兄たちと護衛騎士と幼馴染のすり合わせ。
お兄ちゃんたちは妹溺愛です。
「これはひょっとしたらひょっとする。」
エドが真顔で俺に言う。
俺も思う。
この状態だともうわかっていないのはエルンだけだ。あとあの姫君だけ。
「あのエルンが文句も言わずに朝からものを食べるだなんて。」
それだけ奇跡的なことだとあの姫はわかってはいないだろう。
どれだけ周りのものが脅し試しなだめすかし泣き落とししても朝に食べられないと一言口にしたときには
まったくもって飲み物さえ口にしなかったあの男が。
姫が頼んだその一言で温かなカモミールティーを口にし。
そして、あろうことかスコーンを口にしたのだ。
その時の俺とエド、そしてアーノルドの驚きは筆舌に尽くしがたい。
「それにしても見事だったな・・・。」
そういうエドはニヤニヤと笑う。
「何がだ?」
「あのカモミールティーのバラだよ。我が領ではバラが特産で香りの分野ではずば抜けていると思っていたのだがあのような美しい飲み物があるのかとな。」
「ああ、たしかに。」
「もっと簡易的に、バラの香りをつけたものは無理だろうか。りんごではなく違うものでいっそバラでは・・・。」
「おい、待て。とりあえず待て。そういったことは自分の領地の管理官とか部下とともに考えろ。」
「ああ・・・まあそうだな。」
自分はエルンの右腕のくせに、自分の子供のために道を均そうとしているところはいいことだが。
「エリーゼルにも見せてあげたいな、彼女は愛らしく美しいものが好きだから。」
そういってとろけるように笑うエドを眺めながらやれやれと思う。
エドはどちらかというと現実主義で簡略化、効率化を愛する男だ。
だがしかしこと愛妻のことになると違う。
彼は自分が惚れて惚れて、惚れ尽くした愛妻と子どもたちのためだったらきっと国の一つや2つ。
組み立てもするし潰すことさえ恐れない男だ。
その男が特別に思うのは妻子とそして主であるエルンハルトだけだ。
俺のことはそのおまけくらいに思っているに違いない。
俺はエルンの近くにいることを決めて入るが時々思う。
ルーがいてくれたらと。そんな気持ちがきっとエドに伝わるのだろう。
だからエドは俺を引っ掻き回すのだろう。
そろそろルーゼハルト様ではなくエルンだけを見ろと。
わかっている。エルンは俺にとっても大事な主であり、大事な弟にも近い。
だからこそこの変化を喜んでいるのだけれどエドにはどうやらそれだけでは足りないらしい。
エルンハルトが主でなければエドはこの場にいなかっただろう。
さっさと自分の領地に引っ込み妻子と領民の他のために働こうなんて思わないだろう。
エドはエルンハルトの幼馴染だ。
だからエルンハルトの寂しさもわかっている。
俺がルーの側にいたように、エルンの側にはエドが。
そして俺はその二人を守っている気持ちでいるんだが、どうも俺の場合はエドには振り回される気分だ。
「さて、今日中に片付けなくちゃいけないことがあるんだよね。そのためにはレオルドにも一緒に来てもらわなきゃなんないんだけど・・・。」
「ああ、だからどこに行くんだ?」
「ちょっと王子様たちのところだよ。」
「王子様たち?」
・・・・どういうことでそうなった?
