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閑話休題  ホワイト・クリスマス(エルンハルト編)

心の声がだだ漏れです。

「わたくしの国では雪が降るんですわ。この国では珍しいのですか?」

そう言って、わたしが愛おしいと気がついたばかりの女性が微笑む。


この女性は医療国エルロッドウェイの三人兄妹の末の唯一人の皇女。

そしてわたしの運命の女性であり、わたしの命を救ってくれる人。

わたしが手放したくない、わたしが好きだと認識した女性だ。



29歳にもなり、どうしたものかと思う。

わたしは今まで自分の命が永らえるとも思っていなかったし、国王という立場にも責任は感じても

今後このまま続けるともなんとなく思っていなかった。

だから自分が誰かを欲するとも思っていなかった。

きっと長生きはできないだろうと思っていた。

そう、あの神託が下るまでは。

どこかにわたしを救ってくれる銀目の者がいるとわかっていたとしても。

何故かわたしはあまり自分の命を惜しむことができなかった。



今は感謝している。

あの、わたしの背に手を当ててくれた、小さな手のひらを覚えている。

わたしの口に、自分の咳止めの薬をギュウギュウに押し付けてきたあのときの小さな少女は。



今わたしの隣りにいる。




「エル様?聞いてらっしゃいます?」

「ああ、聞いている。」

そう言って笑うと満足そうに微笑む。



淡い初恋だと思った思いは全く違うと口々にエドにもレオルドにも言われてしまう。

ルーゼ兄様の想い人であり、実質の妻であったアンジェを初恋だと思っていたがそれは違うと

今ははっきりと分かる。

あれはルーゼ兄様が好きだから好きだっただけだと。



わたしは結局今まで生きてきた中でどの女性にも心焦がれたこともなく。

どの女性を抱きしめたいとも構いたいと思ったこともなく。

国王だからといつかは仕方なくこのまま誰かを娶ることになるのだろうとは漠然と思っていた。

それは愛ではなく義務であると思っていた。

だからどうやって愛する人が現れたときに愛を乞えばいいかわからない。

このずっと年下の少女の一挙手一投足に全身全霊を傾けている。

情けないがこれがわたしができる全てだった。



わたしが一言。



「ずっとそばにいてくれ。わたしから離れないでくれ。」




そういえば、神託の相手であるこのナディアには断ることができない。

断ることができないから、わたしは言えないでいる。

本当は口から飛び出してしまいそうなそんな思いをぐっとこらえている。

この少女とも言える女性はエルロッドウェイの宝だ。

皇国の皆に愛され、惜しまれ、でも神託故に断ることができずここに来てくれた女神だ。

わたしの命を救ってくれるために。

それだけのためにエルロッドウェイはナディアを手放した。

そう、フレディとカインは許さないだろう。

彼女がわたしを見てくれない限り、勝手に縛り付けることは許さないと。




だからこそ言えない。

何も知らないままの彼女を縛り付けることはできないだろう。

美しいサラリとなびく銀の髪を見る。

ああ、触れたい。

そう思う気持ちをぐっと押さえつける。



彼女の耳の上が少し赤い気がする。

きれいに編み上げられたハーフアップの止めた髪留めはわたしが送ったものだ。

わたしが贈り、わたしが彼女の彩りを増やしていきたい。

わたしが思う存分触れられないから、あの髪飾りだけは身につけてもらいたい。


なんて。



なんてエゴだ。




ああ、彼女の形の良い耳が赤いのは冷たい空気にさらされているからだ。

「ナディア・・・そろそろ風が冷たい。中に入らないか?」

「わたくしは平気です。あ、でもエル様は体が冷えてはなりませんから・・・。」

そういって少し名残惜しそうにする。

彼女の国よりは温かいこの地で降る雪は、すぐに溶けてしまう。

降り積もることはない。

この寒さも堪えるほどではないのだが。



そう思い、事更に優しい声で伝えた。

「わたしは構わない。珍しい雪だ。少しくらいなら構わない。それにあなたが今朝入れてくれた

お茶でわたしの体はまだ温かい。

少し冷めてもあなたならまたお茶を入れてくれるだろうか?」

そういって少し首を傾げると、心配そうにわたしの顔を覗き込み。

同じように首を同じ方向に軽く傾ける。

サラリと、背を髪が流れる。



ああ、美しい髪だなと思う。



戯れのように抱きしめることはできる。

彼女はわたしを信頼してくれているようで、わたしが抱きしめても何も言わない。

笑っているだけ。

それは兄と同じ年のわたしだからか。

恋愛対象ではないのだろう、こんな年上の男は。

だから彼女は安心してわたしが触れても身構えない。

嬉しいような悲しいような・・・男性と意識させるにはまだ距離がありすぎるのだろう。




堕ちてきてほしい。わたしに。





そういった下卑た思いにとらわれて愕然とする。

ああ、わたしも男だったのだと思い知る。


彼女を抱きしめたい。

彼女の側にいたい。

彼女を自分のものにしたい。



その誘惑に駆られる。




わたしに魔法の言葉があるように。

それを使ってはならないという自制も働く。



知らぬうちにため息を付いていた。






不安げに見つめる美しいアメジストのような瞳。


本当はわたしと同じ。

銀色の瞳。

わたしの比翼の鳥、連理の枝。

わたしの宿痾を救ってくれる唯一人の人よ。



「どうかなさいました?」

不安げな瞳をさせてしまったことを申し訳なく思う。

自分の不甲斐なさはナディアのせいではないというのに。

「いや、なんでもないのだ。あなたのせいではない。ただ・・・。」

「ただ?」

「わたしも雪が好きだと思っただけだ。」




そのわたしの言葉を聞いて、ナディアは華がほころぶように笑う。





ああ、美しい笑顔だなと。

心から思う。





「エル様、お部屋に入りましたらわたくしのとっておきの紅茶を入れますわね。はちみつに合うんです。

暖かくして、またよるお部屋に伺いますわね。今日は寒いからクコのお酒を少しだけ垂らして。

よく眠れますように。」



そう言ってあなたが笑うから。






「ああ、楽しみだ。」

そういって手を差し出せばあなたは手をとってくれる。

わたしの手の冷たさに驚いて、両手でさすってくれた。

抱きしめてしまいたいその思いに蓋をして、ありがとうとその指先に口づけを送る。




そんな雪の、一日。




少しヘタレですが本当は深い愛情を持っているんです。わかりづらくないはずがナディアレーヌに

つたわらないというこの安定の両片思い(笑)

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