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国が違えば色々違うということでしょうか。

無意識の執着と過保護ってわたし大好物です。

サラが持ってきてくれたオイルもきちんとこの東屋の方にもってきてもらってましたので、お茶を

お入れする間にエル様の手のハンドマッサージをしようかと提案したのですが。

エドガルド様にエル様が使い物にならなくなるから話し合いが終わってからにしてくれと言われ、あまり

意味がわからないのですが、とても良い笑顔だったのでこちらからなんとも言えず。




とりあえずわたくしは緑茶を用意することにいたしました。



高い温度では入れられないので、一度沸騰させたあとに少し時間を置くことにいたしました。

その間にサラたちが積んできてくれたミントを並べてエル様にお見せしました。



「こちらのミントの葉を少し手でもんで、お茶を入れるときに先にカップに入れるのです。

緑茶はわたくしの大好きなお茶で、体にもよくて、こちらで本来はうがいなどしていただくと良いのです

がなかなかお茶でうがいをお願いするのも・・・。それにハーブが入ってないものでうがいをお願い

したいのです。清涼感があるとスッとはしますが咳き込むこともありますので・・・。」

「ナディアがそうしてほしいなら普通のお茶でうがいだな。今後そうするが?」

「本当ですか?では咳が出ているときはこちらをゆっくりと口に含み、それから飲む前にうがいをして、

また新たにお入れしたお茶をゆっくりと飲むようにしてくださいませ。

それから、今から入れるお茶は二種類ありまして・・・少し一つは時間がかかりますの。よろしいですか?」

「ああ、構わない。」

そういって穏やかに微笑んで長い足を組んでゆったりと座っているエル様は、言葉を失うほどに・・・

なんというか素敵です。



本当に穏やかに座ってらっしゃるだけなのに、なんというか・・・。



「エル様ってなんというか、獅子のような・・・。」

ハッとしたときには口から出ていたのでごまかしきれませんが、キョトンとした顔で見つめられると

ものすごく失礼なことを言ってしまったような・・・。

もう確かにとても失礼なことなんですけれども・・・。

「ああああ・・・。あのですね、わたくしの兄たちなんですが・・・」

話が飛んでしまうわたくしを見ても何も言わずに楽しそうに見てくださるから仕方なく話を続けます。

「わたくしの兄たちもその・・・。どちらかというとその・・・動物に例えるなら猛獣系だと思いますの。」

「ほう。」

楽しそうに笑っているエル様は意外だなといった空気を出されています。



「フレディお兄様は細身ではございますが、その・・・狙った獲物は必ず先手必勝というかなんというか

カインお兄様もその・・・エルローズ様を見ていればわかると思うのですがその・・・。」

「ああ・・・」

それを思い至るとエル様は楽しそうに笑ってしまわれました。

ああ・・・不敬でしたでしょうか・・・。

「それでわたしは獅子だと?」

「エル様は見た目がその、なんというか・・・・凛々しい?」

「何故疑問形なんだ?」

そう言って低い声で笑う。

そういうところなのですよねぇ、獅子っぽいっていうか唯一無二のなんというか。

「わたしはフレディのように先手必勝ではないかもしれない。彼の国に対する姿勢は確かに情報戦に優れ

先手を打って行くな。芽を摘むともいう。それは将来のパートナーが優れた経営者である所以でもあるか

とおもったがどうだろう?」

そうです。キャロル様は公爵令嬢でありながらも素晴らしい事業展開をしている経営者でもあります。

そのことを知っている口ぶりなのがまたこのエル様の情報力ともいえますわよね。



「まあ、カインは・・・・あれこそ確かにあの様にしなやかに我が国の令嬢を奪い去っていくとは

思っていなかったな。素晴らしい判断力と交渉術と、あの美貌と自分の武器を使いこなす。

第二王子であり時期宰相でなかったら我が国に引き入れたいほどではあるが・・・。」

ふと見える顔は確かに国を率いる唯一の方の顔をしてらっしゃいます。

だからこそなのですが・・・。



「わたしはフレディのように先手必勝をすることはないし、カインのように交渉するわけでもない。

わたしは欲しいものは待つのだ。」

「待つのですか?」

「そうだよ、ナディア。待つのだ。わたしの囲う檻の前でその獲物が囲まれていることもわからずに

眠ってしまうほどにくつろぐまで。」

「くつろぐ?」

「そう、それまではわたしはただ息を潜めて待つ。ただ、その時を逃すほど愚鈍ではない。」

そう言ってあまりにも鮮やかに微笑まれるのでその微笑みに見とれてしまいましたわ。

