とりあえずはお薬のあとはお茶でもいかがですか?
寒いと咳が出ると止まらなくありません?そんなときに優しくされると一気に惚れてしまうでしょうとも・・・という今回はなんともとりとめのない内容で申し訳ありません。
「エル様・・・」
「だがしかし・・・。」
「そんな顔をしてらっしゃると、無理やり手づからわたくしが食べさせることになりますわ。
それでもよろしいのですか?」
「・・・・・・・・・あれをするのか?・・・・・・いや、自分で食べる。」
この会話を毎回しなければならないことにも大分なれてきました。
基本エルンハルト陛下は低血圧でらっしゃるらしい。
抜けるような白い肌にミルクティー色の柔らかな金の髪。
それから最近は少しだけ、ほんのりと少しだけその頬が暖かなアイボリーを含んだような赤みを
帯びてきたような気がいたします。
起き抜けのエル様に朝食をとっていただくようになるのは大分時間がかかってしまった。
それほどにエル様の食事事情はわたくしの頭の抱えることでした。
なんせ食に興味がない。興味がない上に食欲もない。身体自体は縦に長く、線が細すぎるわけではなく
きちんと適度に筋肉がついている分なんとも燃費の悪い体になってらっしゃったのだ。
細いながらきちんと鍛錬は欠かさないのか、素振りはしてらっしゃるらしくきちんと筋肉がついている。
気管支に負担がかかるような試合などはなされないようだけれど。
まあ、それなので本来なら筋肉を維持するために脂肪も少しはつけてほしいのだけれど・・・。
なんせ陛下は食に興味がないみたいなのですわ。
ないので、適当にしか食べない。そして今までは食べるだけでも御の字だったのでみなさまが陛下のあまりお好きではないものはまず作らない。
結果。
お魚といったような淡白なものや鶏肉のソテーのようなものはお好きな模様。
逆に血の滴るようなレアなステーキやこってりとした肉の塊は避けられる模様。
ここで困ったことに牛の肉を避けられるということ・・・。
赤身肉には滋養があるというのにそれをあまり好まないとはどうしましょうか・・・。
そして。
なんとエル様は色のついたお野菜があまり得意ではないらしい。
というのも、とりあえずサラダを召し上がらない。
まあ、生野菜は体も冷やすしおすすめはしないのですがそれでも生で食べたほうが良いという野菜は
あるのですわ。
そして、わたくしの趣味は薬草。薬草をフレッシュなものを朝一に召し上がっていただきたい。
ですがなぜか緑のものを避けてしまわれるエル様。
仕方ない・・・。
と、諦めるわけには参りませんわ。
わたくしの使命としてはエル様の健康を取り戻すこと。命をお救いすること・・・。
もはやそれはわたくしの心からの願いになっています。
毎日健やかでいてほしい。
そうおもうのだけれどもエル様をお薬のみで治療するのは忍びないのですわ。
やっぱりお薬だけではなく、滋養あるもので長い目で見て健康を取り戻させてみせたい。
そう、わたくしの手で・・・。
「というわけで、エル様が自らお召し上がりにならないので仕方ありませんわ。
お口を開けてくださいませ。」
「は?」
「だから、そのお口を・・・。」
「いやいや、ナディア・・・。」
「はい、あーん!」
ニッコリと嬉しそうにわざわざ食べやすいようにと一口大に切られた赤身肉。
なんだろうか、わたしが食べたこともないような緑のソースが掛かっているそれをかわいらしく小首を
かしげながら差し出してくる最近好きだと気がついた愛おしい女性に・・・
赤身肉であれ肉がそう好きではない上に緑のものをもともと避けていたため食べられるかどうかわからないなどと。
12も年上の大の大人の男が言えるとおもうなら、そう思うものは馬鹿だと思う。
言えるはずがない。
仕方がなく口を開くと、その瞬間にニッコリと嬉しそうに笑うナディアの笑顔がある。
昼の昼餐からこのような肉を食べることはほぼない。
最近は朝食も取るようになった。
