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国王陛下の恋の自覚(他国の医療国の皇太子の考察)

お兄ちゃん動きましたよ。

「時間を取っていただいて申し訳ない。あなたと話してみたかった。」



そういって優雅に笑うのはドゥーゼット大国の頂きたるエルンハルト・ディ・ドゥーゼット。

自らの名にこの大国を担うわたしと同い年の国王陛下だ。

わたしは来年国を継ぐ。

彼はずっとそれより前に、たった一人の兄のあとを継ぎ、この大国を率いている孤高の国王陛下。

見た目も見目麗しく、ミルクティー色の髪は短いながらも艷やかだ。

そしてそのダスティーブルーの瞳。

だがわたしは知っている。彼の瞳は・・・



「銀眼は綺麗に隠れているようで。我が国の薬はよく効いているようですね。」

「・・・ああ。ありがたく思っている。」

少しだけ尊大なその言い方も彼の和やかな視線で相殺されるようだ。

我が国から定期的に輸出されているその薬は、エルンハルト陛下の前の陛下であったルーゼハルト様から

ずっと定期的に送らせていただいているものだ。

どのような配合をするのかはエルロッドウェイの皇と皇妃のみでしか作れないものだ。

一子相伝のようなもので、わたしもそれを婚約者であるキャロルとともに継ぐことになる。



そしてそれだからこそ、我が国の皇女、そして銀眼を持って生まれた皇女は産まれながらにしての宿命とも言うものを背負うのだ。

そしてその娘にずっと沿うように。

親がそれを隠す薬を担うことになる。

だからエルンハルト陛下への薬はずっと我が国の皇と皇妃が引き受けるのだ。

娘だけに負わせないように。

それをナディアレーヌは知ることはないのだけれど。




銀眼の相手だが。

ドゥーゼットのような国に必ずしも比翼の間柄のものが生まれるわけではない。

その相手が悪党なのか聖人なのか、それは神のみぞ知るということだ。

そして、かならずその相手には我が国の皇女のことが伝わるという不思議。

まあ、そうか。

我が愛しのナディアレーヌがいなければ。

このわたしと同じ年の青年であり、国王であるエルンハルト陛下は命を継ぐ事ができないのだから。



彼にとって見れば、レーヌは生命線とも言える。

何があっても手に入れたいと思うだろう。

そして、わたしの妹は美しく・・・・この陛下がレーヌを望むのが彼女の見目でなければよいのにと

そう思う。

だがこの陛下のことだ。

これだけ自分が美しければ相手の見目など気にすることもそうないと思う。

なぜならわたしもそうだからだ。

自分で言うのも何だが、わたしも見た目が悪い方ではないのだと思う。

どうしてそのような言い方になるのかというと、わたしもエルンハルト陛下と同じく自分に興味がある方ではないからだ。

自分の見目などどうでも良いのだ。実際のところキャロルがわたしの見た目も気に入ってくれているからと言うだけだ。



エルロッドウェイは医療国だ。

見た目よりもまずは医療技術、そしてそれを継ぐという重責にも負けない心。

そして外交のための僅かな見た目くらいのものだ。




それと同じものをエルンハルト陛下からも感じる。

少しだけ違うのは、わたしにはキャロルがいるが、彼にはいないということだ。

そして、そのキャロルの地位を同じくするものに我が愛する妹がなし崩し的に座りませんようにという

兄の気持ちが強い。





「エルロッドウェイという国ではグレープフルーツはないのだろうか。」

「は?」

何を言い出すのだろうかこの国王は。

グレープフルーツとは我が国にはないが文献で見聞きしたことはある。

我が国では気候により実ることがない品種だと記憶している。

「我が国では目にかかることはありませんね、どうかされましたか?」

そう聞いたときにエルンハルト陛下は心から楽しそうに笑った。




おお、そんなふうに笑えるのか。




と、びっくりするほどの笑顔だった。




「昨日あなたの妹御と踊ったのだが・・・。」

あああれか。

大分はしゃいでいたなとは思った。レーヌが、ではない。

この男がだ。



ちょっとだけ微妙な表情になり、わたしの顔をじっと見るエルンハルト陛下をじっと見つめる。

「ああ、怒らないでくれないか?姫を抱きしめたことをそんなに怒らなくてもよいのではないか?」

は?怒ってはいない。断じて怒ってはいない。

ただ、少し・・・・不愉快だっただけだ。

それよりも顔に出ていたか?出さないように皇族としては結構錬られているはずなのだが。

わたしもレーヌのことになると冷静ではいられないようだな・・・。

「いえ陛下、怒ってはいないですが。」

「でも不愉快だと?」

「・・・・・・いえ。」

そう言うとエルンハルト陛下はくくっと本当に楽しそうに笑った。




「エルンと。」

「は?」

「エルンと呼んでくれ。」

は?一国の国王陛下を愛称で呼べと?期待を込めた眼で見ないでくれ・・・ああもう・・・。

ええええ・・・・間が開けば開くほどしょぼんとした顔をしないでくれ・・・

ああ、一体どうしたら?

