無意識のヤキモチと独占欲と
周りはわかっていても意外と本人たちにはわかっていません。
これが好きだということなのだろうでしょうか・・・。
と、うっかりと気がついてしまいましたわたくしナディアレーヌでございます。
今まで生きてきた中で、誰かを好きになるということがなかったという事実に打ちひしがれる思いです。
そりゃあお父様やお母様は厳しく(お母様はとりあえず愛情深く本当に厳しくてですね・・・いえ、愛しておりますわよお母様!)お兄様たちには溺愛されていると自覚はありますの。
ただ。
自分が人に大事にされることには実はなれきっていたのだとわかってしまった。
なぜなら。
「ねえ、サラ・・・わたくしどうしてしまったのかしら・・・。」
「レーヌ様、では実験して見られますか?」
「は?」
淑女たるものそんなほうけた顔をしてはいけないと、お母様が見ていらしたら愛のムチ・・・
いえ、叱責が飛んできそうですけれども。
「どういったことかしら?わたくしなにか間違っていて?」
「いいえ?ちなみにレーヌ様。わたしに抱きつけますわよね?」
「抱きついていいの?」
「はい。」
真顔のサラに当たり前に抱きつきます。
ギュッと抱きしめ返されたので思わず嬉しくなって頭をサラの側頭部にぐりぐりとくっつけてしまい
サラに「痛いですレーヌ様。」と真顔で返されてしまいましたわ。
サラは実はわたくしに甘いことはわかっているのですが他の人がいる前でこんな許可をくれることなんて
めったに無いことなので甘えることにしました。
「じゃあ、アーノルド様にもどうぞ。」
「アーノルドに?」
「はい。」
くるっと振り返り、アーノルドにも聞いてみます。
「アーノルドよろしくて?」
「・・・・・良いか悪いかとかそういう問題ではないですがもう姫のお好きにどうぞ。」
頭痛をこらえていそうな不機嫌な顔をしてますが・・・。
そう答えてくれたので普通にえいっと抱きつく。
「・・・・いったぁ・・・。サラより硬いですわ。抱きついてもまったく楽しくありませんわ。」
「・・・・姫・・・。わたしは騎士ですよ?硬いに決まってますが?」
確かに細いながらも肩口からわたくしの回した腕は届きません。ふむ・・・
「そうよねぇ。この間から思ったけどやっぱりアーノルドも鍛えているのね。」
そう言いながら嫌そうにしているアーノルドの顔を見て笑ってしまう。
「わたしは姫様を守る騎士で盾。つまりは護衛です。」
「知っているわ。あなたがわたしの騎士なことは。」
「サラ?もうよろしくて?」
「はい。」
「アーノルドありがとう。」
「いいえ。」
それを見ていた大人の男性たちが固まっているような気がしますわ。
笑っているのはロウだけじゃありませんこと?
「ロウったら。笑うなんて失礼ですわ。」
「いやあ、何度見ても笑える。アーノルドようこそこちら側へ。」
そういってアーノルドの頭をくしゃくしゃっと撫でています。
アーノルドはニコっと笑ってロウのナデナデを受け入れています。
なんなんでしょうかこの、見ても良かったのかしらこの笑顔?的な感じですが。
ロウがそういうのにはわけがありますの。
ついこの間の話なのですが・・・。
「レーヌ様、アーノルドは護衛。つまりは姫様の騎士なのですよ。もっと心を砕いてくださいませ。」
「え?わかっているのだけれど・・・。わたくしそんなに余所余所しかったかしら?」
「サラ嬢・・・何を言い出されましたか一体。」
そういってアーノルドは慌てております。
わたくしの護衛というとロウ。そして侍女であるサラ(実は戦えます)がいますし。
だいたいわたくし自体もなぜかいろんなことを仕込まれているので戦えます。大概の方となら。
わたくしの見た目はなんにもできずに戦えないように見えるようですけれども、わたくしこれでも
銀目のものとして仕込まれることはすべてこなさないとならなかったのですよ?
