作戦会議なんて基本うまくいくはずありませんものね
作戦会議するする詐欺。と言われても仕方がありませんがちょっとずつ進んでますから!
場所を移動するに当たり。
ずっとお願いしたいことがあったのでそれを伝えてみました。
「作戦会議だとわかっはおりますが・・・。お仕事も兼ねてとはわかっておりますの。
でも、エル様の執務室よりも北の庭園の東屋はいかがでしょう・・・。か?」
その提案に案の定アーノルドが一言物を申しはじめました。
「なりません。姫様の魂胆はわかっております故。」
そういって軽く一睨みされてしまいましたわ。本当に最近のアーノルドは全くわたくしにたいして
遠慮といったものをどこかにおいてきてしまったのかもしれませんわ・・・。
じとっと顔を見上げるとその視線を受けてはっきりと物申し始めましたわ。
一体誰に似たのかしら・・・何故こんなに説教というかなんというか・・・。
「ロウ様だって無理だとおっしゃったじゃないですか。ロウ様がだめだとおっしゃるのだったらわたしも
無理です。絶対に無理です。」
「だって、この季節とこの条件であればきちんと爆ぜずに混ざるかもしれませんのよ!」
「それには危険があるのでカイン様がいらっしゃるまで待てとロウ様もおっしゃってました。」
「今日はエル様もいらっしゃるし、レオルド様だっていらっしゃるから。」
「父は近衛団長ですよ?エルンハルト様を一番にお守りしなければならず、まだそのような薬草のことに
手を付け始めて間もないわたしにはロウ様以上のサポートは出来ませんし、カイン様やフレディ様たちと
同等の慣れているものを必ず二人付き従うという約束をフレディ様にしてらっしゃいますよね?サラも
あまり良い顔をしていなかったじゃないですか。おわかりでしょう?」
・・・・耳が痛いです。
確かにわたくしはちょっとだけ行き過ぎた実験的なこともしますので、兄たちにきつく。
きつく言われているのです。
初めてする試薬の実験の場合はロウ、または自分たちと同じ力量があるものをつけること。
一つでも損なえばその試薬作りを一切取り上げると言われております・・・。
サラもこのことについてはお兄様たちと同じ意見らしく、大体が甘いのにこのことについてはアーノルドの方を優先しております。
でもこの季節、この天気、それからロウもいるしそれをそのままエル様に試薬の作り方をご覧いただき
安心していただきたいという気持ちもありますし・・・。
撹拌には遠心力が必要なのですが、できれば温度が少し低いほうがいいのです。
室内でもいいのですが見ていただくにはとても良い機会だと思ったのですけれど・・・。
まあ、その器具を持ってくるのも・・・特殊なものだからちょっとびっくりはされるかもしれませんけれども。
円形のものなんですものねぇ・・・あれで撹拌できているのか開けるまでわからない上に、うまくいかなければ爆ぜるという・・・。
確かにもし爆ぜでもしたら取り返しのつかないことにもなりますし。
カインお兄様がいらしたらシールドも張ってくれるとは思いますし。
わたくし自分でも張れますけども、真剣になればなるほどそちらがお座なりになってしまっていつでも
ロウが慌てて強化してくれる始末。
シールドとは魔法とは違い、エルロッドウェイにある・・・・魔術?に近いものです。
魔法という方法ではなく、術という極めればなんとなく誰もが簡単に使えるわけではないのですが
何らかの形で身を守る程のベールくらいのものを張れるようになるわけです。
術式を組み立てるということで、医術や医学、薬学、それに準ずるものとして研究が進められてきたものでした。