「それはとても時間がかかってしまって大変なのではないですか?」

「それは違うな、ナディア。ただ待つだけではつまらないだろう?わたしは自分にできることは何でも

やるのだ。だからその時間さえも愛おしいのだよ。」



そうなんですね。

と、わかったのかわかってないのか、そんな返事をしてもうお茶の方に意識が行っているその美しい人。

周りの人間誰もが、狙われているのはあなたですよ!と声を大にして言いたいのをぐっと堪える。

そう、エルンハルトの侍従、護衛、影、侍女、もちろんエドガルドもレオルドもみんながわかっている。

わかっていても黙っているのは、偏にエルンハルトのためでもあり。



ナディアレーヌその人のためでもある。

あなたが狙われています。もう囲われています。逃げられません。

知らせるにはあまりにも強すぎる我が君の執着に、この美しい人が潰されないように細心の注意を

払うのはわたしの仕事だと思っているからなのだけれど。



それを口にするにはエルロッドウェイの意思も関わるために何も言えない。

ただ穏やかにしているサラもロウもエリーゼも。

何ならここにいない彼女の家族でさえわかっているのに本人だけがまったくそう思っていない。



アンヌは目の前のこの二人を見ながら、エルンハルト様が思うよりも時間はかからないと思っている。

エルンハルトは待つといっているが、そんなに長い時間待てるはずがないということもわかっている。

ナディアレーヌ様は得難い人であり、何と空恐ろしいことにこのかたの美貌はまだ発展途上なのだ。

更に美しく花開くだろうこの年若い皇女の魅力に。

12歳年上だからと大人ぶっているこの国王が我慢できるはずがない。

どんな手を使っても、どんなに卑怯な手を使っても、絶対に手に入れてしまうだろう。



獅子ではない。


彼はその様に生易しいものではないのだ。



ルーゼハルト様の亡き後、わたしの姉の亡き後。

本当のいちばん大事な人を渇望しながらも手に入れられなかった年若い主君であり恐れ多くも幼馴染。

影として支えながらもいつも本当は体調に不安を抱えてそれでもこの国のために耐えてきた人。

その人が許した心の支えは、もはやもうなくてはならないもので執着とも言えるだろう。

本人が自覚するよりも先に本能がそう求めてしまったというような、そんな感覚を皮膚で感じた。

それを愛かどうかは本人が決めることで、愛だと言うなら止めることも出来ないだろう。

もうエルンハルト様に愛されてしまったのだから天災だと思って諦めてほしい。

我が君の愛はこの年若い皇女を余すことなく優しさと愛情と欲により包み込んでしまうだろう。

そしてそれを感じさせないほどに大きな囲いで囲い込んでしまうに違いない。

見えないほどの遠い位置にでも、透明で頑丈な愛情の檻で囲んでしまう。

誰にも気づかせず、誰にも触れさせず、自由に過ごさせているふりをして。


姫を手に入れる。



だからもう人災ではなく天災なのだ。


そう思う。




いつか帰ろうと思ってらっしゃるのかこの国に大事なものを残さないように心がけているのが手に取る

ようにわかるナディアレーヌ様。

この間やっと庭園にお茶の木を植えてくださった。それは年単位で育てるもので、ナディアレーヌ様が

やっと長い時をかけているつもりになってくれたのだと思っていたのだけれど。



「アンヌ、この木が育ったらわたくしがいなくなったあとには管理は誰に頼めばいいのかしら?」

と普通におっしゃられたときに気が遠くなった。

ナディアレーヌ様はエルンハルト様を治すことだけしか考えていないのだと。

なるほど、きっとナディアレーヌ様はエルンハルト様の正妃になることなんて全く考えていない。

ドゥーゼットでエルンハルト様が自ら欲して抱きしめたのはただ一人、ナディアレーヌ様。

ダンスを二度許したのもナディアレーヌ様。

一日になんどもそばにいるのを許しているのもナディアレーヌ様であるというのに。



わたしの気配を感じたのかレオルドが顔を向ける。

なんでもないといったふうに視線を絡めて、レオルドは軽く苦笑いをしている。

彼も感じているのだろうとは思う。

ナディアレーヌ様の私心のなさと、潔さはエルロッドウェイの国の有り様にもあるのだろうとはわかる。

わかるけれどわたしとしても得難き主人を手放す気はない。




「姫様、お茶に火を入れますか?どれくらい炒ればよろしいですか?」

「あ、アンヌ!そうねぇ・・・香ばしい香りがするまでなんだけど焦げるほどではいけないの。だから

時間がかかるけれど弱火で炒りたいの。」

かしこまりました。と笑顔を浮かべると、本当に嬉しそうにほほえみを返していただける。

「ナディアレーヌ様、ここではお茶を入れたり採集も・・・まあ、よろしいかと思われますわ。