それもこれもナディアのおかげだということはわかっている。
なにせわたしはナディアに弱い。ナディアに笑顔で言われたら頑張って食べてしまう。
そうして食べるようになると少しずつ体が、指先が、ほんのりといつもよりも温かい気がするのだ。
そういったときに嬉しそうに笑うナディアの笑顔を見て、ああ、気の所為ではないのだと気づいた。
そのため一切断ることをやめたのだけれども・・・・。
なんというかその・・・・恥ずかしいのだ。
ナディアに他意がないとわかっているためわたしもその様に振る舞うのだが。
なにせ彼女から手ずからわたしに給餌してくれているようなものなのだ。
気を抜くと耳が赤くなる気がする。
そして嬉しい。救いようがない。だって嬉しいのだ、でもニヤつくわけにもいかない。
その葛藤に気づかない愛しい人は、次のひとくちをまた切り分けようとしている。
やんわりとそのカトラリーを取り上げ、わたしは自分ですると軽くうなずく。
ここまでが食べるのを渋るとさせられる一連の流れだと気づいたときにはもう遅い。
いつも後ろに控えているエドやレオルドが無表情だったりニヤついていたり。
目の前のナディアの後ろに控えているサラやアーノン、それからアンヌの生暖かい視線も堪える。
だが嬉しい。
一体わたしはどうなってしまったのだろうか・・・と途方に暮れながら肉を小さく切り分ける。
そしてナディアの笑顔の圧に負けて、その緑のソースを付ける。
わたしは緑の野菜が特に苦手だ。
青臭いような気がして食べすすめることが苦手なのだが、ナディアはよく緑色のものを食べさせようと
する。
だが彼女が作るものは思っているよりもいつも食べやすいのだ。
味自体はきっと料理長のほうがうまいのだと思う。ただ、わたしの口にあうような薄めの味や、そう
フレッシュなものや少しだけほんのりと爽やかな風味など。
そう思ってさっき慌てて飲み込んだ肉の塊を思い出す。
そしてなぜか大丈夫だったその緑のソースを少しだけ多めにつけてみる。
多分大丈夫だったんだと思う。
なんらかの気持ち一匙分、旨味がたされたのだろうかもしれない。
こういう者が惚れた弱みだというのだろう・・・・そうおもって苦笑いが浮かぶ。
目の前で不安そうに首を傾げているナディアに笑顔を返す。
ぱくり。
「ん・・・ナディアどんな魔法をつかったのだ?」
「わたくしは何も魔法なんて使っておりませんわ。それにそれを作ってくれたのは料理長ですわ。」
「だが、レシピはあなただろう?」
「・・・そうですわね。料理長とはとてもたくさん話し合いをしますの。」
そういってくすっと笑うその笑顔にわたしも笑顔を返す。
きっとバターや油を控えめにしろというナディアに対し、コクや旨味といった部分で料理長が
引いてくれる部分とひかない部分の照らし合わせが大変なのだろう。
「実はそのソースは緑の栄養分の高いグアザの葉を使っておりますの。苦味を消すためにしょうがや
にんにくを合わせて、それからナッツを。
油も植物性の木の実から取ったものをつかっておりますわ。熟していない若い実を使いますの。
その・・・エル様はあまり濃いものはお好きではないでしょう?ですが、お体のためには赤みのお肉。
それから少しの脂肪分と緑の野菜からの栄養分が必要なのですわ。
火を通せば壊れる成分もありますので、できるだけ熱をかけず刻んだり擦ったりいたしますの。
でもそのグアザだけではなく、わたくしが作ったハーブも入っていますのよ。
だからそんなに苦味だけじゃなくて・・・。」
「ああ、少し爽やかなのはそのハーブのおかげなのだな?」
そこまで気を使って作ってくれているソースを残すわけにも行かず。
わたしの食に合わせて少し小ぶりで薄く仕上げてあるその赤身肉もきっとわたしが完食できるようにと
ナディアが考えてくれたものだろう。
魚にも合うソースだな・・・そう思ったけれども言わず、わたしは食べすすめることにした。