ちなみにわたくしは生まれたときから特殊な状況にありましたので、これを張ることを一番に覚え込む
ことが大事だったのですが、それよりも剣術で身を守るなんなら剣聖の状況の方に偏ってしまい・・・。
シールドを張ってといった防御方面が点でだめという、淑女たるもの護られてなんぼという状況を
もとから断ってしまう始末・・・。
ええ。
身を守る程度なら多分護衛よりもなんとかなりますが、薬を作ろうとしてるときにはもはやそれに集中
しているために絶対にシールドが必要なのです。しかも二重に。
わたくしが実験も兼ねてするものは大体にして大事になるとわかっている兄様たちの経験と知恵からの
ものではございますけれども・・・。
シールドの二重はわたくしの場合は絶対です。
だって、本当にそれしか見えなくなりますので怪我しそうになること多数・・・どうなんでしょうかね、それ。
はあ・・・。
ちょっとしょぼんとしましたけれども、仕方ありませんわね。
ロウはくくっと笑いながらまたアーノルドの頭を撫でておりますわ。きっと、よく言えました。くらいの
感覚で撫でているような気がしますわ。
「ナディア、何故北の東屋なのだ?東や花があふれる中央ではならないのか?あちらの東屋もきちんと
手が入っているのだが?季節の寒さで言えば一緒ではないのか?」
エル様がそう言いながら不思議そうな顔をしてらっしゃいます。
「・・・実は、北の庭の方にはこの冬でも枯れない常緑樹の針葉樹がありますの。」
「ふむ。知っている。庭師たちがきれいに切りそろえているのを知っているがそれがなにか?」
「そちらの方にはたくさんの効能がある、針葉樹がありまして・・・。」
「ほう。」
「香りも実も、今のエル様には必要なものかと思いまして・・。」
段々と声が小さくなってしまうのは仕方ありませんわよね。
わたくしの趣味と実益を兼ねて、その上エル様に効くかもしれないくらいのもので場所を変更しようなどとおこがましいですわ。
「あ、大丈夫です。あとでアーノルドについてきてもらいますから!」
「撹拌ではございませんよね?」
まったく、アーノルドったらわたくしに対しての信用性が低すぎませんこと?ちょっとだけ頬がぷっと
膨れてしまったのは許していただきたいですわ。
「当たり前ですわ、採集です!」
その言葉を聞いて、エル様が吹き出してしまわれました。
え?わたくしそんなにおかしなことを言いましたでしょうか?
「アーノルド・・・・そんなに意地悪を言うものではない。」
「はい。陛下。」
そう言って素直に胸に手を当てて頭を下げる。アーノルドったら本当にエル様が好きすぎますわよね?
「それからナディア?」
そういってわたくしの頬に手をやり、ニッコリと笑う。
「そのように可愛らしい顔をしてアーノルドを困らせるものではない。わたしを困らせないでくれ。」
後ろのエドガルド様がうへぇといった顔をしていらっしゃいます。どうしたのでしょうか?
レオルド様はいつものごとく微動だにいたしておりませんが・・・。
意味がわかりませんわ。どうしてエル様が困りますの?
「どうしてエル様がわたくしが怒ると困りますの?」
「ああ、怒るから困るのではないのだよ。その愛らしい顔をしないでくれと言っているんだ。」
そういってふふっと笑う。
愛らしい・・・・それは一体どういった表現方法なのでしょうかエル様!?
・・・・・頬が熱を持ったのが解ります。
「エル様!からかうのはおやめくださいませ!」
「おや、わたしは思ったことだけを言っているのだが?」
そういって穏やかに笑っている顔を見ると・・・・ああ、そうか。
わたくしはエル様にとっては12も年下。ということはほとんど・・・・え?娘とか思われて・・・?