話し合いもしなければなりませんしならばやはり陛下へのマッサージの施術は寝る前のほうがよろしい

のではありませんか?」

キョトンとした顔でわたしを見ると、そうね、そうしましょう!と手をうつ姫様。

何と可愛らしく愛らしい。ああ、着飾りたい。もっともっと着飾りたい・・・。

貸し一つですわよ。とエルンハルト様を見ると・・・。

なんとも言えないほどに笑み崩れているではありませんか・・・何と情けない・・・。



「陛下。その耽美で不埒な顔をお引取りくださいませ。サラ、アーノルド。必ずお供なさい。」

「「はい。」」

二人も軽く苦笑いをして返す。

エルンハルト様には頑張ってもらわなければならないけれど。

だからといって姫様を猛獣の檻に投げ入れるわけにもいかない。なんせ姫様は自分が極上の餌だと

わかっていないのだから。気を抜かれたらぱくりと頭からいかれてしまうのに・・・。




「あー・・・俺もいるから大丈夫だが?」

レオルドの言葉に当たり前だといった感じで視線を流すと、うしろのエド様がこれ以上ないほどに

楽しそうに笑っているのを見てしまい、こちらの思惑もわかっているだろうこの若い宰相補佐の抜け目の

なさに舌打ちをしたくなってしまう。淑女にあるまじきだとぐっと堪えるけれども。

「俺もいるから。」

なんというかこの年下の宰相補佐は抜け目がなく、この人があるからエルンハルト様がやっていけると

わかっているのだけれどどうもこうも同族嫌悪というのか何というのか。

「アンヌは真面目だねぇ。きちんと姫様を送り出したあとに毎回申し送りしてるでしょうが。」

その声に片眉が上がってしまい、忌々しさに拍車がかかりますが、不思議な話この方を嫌いではなく

それはお互いにわかっているのですが・・・。

なんか負けた気がするのです。ただそれだけです。

爵位も立ち位置も全く違うのですがなんというかそれでももうなんというか・・・。



「アンヌ、ちょっと姫様を手伝って差し上げてくれ。」

レオルドの声に黙礼をしてそのまま姫様の手伝いの方に向かいます。



レオルドはあまりアンヌにちょっかいをかけるな。といった意味を込めてエドを睨むと・・・。

エドは何故俺が?!といったふうにまた笑う。

なんというかこのエルンの親友はアンヌと同様にベクトルが一緒なのだ。エルンに対する思いが。

俺は弟のように思っているがアンヌはもっと近い本当の義弟だったのだ心情の上では。

その庇護欲がエドと重なるのだろう。

エドは誰にも見せないがエルンのためになら命を捨てるだろうと思う。

家族とは違うところでエルンを一番に大事に思っている。それがわかるのだ。

その大事に思う強さがアンヌと重なるから負けたくない気がしてアンヌが素で反応してしまうのだろう。

俺とは違うのは俺はルーの思いも引き受けてのものだからだろう。少し父や兄に近い思いだ。

だが命をかけられるかと問われれば迷わず差し出すという点では一緒なのだけれど。



ベクトルが似ているのは我が息子たちも同じ。

娘はきっと・・・。



「そうだレオルド、シェリィは元気か?もう10日近くもあっていないな。」

「はい。最近はその学業にも勤しんでおりますし、サラと仲良しでナディアレーヌ様に・・・。

非常に。とても。懐いています。」

これ以上ないくらいの構えくらいの勢いで伝えておく。

なんならもう傾倒していると言ってもいいくらい娘までがナディアレーヌ様に心酔している。

キュリーはカイン様、シェリィはナディアレーヌ様。アーノンはサラ殿と・・・。

もはや中立を保てるのは自分だけじゃないかと思っている。

可愛い一人娘が一番アンヌの後を継ぐにふさわしく、天使のような見た目と相反し、中身がもうこれまた

なんとも言えないほどに・・・逆なのだ。

豪傑と呼ぶにふさわしいその愛しい一人娘が言っていた。



「わたしは母様と同じような仕事をすると思います。でもわたしの愛らしさや行動、無邪気さはそりゃ

作り物だし人によって変えられるものなんだけど・・・。」

父としてはもうツッコミどころ満載だったのだが頬を染めてうっとりと語る娘のその後に驚愕した。

「ナディアレーヌ様のあの邪気のなさと無意識の色気と、いっそ無関心なほどの自分への美貌と、

それ故の無防備な周囲への牽制なしの好意の振りまきといっそ感嘆するほどの相手からの好意への

無防備さが高低差にめまいをしてしまうほどのアンバランスさです!何と得難い人で素晴らしい素材。」

素材と言ってしまっている愛娘に声をかけるか迷っていると・・・。

「その上ちゃんと皇女なので牽制も流すのも無意識にされるの!そして何といっても天才的に相手の

急所をきちんと付くんです!確信を持って!しかも無意識に!