それを見ながら、目の前でほうっと安心したように息を吐いた彼女を思う。
毎回食事をともにするわけにはいかないがこのような昼餐を取ることは多いような気がする。
朝はわたしがあまり食べられないため、ナディアはきちんと済ませてくる。
夜は殆ど一緒に食事は取らない。
仕事上いつになるかわからないし会食も多い。あまり他の人と一緒にものを食べるのは気が進まない。
何を入れられるかわかったものではないからだ。
でも、わたしには効かないのだから軽く流そうとも思うがそういうわけにもいかない。
こういうときにわたしは国王なのだなと、なぜかそんな意味のないことで思い知る。
そして思い知る事実が嫌だった。
そんな子供じみたことは朝目が冷めたときには霧散している。
なぜなら朝からナディアに会えるからだ。
お茶はほとんどともにしている。わたしの仕事のじゃまにならないような時間を狙って来てくれるので
一緒に暖かなお茶を飲むことが多い。
親しい人とは遠く長いテーブルの端と端で向かい合って食べるのは寂しいです。
としょんぼりとしたナディアのためにわたしの席の斜めに席を設けた。
こんな近くで誰かと食事をすることはあまりなれていなかったから戸惑いはしたが、ナディアの笑顔で
どうでも良くなった。
お茶をするときにはもっと小さなテーブルに付いてともに囲む。
毎回、今回はこのお茶ですと、銀のトレーに毒成分がないことをちゃんとわたしに確認させる。
銀の食器やトレーにふれたら毒の成分で色が黒ずむからだ。
毎回安全だと、自分はあなたに危害を加えることはないと。あなたのことを治すために来たのだと
全てで知らせてくれるその安心感は恋心と相まりもはやとどまることを知らない好感を抱かせる。
惚れた弱みだとエドは呆れていたが、呆れたらいいと思う。
わたしがそう思うからそうなんだ。
乾燥した茶葉も、花も葉っぱも、果物もなにもかもがナディアの手にかかると意味のあるお茶に変わる。
味も嫌いなものは一つとしてなかった。
私のことを考え、わたしのためにブレンドされたもの。
その手間はすべてわたしへのもの。
好きにならずにいられないではないか・・・。
そうおもってしまう。
テーブルの距離の近さにより、苦手なものを避けようとすればすぐにナディアはわたしに食べさせようと
手づから切り分けて口に入れようとする。
それだけは続くと恥ずかしいのでなんとか阻止するのだが、どうしても一口くらいは愛しい女性に
と思ってしまうのは男としては仕方ない性なのではないか?とも思う。
周りがなんにも言わないのをいいことに、わたしはナディアのその行動を止めることはなかった。
ナディアにしてみればなんとかして食べさせようと苦肉の策。ということなのだろうけれども。
唯それだけのことだとわかっているんだけれども・・。
なるほどこれでは誰のことも笑えない。
人のことはよく分かるものだ。
だからアーノルドがサラを好ましく思っていることもわかる。
サラはどうやらアーノルドほどにはなさそうだが、多分好ましく思っているようにも見える。
そう、人のことはよく分かるものだ。
嫌われてはいない・・・とは思う。手づから食べさせてくれるほどだ。
だがしかしナディアはわたしを治すという使命がある。それを忠実にこなしているだけなのかもしれない。
アーノルドに屈託なく抱きつけるほどの親しさはわたしにはないのだと思う。
わたしもナディアを怯えさせたくはないから彼女がびっくりする距離には近づかない。
少しだけ近くに寄れば。
毎日少しだけ距離が縮まる。
顔を見れば微笑んでくれる。声をかければ応えてくれる。
手を伸ばしても・・・・避けられることはない。
そうだろうとは思っていたとしてもおいそれ怖くて手を伸ばすことができない。
彼女が身構えたら。ナディアが怯えたら。
わたしは立ち直ることができないだろうと思う。
三十路の初恋など・・・笑えもしない。
自分でもそう思う。
いままで人と距離を詰めてこなかった分、愛しいと思う人が出来ても思いを伝えるすべもわからない。