そんな美しい獣の風情で耳を垂らすな、しっぽが下がってるのがみえるじゃないか・・・。




ああもう・・・。



「・・・・では、わたしのことはフレディとお呼びください。・・・・エルン。」

色々と色んな感情を省き、色々ガリガリと削られながらではあったが妥協案として自分もファーストネームを開放することにした。

エルンとよんだときに本当に嬉しそうに破顔の笑顔だったので。

ひょっとしてこの麗しの国王陛下は友人がいないのではないかと不安にもなったが、振り返ると自分にだってそう友人と呼べるものはいない。

なぜなら私たちは国王であり皇太子だからだ。

常に付き従うのは乳兄弟や従僕、そして家族。

ああ、そうだ。



彼はもう家族がいないのだった。





エルンハルト陛下が我が国に来たとき、あのときはわたしは同席しなかった。

皇太子として立太子した年だった。

エルンハルト陛下が眼を真っ赤に染めて出てきたところに出くわした。

その後に、父にはっきりと聞いたのだ。

あの方はナディアレーヌがお救いする方。そして、これからきっとドゥーゼットを背負う方だと。

綺麗に両目が銀のお方だ。と。



ドゥーゼットのルーゼハルト陛下は何故か片眼だけが銀だったことは父から聞いている。

それだけにナディアレーヌはルーゼハルト様の比翼ではなかった。

わたしの妹が生まれた日をわたしは何一つ漏れこぼさないように覚えている。




母の慟哭、父の動揺、弟の叫びに、わたしの沈黙。



一番最初に立ち直ったのは母、そして父。

最後まで納得しないのは弟。

そして納得せざるを得なかったのがわたしだ。

カインは最後まで納得しないだろう。どうしても納得していないだろう。

自分が変わりたいと何度も言った。そして変われないとわかっていた。

だからこそ辛かったのだ。

わたしは変われない。わたしはエルロッドウェイのために生きなければならないから。

弟がエルローズ嬢を見初めたのは必然だったのかもしれない。

あの子はきっと、エルローズ嬢が国を出られないとなったら、エルロッドウェイから出るつもりもあったのではないかと思う。

自分の愛する人がナディアレーヌの行く国の人だということを、わたしの愛しい弟はいつか強く安堵するのではないだろうかと思う。

レーヌとつながっていると。



だからといってエルローズ嬢のことが本気だということはわたしにもわかる。

あの子は本当に好きな子ができない限り、あんな目をする子ではなかったのだから。



エルンハルト陛下はエルローズ嬢に出会う前のカインの目に似ている。

いや、似ていた・・・。




「それでグレープフルーツがなにか?」

そう問うと、エルンハルト陛下は至極楽しそうに話しだした。

「いや、姫がグレープフルーツという名前なのに柑橘類なのかと。不思議そうに言うのでな。」

「ああ・・・レーヌは文献でも出会ったことはないかもしれません。妹の専門は薬草ですよエルン。」

「そうか。」

そういってまた楽しそうに笑う。

「レーヌを引っ張り出したいのならば、気を引きたいのならば、薬草園をお与えください。」

そう言ってニヤリと笑うと、エルンハルト陛下は目を見張った。

「あの子は普通の令嬢ではありません。天才的な才能もありますが、基本的に薬草や薬に関わるものそして料理が生きがいの子です。」

エルンハルト陛下は凪いだ眼をしてうなずく。



「ああ、姫がそう言っていたな。今日は朝何も食べられないと言ったらそれは許されなかった。」

そういって低い声で笑う。

「あの子は母に色んなことを詰め込まれていますが、アウトプットが苦手な子です。時々話を促してあげてください。」

「ああ、わかった。」

「エルンのことを思い、すべてのことを行動するでしょう。何があってもレーヌを冷たく扱わないでいただきたい。」

「ああ、承知した。」

「あの子は疲れると眠りが長くなります。そして、瞬きが多くなるのです。」

「覚えておく。」

「エルン。」

「何だ?」




そうだ、これを聞いて置かなければ。




「レーヌをお好きですか?」





その言葉を聞いてぽかんと口を開けた麗しの美青年は。

わたしの言葉を理解したのか、ぱっと口元を右手の手のひらで覆った。