でも無差別にやるのではないのです。個々ぞというときですわ!!なんとエルン様のお側に一番ふさわしい!!」



シェリィはアーノンと同じく、エルンに盲目なほどに付き従うのだけれど、今までエルンの眼鏡にかなう

女性がいなかったからか娘はその隣に並び立つ人を切望していた。

そこに現れたのが神託の姫であり、ナディアレーヌ様なのだ。

心酔しないほうがおかしい。というか、もはやエルンよりもナディアレーヌ皇女に心酔している。

このままだとカイン様に傾倒してしまったキュリアと同じ道をたどる気がして少し怖くなってきている。



「そうか。ナディアに懐いているのか。今度皆で一緒にお茶をしようと伝えてくれ。」

「わかりました。」

我が君の好意を笠に着る娘ではないのでそれはいいのだけれど、見た目は天使で中身はあの娘が・・・

子供だということを盾にエルンに近づこうとしたり取り入ろうとしていたご令嬢方をこてんぱんにして

いた事をエルンも知っているのかいないのかはわからないが・・・。

まあ、知っているだろうけれど・・。

「それにしてもすごいな・・・ナディアはシェリィのお眼鏡にかなったのか?」

「はい。本当にすごいと思います。」

「それはそれは・・・。」

くくっと笑うその姿を見て、本当なら頭を抱えたい気持ちになっていると怒鳴りつけたい。



色々根回しも必要だとわかっているだろうと言いたい。

エドはあまり気にしていないようだがわたしは彼の国の皇国の王にあっているわけだ。

聡明そうな、美しい面差しの銀髪の壮年の方だった。

柔らかな物腰の優しい瞳をしていた。

少しだけ諦めたような顔をして、ナディアレーヌ様ならとおっしゃっていたあの方の気持を考えると

ここまでなるべくしてなったかとは思うが、エルンが個々まで囲い込みに入るとは思わなかった。

ナディアレーヌ様が全く気がついてないというのが意味がわからないがエルンがここまで・・・。

なんというかなりふり構わず手に入れようと本能で動いている意味だ。



俺は思う。

初めてエルンの心が動いた人。

その人はエルン自身を好いてくれるかもしれない希望。

そして、エルンの大事なその人を自分も失いたくない恐怖。

エルンが泣くのも悲しむのも見たくない。国のために生きるだけしかない弟のような愛しい子が初めて

望んだ人。


失うとしたら、手放すとしたら。

今までそれら愛情を感じたことがないエルンがその重みに耐えることができるのか・・・。

そんなことを親でもないの思ってしまう。

願わくば、ナディアレーヌ様が・・・それは口にしないまま心にしまう。



そのわたしの顔を見てナディアレーヌ様が首を傾げる。

「レオルド様、どうかされましたか?」

「・・・いえ。なにもありませぬ。」

そうですか。といってまたお茶に取り組む。かの姫は人の機微に聡いだろうに何故エルンの気持ちには

気づかないのだろうかと不思議に思う。

こんなにもわかりやすくわたしの主はかの姫を求めているというのに。



「・・・やはり、レオルド様お加減が?アンヌ、レオルド様について差し上げたらどうかしら?」

「姫様、大丈夫でございます。レオルドのこれは親の気持ちですのでどうぞお捨て置きください。」

・・・・アンヌはしっかりと分かっているということで。

おこがましくもエルンのことを考えていたこともバレているということだ。

「レオルド?どうしたんだ本当に?」

心配そうに自分を見上げるエルンの顔を見る。

本当に親の心子知らずというか・・・子供ではないけれども。

「大事ありません。申し訳ありません陛下。」

「・・・よい。」

そう言って心配そうに一度だけ覗き込んだ瞳が俺の顔を観察し、大丈夫だろうと察して解ける。

