお一人ご挨拶を済ませておりませんもの!
「カテリーナさま!お久しぶりでございますわ。」
「ナディアレーヌ様、お久しぶりでございます。お元気でらっしゃいましたか?」
そういってエルローズ様のようにきゅっと抱きついてきてくださいました。
はあああ・・・・・。可愛らしいですー。小柄さんですわ、憧れの小柄さんですわ!!
さらっさらの金髪がお美しいです。今日わたくしが皆様にご用意したものは喜んでいただけるかは
わかりませんが、このお美しい髪を彩っていただけるかもしれないと言うだけで心が踊ります。
キラキラのオリーブ色の瞳で「お会いしたかったです!」と二回目言われたときにうっかりと。
ええ、うっかりと口から出てしまいましたの。
「なんてかわいらしいのでしょう!小さくて可愛らしいですわ・・・かわいらし・・・」
「レーヌ様、そこまでです。」
三度サラからの勧告が入ってしまいましたわ・・・。
わたくし自分の背が少し平均よりも高いことをきにしておりまして。
それにこの少し冷たく見える見た目も、銀色の髪も、本当に冷たく見えるのじゃないかと思って実は
少し悩んでいたりするのですわ。
ついで皆様金髪のお美しい髪と、ブルネットの柔らかなお美しい髪をしてらっしゃいます。
冷たく見えるような色じゃないのですもの。
わたくしが本当に三人に見惚れていると、三人が少しだけ困ったように微笑まれております。
小さくて可愛らしいを連呼していたので、小柄なお二人が特に戸惑ったようにしてらっしゃいますわ。
いけないと思ったのですけれども思いは止められませんわ!
エルローズ様もユーリス様もとても小柄で可愛らしいのですもの。
カテリーナ様のように優雅に振る舞えば、大人の女性としての色気も醸し出せるかもしれませんけれども
わたくしには未知の領域ですもの・・・。
カテリーナ様にも同意していただけるかと思ってふっとお顔を見ると、穏やかに微笑まれて頷かれました。
お姉さま!
と口にしそうになりましたがわたくしもこくこくと首を縦に振ってもはやそんなおもちゃあったよね?な
状態になってるのはわかっているのですが、仲間が居た!ということで嬉しくなってしまいましたわ。
そのわたくしを見て、三人が嬉しそうに笑ってくださったので・・・。
「さあみなさま!お茶をご用意しましたわ。それに昼餐もともにと思いまして。
本日は護衛の方々もお近くに席を用意しておりますの。ご一緒にどうぞ。」
それを聞いて後ろに控える護衛の方々が驚いた顔をしております。
一緒の部屋に居て、わたくしたちが美味しいものを食べて、護衛の方々が我慢するなんて・・・。
と、ロウとアーノルドに言うと、ふたりとも頭を抱えていましたわね。
わたくしだってわかっておりますわ。
護衛騎士なのだから後ろに控えることぐらいは。わかっているのですけれども・・・。
わたくしが主催するということはわたくしの思う通りでもよろしいってこと?とアンヌに聞くとはい。
とうなずいてくれましたの。
わたくしが初めてできたお友達と、初めてのお茶会をすることをとても楽しみにしていることはみんなが
知ってくれていたのです。だから少しだけわがままを申しましたわ。
「わたくし、わたくしのお茶を護衛の方々にも飲んでいただきたくて。いろんなパターンを用意して
今後、護衛中や帯剣する場所を選ばず、少量でも水分補給を促せるようにという試みですの。
じっと立っていると血流が悪くなり、体調も崩れますわ。そのときに少しの水分を身体に入れると
どのような効果があるのかをロウやアーノルド、我が国の騎士以外のこの国の方々にも聞いてみて・・。
もしよろしければエル様に進言するつもりなのだけれど・・・。」
わたくしの意図が通じたのでロウもアーノルドも渋々うなずいてくれましたわ。
背後の護衛騎士の方々が固辞しましたら・・・。
わたくしのお願いということにして乗り切ってしまいますわ!説明も致しますし!ということで
今回はこの試みをしておりますの。
護衛は毒見も兼ねますでしょう?だからわたくしが出すお茶を騎士様用に少しだけ改良したものを
お出ししたいのだけど?
