影と蝶と剣呑と確約と
お兄様たちは国に帰るまでに色んな根回しを済ませるつもりなんです。
時は少し戻り。
エルンハルトに呼ばれる前の兄妹での時間は穏やかなものだった。
ええ・・・わたくしがこっぴどく一度叱られる以外は。
「レーヌ・・・?」
目の前にいる二人の銀色の髪の美形に睨まれて怖くないはずがないではありませんの・・・。
「はい・・・。」
「どうしてあんなに目立ってしまったのかな?まあ陛下とのファーストダンスは仕方ない。
何故ならレーヌも皇女だからね。それよりも何よりもなんだろうね、あの距離の近さは?」
カインお兄様が激怒してらっしゃる・・・。
背中をダラダラと冷や汗が滑り落ちるのがわかりますわ。
なんとか援護してもらおうと後ろを振り返ったところサラがそっぽを向いている!?
「サラ!!酷くてよ!」
「わたしは自分の身が可愛いので。それに今回は参加もしておりませんし?」
ああああ・・・たしかにそうなんだけど。そうなると・・・。
ならばと思いアンヌを見ればにこやかに笑っている。
じっと見上げても穏やかに美しく微笑んでらっしゃる・・・。
そしてほぅ・・っと色っぽくため息を付いたと思ったら目の前のお兄様たちにも美しく嘆息した。
「ナディアレーヌ様、わたくしのような立場の者がエルロッドウェイの至宝と名高き美しき盾と矛たる
お二人の皇子様であられるお兄様方に。・・・何も言えませんわ。」
後ろでロウがくくっと笑った気がしたけどアンヌは変わらずだわ。
そうですわよね・・・そうですわよねー。
ああそうですわよね、我が兄たちエルロッドウェイの至宝と呼ばれ美しき盾と矛と呼ばれている。
わたくし?私は自分のことはなんと呼ばれているかは存じません。
それにしてもアンヌなら言えるとは思うけど敢えてですわよね?
敢えて助けはしないということですわよね?
あの強いアンヌがあえてそんな色気を振りまきながらでも言わないってことですわよね。
そんなアンヌを見ても目の前のお兄様たちも顔を赤くするどころかニッコリと笑って受けている。
・・・・もう何なんですのこの虎と龍のばかしあい的な。
だいたいアンヌったら。お兄様たちに見とれているふりしても全く興味ないってわかりますわよ。
だいたいお兄様たちだってそれもわかった上であの嘆息を受け止めているわけですわよ。
美形同士の駆け引きってこっちのほうがうっかり当てられるんですけれども?!
そりゃレオルド様ほどの年齢から醸し出される色気はお兄様たちにはないかもだけど。
ああ・・・これは誰も助けてくれはしない。
「あああの・・・カインお兄様、わたくし別に距離が近かったわけでは・・・。」
「ああ、わかっているよレーヌ。つい。うっかりと。うっかりとだよね?エルンハルト陛下の香りを
嗅ぎに行ってしまっただなんて?」
・・・・・ばれているなんて・・・。
「だってお兄様!!エルンハルト陛下からロサ・キネンシスの香りがしましたのよ?」
「ロサ・キネンシスの?」
「あの、微弱な弱い香りですわ。でも野趣あふれる高貴な香りでしょう?しかも上品にほのかに!
ほのかに香りましたの。あの香りを凝縮できるとは素晴らしいと思われません?」
「それはたしかにそうだね。」
ああ、このまま丸め込めそうだわと思った瞬間。
となりのフレディお兄様がニコっと笑われました。
・・・・あ、これはだめですわ。もうひとりいたのでした・・・。
カインお兄様はわたくしに甘いのですぐ丸め込まれてしまいますけれどもフレディお兄様はそうはいかないというかなんというか・・・。
「レーヌ?何を焦っているのかな?」
フレディお兄様の穏やかな声が降ってきて、穏やかなくせにわたくし何故か寒気が止まりませんの。
怒ってらっしゃるのかしらお兄様・・・。
「あ、焦ってなどおりませんわ。」
「そう?じゃあ、その可愛い顔を兄に見せてくれないか?」
そういって目の前から手を伸ばしてわたくしの顎をそっとその長い美しい指ですくい上げました。
ああああ・・・怖いです・・・。
怒ってますわ・・・なぜかわからないけどすごく怒ってらっしゃいます。
こっちを向けと言われたのに何故でしょう。本能でそっちをじっと見ることが・・・。
「レーヌ?」
こわいいいいい・・・美しい人が怒ると非常に恐ろしいですー。
銀髪に翠緑の瞳という冴え冴えとした美しい人がわたくしを視線で追い詰めてきます。
間違いなくお兄様が不機嫌だということだけはわかりました・・・。
「レーヌ、お兄様が聞きたいのは一つだけだよ。」
「はい?」
そう言ってプルプル震えながらお兄様を見上げると、ニッコリと笑っておっしゃいました。
「どうしてエルンハルト陛下は平気だったんだい?」
・・・・平気?