薬草作って、薬を作るのが主だとしても、なぜか生き残ることも念頭に置いて淑女教育と、剣術、体術
全てこなしてまいりました。
実はそこいらの騎士ほど体力はありませんが、多分剣術の方はそう劣っておりません。
アーノルドはとても強いとわかっていますのでわたくし護られるのは当たり前だと思っておりました
けれども?
「大体レーヌ様はわかっておられますか?自分のご容姿のことを?」
「わたくし?お兄様たちと同じ銀髪で、紫の瞳・・・?」
「そういったことではなくご自分のご容姿の影響力ですわ。」
「影響力・・・。お兄様たちくらい?」
「甘いですわ。レーヌ様はそれに皇女という位とエルロッドウェイの皆様からの溺愛。そう、溺愛という
影響力がございますわ。」
「まあ、そういったこともあるとは思うわ。」
そうわたくしエルロッドウェイの皇女でした。しかも唯一の。
あー・・・確かにわたくし、このままエル様を治せたとしても多分引きこもるのもどこにも嫁になんて
行きたくないってことも無理ですわよねぇ・・・。
わたくしの婚姻のことはわたくしの自由になることはありません。そんなことわかっております。
それに・・・。
エル様の正妃になんてきっとなれないだろうし。
とまで考えて、顔に熱が集まる。
・・・わたくしったら、なんて恐れ多いことを・・・。
「・・・・何を考えたかは手にとるようにわかるのですけれどもそうじゃありません。
アーノルド様を見てどう思われます?」
は?アーノルド?
「護衛よね?」と、わたくし。
「あたりです姫様。」と、アーノルド。
「そこじゃありません。」と。サラ。
「じゃ、なんなんだよ?」と、ロウ。
当たり前にわたくしの頭を撫でていたロウが不満そうにサラに聞く。
「お兄様はだまっててください。だいたいその距離の近さです。それをレーヌ様は護衛の距離だと
勘違いしてるのですよ本能的に。だいたいがお兄様のせいです。」
「は?」
ふむ。と思う。
そういえばわたくしの護衛といえばロウ。
ロウといえばわたくしを抱っこしてくれたり、頭をなでてくれたり、護衛ってそういうものじゃないの?
と口にすると・・・。
「姫様・・・それはちょっと・・・おかしくありませんか?。」
「甘いですわアーノルド様!」
そうピシャっと言い切ったサラに問い詰められております。
「アーノルド様はそれでは抱きつかれたり抱き上げたりするたびレーヌ様に邪なことを考えますの?」
「は?何故そうなるんですか?!ありえません!!護衛対象ですよ?」
「微笑まれても?抱きつかれても?」
「当たり前です。だいたいそんなこと思ったこともないですしこれからもありませんし、わたしの
精神安定上絶対ありえません!絶対にです!!」
悲鳴かと思うほどの声ではあはあと息を荒くするくらい言い切られてしまいましたわ。
そこまで言い切られるとなかなかに爽快ですわねえ。
これでもわたくし一国の皇女ですのに。
「アーノルド、わたくし実はあまり人と接してこなかったからやっぱりあなたのことちょっとだけ
年の近い男の方ということで構えていたところもあったのかもしれませんわ。
ごめんなさいね・・・。
じゃあ、ロウみたいに接してもいいということですの?あなたもそうしてくださるということ?」
「ロウ様の様ににするようにとは如何様に?」
悲鳴のような声を上げるアーノルドに対して首を傾げてしまう。
首を傾げたわたくしを見ても、アーノルドはなんの表情も変わりません。
少し面倒くさそうな表情まで見せてくれます。
これはお兄様たちがおっしゃっていた、年が近い男性でも信用していい人間のパターンの人では?