目の前には穏やかに微笑む銀髪緑眼の美丈夫が二人。
そしてまた毛色の違う美丈夫が更に一人。
何を隠そう・・・隠しようもないのだけれど。
目の前にいるのはエルロッドウェイ皇国の皇太子であるフレディ・ディ・オーウェンと。
その弟であり宰相補佐でもあるエドと同じ立場であるカイン・ディ・オーウェン。
そしてサラ嬢の兄君であるというフレディ皇太子の乳兄弟でありナディアレーヌ姫にとっても兄に近い
立場のジャグリー・ロウ殿。
どういった状況でどうしてこうなった・・・
先程とは違い、この部屋では少し違う香りがする。
目の前に出されたカップには鮮やかな緑色の澄んだお茶。
不思議に思っていると木の葉っぱの新芽の柔らかいところを手摘みし、収穫した後にそれを手もみし、
干したものだという。
口をつけると鮮やかな香りとほのかな苦味、そして喉を通ると清涼感がある。
ハッとした俺の顔を見てカイン様が緑茶というのですよ。紅茶と違って発酵させていないのでフレッシュで美味しいでしょう?と笑う。
そのとなりでフレディ様がこれは抗菌作用があるのですよ。喉の痛みにも聞くのと、果物と同じくらいに栄養があります。
と笑って教えてくれた。
そのお茶を入れてくれたのは侍女ではなくロウ殿であり、低温度でじっくり入れたお茶は香りもたかいのだとおしえてくれた。
姫といい皇子達といい、飲み物にまでこだわりがあるとは。
と感心しているとエドに軽く足をこづかれた。
気づかれない程度にため息を漏らしそうになったがぐっと飲み込む。
そしてもう一度じっくりと目の前の三人を眺める。
大体わたしは近衛騎士団長なだけなのだが・・・・。
だいたい近衛がエルンの側を離れていいのかという話だが、その間はエルンの側の警護は副団長である
サーラスが務めている。
そしてエドに連れ出され、何も知らないまま連れてこられたわけだが・・・。
なんというかその、ナディアレーヌ姫もお美しい。確かに。
だがこの皇子たちの綺羅びやかさと言ったら相乗効果的に恐ろしいものがある。
もはや目が潰れそうだ・・・。
エルンでなれている俺でさえこのダメージを受けるのだから、それ以外のものだと骨抜きにされてしまうに違いない。
医療国だとはわかっているが美しいということを加味してもすごい国だな・・・。
「さて、なんのお話でしょうか?」
切り口はあちらからだ。こちらが迷っている間にさっさと切り込んでこられてしまった。
そう思っているとエドとカイン様が向かい合ってじっくりと話し込む模様。
もちろん俺は黙っている。
そしてフレディ様もロウ殿も。
どうやら各国口を開き始めて交渉をするのは宰相補佐の役目であるらしい。
「フレディ様とカイン様は明日エルロッドウェイに出立されますよね。ナディアレーヌ姫とはこのあとお会いになりますか?」
「ええ。私たちの愛しい妹に会わずに帰るわけには参りませんしね。今日は兄妹水入らずで過ごす予定ですよ。」
そう言ってカイン様はフレディ様を見てふふっと笑う。
それを見てエドは、にこやかにだがキッパリと言った。
「そうでしょうね。長のお別れになるでしょうし。今後ナディアレーヌ様はエルロッドウェイにお帰りにはなりますまい。」
その言葉に目の前の三人は何も言わずにこやかなままだ。
それが一層不気味なほどで、俺は相対しているのが一国を背負うだろう若者たちであるとはっきりと知る。
そして俺の隣の男も、我がドゥーゼットを背負って立つ男の隣に立つ男だ。彼の微笑みも壮絶に美しいことだろうと見ていないがわかる。
やれやれ・・・血気盛んなことだ。
笑顔が硬質なカイン様は少しだけ前かがみになり美しいその指をゆっくりと顎の下で組んだ。
「はて。ドゥーゼットにレーヌを差し上げる気はまだありませんが?レーヌの仕事はエルンハルト陛下の
お身体を治すことでしょう。治った暁にはレーヌはわがエルロッドウェイに帰ってくる。
そう、私たちのもとへ。」
そういって声を上げて軽やかに笑う。
それを見て隣の男も軽やかに笑いながら言う。
「左様です。ナディアレーヌ様の治療は未だ始まったばかり。エルンの体調もまだ何も変化がございません。治る治らないの問題ではない。それにまだどのような変化があるかはまだわかりますまい。」
「全くそのとおりです。」
「ですがナディアレーヌ姫は得難い。」
「・・・何?」
その言葉を聞いた途端にカイン様の指がピクッと動き、フレディ様はそれを見てやれやれと言ったふうに
苦笑いをこぼす。
間を開けず詰めるように低い穏やかな声が響く。
「・・・・エドガルド・フォン・アズムディル殿。全く貴公もお人が悪い。」
そういってフレディ様はひた。とエドを見据えた。エルンとエドと同じ年の若者。
わたしよりもずっと年下のこの若者の凄み・・・。
「わたしは父ほど温厚ではないよ。」
その一言でエドは悟ったのではないだろうか。
俺にはわかった一瞬の殺気。それは騎士たる俺が感じるほどのかすかなものではあったが覆せないほどの何かを目の前の美丈夫たちは抱えていると。
「あなた方はエルンハルト陛下の瞳のことをご存知か?そして我が愛しき妹の瞳の色をご存知か?」
フレディ様は歌うように問いかけてきた。
答えを間違えば。
きっとナディアレーヌ姫はこの国にはいてくださらない。この兄たちが連れ去ってしまうだろう。
そう思った。
「双眼銀眼でいらっしゃるか?」
俺は隠さず問う。そして決して敵ではないのだと請う。
それを受けてフレディ様は穏やかに答えた。
「エルンハルト陛下とともに我が国にいらしたことがあるレオルド殿であれば我が妹をしってらっしゃるだろう?