「平気ってどういうことでらっしゃいますの?」
「ああ、じゃあここにアーノルドがいるからね。試してみようか?」
「え?」
「ああ、アーノルドだね。アンヌの長男と聞いたよ。あのレオルド殿のご子息だね。」
「はい。」
「ほう、美しい顔立ちだ。わたしたちの色とは違うけれどもとても美しい。君の父上も母上もとても
美しいからね。」
そう言われると戸惑ったように頷くアーノルドにむかってこちらに来るようにと声をかけるお兄様。
確かにレオルド様はお美しいですわ。
それにアンヌとレオルド様の子供であるアーノルドは確かにいいとこ取りで非常に美しい。
まだ少し少年ぽいけれどそれでも騎士ですもの。
背も高く、体も少し分厚く、どちらかと言えばロウのような体型ですものね。
フレディお兄様にこちらに来るようにと促され、扉の前で直立不動していたアーノルドがゆっくりと
近づいてくる。ぴたりとお兄様の正面でとまって騎士の礼を取る。
そのあとにこちらからみてもほおっとため息が出るほどに美しく膝をついて胸に手を当てた。
「アーノルド・グレイスです。恐れ多くもエルンハルト陛下から直々にナディアレーヌ様の護衛をするようにと仰せつかりました。
力いっぱい務めさせていただきます。」
騎士らしく勅答にはまっすぐ答えながらも答えたあとは騎士らしく目線を外しそのまま待つ。
それをみてうんうんと頷いたあとに立つように言うと、わたくしの隣に控えるように指示をしました。
そしてお兄様はくるりとわたくしの方を振り返って・・・。
「じゃあ、アーノルド。レーヌにあと三歩近づいてみてくれないか?」
「は?」
キョトンとした顔をしてアーノルドがわたくしを見るのでわたくしもアーノルドを見てしまいましたわ。
「あ・・・あの。意図が掴みかねますが護衛対象である姫様の近くに恐れ多くも自分から近づくとは・・・。」
困惑しているのが手にとるようにわかります。ええ、わたくしも意図をつかめずポカーンですわ。
アーノルドはわたくしよりも年下ですし、可愛らしい弟のような感情が湧いております。
何しろ素直で可愛らしい。サラとお似合いですわね。
そう思っていますと、アンヌがすっと近づいてきてニッコリと笑いました。
「まあ、フレディ殿下。うちの愚息が申し訳ありません。」
そう言うとアンヌが手に持っていた扇子でアーノルドの背中を強い勢いで押した・・・ですって?
「うわっ!!」
勢い余ったアーノルドがわたくしにぶつかってきそうになりましたが、わたくしは避けるまもなく
じっと見つめておりました。
そしてあと30センチ位で近づく。というときに無意識に目を閉じるとその瞬間にうわああ!!
という声が。
「ふむ。サラご苦労。」
フレディ兄様がそういうとサラが拘束していたアーノルドとともに後ろに下がる。
「ちょ、ちょっとまって・・・首・・・。」
「あら、失礼。」
そういとアーノルドをポイッと放り出したサラが涼しい顔をしてわたくしのそばに寄り、さらさらと
わたくしの髪を整えてくれました。
「ふむ。アンヌ、サラ、ご苦労だ。アーノルドはどうやらレーヌにとって安全な男のようだ。」
その言葉を聞くと何を今更といった雰囲気を一瞬出したあと。
アンヌはくすっと笑いました。
「もちろんでございますわ。アーノルドが敬愛する姫様に懸想するようなことは世界が滅びてもございませんわ。絶対にです。何があってもです。主君の気持ちに沿わないことをすることはありませんわ。
ご安心ください。」
そういってにっこりと笑うアンヌは自分の息子が試されたというのに涼しい顔をしているのね。
そうおもってフレディお兄様をちょっと睨む。
「アーノルドに失礼ですわ!アーノルドはわたくしに対してなんの邪さも感じませんことよ!