少なからずショックを受けつつも、仕方ないと仕切り直しましたわ。
わたくしがエル様を好きなことは事実ですが、わたくしのことを好いてくださってるなんてそんな夢物語のようなことは申しません。
エルロッドウェイなどすぐに飲み込んでしまえるほどの大国ドゥーゼットの頂きたる陛下。
ただ一人の国王陛下。
変わりの効かない、尊き方はきっといずれかこの国に一番必要な方をお側に置かれます。
わたくしではありません。
わたくしはたかだか医療国の末っ子の皇女。
ただ、健康になっていただければそれでわたくしは心置きなくこの思いを胸にエルロッドウェイに帰り
きっとエルロッドウェイの国力のために結婚するのでしょうから。
修道院にでもいけたらなぁといつも思っていたのですがそれもできるわけがありませんものね。
わたくしの結婚は政治的なものになることはわかっています。
お兄様たちのように好きな人を選ぶことができるのはお兄様たちが国に有益なものを残せるから。
わたくしのような末っ子の皇女は婚姻が大事なことであることはわかっています。
どちらにせよ、わたくしが他国に婚姻で赴くことは考えづらいかと思われます。
わたくしは皇女ですものね。わかっております・・・。
ただ、修道院にいけたら、この何年かかるかわかりませんがエル様のお側にいられたことを思い出しながら過ごせるのに。
はあ・・・。
とため息をつくとエル様がどうかしたのか?と心配そうな視線を向けてくださいます。
なんでもないといった気持ちを込めて微笑むと、心配そうな視線はまだわたくしに向けられていて。
仕方なく思っていたことをエル様に問うことにいたしました。
「あの・・・。」
「なんだ?ナディア?」
うううう・・・・あまりにもお美しいご尊顔だともはや美さえ凶器になりえると・・・。
そうじゃありませんわ、聞きたいのはそんなことじゃないのですけれども・・・。
「場所を移してからで構わないのですわ。エル様、いかがですか?」
「ああ。では・・・皆、北の東屋にお茶を用意してくれ。」
甘い・・・といった顔でアンヌやアーノルド、エドガルドも軽くため息をついています。
ということは!わたくしあれを採集できるかもしれませんわ!!
「ナディア。危ないことはだめだ。」
「・・・エル様はわたくしをなんだと思ってらっしゃいますの?わたくし17歳の淑女ですわ!
木に登ったり・・・は、あまりいたしません。」
「あまり?」
「あまり。」
きっぱりとうなずき真顔で答えるそのわたくしの声を聞いてエル様はくくっと低い声で笑われます。
結構登っておられるではないですか。と、小さい声のアーノルドの抗議が聞こえましたがきこえないふりをします。
聞こえなければ言っていないのと一緒ですからねアーノルド?
軽く睨むと、真顔で軽く睨んでくるのやめていただけないかしら・・・。本当にわたくしの護衛がロウよりも厳しくロウよりも雑なのは何故なのかしら・・・。
そうだ。北の東屋でお茶を飲むのなら緑茶にいたしましょう。
お湯が少し冷めてもゆっくり入れれば美味しいし、それに少しだけ新鮮なミントを積んでいきましょう。
緑茶とミントを少し掛け合わせると、木の茶だけでは飲みづらい方も飲みやすくなるのです。
わたくしはこの緑茶という樹の葉から作られる飲み物が基本大好きなのですが。
渋みがあるので好き嫌いは別れますしね。
エル様がお好きかどうかはまだ少し理解できておりません。
新茶という新しい新芽が出たらまたフレッシュなお茶を作ろうと思います。
その時は実は葉っぱも食べられるので、それを使ってパンをやこうと思っております。
まだ少し暖かい時期にならないとできませんわね。
エル様のご厚意でわたくしの庭園・・・というか薬草園の日当たりの良い場所にその木を植えてよいという許可をいただきましたし!