その笑顔を見て、ナディアレーヌ様には申し訳なかったけれども・・・。



「アンヌ、すまないがエルンハルト陛下がシェリィとナディアレーヌ姫様とのお茶を望んでいる。

いつなら叶うかエドと話し合ってくれないか。」

その言葉を聞いてアンヌはニッコリと笑う。ああ、あなたもやっとこちら側に?と。

その顔を見て思う。

自分はエルンが大事すぎて、傷つくだろうことから排除したくて、ナディアレーヌ様の気持ちがきちんと

固まるまでエルンを痛みから取り払いたかっただけで、傷つくことを恐れて近づけることを考えきれて

いなかったことを。

わが妻はその先を行っていること。

自分はわかっていてもどうしてもそれに順応しきれていなかっただろうすべてを飲み込む。




そうだな、エルンもいつまでもあの泣いていた少年ではない。

ふとみると、あの時よりも精悍に美しくなっている我が君がいる。

傷ついても彼は諦めないだろうから、この我が君が諦めないならすべてを彼の手に収めてあげたいと

自分が思ってもいいのではないかとだいそれたことを思う。

ナディアレーヌ様が彼の国に帰らなくていいように。

なんならエルンをそそのかせばいいのだ。帰るなといえばいいだけだと甘言だって吐いてやろう。

そう思うとおかしくて仕方なくなる。

ルーは怒るだろうか。それとも肩をすくめて笑うだろうか。

彼だったらきっと笑う。

それでこそだって笑う。

俺の主であるエルンのすべてを優先する。

ナディアレーヌ様申し訳ありませんと一度だけ謝る。その後はもう謝るまい。

我が君の望むとおりだ。




「さて。お茶の準備と並行して、わが国王の貞操の危機についての会議をしようかなと。」

「何だその言い方は?」

そういって不機嫌そうに眉をひそめるエル様を見てくすっと笑ってしまう。

「エドガルド様、貞操の危機?とは?」

わたくしの言葉にエド様は非常に楽しそうに満面の笑みで答えてくださいました。



「ああ、スーガイヤの第二王女がうちの陛下に媚薬を盛った回数只今記録更新中なんだ。」



・・・・全く楽しい話でもなくなんでそんなに満面の笑みなのかも不思議なほどに不遜なお話でした・・。



エル様を見ると本当にうんざりとした顔をしていらっしゃいます。

「えっと、わかっているだけでも3回。だからねぇ・・・公にできる話ではないけど向こうとしては

そうなる気満々だからねぇ。エルンが気分が悪くて退出してしまうのをいつも狙っているんだけど

まあエルンはほら、媚薬をもられると吐いちゃうから。」

またエド様が楽しそうに笑って話してますけれどもよく見ると目が笑っておりませんわね。

「考えたくもない・・・。」

うんざりした顔をするエル様の背中を軽くさすっているのはレオルド様。

「まあ、レオルドはその国の一の姫に狙われていたからこれまた大変だったんだけどねぇ・・・。」

これまたびっくりする話が飛び出してきたので驚いてレオルド様を見るとこちらもうんざりした顔を。

「わたしのようなものに恐れ多い。それにわたしには愛する妻がおりますので。」

そう言ってすまし顔をしている。

珍しくもレオルド様が舌打ちしそうな顔をしたことを見逃せませんわ・・・

アンヌを見るとこれまた美しい笑顔。




怒ってますわね、アンヌ・・・。



「わたしは忘れていないぞ、レオルド。かの一の姫にお前こそ媚薬をもられたではないか。」



レオ様からこれまた物騒な話が出てまいりましたわ・・・。それにしてもスーガイヤというお国は・・・

媚薬がそんなに出回っておりますの?作るのだって大変ですのに?