それにアーノルドはサラのほうがこそが好きですわ!」
「「は?!」」
後ろでアーノルドが真っ赤になっているような気配がいたしましたし、ロウが少しだけ剣呑な空気を
醸し出したような気がしましたが・・・。まあ、気にしなくても大丈夫でしょう。
なんせ事実なんですから。
「そうそう、アーノルドはレーヌに邪さのかけらもないことはわかっている。見ればわかる。
そうか、主君。の気に沿わないこと・・・ねぇ。ああ、アーノルド済まなかった。」
そう言ってフレディお兄様にアーノルドは目を白黒させながらありがとうございますと意味がわからない
お返事をしておりますわね。
あとでお茶を入れてあげようとわたくしは心に誓いましたわ。
「お兄様意味がわかりませんわ。」
そういって幼い頃の癖で頬を膨らませてしまいましたがそれをニコニコと見やる兄二人とロウ。
そして何ならサラとアンヌまで・・・。
アーノルドはなにやら・・・何故?だのば、ばれて?だのとブツブツ言っておりますのでまあよいですわ。
「フレディ兄様、これだから僕らのレーヌは可愛くて仕方ないんだよねぇ。」
そういってカインお兄様が蕩けたような微笑みを私に向けてきます。
ああ、このお顔わたくしは耐性がありますがエルローズ様に乱発しないでいただきたいですわ。
「ああ、カイン。素だからこれが。空恐ろしいな。」
「コラふたりとも。意地悪するんじゃないぞ・・・。」
見目麗しい男性三人にニコニコと微笑まれているのですがなにやら合点が行きませんわ。
するとサラがそれを呆れたように見やり、わたくしに告げます。
「つまりフレディ様やカイン様たちが思っているよりもアーノルドは安全であり、レーヌ様自体も
アーノルドのことを気に入っているということです。」
そういうと何故当然のことを言われたのかわかりませんわわたくし。
「ええ。だってアーノルドはわたくしの護衛ですし、エルンハルト陛下の秘蔵っ子ですもの。
わたくしに無体を働くわけがありませんし、アーノルドは何があってもエルンハルト陛下に頼まれたことを軽くは扱いませんでしょうし。
なにしろエルンハルト陛下を悲しませるようなこともしないでしょうし。」
その言葉を聞いた途端、目の前のお兄様たちの周りの空気が下がりましたわね・・・。
「・・・ああ、無意識だとわかっていてもなんだか腹が立つねぇ。」
そういってフレディお兄様がまたにっこりと笑われますが・・・。
何故ですのー?何故また不機嫌になってらっしゃいますのー?!
立ち直ったであろうアーノルドに目を向けると、まあそのくらいで。といった雰囲気で眺められます。
「つまりは、アーノルドは気に入っているということかな?」
そういって穏やかな声を聞いていると、なんにも考えずに頷いてしまいました。
「はい。弟はわたくしおりませんでしょう?弟がいたらこんな感じかな?と。」
「でも触れられないと?」
「わたくしから触れるのですか?」
そういってキョトンとアーノルドを振り返るとブンブンと顔を横に振り手で制されましたわ。
そこまでされるとちょっと傷つきますけれども。
「腕でよろしいの?」
「腕なら触れることができると?」
「だって護衛ですもの。わたくしのエスコートもするでしょう?歩きやすかったですわよ。」
当たり前のことを何故聞くのかわかりませんわ。
「じゃあ、香りを嗅げる?」
「騎士服の香りをかぐのですか?」
胡乱げな顔をしてしまいましたわ。なぜよりにもよって騎士服の香りを嗅げと?