とりあえず、いうだけなら簡単なんでいってみることにしましたの。
まあ、でもこれはそういうことなのでしょう。サラがそういうということは。
「え?疲れたら頭をなでてくれたり頑張ったと褒めてくれたりが、ロウだもの。
わたくしは実はお兄様たちに散々と歳の近い男性には気をつけるようにと言われていたの。
だから護衛でも甘えてはいけないと思っていて。
わたくしはアーノルドをロウのように信用してもいいということ?アーノルドにはロウのように
接しても良いと?」
「はい。わたしは姫様の護衛ですので。」
真顔で聞いたら、真顔で帰ってまいりましたわ。
わたくしは大体が淑女教育やいろんな教育でまあ大変でした。
年齢もそう高くないので社交界にもそう出ておりません。
出たとしてもお兄様たちにガッチリと護られてい・・・たのでしょうとは今は思います。
過保護だと加速していったのはわたくしが外に出るたびに慌てるお兄様たちの様子からわかったことです。
わたくしだってちょっとは分かっております。
お兄様たちがわたくしに近づけたくなかったのはわたくしと同じくらいの年代の男性。
ということはわたくしの結婚するかもしれないくらいの年齢の男性たち。
それから散々遠ざけられていたので、わたくしも全く男性への扱いや距離感が・・・・。
その、ちょっと分かりづらいのです。
だから実のところこれほどに美しいアーノルドを見てもどうしていいかわかりかねていた部分がありまして。
お兄様たちとも違う。ロウとも違う。
だったらどれくらいの距離感なのかと。
でもそれでもわたくしをいざとなったら守ってもらわなければならない。
でも、わたくしにはどれほどの距離感を保つべきか判断が・・・とおもっていたのですが。
ロウと一緒。
一緒でいいとサラがいったということは。
お兄様たちも認めて、ロウの様に接してよいということなのですね?
お兄様たちのお眼鏡にかなったということなのでしょう。
ああ、良かった・・・。
だったら普通にしていられるということですわね。
「ナディアレーヌ様。あなた様は我が君であるエルンハルト様の大事な宝とも言えるお方。
わたしには我が君に仕える気持ちでお側におります。わたくしが姫様に邪なことを覚えることなど
今までもこれからも未来永劫ありませんことを神とエルンハルト陛下に誓います。
よって、ロウ様のようにというのは正直良くわかりませんが同じ様にしていただきたいです。」
ほほう、大事な宝ねぇ、とロウ様がつぶやき。
サラ嬢がアーノルド様はわかってらっしゃると。と呟かれましたがアーノルド的には当たり前のこと
だったのであまり重きをおいていなかった。
その言葉にドゥーゼットの国王の気持ちが思っていた通りのものだと周りも周知しているということを
ニヤッとした気持ちで受け止めていた兄妹のことなんか年若いアーノルドにはわからなかった。
「じゃあ、あなたはロウと一緒。それでよろしくて?」
もう一度きっちりと言質を取る。
じゃあ、疲れたら今度から普通に寄りかかっても怒られないということかしら?
一緒に薬草園に入ってくれるということかしら?実験にも付き合ってくれると?
ロウが嫌がらないことはアーノルドも嫌がらないってことよね。
「はい。ナディアレーヌ姫。」
「じゃあ、アーノルドわたくしを持ち上げられる?」
「・・・・・・・・・・・は?」
「だから。わたくしを持ち上げられ・・・」
「いやいやいやいや。なぜここで持ち上げる話になるのですか?」
「え?だってあなたとても美しいし細いから。わたくしのような大柄な女性を持てるかと思って。」
「姫・・・。」
そういったあとにアーノルドがつかれたような顔で額に手を当てています。
護衛なのに体調でも悪いのでしょうか。
「姫はけして大柄ではありません。背が少しお高いだけです。大変華奢でございます。
だから持てるか持てないかで言えばそれは持てますが・・・。」
「じゃなくて。持ち上げられるかと・・・」
ああ、これはきたな早速。
ええ、早速ですさすがです。
でも突然これはわからなくないか?
わからなくても反射で叶えるのがお兄様でしょ?それと同じということは?
ああ・・・レーヌはもう俺とアーノルド一緒くたか?