ふと食べる手を休めれば、どうかしたのかと問うような気遣う視線に笑顔を返す。
わたしの愛しいと初めて思った女性は。
わたしと12も違う、まだ17歳の少女のようなあどけなささえ残る人。
カトラリーを気づけばおいていた。
「エル様?もうよろしいのですか?まだもう少し残っておりますが?」
「ナディア。手を。」
「手?」
「ああ、手を貸してくれ。」
そういうと小首をかしげて、ああ!といったふうにわたしの側に寄ろうとする。
食べさせてくれようとしているのかと思い至りくすっと笑う。
そのわたしの顔を見て、一瞬目を見開いたナディアの耳が軽く赤く染まったのを見た。
「ちがう。ナディア。手をわたしに。」
今度は意味を理解したのか、ああ、といったふうに納得した顔をしてわたしにその手を預けてくれた。
その細い指を取り、口元まで持ってきて軽く口付ける。
「なっ!!え、エル様何を!!」
慌てふためくナディアを見て、更に笑う。
ああ、かわいい。触れていたいし触れてほしい。大人なふりをしてもいいだろう。
これほどの胸の慌ただしさも彼女にわからなくてもいいだろう。
帰らないでくれ、わたしの傍にずっといてほしい。
そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、指先に口づけたままナディアを見上げる。
「あまりにも美味しかったので。あなたに謝辞を。」
「そ、そんなことはわたくしではなく料理長へ!」
そう言って真っ赤になったこの可愛い人を抱きしめたい気持ちをぐっと堪える。
手放せなくなる前に。
手放す練習を。
「そうだな。たしかにそうだ。」
そういってゆっくりと手を離す。
ホッとした顔をしていたのを見ないふりをして、傷ついたなんて自分にも気づかせないように。
「エル様、今日のお薬は少し・・・飲みづらいものになりそうなんですの。」
今までの薬は薬というよりもまず体質に訴えかけるものであったし、すこしでも滋養のあるものを
ということですこしは楽しい気分にもなれるような美しいものを心がけたのですけれども・・・。
ここ、2、3日のことなのですがとても冷え込みそして乾燥がひどいのです。
昨日の夜は咳が出ていたので、お部屋の方に温かいお湯と冷めにくい様にボウルをおいて、その中に
ラベンダーを浮かべてお休みになってもらいました。
暖かなお湯に溶け出した精油とほのかな香り、それからラベンダーの抗菌作用で少しは咳もおさまりましたけれども・・・。
また乾燥が進めば咳も増えてしまうかもしれませんし、咳が続けば体力が落ちてしまいますし。
ここですこし本格的な飲みづらいだろう・・・・薬湯を召し上がっていただかなければならず。
治療と気付かれないように心地よく過ごしていただきたいと思っていた分・・・。
とても申し訳ない気持ちになりますわ・・・。
先程のわたくしの狼狽え方も本当に申し訳ない気持ちになります・・・。
というくらい苦いんですの。(きっぱり)
それを急いで考えながらもまだ耳や首元が赤くなっていることが自分でもわかります。
エル様は他意なくお礼としてしてくださったその手への口づけもわたくしの気持ちがばれたのでは?
と、慌てふためく始末ですわ・・・。
淑女たるもの赤くなることも許されませんのに、もう、一体このエル様のなんというか・・・。
大人の男の人の色香たっぷりっていうのはわたくしのような小娘には刺激が強いというか・・・。
エド様がニヤニヤ笑っているのも最近はレオルド様は微笑まれていることが多く。
一体どうしていいかわからない状態が続いておりますの。
「苦いんだろ?」
そういってエド様が笑います。
「わたしは苦いくらいは大丈夫だ。」
そういっているエル様に本当に申し訳ない気持ちになってしまいますが。
「御前失礼致しますわ。」
そういって簡素なアイボリーのお仕着せを着ているのはロウの愛しい奥様でありわたくしの強い味方!