「ふふっ。まあよい。意地悪を言ったねふたりとも。許してくれ。」
そういってフレディお兄様がくくっと喉の奥で笑うので、この笑い方をするときには
何を言ってももう答えてくれないとわかっております。
仕方ありませんわねぇ・・・とおもい、こちらも力を抜きました。
「アンヌ、我が妹が苦労をかけると思うがその際にはよろしく頼む。」
「はい。もちろんでございますわ。全力でお支えします。」
支えなくてもいいんだけどね・・・とカインお兄様が小さく言った言葉にアンヌはこちらが目を瞠るほどに蕩けるような滴る色気を含ませた笑顔を向けて一言。
「まあ!・・・ふふ。随分とお可愛らしい。」
それを聞いてカインお兄様がぐぐぐっと喉を鳴らしているのをフレディお兄様が笑いながら制しておりますわ。珍しい。
アーノルドは「かあさ・・・いえ。アンヌ様・・・少しお控えください・・・。」と半分呆れている。
サラはキラキラとした眼でアンヌを見ているのでどうかしたのかと見つめると。
「わたくしの理想形です!素晴らしすぎる!」と、拳を握っていますわ。
こちらもまた息が詰まるほどの美しい嘆息を目の前でこぼした銀色の美丈夫である兄が少し笑いながらいう。
「アンヌ・・・戯れがすぎる。そのように我のかわいい弟を虐めてくれるな。我が弟は随分と可愛いのではなく、本当に心から可愛いのだ。」
そういってカイン兄様の頭をするりと撫でる。
わかりますわお兄様!拗ねているときのカインお兄様は非常にお可愛らしいですわ!
わたくしもなでたい!撫でたいです!!
ああ!!久々に帰る前にお兄様の髪を編み込みしたいですわ。さらっさらの銀髪を思うままに編みたい!!!
わたくしの視線を感じたのか、流石に人前ではバツが悪かったのか・・・。
カインお兄様が軽くフレディお兄様のその手を払って、アンヌを見上げました。
「良い。あなたがレーヌのそばにいるのならば安心だ。だがしかし、レーヌの意に沿わぬことは許さぬ。」
そういってまた少し不機嫌になったのかと思ったのですが。
わたくしを呼んだのでカインお兄様の側まで歩いていくと、不意に視点が高くなり・・・。
「お兄様・・・突然はおやめくださいませ。」
「何故?」
不意にわたくしを抱き上げ、膝に上げたカインお兄様はごきげんにわたくしの髪を撫でます。
「レーヌ。レーヌ・・・。わたしが替われるのならば替わったものを。」
温かな手を受けながら、わたくしは体の力が抜けていくのを感じます。
「お兄様。これは代わりが利かないことですわ。エルロッドウェイの皇女たる使命ですの。」
わたくしの声を聞きながら、みんなが黙っています。
そう、兄たちはエルロッドウェイに帰る。
わたくしはこのドゥーゼットに残るのだ。
わたくしの使命を果たすため。神託の通りにわたくしはエルンハルト陛下を完治させる。
そして、わたくしはいつか・・・いつかエルロッドウェイに帰りたい。
わたくしの銀色の髪をくんっと引っ張り、目を閉じたお兄様はそれをおでこにつけて嘆息した。
「わかっているよ。それでもわたしが替われるのならば替わってあげたかった。尊き兄様の代わりはいないが
わたしの代わりは沢山いるのだよ。ぼくならば・・・」
「カイン。それ以上はならない。わたしの大事な矛たる弟を愚弄することはその本人である弟でも許さない。」
そういってフレディお兄様の低い声がしました。
ああ、お寂しいのだわお兄様は。
いつもそう。わたくしを慈しんでくれて一番わがままにわたくしをかばってくださるのはカインお兄様。
そしてそのカインお兄様を護るのはフレディお兄様。
わたくしの頬を撫でたフレディお兄様が、少し困ったように眉尻を下げる。
「レーヌ・・・泣かないで。」
人前で皇族らしく話していたフレディ兄様が、ふいにいつものそれに変わるのを感じました。
「ああ、泣かないで。わたしはレーヌが思っているほど強くはないのだよ。このまま連れ帰りたいと思うほどにはお前を離したくはない。」
その言葉にアンヌとアーノルドがピクッと反応した。
それに気がついたフレディお兄様が低い声で告げました。
「戯れである。控えよ。」
珍しくも厳しいお兄様の声。
「はっ。」「はい。」
同時に返事が上がった二人はついといった風情だったのできっと反射的なものなのだろう。
それはわたくしのお兄様があまり表に出さない、威圧だったから。
わたくしはそれ故にわたくしを思うお兄様の心からの心配の声に涙が止まらなくなってしまったのです。
カインお兄様の膝の上のわたくしとカインお兄様をそのまま抱きしめ、ゆっくりと離し。
フレディお兄様が告げました。
神聖とも言える、それは宣誓のような命令にも等しいわたくしを護る言葉。
「エルロッドウェイの次期皇たるわたしに誓うのだ。この場にいるものすべてに聞く。