とみなに伝えたのだけれどそれならば最初に説明して、納得してもらうべきだという護衛の二人の話を
聞いてなるほど・・・と思いましたので席に三人を促しながら、その後ろの騎士様たちにもうながしましたわ。
それぞれに騎士様たちの紹介を三人がしてくださいましたのでお名前を頭に叩き込みます。
「・・・・というわけで、それぞれの家の仕様にのっとり毒見をしていただいたあとには後ろに立っている間に試していただきたいものがありますの。
もちろんお茶を入れる前に銀トレーの上で効能と成分をお教えしますし、皆様にお渡しするお茶も、
お嬢様方にお渡しするお茶も、他のものも、きちんと護衛の方の前でご用意しますわ。」
「そのようなことまで・・・私達にそこまで・・・」
少し戸惑ったようにおっしゃるのはエルローズ様の護衛騎士であられるサフィオ様。
多分三人の中で一番年長者でいらっしゃると思われます。
その後ろに控えるのは多分エルローズ様についてエルロッドウェイに行く護衛の方だと聞きました。
サフィオ様に似てらっしゃるということはご子息かもしれませんわね。
「エルローズ様はわたくしの義姉になる方ですわ。それに今日はサフィオ様はグリルフォントの騎士団長のお仕事を休んでまで来てくださったのでしょう?」
「それは・・・エルローズ様の婚約者様の妹であらせられるナディアレーヌ様のお茶会ですので。
それにエルロッドウェイに付き従う我が息子リオもつれてきておりますゆえお顔合わせを。」
後ろに控えていたリオと呼ばれた青年が騎士の礼を取りました。
「そう。リオはカインお兄様にお会いしましたか?」
「はい。一度きっちりと長いお時間頂いてお顔合わせをしていただきました。」
そういって穏やかに微笑まれておりますが、あのカインお兄様が認めたということは・・・。
「では、リオはロウやアーノルドと一緒ということね?」
「は・・・?」
その言葉を引き継いだのはサフィオ様でした。
「ロウ殿とは恐れ多くもナディアレーヌ姫様の護衛騎士とでお間違い無いかと。アーノルド殿は・・・
レオルド様のご子息でらっしゃいますな。アーノルド殿もロウ殿と同じとみなされたと?」
「ええ、ロウとアーノルドはわたくしの護衛騎士です。」
その言葉を聞いて、サフィオ様はははあ、だからか。といった顔をしてうなずかれました。
「そうです。恐れ多くもカイン様はリオをロウ殿と同じだと認めてくださいました。姫様にお会いしたら
そう伝えてかまわないとお言葉を頂いております。」
「そうなの?!リオ、わたくしのお義姉様をよろしくね。」
「はい、お任せください。」
そういってリオは再び騎士の礼を取ってくれましたわ。
そして恥ずかしそうなエルローズ様がとってもかわいらしいんですの!
カインお兄様に一度お会いしただけでロウと同じだと言う言葉を引き出すなんてすごいですわ!
ということは後で試してみなくては!!