食事はこれ以上召し上がられないだろうという判断を下したエド様が片付けるのと同時にエリーゼを
呼んでくださった模様。
「レーヌ様、ご確認くださいませ。」
そう言っていつもどおりわたくしの前に銀のトレーを置いて、そしてきれいに並べられた・・・。
「緑だな。」
「緑だねぇ。」
そういって黙り込むエル様とエド様を見て苦笑いをこぼすレオルド様。
わたくしと目があって申し訳無さそうに軽く一礼。
いいえいいえ、本当に緑ですものねぇ・・・。
エリーゼに寄り添うようにロウがピッタリと張り付いているので、エル様が呆れた顔をしてらっしゃいますわ。
「ロウ殿は一時も奥方のそばから離れないつもりか?」
「ええ、愛しの妻なので。」
その言葉を聞いたエリーゼは呆れたような顔をしています。ああああ・・・機嫌が悪くなっている・・。
「ドゥーゼットの頂きたる陛下の御前にて我が夫のなさりようにお気に召さないときには遠慮なく
下がらせますのでおっしゃってくださいませ。
医療者として陛下のお心が安らぐことの方が大切でありますゆえ。レーヌ様の御手も煩わせることは
いたしませんわ。」
「いや、よいのだ。仲良きことはいいことだ。」
「背後にピッタリと立たれますと仕事になりません。わたくしの警護をしている暇はないはず。」
そうピシャリというと、視線でわたくしの後ろに下がれと威嚇をしております。
「いや、レーヌにはアーノルドがいるし。もう大丈夫だって・・・。」
「だからとてです。レーヌ様がお優しいからと言って・・・。」
「まあ、エリーゼそこまでだ。わたしは怒っていないしロウはエリーゼとありたいのだろう?
そこまで怒らずとも良い。」
そう言って朗らかに笑うエル様に向かって美しい淑女のれいを取るエリーゼと騎士の礼を取るロウ。
・・・・嫌味なほどに美男美女の二人ですわ。
エリーゼはわたくしをとても大切にしてくれます故に愛しい旦那さまであろうと仕事中はとてもとても
厳しいのです。
それをわかっているのでロウもひょうひょうとわたくしの後ろに立ち、アーノルドに並びます。
コソコソと話しているのは耳に入りませんが、アーノルドがあきれた顔をしていると言う事は。
また惚気を聞かされていると言う事でしょうね。
それはおいておいて。
トレーのものを見せながら説明を始める。
「こちらの薬草は気管支の炎症を抑えるためのものになります。種類としては聞き慣れないかもしれませんがハーブ類ですわ。」
手元のメモをエル様に見せて、エド様たちにもそれぞれ渡し形状と色、それから特徴効能を記してあるので見てもらって確かめてもらう。
「初めて使うものが二種類あるので、それを記しております。エル様の体調に合わせて緩やかに勧めていくつもりでございましたが。
このところ喉の調子がよろしくないように思いまして追加させていただくことにしましたの。
ただ・・・・苦くて・・・。」
申し訳なく思うのは出来得る限り美味しいと感じてもらいたい気持ちがあるからで。
「ただ、これはわたくしが小さな頃気管支が悪かったときに、今ではおまじない程度の効能しかないと
知っておりますが、その時の薬をつよくしたものですの。わたくしが手直ししたもので・・・
あまりあのときも美味しくはなかったのですけれども・・・。」
そういうと、ふとエル様が小さく笑う。
「ナディア、気にしなくてもいいのだ。わたしはあなたが作ってくれたものならば何でも飲もう。
それにわたしはもともと薬が効かない。でもあなたが作ってくれたものならば何故か良くなる気がする。
だからいいのだ。少しずつでも何かが変わるのならば。それでいいのだ。」
そういって優しく笑うエル様は申し訳無さそうな顔に変わる。
「それに・・・わたしの咳のせいであろう?昨日のラベンダーの香りがなければ、わたしはきっと
今こんなにおきあがっていることはできないだろう。」
そういってきれいに微笑む。