そんなところでしょうねぇ。脳内でもうお兄様方にも許可をもらっている人。
という認識だとおもうの。
アーノルド気の毒だな。振り回されるぞこれから。
そうしてきたのはお兄様やレーヌ様に甘々のあのお兄様方です。
厳しいな・・・。
そんな兄妹の会話は耳に入らず・・・。
アーノルドは頭を抱えてしまっている。
少し離れたところで
「だいたいなんで持ち上げるんですかー・・・。」
「だから持ち上げられるか興味があるから。実験ですわよ?」
「一体なぜこうなった・・・。」
「アーノルド様。これがナディアレーヌ様です。諦めてください。はい、持ち上げてみてくださいー。」
「その棒読みやめてくださいませんか、サラ嬢・・・。」
そう言いながら。
軽く身をかがめて、失礼します。と一言かけた。
それと同時にナディアレーヌの視界が高く上がる。
片腕で子供を抱っこするように抱き上げたアーノルドに満足そうにしているのはサラとロウ。
そして嬉しそうに笑っているナディアレーヌ。
「やっぱり!!やっぱりあなたわたくしの護衛だわ!!お兄様が言っていたの。もし抱き上げろって
頼んでお姫様抱っこするような騎士だったらそばに置くのを考えなさいって言ってらしたわ。」
「お姫様抱っこですか?何故?持ち上げろといったのは姫様ですが。」
「そう。そのとおりに実行してくれる人がきちんとわたくしを守ってくれる人だってお兄様が
おっしゃったわ!」
そういって子供抱っこされているナディアレーヌがニコニコと笑う。
つまりは、これはテストだったということか・・・。
とアーノルドは苦笑いをする。
そりゃちょっとは頭で考えた。姫抱きにするほうが安定するし良い気はしたが・・・。
ナディアレーヌ姫は姫であるからゆえそれこそお姫様抱っこというやつでもいいだろうとは
うっすら思ったのだが、どうやらわたしの中ではナディアレーヌ姫はその・・・。
失礼ながら歳上ながら、なんというか年下のような。
どっちかというと困った妹のような感覚になってしまっている。
そしてこれからのことに少々戸惑いはある。こんなことが度々あるのではないかという嫌な予感。
そしてこの姫にとっては護衛とはもはや言葉通りの意味で男性だからとかそういったことは一気に
飛び越えていくのだろう。
そう育ったのだろうから仕方ない。姫はそういう方なのだと理解する。
し。お姫様抱っこなんかできるわけがないではないか。
なんせサラが見ている。
サラが見ている前でもはや誤解されるのも嫌だし。
どう考えてもナディアレーヌ姫は少ししか接していないが変わっている。
そしてこの方は恐れ多くもエルンハルト陛下の。多分お好きな人である。
と。
何故ナディアレーヌ姫は気づかないのか不思議である。
不思議であるけど突然抱き上げろと言い出したり、試されたり、年上に思えない。
不遜ではあるが。
認識を改めざるを得ない。
遠慮をしていてはこの方には通じない。
サラとロウの向こうに頭を抱えている母の顔も見える。
母上、どうやらわたしは姫様のお眼鏡にかなったようです・・・これで正しかったですよね?