とホクホクと笑っていると、後ろからアーノルドが「姫。」と、低い声で注意を促してまいりましたわ。
何なのでしょう。最近本当にロウより手厳しいんですもの。
少しふくれようかと思った瞬間、アーノルドに更に諭されます。
「姫様、そのお顔はなりません。慣れていないものには劇薬です。」は?という顔をするとそれもです。
と注意を受けましたわ。意味がわかりません。
目の前の三人を見ると少し赤い顔をして手を組んでわたくしを見ております。どうされましたか?と首を傾げるときゃあ!と言った可愛らしい声が。
それに微笑んで、あと二人の方にも声をかけました。
うしろからアーノルドの姫!という
「サレージ様もそれでよろしいでしょうか?」
そう聞くとユーリス様の方に確認を取り、しっかりとうなずいてくださいました。
「わたくしで役に立つのであれば喜んで協力いたします。」
こちらもしっかりと騎士様の礼を頂きました。
「スチュアルド様はどうでしょう?」
そう聞くと、スチュアルド様はカテリーヌ様の前に跪いてお尋ねになり、カテリーヌ様の返答を聞き
一瞬考えた後・・・。
「わたくしでお役に立つのであれば喜んで協力いたします。が、席につくのはどうにも・・・。」
「スチュアルド様のおっしゃりたいとこはわかりますが三人の護衛はわたくしがしますし。」
「は?」
「わたくしがです。」
「姫様が?」
「はい。」
何をそんなに驚いているのでしょうか?それにここにいるわたくしの護衛や侍女たちは多分どの方向からも無敵ですわ。でもアーノルドとロウは頭を抱えているので答えを間違えているのかしら?でも・・・
サラとアンヌとそれに・・・。
「シェリィ?ここへ。」
「はい!ナディアレーヌ様!!」
そういって近づいてきたのはサラサラ黒髪にオリーブ色の瞳のちょっと類を見ないくらいの美少女です。
「シェリィ、ご挨拶をしてくれる?」
「はい!わたくしここにいるアーノルドの末の妹でシェリィ・グレイスと申します。本日はお姉さまに
無理を言って侍女としております。お見知り置きくださいませ。」
まさにこの子がこの国の影を継ぐ、後継者だと発表することはできませんけれども・・・。
騎士様たちははっとした顔をして気配を探ってましたので気づかれたかもしれません。
この子がびっくりするほどのいろんな才能があることを。
一瞬、気配を放出したあとに、一気に格納したのをみて護衛騎士たちは納得した模様。
そして三人のお嬢様たちは突然現れた精巧な儚げなお人形の如きシェリィに釘付けでらっしゃいます。
わたくしは色んな意味でシェリィを気に入っておりますの。
可愛らしく小柄なだけではなく、影の仕事もこなしいろんなこともわたくしが知らないようなこともきっときちんとこなしております。
今はまだ幼いのでアンヌの代わりにエル様の隠れ蓑になることはありませんが、年齢が上がればきっと
素晴らしいアンヌの代わりもできるようになります。
そう、わたくしが居なくなっても、わたくしの代わりは居ますしその時にはエル様は奥方様をお迎えして
いる可能性もありますし・・。
考えると少し泣きたくなってきましたが今日はお茶会です!そして三人に試していただきたいものも
あるんですわ!!
シェリィの髪をなでて、サラのお手伝いをしてきてね。と伝えると嬉しそうにサラの方に行く。
「さあ、では本日のお茶を説明いたしますわね。」
そう言ってわたくしはエル様に毎回するように、テーブルの上に銀のトレーを並べました。
「こちらが本日のメインのお茶になります。本日は緑茶というわたくしが一番好きなお茶に少しずつ
ブレンドしたハーブを加えていきます。
この緑茶はエルロッドウェイから手に入れたものでトレーの上に置いても色も変わりませんわ。
加えるハーブは今手づから取ってまいりますのでお待ちくださいませ。」
そう言って立ち上がるとエルローズ様がおずおずと「ついていきたい。」とおっしゃいますので喜んで
とわたくしの薬草園にお連れしました。
わたくしの薬草園は自然の気候の中にあるものと、こうして温室の中にあるものと二種類をエル様が
ご用意してくださいました。
嬉しくてこの温室を見たときには言葉が出ませんでしたわ。どの季節のものもここでならうまく育つよう
特別な仕様や魔術が使われているらしいのです。
ありがたく使わせていただくことにいたしました。
緑茶に合わせるなら・・・と、ペパーミントを手に取り、三人にも一枚ずつ葉をお渡しして香りを
確かめていただきます。
ハーブとは言え、今の状態ではただの植物ですので香りに嫌悪感がないかを確かめられるのは良かった
ですわ。
皆様に確かめていただいたあとに苦手ではないという言葉をいただき、フレッシュなものを積みました。
あと、紅茶の方に浮かべるようにヤグルマギクとレモングラスを。