その後、じわじわと目元が赤くなった。

ん?なんだその初々しさ。同じ年とは言え白皙の美青年の肌がみるみる赤くなり目が潤んだらなんだか悪いことをしている気分になるじゃないか。

「・・・・さっき・・・。」

「さっき?」

そう言ってじっと見つめると、目の前の椅子から立ち上がりわたしのそばに寄ってきた。



何だ?何なんだ?

おお、近い近い近い。



「フレディ・・・姫は自国で誰か心を寄せる者がいただろうか?」

真顔でわたしの顔を覗き込んでくるエルンにちょっと体を引いて距離をと・・・らせてくれない・・・。

「は?わたしの記憶ではまったくもっていないですが。」

「ああ・・・フレディは誰かいるか?」

「は?」

「だから・・・心を寄せる者が。だ。」

「わたしには婚約者おりますが。エルンにはいないと記憶しておりますが?」

「ああ、そうだ。わたしはいまだかつて心を寄せたものも婚約者もいない。」

「エルンはわたしと同じ年ですよね?」

「ああ、そうだ。」




これはこれは・・・。

30も目前のこれだけの美丈夫がこれまた箱入りではないかと苦笑いが浮かぶ。

この調子ではきっと遊んだこともないのではないかと思う。

まあ、流石に王族だから扱いをまったくしらないというわけにはいかないだろうが(王族がハニートラップなんぞにひっかかるわけにもいかないのだから)

それにしてもこの感じは、ちょっと嫌な感じがするな。



「エルン、あの・・・。」

「フレディは媚薬をもられたことがあるか?」

「はあ?!」

一体何を言い出すのだ。医療国である我が国の皇太子に媚薬をもるツワモノなどおるわけがない。

大体わたしには大概の毒や媚薬に耐性がある。

「わたしは一切薬が効かない。」

「存じております。」

だからこそ我が妹がここに来たのだから。

「だがしかし媚薬だけは別だ。」

は?媚薬だけは効くってことか?ハニートラップかかりまくりってことか?

「吐き気がする。」

「はああ?!」

媚薬をもられたことが日常的にある上に、媚薬を飲まされたりすると吐き気に変わると。

「・・・・エルン。それは大変です。」

「媚薬をもられたことがあるものを見たことはあるがあんなふうにはならない。わたしはひたすらに

吐き気に襲われる。それはもう吐き続ける。しかたなくないか?それではそんな気にもならない。」

いや、とりあえず媚薬もられたやつが近くにいることも危ないだろう。

この美貌だったら襲われても仕方ないだろうに。

それになんだ?そんなきにもならないって。

なったら困るだろう?ハニートラップじゃないか。




あんぐりと口を開けているわたしに向かってとうとうと話し始める。

「だから女性が苦手なのだ。香水の香りも、肌に触れる手も、媚びるような声も苦手だ。」

そう言ってわたしから顔を離したエルンは困ったというふうに肩をすくめた。

そんな態度も様になるのがこの国の王様だってことなんだな。

「ですが、レーヌを抱きしめていたでしょう?」

ああ、ここに戻ってしまった。そうすると急に首筋まで赤くしたエルンがこっちを見ずにうつむく。

短い髪の彼の首筋が本当に真っ赤だ。



「良い香りがしたのだ。」

「はあああ?!」

なんだと?ことと次第によってはどうにかしないといけない案件ではないのかと思う。

我が妹の香りを嗅いでいたということだな?

「花の香と、グレープフルーツだ。わたしはいつもどの令嬢も苦手なのだが姫だけは平気だった。

理由がわからずずっと悩んでいたのだ。そして姫のことを考えると・・・。」

そう言ってわたしに見せるように手のひらを見せた。うつむいたまま。

手まで赤い。もはやもう全身真っ赤だ。その中で手のひらを見ると汗だらけだ。




「・・・こうやって汗を掻く。そして顔が赤くなる。体温が上がるんだ、わたしは何らかの病ではないかと。

昨日の夜もフレディと話すことができなくなったらまずいと思い風邪を引いたのではないかと不安になったんだ。エドとレオルドにそういったのだが朝一番に風邪じゃなかっただろと笑われた。」

「はあ。」




何だ?どうしたんだ。このエルンハルトという男。

ひょっとして?