総視線で問いかけると。
苦笑いが帰ってきたので良しとする。
「では、わたくしも少しは姫様に近くなったと思ってもよろしいかと?」
「ええ。護衛ですもの。」
「では。」
そう言うととりあえず姫をおろし苦言を呈する。
「姫様。とりあえずわたしはこれでよろしいですが護衛はわたしですから。でもですよ。
父にはなりません。陛下の側の方にはわたしのようには接しないように。
陛下のお気に障ります。」
苦言を呈したのだが件の姫は首を傾げている。
「エル様はそんなことで起こるのかしら?わたくしレオルド様にまでそんなことは頼まないわ。」
「わかっておりますが、それ以外の陛下の侍従、近衛、側使えのものにもです。」
「まあ、アーノルド!わたくしそんなことはしないわ。」
「・・・・・わかりました。」
何を言っても無意識に放たれるこの方の微笑みや屈託の無さ、育ちの良さと合わさってこの美貌。
頭が痛い・・・。
父やエドガルド様には通じないだろうが周りの物言わぬ家具とも言える侍従、近衛、文官その他のもの。
それらにはなんとも華やかで憧れの対象になるとあまりにもわかっていない。
頭痛がする・・・。
そんなわたしを見て母が自重しなさいと圧をかけてくる。
わかっている。
姫様に懸想なり何なりする輩は母上が許すはずがないし、そんなものは陛下の側には入れるはずがない。
が、何があるかわからないのがこの陛下のおわす執務室であり、私室だ。
というのに・・・。
「抱きついていいの?」
とはなんだ・・・と頭を抱えたくなりながらもそれになれてしまったというかなんというか。
一通り満足したのだろうが、わたしを見る父の視線がなんとも言えない。
言い訳したい。
陛下にもエドガルド様にも言いたい。
「慣れです。」
そう言いたい。
「愚息が申し訳ありません。」
何故かレオルド様に謝られてしまう。
「レオルド様、アーノルドはきちんと鍛えてますわ。わたくしの護衛ですもの。
アーノルドを護衛にしてくださりありがとうございます。エル様。」
「そうだろう?アーノルドはとても可愛いのだ。」
「かわいい・・・?アーノルドは美しいですわよね。可愛いとはまた違うと思うのですが?」
「ナディア、まだアーノルドの良さをしらないのか?アーノルドに甘いものを与えるとそれはそれは
可愛く食べるのだが。」
「まあ、アーノルド!あなた甘いものが好きだったの?わたくし知らなかったわ。」
「ナディアは何が好きだ?一口サイズの焼き菓子を明日は用意しよう。」
「ああ、エル様、わたくしはそれに合うお茶を用意しろと?だめですわ明日は薬が多いのですわ。」
「口直しはわたしには必要ないのだが?苦くても泣きはしないぞ?わたしは大人だ。」
「アーノルドに食べさせるのを見たら機嫌が直りますの?エル様は?」
すっかりとアーノルドを餌にニコニコと笑い合う主人たちの噛み合うような噛み合わないような会話を
聞きながら周りのみんなの心の中は疑問と質問でいっぱいだった。
まず。
レオルドはもちろんアンヌから話は聞いていたがあまりの息子への懐きぶりにびっくりしている。
何があって心をこんなに許したのかはわからないが・・・。
どうやら抱きついてびっくりはしたがそれは幼子がだきまくらに抱きつくのと変わらない状態。
であるようにみてとれた。
アンヌにしてもここまでナディアレーヌが急に心を許した意味はわかっているが、それにしても
アーノルドのなんとも思っていないという態度にびっくりした。
どうやら他に気になる事があるようなのも見て取れたがそれはまたそれ。
折を見てもうひとりの息子と夫には話そうと思っている。
エドにしてもあっけには取られたが、あまりのお気に入りの人形に抱きついただけ。くらいの
あの調子ではアーノルドにとってもナディアレーヌ姫にとってもお互いなんの意識もないとわかる。
わかるからといって抱きつかれても抱きついてもいいというものでもないと思ったのだが。
思ったよりもエルンの反応は動じてないようにも見えたが・・・。
エルンは目の前で突然抱きついたナディアを見ながら、固まってしまっていた。
もちろんアーノルドは可愛い。