自分が飲む分くらいはやっぱり作りたいですしね。
支持を出しながら、お茶を考えている間、緑茶とミントという組み合わせとともに少しなめらかにする
ためにも火で炒ることにして、それに合わせてチョコレートも用意しようと思います。
エル様はあまりお召し上がりにはなりませんが、意外とレオルド様は好まれるということは解りました。
なのでそれも用意してもらうように申し付けてふっと。
ふっとエル様を見るとやっぱり少しお疲れのご様子です。
眠れないというのは何日間にも渡り体力を奪いますから・・・。
少しの間考えて、サラに先日作ったオイルを持ってきてもらいました。
「エル様、支度が整うまでわたくしの施術を受けて見られませんか?」
「施術?」
「ただその・・・。」
このマッサージは首筋、それからこめかみ、耳の側といった部分をわたくしが作ったオイルで少し圧迫
しながら抑えるといったものなのですが・・・。
この大国の国王陛下の首に手をかけるのは不敬に当たるからと、そのマッサージはいつもしておりませんでした。
ですが、この睡眠不足や喉の不調、それから頭痛、肩の痛み、それからコリと不調。
そういったものの改善には少し役に立つといったくらいのものなのですけれども・・・。
言いづらそうにしているとエル様がわたくしの手を取って言いづらそうな理由を述べるように微笑まれます。
うーん・・・と思いつつレオルド様とエド様の方もじっと見ます。
後ろのお二人もなんですか?といった視線を向けてきます。
それを見て、ロウが真顔でわたくしの言いたいことを言ってくれました。
「レーヌ様はこの施術なんだけどエルンハルト陛下の首筋や耳、それから目元を触るからとためらっておられるのですよ。」
それを聞いてレオルド様とエド様はなるほどとうなずいています。
そうですよね、わたくし一応エル様の敵でもありませんし、なんならお体を治そうとしております。
ですが一国の王の首に手をかけて圧をかけるというのを不敬と取られてしまう可能性も・・・
「姫にいくら触られたところでエルンは怒りませんよ?」
エド様がサラッと言ってくださいますが、いや、そうではありません。不敬かどうかなんですが・・・。
「陛下は特に不快に思われることはないと思われます。姫様ですから。」
レオルド様もさらっとそうおっしゃいますが、いやそうじゃないんです。
王家の盾でありエル様の盾のあなたさままで・・・。
「あー・・・。父上。姫様はそういった意味で戸惑ってらっしゃるわけではなくですね。」
アーノルドが何故わからないという風な感じで戸惑っていますわね、ええわたくしもです。
アンヌを見ても、軽く頭を抱えています。サラはどっちかというとレオルド様よりで、ロウは笑っていますわね。
差し出がましいのですが。と、前置きをしてアーノルドが言います。
「姫様は、施術とはいえエルンハルト陛下の首を触ることを不敬ではないか。とお考えなのですが?」
そのアーノルドの声にレオルド様もエド様もなんならエル様もびっくりなさってます。
「何故?」
そのエル様の発言にびっくりします。
いや、首ですよ?手首とかじゃないんですけど。わたくしが悪い人間でしたらそんな弱点さらされたら
ギュッとやってしまえばエル様大変なことに・・・。
いや、わたくしはしませんけれども。当たり前ですがしませんが!
「ナディアはわたしを好きにしたらいい。何をしてもいいし首だろうが胸だろうが触れたらいい。」
ふんわりと笑い、わたくしの髪に手を伸ばし毛先を捕まえてくん。っと引っ張られます。
その言葉を聞いて、その行為を見た途端周りが固まりました。
ええ、もちろんわたくしもかたまりました。エル様何ということを・・・。
「陛下。お鎮まりなさいませ。すぐにその耽美な顔と不道徳な手を引っ込めなさいませ。」
アンヌの低い声にエル様はくくっと笑います。手を離して自分の髪をかきあげる。
「冗談だ。ナディアがわたしに危害を加えるわけがない。そう言いたかっただけだが?」
「ご令嬢に対してその様な誤解を招くような言い方をするようにレオルドは貴方様を育てておりませんが?」
「いや、わたしは元々エルンを育ててはいないが。」
天然なのかレオルド様が声を張った時点でアンヌが・・・。
「当たり前でしょう。あなたの子供はアーノンとキュリーとシェリーですが。」
と更に低い声で諭しレオルド様がぐっとだまります。どうやらアンヌはとても強いらしいです。
「ナディアに誤解などさせていないぞわたしは。ナディアはわたしを治すために来てくれたのだぞ?
わたしに害をなすわけがない。」
そこではありません!とピシャリと言われてエル様たちが固まります。
「あなたさまのその顔で告げられるそういった言葉は大体が湾曲して伝わりますのでお気をつけくださいませ。」何度も痛い目にあっているでしょう?とアンヌがエル様に言えば、わからないといった風な
顔をなさいます。
ああ、エル様何度も誤解を招くようなことを言ってしまわれたのでしょうか?