「あー・・・エルン、ひょっとしてですが。」

「訳がわからないのだ。抱きしめた理由も香りが嫌じゃない理由も、彼女の話だけは聞いてしまう理由も、そして手に汗を掻く理由と体温が上がる理由が何なのかもいつもと違うのだ体調がでも不調なわけではない。」

「でしょうね、初めてですか?そのような状態は。」

「そうだ。」

きっぱりという状況がおかしいのだけれど。




どうやらこの美しすぎる男。


我が妹に恋をしているらしい。




軽く嘆息した。そしてゆっくりと伝える。

「わたしはキャロル以外抱きしめたいと思うことはないです。レーヌは別ですが。

彼女の香りも平気です。わたしもエルンと同じく自分にも興味がなく、わたしが生きる意味もわからないときもあった。キャロルがいなかったら空っぽだったでしょう。」

「そう、そうなんだ、ナディアレーヌ姫がいてくれたらお茶も美味しい。そしてご飯も食べられる気がする。そして、心地が良い。」

「そうでしょうね。」

「だがそれは、わたしが彼女を必要としているからではないかと。わたしは彼女が治してくれなければ生きられない。」

「そういった側面もありますね。」

「フレディは聞いているか?わたしが望めば姫はここから出られなくなると。」

「ええ、知っております。ですが、それはエルンが決めることですよ。」

「だがしかしわたしは無理強いはしたくないのだ。」



おお、この美貌の国王陛下。なんでも望める彼は本気で言っているのだろうか。

それともわかっていないのだろうか。



「無理ですよ。」

そう言って笑ったわたしをじっと見る。ちょっと非難を込めた視線で。

「無理ではない。」

ムキになるこの美しい男を眺めると、レーヌじゃ太刀打ちできないだろうなと思うのだ。

きっともう手遅れだ。色々と。


それが二人にはわからないだけ。




なんだかおかしくなる。

ふたりとも自覚なしかと。



わたしの愛しの妹は嫌悪感をもったり、上辺だけの好意では絶対に距離を詰めさせない。

あれだけ近づかせたのだ。

レーヌは根本的に根幹でこの男を気に入っている。

ああ、カイン。やはり取られてしまうよ私たちの愛しい小鳥は、囚われている。

このエルンハルトという美しくも気高い獣に。




兄として。

道筋だけを立ててあげよう。




さて、この獣の目を覚まさせてあげよう。

そして教えてあげるのだ。それがわたしの役目。なのだろう、父上。





「エルンハルト・ディ・ドゥーゼット殿。・・・・ふふっ。エルン。一つ教えてあげましょうとも。」

「なんだ?」

素直にわたしに体ごとまっすぐ正面を向く。

素直だなと思う。こんなに素直で真っ直ぐなのにこの大国を担えるのかと心配になるがあのエドガルド殿がいるのだから大丈夫なのだろう。

そしてこれから長い付き合いになるだろう、この美貌の国王陛下。

さて、きちんと断言してあげよう。





「それはもう手遅れですよ、我が妹にあなたは恋をしています。」

「・・・・ぅあ?」





その言葉に、再び体全体を真っ赤に染めたその美貌の青年が膝をついた。





「・・・・だとおもった。」

「ね、そうでしょうともわかっていたでしょう?」




そう言って笑うわたしを。






心底憎らしそうににらみ。






そしてその後に晴れ晴れと笑った。





「ああ、わたしは姫に恋をしている。」








さあ、レーヌ。あとは君だよ。我が愛しの妹よ。

目の前の獣は心を決めたようだ。

わたしは君の健闘を祈る。



そう思いながら、立つようにと手を差し伸べる。

このわたしから愛しの妹を奪う存在を受け入れるために。



さて、カインも納得するだろうか。

エドガルド殿、腕の見せ所ですよ。とわたしはなんとなく楽しくなって。





笑ってしまった。

そんなわたしを見て、エルンも笑う。




ああ、この国とは切っても切れない状態になってしまったなぁ。と。

ちょっとだけ苦笑いも浮かんできたのだ。

これも国を背負う皇太子としての責務だと刻み込む。





さあ、エルンをもう少しからかって遊んでやろうか。

少しくらいの意地悪は許してもらおう。

だってわたしの最愛を奪うのだから。






結果目を覚ましてあげたのはやっぱりお兄ちゃんだという話。

自覚した国王陛下の溺愛はなかなかなものだとまだお兄ちゃんはしりません(笑)

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