かわいいから抱きつかれても全く嬉しくなさそうにしているのを見てもなんとも不遜にも思わない。
思わないけれどもなんともモヤッとしたものがこみ上げてびっくりした。
びっくりしたが自分はナディアよりも12歳も年上で、アーノンに至っては生まれたときからかわいがっている。
だから大丈夫。不機嫌なんかじゃない。もやっともしていない。
そう思っていたのだけれど。
お茶を入れてくれて、薬を飲むまでつきっきりでいてくれるこの時間は自分の至福の時間とも言える。
それが一日三回、そして寝る前も時々は来てくれる。
この気持ちに気がついてからというもの、ナディアのことを構いたくて仕方ない。
隙きあらば手を取りたいし、髪に触れたい。
でも向こうから触れてくれることはない。だから自分が近づこうと思うのだけれどいつもうまく行かない。
なのに目の前で簡単にナディアはアーノルドに抱きついてしまった。
・・・・・・これは良くない。
自分の不機嫌さをなんとかなだめなければならない。
顔に出さないように、態度に出さないように、穏やかな自分を取り戻すように。
なんとか取り繕う。
「ナディア?」
そう言って名前を呼ぶと、ニッコリと微笑んでくれる。
「なんですの?エル様?」
「バラのお茶が飲みたい。」
「わかりましたわ。ふふふ。エル様あのお茶お好きですわよね?」
少し手のかかるそのお茶を用意するナディアを見ていたかった。
そのためにねだっているのだと周りに・・・エドとレオルドにはバレているとは思うのだが。
もちろんその他諸々にも。
そのお茶を待っている間に、エドが口を開く。
「あー言いづらいんだが、今度の夜会は絶対参加だ。それからレオルドはアンヌと出席だ。
騎士爵とはいえグレイス家とあとレオルドはあまりにもちょっと最近エルンの無茶振りに付き
そろそろアンヌとともにいるところを見せつけなければならない。」
お茶を用意しながらフッと顔を上げるとアンヌの苦笑いとレオルド様の苦笑いにぶつかる。
「姫様恐れながら・・・。レオルドはその・・・とても女性に人気があるのです。」
「わかりますわ。」
そのわたくしの返答にエル様がピクリと反応しましたがわたくしは気にせず続けます。
「だってレオルド様はとても素敵ですもの。」
「姫様。わたくしのことはそのような世辞は必要ございません。」
レオルド様が苦笑いで答えてくれるのだけれどもサラもわたくしに同意してくれましたわ。
「レオルド様はわたくしのような小娘からしてもとても素敵です。」
ふたりしてウンウンとうなずいていると不遜な空気をちょっと感じましたが主にエル様とアーノルドから。
気づかないふりを決め込んで話を始めるエドガルド様の強い心に感動しますわ。
「まあ、奥方のアンヌ様はエルンのパートナーとして隠れ蓑としていつも参加してくれているけど
いつもというわけには行かないので・・・。国内のご婦人方も抑えないといけないけれど・・・
今回はしかも少し面倒くさいことがねぇ。」
「ああ・・・。アーリア姫か・・・。」
まわりにもうんざりとした空気が流れるのはどうしたことなのでしょうか?
「まあ、これがエルンにご執心で、そのうえレオルドも彼の国では大人気でしてね。まずはうちの
近衛隊長を護らなきゃなんないし。
わたしも今回は妻を伴いますし。でもそうなるとエルンがね。」
「いつもどおりアンヌがだめならカレンでは?」
「そろそろバレますね。何度か伴っているのを気づかれそうですから。」
「あら。ではうちの姫様いかがですか?」
「ああ。レーヌだったら完璧だが?」
サラとロウから声がしてえ?わたくしですか?とびっくりする。
「ふぅむ。エルロッドウェイからの皇女・・・そしてエルンの側にいるというか保護下に?
ふふふ。それは願ってもない話ですがそれでもエルロッドウェイはよろしいと?」
ロウをみてニコリと微笑むエドガルド様。
何故でしょう。微笑みがお兄様にとってもよく似てらっしゃいます。
「フレディに許可を取ろうか?」
そういってロウが笑うと、エドガルド様もニッコリと笑ってお願いしますと頼まれます。
わたくしが何をすればいいと?