レーヌが決めたことに従うと。どれほどの時間がかかろうとレーヌの決定は絶対であると。
我が国の銀の珠玉たる我が妹をこの地に置いていくことは我が身を引き裂くと同じと知るのだ。
ドゥーゼットの国の者よ。
我が妹の側に仕えるというのならば何一つそなたらの思い通りに誘導してはならない。
そしてエルロッドウェイの国の者よ。
ドゥーゼットの国のものをそなたらの感情で排除してはならない。ルーゼの心のままに沿わせるのだ。
我が妹の髪一本、心ひとかけら損なわせることなく護るのだ。
その覚悟があるか?ある者にしか我が珠玉の妹を預けること能わず。置いていくに能わず。」
その言葉を聞いた途端。
わたくしの髪がふわっと広がり、その髪を止めていた髪留めがふわっと暖かさをましましたのでびっくりして
涙が止まってしまいましたわ。
-エルロッドウェイの愛子よ。心配するではない。我もおる故そなたたちの心配するような事は起きぬ。
心折れることも、辛きこともなかろう。愛子たちよ、心平らにせよ。この心配症な愛子たちよ-
そういってくすくすと笑う声。
ああ、いつまでも此の兄妹はかわいいのうと笑う声。
ふわふわと舞い散る羽根・・・羽根・・・羽根・・・。
そして随分大量に・・・他にはチラチラとふっているだけの羽根が。
フレディお兄様とカインお兄様に降り注ぐのを呆然としてみてしまいましたわ。
これでもかってくらいですわ。もはや嫌がらせに近いのでは?と首を傾げそうになりながら羽根に埋もれる
お兄様たちを眺め・・・・はっといたしました。
え、これ!!そう言えばこの羽根はわたくしが欲しかった薬の研究の材料にもなりますわ!!!
ここで?!ここで何故あの羽根が降りますの?!
これ、神託の羽根ではありませんの?こんなに気軽に降りますの?
レーヌ的には確かにそんなにあることではないと思っているようだが実はエルンハルトたちには
花までふったと知ればそんな節操なしに・・・と苦笑いするだろう。
「サラ!ロウ!アーノルド!!拾ってくださいませ!これ、時間が立つと人が触れたもの以外は
消えてしまうのですわ。貴重な資源ですのよ!アーノルド!あなた騎士でしょう?
全て消え去る前にできるだけ触れてくださいませ!」
「・・・・レーヌ・・・。」
呆れた顔でみやる二人のお兄様たちの顔を見ながらわたくしは涙を拭いてにっこりと笑いました。
「お兄様、六割はわたくしにくださいませ!エルンハルト陛下のお薬の材料ですわ。」
「・・・ああいいよ。ではわたしも拾うとしようか。」
そういってフレディお兄様が髪に、服についた羽根を集め始めました。
カインお兄様は一瞬だけ名残惜しげにわたくしを抱きしめ、そっと床におろしました。
自分についた羽を取りながら、目線を外してポツリと言う。
「レーヌ、知っていた?」
「何がですの?」
「ぼくと兄様は至宝の盾と矛と呼ばれている。それは光栄なことだ。だけどね。」
わたくしが知っている、カインお兄様の本当の笑顔を浮かべて誇らしげに告げてくださいましたその言葉。ごく親しい人の前でだけ変わる一人称のぼくの言葉。
わたくしは一生忘れることはありません。
「レーヌは至宝の珠玉と呼ばれているのだよ。わたしのレーヌ。離れるのは寂しい。寂しいよ。」
そう言ってわたくしの髪についていた羽根をそっと外してくださいました。
愛おしい妹よと目で、仕草で示される愛情。
慌てたように集め終わった羽根は、満足行くほどに集まったのでわたくしは嬉しくなってしまっておりました。
それを集め終わったあと。
不意に空気が替わったのでふっとそちらに目をやると・・・。
「エルロッドウェイの至宝たる盾と矛たるお二人に誓いましょう。」
そう言って、レーヌはこれ以上ないほどの美しい最上級の淑女の礼を取り、その横でアーノルドが
最上級の礼を取るために胸に手を当てて片膝をついていました。
そのとなりにはエルロッドウェイにおける最上級の礼をとったロウが。そしてその淑女の最上級の礼を
とったサラが膝を折る。
「なにがあってもナディアレーヌ様の意に沿わぬことはしないと誓いましょう。そして護ります。」
穏やかなアンヌの声が響き、そしてアーノルドが頭を下げる。
「なにがあってもレーヌ様の意に沿わぬことはしないと誓いましょう。そして護ります。」
穏やかですこしだけ真面目な声でロウが続ける。
「ではわたしはそれを受けよう。」
そういってフレディお兄様が穏やかに笑う。
カインお兄様も仕方ないなぁと言った顔で笑ってくれたのでわたくしやっと笑うことが出来ました。
「それにしても・・・こちらも神託か・・・やれやれ。」
そういってフレディお兄様が苦笑いをしてらっしゃいますわ。何故苦笑い?