わたくしはまっすぐに伸びたレモングラスをサクッと根元の方から切っていきます。
レモングラスは細くてハサミで切らないと手を傷つけるおそれがある・・・という説明をしようとした
瞬間でした。
レモングラスを見てみんなこんな葉っぱが?と戸惑ってらっしゃいましたが・・・。
カテリーナ様が葉っぱに手を触れた瞬間少し引っかかったのか、いたっと小さな声。
慌てて振り向くとスチュアルド様がとっさに手を取って騎士服から取り出したタイで指先を包んで
おられました。
その時に手を取られたカテリーナ様は真っ赤になっていて慌ててらっしゃったのでわたくしはて?と
思いましたの。
まあ、あとにしましょう。
と、流してカテリーナ様に声をかけましたの。
「申し訳ありません。葉は細長くすべらせると怪我をすることもあるとわかっていながら・・・お許し
いただけますか?部屋に戻りましょう。わたくしが薬草を使って傷薬も作りますわ。」
「ナディアレーヌ様お手制ですか?」
「わたくし、医療国からやってきておりますゆえ薬草には少々詳しいのです。スチュアルド様も申し訳
ありませんでしたわ。わたくしの薬草園でお怪我をさせてしまいました。
この責任はマクレーンズ家にきちんとわたくしからお手紙を書きますわ。」
「ナディアレーヌ様!このような傷なんともありません!!」
慌てるカテリーナ様の手を取り、首を振るとカテリーヌ様が目を見開いてキョトンとされます。
ああ、可愛らしいですわ・・・。
いやそうじゃなくて。
「カテリーナ様・・・わたくしのことを信じていただけませんか?」
ぎゅっとその小さな手を握りしめると、真っ赤になったカテリーナ様が目の前にいらしたのではた?と
首を傾げる。
「姫様。劇薬ですから早くお収めください。」
アーノルドの声にふと我に返ると、周りの方々がぽかんとした顔をしてわたくしを見ておりました。
お恥ずかしいですわ・・・。
なんとなくスチュアルド様が不機嫌になられた気がしたのが不意に気になりましたがそれもまあきのせいでしょう。
カテリーナ様の手を取って部屋に帰ろうとすると、後ろからエルローズ様とユーリス様の「末恐ろしいですわ・・・これが素だなんて・・・。」
という声が聞こえましたが、わたくしはスチュアルド様のことをすっかりと忘れて騎士様のように
カテリーナ様の手を取って歩いたのでした。
ミントを摘んで帰るとサラとアンヌが見てましたとばかりにため息を付きそうな顔をしておりますし
シェリィがちょっとだけぷくっと頬を膨らませているものですから可愛くて、銀トレーに並べながら
頬をそっとなでてみるとみるみる機嫌が治ったので良しとしますわ。
アーノルドが信じられない・・・とつぶやいておりましたがお兄様に対するのとわたくしに対するのと
同じ対応だったらおかしいでしょう?と思ったのですが。
そもそもシェリィが頬を撫でさせるなどと両親と兄弟でも機嫌が良い時。無条件なのはナディアレーヌくらいだということをもちろん本人は知らない。
朝エル様に出したお茶に似たハーブティーを用意する。
エリーゼル様にお渡しするものと同じものをフレッシュなハーブで作ってみようと思ったのです。
透明のティーポットを用意して、少し揉んだヤグルマギク、それからクコの実、レモングラスにミント。
添える果物はレモンを薄切りにしてそれを八等分してカップに2つ入れました。
緑茶の方はフレッシュミントを合わせて、低温のお湯でゆっくり緑茶を入れたあとに揉んだミントを
もう一つのティーポットに注ぎ、その上から空気を含ませるように緑茶をそそぎいれます。
そして薄い緑に、爽やかな香りと黄色みの色が少し出たところでミントを取り出しました。
長く入れていると苦味が出ますものね。
お茶のお菓子は、わたくしが焼いたクッキー、それから料理長が作ってくれた小さなプチガトー。
それからオレンジとグレープフルーツを低温でじっくり焼いたセミドライのもの。
あとはりんごをゆっくり炒めていつものごとく薔薇の形にしたものにもう少し手を加えてキラキラの
飴を網掛けしてみましたの。
昼餐と言っても手でつまめるものが良いと思ったので、サンドイッチをみんなで作ろうと思っておりますの。
みなさまはきっとお料理などはなさらないとは思いますが、やってみると楽しいということをしっていただきたくて。
それを昨日みんなに相談したら、本当に皇女のお茶会らしくないと言われてしまいましたが、これがわたくしですので仕方ありませんわ。
ゆっくりと入れたお茶を四人で味わうと、二種類のカップからそれぞれ違う香りが立ち上り、たしかに
好みが分かれるとは思っておりましたが、エルローズ様はどうやら緑茶がお好みらしいです。
カテリーナ様とユーリス様はどうやらハーブティーが起きに召したようですわ。
嬉しくなって軽食も勧めてみましたら、みなさまセミドライのフルーツを大変お気に召していただきました!