まるでわかってないようなエル様を一にらみしてアンヌが淑女の礼をとります。
「ナディアレーヌ様、陛下はこのお顔ですのに発した言葉にどれだけの影響があるかをあまりにも
わかっておりませんの。しかもほぼすべてが本音ですわ、今回のことに関しましては。
よって首筋のマッサージは今回はよろしいかと思われます。手のマッサージをして差し上げればよろしいかと。不埒な邪念など叶えて差し上げる必要はありませんもの。
これ以上ナディアレーヌ様にご迷惑をおかけしてさらに陛下にご褒美を与える必要はありません。」
ご褒美?どういったことでしょうか?
「でも、手のマッサージだと頭痛や寝不足は・・・。」
「姫様。手でよろしいかと。」
アンヌの圧に負けてコクコクと頷くとアンヌが満足そうにでは用意いたします。と頭を下げます。
ばれたか。とエルンハルトは思う。
流石にやりすぎたかとは思ったが、ナディアは驚くほどに警戒心を持っていない。
もちろんわたしの首に手を添えるだけでも普通は不敬に当たる。それはそうだろう。わたしの服を作る
ときであれレオルド以外に図らせることはないのだ。首周りは。
背後に立たせるのもレオルドとエル以外には近衛騎士の中でも人を選ぶ。
それほどの慎重さをもってしてあたらねばならないのが国王の体だ。傷一つ負うわけにもいかない。
そのなかナディアがためらっている意味もわかっていた。
わかっていながらわたしは示したのだ。
わたしに触れていいのはナディアだと。そのことでこの部屋にいる侍従、近衛騎士、護衛のもの、影。
そういったものがわたしの意を汲んだとは思うが、事本人。
ナディアになかなかほんとうの意味で伝わっている気はしない。
大丈夫。
わたしは体をなおしてもらうということを引き換えに、さらに乞うのだ。
ナディアがわたしから離れないように。わたしが告げなくてもそばに居てくれるようにするために。
わたしがいなくてはならなくなるように。
何でもしよう。わたしはできることは何でもしよう。彼女を手に入れるために。
わたしに堕ちてくれるまでなりふり構わず策を練る。
12も年下の女性に。
笑うなら笑えばいい。私だって必死なのだ。
大人なふりをしてわたしを怖がらせないでわたしがいなければならないと思わせたいのだ。
国と国との交渉でナディアを手に入れることは可能だろう。
そして帰らないでくれそばに居てくれと告げれば彼女はここに留まってくれる。
どんな手を使おうが彼女をもう手放さないとは決めているが、それがどうした。と思うのだ。
不埒だと言われてしまったが、それの何が悪い?
手に入れるためならどんな顔でも見せよう。どんなに逃げられても腕の中に閉じ込めてやろう。
それほどまでにわたしはナディアに救われていて、そばに居てほしくて、一緒にいたくて。
わたしのものにしたい。わたしのものに。
と開き直ったわたしに気がついてアンヌが警告する。
ナディアにわからないように耳打ちされた一言。
ーそのような距離の詰め方はカイン様の不敬を買いますわよ。それに可愛らしい方が怯えて距離を
取ってしまわれたら陛下はどうなさいますの?慎重になさいませ。ー
ぐうの音も出ないな。彼女の細い指が自分の体をなぞるのを少しでも楽しみにして何が悪い?