りんごでバラを形作りながら、カップにそっとおいて、エル様の前に置くと。
エル様は少し困った顔をしながら苦笑いをしている。
エル様は気を取り直したようにゆったりと座り直す。
そして、カップのりんごのバラを見ながらお茶が注がれるのを待っている。
わたくしの好きな人にわたくしのお茶を飲んでもられるのは幸せなことでは?と思っていると。
「ナディア、危ないよ。」
そう言ってティーポットをふっと無意識につかもうとして少し目測を誤り、熱い蓋にふれそうになって
しまった。
その瞬間、わたくしの手はエル様に掴まれている。
「ナディア、よそ見をしてはいけない。火傷をしたらあなたは薬があるから良いとわらうかもしれないが
あなたがいたいとわたしも痛いのだ。
それにこの手は大事な手だ。わたしを救う手だろう?わたしと同じくらいに大事にしてくれないか?」
そう言われた瞬間。
頬に血が上るのがわかってしまいましたわ。
「ナディア?」
「エル様、わかりましたから手を・・・。」
「ああ、済まない。わたしが注ごう。」
「いいえ違います、そうじゃありません。」
「はい、そこ。ナチュラルにくっつかないでください。ではそういうことでナディアレーヌ姫に
出ていただくことにして、護衛はアーノルド。側使えの侍女にはサラ嬢。ロウ殿は国賓としてお願いします。」
「その時には我が愛しの妻もこの国に入っているはず。連れてきても?」
「はい。ロウ様も一人でいてはなりませんねぇ。エルロッドウェイの方々はお美しいので。」
自分も金髪碧眼の美丈夫のくせに何を言うとロウは顔をしかめながら軽く返事をする。
ロウの奥様であるエリーゼはこの度手続きを経て、わたくしの助手としてこの国に入ってくれます。
ロウの機嫌が良いのはそのせいですわ。
サラも嬉しそうにしていたので、やっとわたくしも本腰を据えて・・・・据えて?
首を傾げてしまいます。
わたくしはエル様が好きですが、エル様はわたくしのことをどう思っているかはわかりません。
誰にでもお優しいのではないかと思います。
わたくしにもこんなにも優しいのですもの。
大人の男の人ですし、一国を背負う陛下ですものね。
国交という意味では外交的な婚姻もあるということだと・・・そしてエル様にご執心のアーリア様・・・
わたくしと同じ一国の姫ということですわね。
わたくしのような小国の皇女などドゥーゼットという国にはなんの影響もありません。
本当はわたくしも疎まれているのかもしれません。
好きでも、言うわけにはいきません。それくらいわかっています。
「では、ナディアレーヌ様よろしいですか?」
「はい。はい?」
「聞いてらっしゃいましたか?貴方様にはエルンハルト陛下とのファーストダンスを。まあ基本的に
エルンハルト陛下はラストダンスまでは踊られませんので。
そして二度目のファーストダンスに付き、この国内外に貴方様の存在が知らしめられますが・・・。
お互いの保身のためと引き受けてくださいませんか?」
「保身?とは?」
「ナディアレーヌ姫様においては保護下にいるという示し。そしてエルンハルト陛下にとっては
まあ、虫よけです。」
「虫よけ・・・。」
その言葉を聞いて思い当たりましたわ。
お兄様たちにも夜会にはあまり連れて行ってもらえませんでしたが、でもある一定の夜会には
連れ出されてずっと一緒にいてくれたことがあります。
フレディお兄様が婚約が決まる前、それからカインお兄様が取り合われて大変なとき。
ああ、そういったときの風よけになれということでしょうか?
おおよそそういったことをお伝えするととても良い笑顔でうなずかれました。
エル様は嫌だったら断っていいのだ。と言ってくださったのですが。
「エル様、お引き受けいたしますわ。わたくし・・・実はそういった対処には少し耐性がありますの。」
そう言って笑うと、ロウとサラも笑う。
そう。わたくしはそのてんはなれていると言ってもいい。
なんせ百戦錬磨の母に叩き込まれた社交術。
自分、ナディアレーヌだけで立つ場合はそれは隠れがちだ。なれてもいない。
もちろん自分を全面に出すのは苦手だ。
でも、どうやったらエル様を守れるかくらいはわかっている。
女性には女性の戦いがあるのだ。
「ではその姫様はエル様には必要な方ですか?」
「いいや、全く。」
「では、外交的には?」
「全く影響がない。というか本当は切ってしまいたいくらいだ。」
頭で組み立てながら後で少し資料をもらおうと考えている。
「叩きのめします?それとも穏便に追い払います?」
そのわたくしのことばに。
皆様唖然としたあとに、エル様だけが大笑いするという珍しい現象が起きたのは。
少しだけ淑女としては雄々しく笑ってしまったのかしらと心配になるくらいには・・・。
大きな笑い声だったのですけれども。
ナディアレーヌは意外と中身も武闘家だったのかもしれない・・・(笑)