ナディアレーヌが少しだけ方向違いの事を考えている間に話をすすめるのはエドガルド。


「いやあ、あのときはびっくりしたよねぇ。薬にも耐性あるはずのレオルドがすごい殺気で。

何か盛られたって言ったあとにアンヌって呼び始めるからこれはただ事じゃないと思って。

それを一の姫がわたくしがお送りしますわ。なんて言い出したからあーこれまずいなと思ってさ。

慌てて自分がレオルドを連れ出したんだけどそのときにまあ、本当にすごい殺気でねぇ・・・。」

「ああ、レオルドの殺気で一の姫が気を失ったからな。」

「仕方ありませんでしたから。」



・・・・レオルド様は殺気でなんとか貞操の危機を護られたということでしょうか。


「いやあ、国の宝、王国の盾を媚薬なんぞでどうこうしようとされてもねぇ。レオルドは変わりがいない

でしょう?エルンの側にはエドガルドとレオルドがいないと。」

エド様がそう言って笑うと、たしかに・・・。と思いますのよね。

「一の姫には退いてもらったからな。」とエル様。

「ええ、我が国の盾にしたことは許せませんからねぇ。きっちりお仕置きさせていただきましたし。」

そういってニヤリと笑うエドガルド様。

まあ、もう一の姫様はどうにかされたということでございましょうか?



「レオルド様、思い出すのもご不快かとは思われますが。2、3質問してもよろしいですか?」

「はい。姫様。」

そういって胸に手を当てて軽く頭を下げるレオルド様は本当に凛々しくお美しいです。

確かに媚薬を盛ってでも妻がいてもどうにかして手に入れたいと思う美貌でらっしゃいます。



「解呪方法はどのようなものでしたか?それから媚薬だとわかったのはどうしてですか?」





周りの空気が張り詰めるのを感じたのはほかでもないナディアレーヌ以外の人間だけだった。




媚薬の解呪方法なんて発散すればいいだけだと皆わかっている。皆わかっているが口に出すのも

はばかられる。

周りにいる従僕、侍女、すべての物言わぬ家具たる者たちでさえ固まってしまった。

このうら若き美しい皇女にどう説明するのか周りの方が冷や汗をかく思いをしている。



「直答でよろしければですがあまり気分の良いものではありませんがよろしいのですか?」

そのレオルドの言葉に周りも固まる。

レオルド様ー!!と周りの声なき声が聞こえるが答えろと言われたからには答えなければならない。



「まず、かの一の姫にどうしてもと請われて踊らなければならない状況に追いやられたのですが。」

レオルド様の言葉から端々に本当に嫌だったのだろうなという空気を感じますわね。

「ええ、それから?」

「踊っているときに、わたしの親指にチクっとした痛みを感じまして。それから一曲終わり切るあたりで

喉が渇きはじめまして。自分は大概の薬には耐性がありますし、媚薬等にも耐性があります。

ですが、それは初めてのものでございました。成分検査がありますので後で提出いたします。」

「ありがとうございます、レオルド様。」

ニコっと笑ってレオルド様に話の続きをお願いします。



「いえ。それから体温上昇を感じまして、動悸が始まりました。まずいと思ったのでエドに助けを

求めまして。陛下にお伝えする前に腹黒なこの同僚になんとかしてもらわなければと思いまして。」

軽くエドガルド様を悪く言われてますが、お顔は笑っていますお互いに。

「ああ、あのときのレオルドはこっちが焦るくらい殺気立っていてねぇ。アンヌは影としてはその日は

付き添っていなかったのでカレンをエルンから離してアンヌを呼びに行ってもらって・・・。」

「あの日わたくしは別件で動いておりまして。」

影としての仕事をしていたということでしょうか?