そう思ったが確かに不埒だな・・・。と思い直す。
自分にこんな欲があったなんて知らなかった。全部ナディアが教えてくれた。
わたしが人を手に入れたいと思うこと。誰にも渡したくないと思うこと。
ナディアのすべてを手に入れたいのと同時に同じくらい何一つ手を触れてはならないほど愛しいこと。
相反する思いを抱えるのも人を愛おしく思うことの続きなのかと。
自分が素直であるがばかりに触れたくもなる。そして、それを押し止めることはとても苦しくもある。
でも、触れてしまえば止まることは出来ないから。
抱きしめてナディアが受け入れてくれたら?それ以上を求めない自分ではない。
止めてくれる人がいるうちに、自分の限界を知りたい。
「どうなさいました?」
明るく笑う愛しい人は、こんな仄暗い思いを抱えている男の執着にさらされているなんて一つも思って
いないのだろう。
知ったら、逃げられるかもしれない。
だから隠しながら、余裕などないのにあるふりをしながら、慣れているふりをしながら。
近づいていい距離を測っているなんて。
「なんでもない。さあ、行こうか?」
気づかないでいてほしい。わたしが告げるまで。
あなたの気持ちも育ててわたしが摘み取るまで。
そのまま。
そのままでいてほしい。
そう思い、視線を落とす。
さらっと揺れたミルクティー色の髪を、ナディアが嬉しそうに見やる。
「エル様、髪伸びてきましたわね。もう少しでくくれるでしょうか?まだ無理でしょうか?」
その声に視線を上げてナディアに合わせる。
「さあ、まだ結うほどにはならないだろう。だがそうだな。一番に結ってもらおうか、あなたに。」
「わたくしに?」
「ああ、あなたがわたしの髪をすきだといったのだ。あなたがわたしに似合う組紐を選んでくれ。」
うーんと悩んで、ニコっと笑う。
「ええ、わたくしでよろしければ。カイン兄様のようにサイドを編み込んでも?」
「あなたの好きなようにすればいい。」
そういうと嬉しそうに笑う。自分の髪が伸びるのを楽しみにする日が来るなんて思わなかった。
「あなたの髪も、いつかわたしに結わせてくれるか?」
そういうと頬がうっすら染まるのをみて、くらくらした。
「こんな髪で良ければいつでもどうぞ。」
ニッコリと嬉しそうに笑うこの無防備なかわいい人をどうしてくれようか・・・と思ったところで。
「「エルン。そこまでだ。」」
エドの笑いを含んだ声と、心配そうな声のレオルドに同時に突っ込まれる。
「さあ、このまま行くと日が暮れてしまいます姫様。エルンは放おっておいていいので北の東屋に
ご一緒くださいませ。作戦を立てるのなら自分のほうが適任なので。」
そういってにこやかにナディアの手を取り口づけるエドを軽くにらみたいのを我慢する。
「わたしを置いていっては作戦会議も何もならないだろう?」
「大丈夫だ。俺がいるんだから。」
面白がっているエドを軽くレオルドが諭す。
「エド、面白がるんじゃない。姫様も戸惑っておられる。」
そういって穏やかに一礼をし、エドからナディアの手を取り上げ礼をとって手を額に付ける。
そのまま自然に自分の腕に手をかけさせてしまったじゃないか・・・。
「レオルド・・・そなたはわたしの護衛ではないか。何故ナディアの手を取る?」
「ロウ殿がいらっしゃる上にアーノルドがおります。姫様はお守りしますし。」
・・・・・レオルドまでからかってきたな・・・。
仕方なくため息を付き、レオルドを睨む。
「変わる。ナディア、わたしに手を。」
「は、はい。エル様。」
そういってくるくると変わる手を取る相手に目を白黒させている。
「エル様、体調は大丈夫ですの?」
「ああ。大丈夫だ。咳もほら、あなたと過ごす時間のどの間も出ていないだろう?東屋についたら
新しいお茶を入れてくれるのだろうか。」
「はい。とっておきのお茶を用意しますわ。」
そういってごきげんに笑うナディアを見て少し腕を引きたくなったがぐっと我慢する。
あまり近づきすぎて彼女のドレスを踏むような愚行はおこしたくないし、迷惑をかけたいわけではない。
「エル様、少しお伺いしてもよろしいですか?」
そういって首を少しかしげながらわたしを見上げる愛しい人の瞳を見つめる。
わたしと同じ。
銀色の色を隠した鮮やかな紫色の瞳を。
彼女が見上げるわたしの瞳は、ダスティブルー。
お互いに同じ瞳の色を持っているというのに隠しきらなければならない。
その澄んだ瞳に吸い込まれそうな気がするが、問いかけられた言葉に不意に意識が向く。
「アーリア様と言う方はどういったお方ですか?本当にエル様はなんとも思ってらっしゃらない?」
「わたしが何を思うというのだ?」
「大変お美しい方なのでしょう?」
美しいかと言われれば美しいのだろう。わたしは人の美醜を気にしない。というか興味がない。
ただそれでも美しいか否かということくらいはわかる。
美しいかと言われればかの王女は華やかな美女と言うにふさわしいとは思う。
ただ・・・。
「美しいといえば美しいのだろうな。だがそれだけだ。外見だけが美しくてもかの王女の執着は・・・。
その少し恐ろしい。」
「恐ろしい?」
ため息を付きながら思わず答えてしまった。
「ああ。あの彼女のどうやってもわたしを手に入れるというその狩人めいた目が好ましくない。
それに、なんというか・・・我が国にもいる。あの手のご令嬢は・・・。」
そういって溜息をつくのを見ながらああ・・・と思う。
ヘザー様のことをおっしゃっていらっしゃるのかしら?