「さあ、アンヌ悪かったね。誓いは成った。では・・・・わが愛しのレーヌ。愛する兄にお茶を入れては
くれないか?ああ、あの自慢げに話していた薔薇のお茶をわたしにも飲ませてくれ。
ああ、ではサラとロウ、そしてアーノルド。レーヌの手伝いを。
カインはここに。」
その言葉を聞いて、ああ、アンヌとなにかの打ち合わせがあるのだろうとわたくしは思いましたので三人を連れて部屋を出ることにいたしました。
出る間際にお兄様たちの顔を見れば、愛しい、かわいいとわたくしを眺める瞳。
そうですわよね、わたくしはこちらに残ってもお兄様たちがきっと守ってくださいますもの。
「さ、レーヌ行こう。」
「ロウ殿。いくら何でもお言葉が砕け過ぎではありませんか?」
そういって少しだけ不機嫌なアーノルドに向かってロウはくくっと笑う。
「まあ、いいじゃないか。レーヌは妹みたいなもんだ。これから宜しく頼むよ、アーノン。」
「それ!昨日から言っていますがわたしはアーノルドです!」
「いいじゃないか、かわいいだろ?アーノンって。」
「そ、それは幼いときの幼名です!」
笑いながら軽くウインクするロウに呆れた笑いを向けてしまいますわ。こうやって人とのコミュニケーションを
取れということですの?
「では、わたくしもアーノンと呼ぼうかしら?」
「なりません!!!!」
心持ちふるふると震えるアーノルドを見て不思議に思う。
「どうしてですの?」
「絶対に陛下の前でお呼びにならないでくださいね。ロウ殿はまだしも姫様は絶対です絶対になりません!!」
「・・・・わかりましたわ。」
「ほう、俺はいいと。じゃあ、サラもいいな?」
「さ、サラは・・・・」
「お前とは一回ちゃんと話さなきゃなんないな。」
「どうしてですか。なにがですか。どれですか!!」
「はいはい、もういいじゃないアーノン。」サラが言うとアーノルドは真っ赤だわ。やっぱりねぇ。
「さ・・・わ・・・・。」
そうガヤガヤと出ていくのをみやり、兄たちは嘆息をついた。
「ああ、陛下の前でアーノルドを幼名で呼ぼうなどと・・・。」
「アンヌ、アーノルドは聡い子のようだね。」
「そうですわね。騎士として危機管理は高いほうかと思われますわ。」
主君の無自覚の想い人にこれ以上の距離感を詰められるわけには行かないという危機管理は確かだ。
先程レーヌにぎりぎり倒れ込んだとしてもどうやっても避けただろう。
そうおもってフレディはクスクスと笑う。
「さて、アンヌ。この機会に部屋のそこここにおる者とも挨拶をしなければならないだろう。」
「お気づきでしたか?」
「我がエルロッドウェイは小国ではあるがそれ故に狙われる確率も高いのだ。わたしと弟はそのへんの騎士よりは剣を扱えるぞ。もちろんレーヌも。
そしてその護衛はこのわたし達よりも強く、わたし達はその狙われる危険性により察知能力も高い。
故に殺気を帯びるには能わず。力を抜け、影のものよ。」
「・・・そこまでご存知でらっしゃると。」
すっと視線を細めたアンヌをみやり、クスクスと笑う。
「ああ、我が国にもそれなりにいるのだよ、影という名ではないが。」
「貴方様がたの国では蝶とお呼びになると。」
「ほお!よく知っていたねぇ。」
思わず砕けた言葉にアンヌも今までのような滴る色気を封印し、なんというかもっとざっくばらんな感じに
成って言葉を紡ぐ。