その目元は、気管支というか喘息に近い発作が出たからか隈ができている。
ふと、もっとよく見ようとエル様の顎に指をかけると、そのままされるままにされるエル様の顔を
覗き込む。
後ろに控えるレオルド様たちが軽く息を呑んだのはわかったけれど、きっちりと診断をつけなければ
ならないのでそのままの状態でじっと観察をする。
ああ、やっぱり濃い隈とそのまま少し赤くなった目。それから少し青白い目元。
ああ、苦しかったろうなぁ・・・夜中でも吸入でも何でもして差し上げればよかったかと心が痛む。
されるがままになっていたエル様がふふっと笑って、そのまま顎にかけたわたくしの指をすっとすくいとるように横から長い指が触れる。
はっとしたわたくしの指を優しく絡め取りながら、エル様が微笑む。
「あなたはフレディと同じことをする。」
「お兄様はあれは・・・普段はあそこまでのことはなさいませんのよ。とてもエル様を気に入ってらっしゃると思います。」
「わたしの顎に手をかけるなど、それを許すのはフレディとナディア。あなた二人だけだぞ。」
「申し訳ありませんわ。でも昨日本当はあまり眠れなかったのでは?」
「・・・隠せないか?気にするほどではない。わたしはもともといつもそんなに眠りが深くはない。」
「でもそれではお疲れが取れませんわ。」
「では、あなたがわたしが眠るまでそばにいてくれないか?」
「・・・・・えっ?」
そのわたくしの顔を見て、エル様がくくっと笑う。
「冗談だ。」
「よろしいですわよ?咳が止まらないときにはわたくしが付き添いましょう。」
「え?よいのか?そばに居てくれると?」
・・・・・え?わたくし変なことを言いましたかしら?
「あー・・・。フレディがキレるからそれはやめようなレーヌ。」
「カイン様が怒鳴り込んできますのでやめましょうね、レーヌ様。」エリーゼが言う。
「姫、それはあまりにもだと思われます。」
そういって申し訳無さそうにするのはレオルド様。そしてエル様は笑っている。
後ろを振り返るとアーノルドは頭を抱えているし、サラは「かまいませんよ?」と真顔。
アンヌはにこやかに笑っているだけ。
わたくし何か間違ったことを?
「さあ、レーヌ様とりあえずは今はこのお薬を仕上げましょう。」
そうエリーゼが言うのでうなずいて作業に取り掛かる。
出来得る限りフレッシュなもの方が苦くはないのでエリーゼが擦ってくれるのを待つ。
煮出すには苦味が出るので出来得る限り果物も合わせようと思ってりんごをすりおろす。
それらをきれいに絞り、越したものを白湯で割ってエル様に渡す。
「さあどうぞ。」
「緑だな・・・。」
「はい、緑ですわ。でも・・・咳は止まりますわ。これを一日じゅう四回。飲んでいただかなければ
ならないのです・・・。」
「ああ、そんな顔をしないでくれ。あなたのせいではない。わたしのせいなのだから。」
そういって華奢なグラスに注がれたそれをクイッと飲み干す。
無言で黙っているところをみると、あまり口にあったわけではないだろう・・・。
申し訳ないとは思ったけどふと、わたくしと目があったエル様はいたずらっ子のように笑う。
「ああ、口直しで甘いものがほしい。」
その言葉にホッとする。
「思ったよりも苦くはなかった。あなたがミントを混ぜてくれたからか?」
「はい。清涼感が少しいるかと思いまして。」
二枚ほど加えた小さなミントのことまでわかってもらえて嬉しく思ってしまいますわ。
「エル様どうぞ。」
そういって差し出したのはもう一つ小さな銀トレーに載せられた柑橘系の輪切りのもの。
「ん?これは?」
「グレープフルーツを輪切りにして、パンを焼いて火を落としたあとのオーブンでゆっくりと水分を
飛ばしたものですの。苦味が飛んで甘くなりますわ。お口直しにどうぞ。」
「ああ、良い香りだな。それに・・・。」
口に含んだあとにエル様が味わったのか、ふむ・・・とつぶやく。