はあ・・・嬉しいですわ。幸せですわねぇ。
ずっと憧れていたお茶会ですもの。
ニコニコしているとエルローズ様がお尋ねになられました。
「ナディアレーヌ様、とてもお美しい髪をしていらっしゃいますが何か特別なものをお使いですか?」
「え?」はて?と思うと真っ赤になったエルローズ様がこそっと言われました。
「カイン様もナディアレーヌ様も、フレディ様も。見事な銀の御髪でらっしゃいますでしょう?
わたくしはこんな普通のブルネットの髪ですし、瞳も濃茶ですわ。
少しでも綺麗になるためには手間は惜しみたくないのですが・・・カイン様は非常にお美しくて・・・
わたくし気後れしてしまうのです。ふさわしくなりたいですし・・・。」
話している間に真っ赤になっていくエルローズ様が可愛らしくてかわいらしくて。
わたくしの一つ年下ですがお義姉さまになられるのですもの!そうです、ここで用意していたものを!!
「サラ、持ってきてくれるかしら?」
「はい、レーヌ様。」
そう言うと、きれいなバラ色の瓶に入ったものを一人ひとりの目の前にサラがおいていきます。
「本日お越しいただいたお礼に、わたくしからのプレゼントですわ。」
そう言ってわたくしの目の前にも一つ置かれた瓶を手にとって中身を手のひらに少し開けて見せました。
これはわたくしの髪に塗り込んでいる香油なのですが、わたくしの髪は細くて絡まりやすくて、無理に
櫛でとかそうとすると切れてしまいますの。
と、説明しながら手に載せた香油をゆっくりと毛先、それから頭皮へとマッサージするように塗っていきます。
毛先に先につけたのは毛先は往々にしてぱさつきやすいものですからね。
「今はバラ色の便に入っておりますが、香りはこちら実はジャスミンのものになっておりますの。
ビンはピンクだから可愛らしくてわたくしが集めていたもので申し訳ありませんけれども。
ジャスミンはお好きですか?」
そう言うと三人はうっとりとした顔をして髪を触っています。
喜んでいただけたようです。
「エルローズ様はブルネットのとても美しい髪をしていらっしゃいますわ。カテリーナ様もユーリス様も
お美しい金髪をしてらっしゃいます。
わたくしの方こそ、銀の髪など少し寒々しく見えませんこと?わたくし自分の見た目が少しだけ冷たく
見える気がして・・・ブルネットの髪はとても優しい色でわたくし大好きです。
金色の髪も柔らかく日が当たれば暖かな色ではないですか。わたくし皆様に憧れますわ・・・。」
そういって三人を見てほうっとため息をつくと、これも素ですの?!といった声が聞こえてきて
はて?と思いましたが・・・。
「だがわたしはあなたの銀色の髪は気高く美しいと思うが?」
低くて甘い声に振り返るとエル様がいらっしゃいました。びっくりしてしまいましたわ。
いつの間にいらっしゃってたのでしょうか。
サラを見るとどうやら香油を取りに行っているときに入り口でおいでになったのを知ったようです。
もちろんアンヌやロウには先触れは出してあっただろうと思うので本当にただ黙っていただけの模様。
それってどうなのですか?わたくしにも一言行ってくださったら心の準備ができましたのに。
とちょっとだけふくれようとしたのですが、礼を取ってないことを思い出しましたわ。
他の方々が席を立ち、優雅に最上級の礼を取っていかれます。
ああ、皆様なんて美しいカーテシーなんでしょうか・・・わたくしも・・・と思って振り返ると
エル様が笑ってらっしゃいます。