「一の姫が殺気からめが冷めてレオルドの名前を呼んで告白しようとときに、まあ、タイミングよくアンヌが来てくれたからねぇ。」

「ええ、あれは我が妻ながら素晴らしいタイミングでした。」

「陛下のお供の場合は顔や雰囲気を変えておそばにおりますが、あの日はアンヌとして出席しておりましたので。」

ああ、顔もレオルド様の奥様だということも一致しているということですね?

「一の姫がレオルドにすがりついてわたくしの側にいなければならないって。じゃないとあなた苦しむわよって。

自ら媚薬を盛ったことを言い出しましてねぇ。外交問題ですよね。」

そういってエド様は本当に心の底から楽しそうに笑ってらっしゃいます・・・。



「それを振り払って、アンヌを抱きしめて離さないものだから、我が国の盾の愛妻っぷりが各国にばれてしまったではないか。」

そう言ってエル様まで笑う。

アーノルドは頭を抱えているのでわかってはいても聞きたくはないのかもしれませんわね。

「その後はアンヌがレオルドの手の甲に口づけて、そのまま会場を去ったからどう解呪したのかは

わたしは知らないが。」

まあ!!アンヌったらもうわたくしの理想を裏切らないかっこよさではありませんか!!

「そうそう、あまりにも鮮やかにアンヌがレオルドの髪に触れてそのまま連れ去ってしまったからな。」

そう言って笑うエル様にニヤニヤ笑いのエド様を超えてレオルド様を見ると・・・。

びっくりするほどの真顔でしたわ。



「解呪の方法ですが、そのまま個室に連れて行かれてありったけの解毒薬を飲まされ、水も飲まされ

吐かされまして。」



え?といった空気が漏れる。

夫婦なのに?解毒薬を飲まされて吐かされた?

といった空気にさらされる。



「当たり前でございますわ。レオルドは愛しい夫ではありますけれども王家の盾。生易しい方法で

解呪など許されませんでしょう?それに吐いてくれないとその後成分検査が出来ませんわ。」

全て吐かされたものは研究塔に持っていかれたという話までが解呪の話でございましたか。




「あ、でも!そういえば・・・。」

そのアーノルドの声にわたくしが振り向くと・・・。

「体調を崩して何日かお休みしていた父が本当に母から離れなかったときのことでしょうかね?」

「アーノルド!!」

レオルド様の慌てた声がします。

「ああ、あのとき3日休みをやったな。」心も折れていたからなと笑うエル様。

「そうですそうです、あの四年前のときですね。いやあ本当に離れなくてこっちが母様に用事があっても

威嚇されたときですねぇ。」

「威嚇・・・。」

わたくしのその声にアンヌは普通に答えてくれました。

「散々吐かされたのでぐったりしておりましたし。まったく影響がなくなるわけではありませんので

少しは優しくいたしました。」

どう優しくしたのかは聞かないことにしまして・・・。



「その成分がエル様にも盛られたものでしょうか・・・。」

わたくしの言葉にエル様が首を傾げる。

わたくしが首を傾げていたからか、同じ方向に首を傾げているのが可愛らしくて笑ってしまいます。



「エル様は解毒薬なしでも吐き気がされますか?」

「ああ。もはや媚薬という媚薬はすべて吐き気をもよおす。」

「ならば護られているということでございますね?わたくしは耐性がありますので吐きませんが。」

「・・・・ナディアも耐性があると?」

「ええ。わたくしこれでも皇女でして。」

「いや、わかっている。」

微妙な顔をしているエル様に笑って答えました。

「わたくしの場合は身を護るためだとしっかりとどの状態の媚薬にも耐性がありますので少し調べれば

確実な解毒薬をお作りしますわね。レオルド様もご安心くださいませ。」

「・・・・ありがとうございます。」

二度と彼の国の方とは踊らないと決めてらっしゃるのでしょう。その場合はエド様がお相手を?

「エド様、要りますわよね?」

「まあわたしもそこそこ耐性はありますが、解毒できるなら絶対にほしいです。わたしも愛妻家なんで。」



ですよね。








長くなったので二部に分けます。

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