ということはあの方のようなタイプということかしら?
だとすると対処は簡単な気もするんだけれども。自滅させたらいいのかしら?それとも怒らせる?
などと自分でも思っているより物騒な考えに至るのは、最近自覚したこの恋心のせいだろうか・・・。
とも思い至って自分でも苦笑いが浮かんでしまいますわ。
でも国と国との国交もそう、気にすることはないとおっしゃっていましたけれども・・・。
それもエドガルド様がこれから教えてくださるということでしょう。
わたくしができることはとりあえずはこれから東屋につくまでにエル様のご機嫌を取ること?
かしら。
ゆっくりと歩く中、澄んだ空気と緑の香りがしますわ。
見上げると、エル様の吐いた空気が白く染まっていて、ふわっと広がるのが見えました。
手をのばすとエル様に優しく取られてしまいました。
「どうした?」
「え?ああ・・・呼気が澄んだ空気に溶けているのにふわっと広がって。
エル様が穏やかに呼吸をしてらっしゃるのが嬉しくて美しくて見とれてしまいましたわ。」
目を見開いたエル様が固まり、そして破顔。
クスクスと笑うのでわたくしまでつられて笑ってしまいました。
「ナディアはそんなことを思っているのか?」
「ええ。エル様、とても美しいですわねこの空気も・・・エル様も。」
「わたしが?」
「はい。エル様が。」
「ナディア、あなたはとても面白いな。」
それは褒め言葉なのかどうなのか微妙なところだということはわかっておりますがエル様が嬉しそう。
だから良しといたしましょうか。
「ナディア。どうやってアーリア姫からわたしを守ってくれるのだ?」
そういたずらっぽく聞かれてしまいましたわ。
そして目の前の北の東屋に到着したのですが、どれほどの魔法を使ったのでしょうか。
ふんわりと暖かな空気が覆ってくれています。
さすがですわね。
「どんな手を使ってもお守りしますわ。」
「ふふっ。それは楽しみだな。」
サラやアンヌがお茶の葉を載せた銀のトレーを用意してくれているし。
その横にはハンドマッサージをするためのオイルも用意してくれているみたいですし。
まずはお茶からですわね。
「さあ、では先にお茶にしましょうか。」
作戦会議というよりもお茶会にになりそうだわ・・・。
と思ったのは秘密ですわね。
そして視線を向けたその先に、わたくしの一番の採集の目的のものがあるのでわくわくしているのを
隠しきれていないのはわかっているのですけれども・・・。
それはあとですよ。とアーノルドに視線で諭されて・・・。
「エル様、ではお茶をお入れしますわね。そして・・・お守りする方法もご相談しましょうか。」
そう言って笑うと、周りの皆も楽しそうに笑うから。
どれだけ用意しても、ことが起きるときは起こるものだと。
このときのわたくしはまだ少しのんびりと思っていたのでした。
エルンハルトはどうやら無意識に甘やかしと絡め取ることの二段構えらしいです。