出遅れてしまった感がありすぎて今更正式なカーテシーをする隙きもありませんでした・・・
何たる失態でしょうか。
「帝国の太陽たる陛下にご挨拶申し上げます。」
この中ではわたくし以外で侯爵令嬢のエルローズ様が家格が高いので声を上げられました。
主催のわたくしが言うべきだったのか、どうなのかはちょっと測りかねましたのでホッとしたしました。
「よい、楽にしてくれ。今日はちょっとした試みがあると聞いてわたしも誘われてきてしまった。
わたしのようなものが来たら気楽ではいられないとは思うが少しだけ我慢してくれ。」
「いえ、そのようなことはございません。ありがたいことでございます。」
そういって礼を取る皆様に対して楽にするようにと再度言われたエル様はニッコリとわたくしを見て
笑われました。
「ナディア、良い香りだな。朝とは違う。」
「髪でしょうか?お茶でしょうか?」
そう問いかけると「両方だな。」と低く笑うエル様にこちらも笑顔を返します。
わたくしの隣に席を作ってもらったエル様は少しの間だけだから。と、ゆったりと腰掛けられました。
「今皆様にわたくしの作った香油を差し上げようとしておりましたの。ジャスミンの精油を生成しまして
それを皆様にお分けしておりました。」
「ほう。これも良い香りだな。」
そう言ってわたくしの銀の髪を一房取り、少しだけ顔に近づけました。
とっさのことに髪を引くことも出来ず思わず硬直したわたくしにエド様の声が後ろから聞こえました。
「エルン、あと10分しかないぞー。」という間延びした声にハッといたしました。
体を少し動かした瞬間にわたくしの髪がエル様の手からするりとこぼれ落ちました。
サラサラとこぼれ落ちた髪がわたくしの背に戻ってきたのを確認してエル様を見上げます。
「エル様!昼食は召し上がられました?」
「いや、だからここに来たのだが?」
そういってわたくしの髪に触れた手を口元に持っていくと、ふむ、ラベンダーも良いがこちらもよい。
といって満足そうに笑ってらっしゃいます。
あまりの色気にくらっとしましたが踏ん張りますわわたくし。
だいたいエル様色気を振りまきすぎじゃありませんでしょうか・・・。
眼の前の三人がほんのりと頬をバラ色に染めてらっしゃいます。
そうですわよね、急にエル様がいらしたら皆様こうなりますわよね・・・。
アンヌに目配せすると、みんなでこれからもう少ししたら取り掛かろうとしていたサンドイッチ作りを
一足先に済ませることにいたしました。
手を洗ってくる旨を告げて、席を立つ失礼を皆様に述べましたら笑顔でお許しいただけたのでいそいで
手を清めます。
わたくしが席に戻るとすべての具材が綺麗にお皿に並び、パンが置いてあったのでそれを仕上げます。
「皆様と一緒にお作りするつもりでしたが、一足先にエル様にお作りすることをお許しくださいませ。」
みんながあっけにとられているのも気づかないナディアレーヌにエドガルドはニヤリと笑う。
少なくともこの3人と護衛騎士の前ではレーヌ姫は気を抜いているからだ。
外堀を埋めるにはこれ以上ない絶好のチャンスだということをエドは肌で感じたため・・・。
ナディアレーヌのエル様呼びも、エルンのナディア呼びも、髪に触れるのも許した。
朝と今の香りが違うと明言したことも許した。
あとはこちらは微笑んでいればいい。
絶好のお茶会だとほくそ笑んだのはこの国の宰相補佐だった。
エル様、場をかき乱しに登場でございます。