「わたくしが姉から引き継ぎましたのが影。そしてそこここに、とおっしゃられましたが姿を表すのは
もう少しお待ちいただけますか?表に出ているものもおりますが、隠密部隊ゆえ。」
そういってくすっと笑うと、年齢より若く見える。
なんというか・・・・一気にお姉さまからお姉ちゃん感が漂ってきたな・・・。
「うーん、五人だよね、隠れてるの。でも一人ウズウズしてる子がいるなぁ。」
そう言ってカインが笑うと、アンヌは苦虫を噛み潰したような顔をして一人を呼んだ。
そこに現れたのはお仕着せを着た美少女。美少女なんだが気配がこう・・・なんというか・・・
「剣呑。」
カインがボソリというとその空気を一気に霧散させてその美少女が膝をつく。
淑女の礼ではなく。
騎士の礼を取る。お仕着せを着た美少女が。である。
「アンヌ?」
「はい。」
「えーっとこの子は?」
「わたくしの息子でアーノルドの兄ですわ。双子ですけれども。」
情報量が多い・・・そう思って眺めていると、その美少女にしか見えないくせに顔を上げてニヤッと笑うと。
ほう、面白い。なんともこれは・・・。
「アンヌ。この者の名は?」
「キュリア・グレイス。アーノルドの双子の兄です。そして、この影を色濃く引き継ぐもの。」
「キュリア・グレイスと申します。よろしくお願いいたします。」
ふむ。おもしろい。これは面白い。
アンヌの意図もだが、これはエルンハルト陛下の意図も入っているのか?そう思ってアンヌを見やれば
屈託なく笑われた。
ああ、そうか。そういうことか。
「キュリア。我に仕えよ。そなたの両親の気概を受け取ろう。これよりしばらくの間我が国に入り、
このドゥーゼットとの橋渡しを言い渡す。
影として我が国に入ろうが、入った途端に蝶に飲み込まれるかもしれないぞ。それでも良いか?
我が国の情報は渡さずもちろん我が国にドゥーゼットの情報はいらぬ。
わたし達がほしいのはレーヌのこと。そしてエルンハルト陛下の事。そして。
長きにわたるかもしれないその勤めをキュリア。君がわたし達の側で果たすと約束するのならば何も奪わぬ。」
暗に、お前の命はレーヌになにかあったときはないと。そういったも同然だ。
そして国に関することも影として探らず、蝶と同じくわたしの手足になれと言ったも同然だ。
この案を飲むかどうかで考えはかわるのだが・・・。
と思った瞬間。
「そんな事でよろしいのですか?」
「は?」
どんなことを言われたのかわからないわけではないだろうに。と、カインと顔を見合わせるが・・・。
「だから、そんな事でよろしいのですか?」
「キュリア・・・もう少し我慢なさい。」
そういったアンヌの声を遮って、キュリアは立ち上がった。
「そんな事でよろしいのであれば喜んで!!俺、ずっと憧れてました影とは違う蝶の長の方に。どんなに
大きな国でもエルロッドウェイにはかなわない。その隠密行動のえげつなさと洗練さ!そしてそれは
手動が王家の方ですよね?そこは国を継がないカイン様が継ぐんですか?俺、カイン様の下に付きます!!」
「ああ・・・・アンヌが明かしてくれたゆえ、わたし達も伝えよう。皇になったとたんに離れるが、今は
わたしがその蝶を預かっている・・・いや、だから近づくな。近い。・・・」
「今はフレディ様ですね!いやあ、しびれるなぁ。あの東和の国のあの情報どうやって流したんですか?