「栄養価の方は?」
「甘みは凝縮されるので腹持ちやそういった部分ではいいとは思いますわ。ただ、栄養素としては
もともとのものより増えるものもあれば減るものもあるかと思われますわ。」
「そうか。これは糧食にもなりえるのだろうか?」
「そこまでは・・・確かに甘みとしては少しはお役に立てるかもしれませんがはっきりとはまだ。」
「申し訳ない。許してくれそんなつもりでは・・・。」
「いえ、よろしいのです。エル様は国王なのですもの。すべてのことに意識を向けるのは当然ですわ。」
「いや、それでも・・・許してくれそんな顔をさせたいわけではなかった。」
糧食というのは兵たちの食事になる。それは国を守る王としては当たり前のことだとはおもうのだけれど
まずは自分のお体のことを気にしていただきたいのに・・・。
わたくしがすることはこうやってつまりは医療やそういったことが自然と流出するということで
それを良しとしてここに私は来ているのだから。
それを当然としてロウもサラもエリーゼも何も言わない。このあたりは良しとされている部分だろうと
わたくしはホッとする。
ドライのグレープフルーツは少しお砂糖をふってオーブンに入れている。
研究しがいがある香りなのだけれどどうも熱にはあまり強くないような・・・。
考え込みながらもその美しい色に仕上がった輪切りの果物がエル様の唇に触れてパキンとおられる。
かじられたそのドライフルーツを興味深く覗いている可愛らしい仕草にふふっと笑ってしまった。
「エル様、苦くはございません?」
「ああ、甘い。」
そういってわたしを見てにこやかに微笑んだ。
その微笑みを見ると、何故かこくんと喉が鳴ってしまって、自分の表情の取り繕えなさに狼狽えてしまったわたくしがいました。
好きな人が笑っている事実に、こんなに喜びがあるとは思っておりませんでしたわ。
エル様の微笑みはあまりにも・・・・そう、あまりにもわたくしには・・・。
「ナディア?」
「あ、ああ。なんでもありませんわ。さあ、エル様今日のお茶はこの白い花を使った香り立つ花茶を
お入れしたくて。」
トレーに広げたのはわたくしの好きな紅茶、それからそれに合わせるジャスミンの花とクコの実。
これも初めてながらグレープフルーツのドライの実の部分を軽く追ってカップにきれいに組み立てて入れる。そしてその合間に少しだけクコの実を閉じ込め、紅茶の葉っぱと一緒にジャスミンの花を入れて
お湯を注いで待つ。
その間に話し合わなくちゃいけないことがあったのでは?と水を向けると苦笑いをしながらエド様が
応えてくれる。
「日程が決まりました。3週間後に例の方をお迎えして夜会を開きます。その作戦会議を。」
「ここでなさいますの?」
「いいえ、エルンの執務室で。ですよ、ナディアレーヌ様。」
「わかりました、作戦会議ですわね!」そういって拳をぐっと握るとエル様が笑う。
「そんな力を入れずとも良くないか?」
「「いれなければなりません!!」」
その声はアンヌ、サラ、それからエド様。
あっけにとられるのはわたくしの方ですわ・・。
「さあ、まずはお茶を楽しみませんこと?サラ手伝って。アーノルドも。
アンヌはカップを温めてくれるかしら?」
わかりました。という返事とともに皆が動き始める。
「作戦会議は・・・甘いものが必要ですわよね。どうしましょう、料理長に相談してもよいかしら?」
その声を聞いてロウが笑いながらもう動いているので、執務室には料理長のデセルが届くはずですわ!
次に入れるお茶は違う花茶にするかそれとも緑茶にしようか・・・それとも・・・。
そう思っている中、何も言わずにじっとわたくしを見ているエル様と目が合う。
その視線はあまりにも甘くて。
頬が少しだけ赤くなってしまったかもしれないと焦ってしまいましたわ。
どうしたのでしょうわたくしは・・・。
次こそ作戦会議です!次こそ!(笑)