あまりにも鮮やかで俺しびれました!いやあ、うちにも来たんですけどね、それより先に手ひどくやられ・・・」
「いや、だから近い・・・。」
「ぐっ・・・。」
見なかったことにしよう。笑顔のアンヌが手刀を繰り出したことは。
「愚息が申し訳ございませんわ。これを影の長に据えるのも考えものだったのですわ。まあ、影の方は
よろしいですわ。どうとでもなりますもの。」
「そうです。うちには一番の凶悪な最強の妹が控えていますから!」
そう言った途端にアンヌから今度はわかりやすく手刀ではなく平手打ちが炸裂する。
「お前はそういった情報を軽々しく。まあ、ナディアレーヌ様のお兄様方ならばよろしいですがくれぐれも内密に。」
暗にいずれ国母になる方だからと言った感情を乗せてこられるともやもやするがそこはまた引こう。
「それに。俺だったらカイン様のお身内になんの憂いもなく、婚約が整うまで影武者出来ますよ?」
そう言ってカラカラと笑うと。
カインがハッとしたようにキュリアを見る。
「兄様。わたしがキュリアを面倒見ましょう!」
おお・・・恋する男はこういったすべての駒を利用してもあのエルローズ嬢を手に入れたいと。
まあ、我が国の虫よけにもなるし、ドゥーゼットのルーゼの情報も手に入るし、エルローズ嬢がなにしろ
我が国に来てくれなければこの弟はあっさりとドゥーゼットに来てしまう・・・。
「許可する。」
色んな意味を込めて、この子は面白い。
自らの殺気をこちらにぶつけてきて度量を図ってくれと言ってきたようなものだ。アーノルドの双子の兄と言っていたが・・・。
すべての剣技ならばこちらがまさるだろう。暗器を含めればだが。
気性は違うようだが、能力はふたりとも高い。
ふむ・・・。
「レーヌが来るまでに会いたかったのはキュリアだけか?ではそれ以外のものよ。わたし達を疑うな。
レーヌを攫って帰ることはしない。」
わたしがその言葉を言って。やっと気配が溶けた。
そしてキュリアが笑う。
「ナディアレーヌ様はエルンハルト様の唯一です。」
はっきりと言い切るこの美少女にも見える子に苦笑いを返す。
「だから剣呑な空気をわたし達に向けたか?レーヌを連れ帰ると?」
「・・・・あの・・・。」
急にしどろもどろになるキュリアの頭をふとわたしは撫でた。そしてそれを見たカインが同じく撫でる。
アンヌがハッとする。
そしてキュリアはそれを許した。
頭に触れさせるのは忠誠をささげるというよりは自分の弱点を差し出すものだ。それを許した。
影であるキュリアが。
それは大きな意味を持つ。
そして差し出したわたしの手を払わなかったということはわたしやカインが使えるに足ると認めた証。
「母様どうして驚く?俺は行く。エルンハルト様のためでもあるけどフレディ様とカイン様と。
ナディアレーヌ様のためだ。父様にもあってくる。エルンハルト様にもお許しを頂いてくる。
そしてカイン様。エルローズ様にちゃんと伝えておいてください。俺、カイン様のお側におりますが
虫よけですからね。ドレスは新調していただきます。」
暗に女装して側にはべるためエルローズ様に誤解不要と伝えてくれと言っているのか。なんとも出来た子だ。
「ああ。その美しいブラウンの髪に合うドレスを用意しよう。」
「エルローズ様より少し薄い色ですからね俺。」
「わかっている。」
そういってカインがキュリアの頭を軽く小突く。
ふむ。カインも気に入ったか。ならば重畳。
「さあ、そろそろ解散してくれ。レーヌが帰ってくる。アンヌは残るか?キュリアは残ってくれ。
あとでエルンハルト陛下と話をさせてもらうときにキュリアの話をしておくこともできるが?」
「いいえ。わたくしが。」
そういって座を外す許可を取り、下がろうとする。
レーヌをここにおいていく代わりに。
我が子を、いずれ影の長になろうとする息子を。
連れて行けと許可するこの国の騎士団長と影の長。
その気概に答えなければならないだろう?
いちばん大事なものを預ける代わりに。
この国のいちばん大事な核たろう少年の未来を預けてくれる。
二人いるからだなんてとんでもない。
親からしたら一人だろうが二人だろうが変わるものか。
エルンハルト陛下には自分以外に差し出すものがないのだから兄とも慕うレオルド殿の提案に激怒したと
思われる。でも、結局は受けた。
それしか差し出せないと自らもわかるから。身を切るように痛いだろうに、可愛がっている子を手放すのは。
アーノルドを見ていればわかる。キュリアからも感じる。エルンハルト陛下への敬慕を。
ならば連れて行こう。
同じくするために。
同じように大事なものを奪い、預かるのだ。
こちらもそうするのが筋だろう。
「フレディ兄様、カイン兄様!!お茶が入りましたわ!!」
その愛おしい妹の声を聞きながら。
さて、キュリアを連れて行くことをアーノルドにどう説明しようかと。
侍女だと思っているこの美少女が、美少年なんだよと伝えてレーヌをびっくりさせるのを楽しみにしているのと。
ああ、レーヌが笑顔でいてくれればそれでいい。
やっと、そう思えたお茶会の一コマ。
騎士団長は子煩悩なので最後まで陛下の前では泣きませんでしたが
国を出る我が子を思い、号泣しちゃいましたけどそれはまた別のお話。
双子ってかわいいですよねぇ。