あのとき発作を起こした幼きエルンハルト陛下の咳を止めたのは我が愛しき妹だ。
そしてそれを知ったときの家族のその時の気持ちが貴公にわかるか?」
何を言い出すのだろう。これは俺たちが聞いていい話か?
戸惑う俺の表情を見てフレディ様は苦笑いをこぼす。
「わが妹は・・・愛しきナディアレーヌは生まれたときからもう道は決まっていたのだよ。
比翼の鳥のように現れる銀目のものに仕えるようにと育てられることが生まれるときから決まっていた。
エルロッドウェイ皇国の姫にだけ現れるその銀眼は我が兄弟にとって憎むべきものだ。
我が愛しの妹を否応なしに連れ去る。
そちらにはそちらの都合があるだろう。エルンハルト様のお顔を見れば体調不良であることは私たちは
見破れる、そしてどうやらあまり色んなことに未練もないようにお見受けする。」
確かに。
エルンは王でいることにも執着がない。そして多分自分にも。
「だが妹はそういったことには関係ないだろう?我が愛しの妹にはやりたいことも夢もある。
だがしかしそれは許されない。何故ならば皇女だからだ。何故ならば銀の眼を持つものだからだ。
何故ならば。・・・・あなた方の王を治さねばならないからだ。それがエルロッドウェイの銀眼が現れた皇女の生ける道だからだ。」
何も言えない。我が王の命を掬ってくれる皇女は。
生まれながらにして他の道を選ぶことが出来ない皇女だったのだな。と思い知る。
愛しいからだけではない。それだけならば彼女が巣立つことを許したであろう兄弟。
だが飛び立つ翼はおられたも同然だ。片方だけの翼では飛べない。
比翼である翼は我が王なのだ。
自分で選べないからこそ、あふれるほどの愛を注いだ。愛おしいから辛かったはずだ。
そして私たちの国へと、彼女を私たちが攫った。
ぐっと喉が鳴る。
「わが王は・・・・あのとき口に入れてもらったあの薬で息ができた。だがそれが罪か?我が王だって
それを望んだわけではないのだ。銀眼で生まれたものの定めだ。
だが許してくれとしか言えないこの国の人間を・・・あなた方は恨むのだろうな。」
そういった俺の言葉に・・・。
フレディ様はキョトンとした顔をする。
「いや。この国が悪いわけではない。もちろんエルンハルト陛下も憎くはない。わたしが憎いのは・・・神託だよ。」
は?
どういうことだ?
ニッコリと笑ったフレディ様を見て、俺は力を抜く。
ああ、そういうことか。この人は俺とエドを預けるに足るか試していたのか。
俺が姫を見定めようとしたように、この方々も俺たちを見定めようとしていた。
そういうことだな。
それまで黙っていたエドが口を開く。
「神託は国々によって違うのでしょうか?」
それについては聞きたいとも思っていた。そして俺は伝えなければならない。
「フレディ様。カイン様。わたしは陛下が・・・姫をお呼びする前に信託を受けたときお側におりました。」
「そうですか。」
そう言ってにこやかに笑うフレディ様を見てどのような神託だったかをざっと話す。
ルーゼが出てきたこと、そして神託の女神、そして姫の方は神託の女神の姉の子が、そして。
信じられないだろうけどエルンの耳のイヤーカフにルーゼハルトが宿っていること。
そしてそのルーのほうは神託の女神の父の子。
ややこしいが、あの日あったことをゆっくりと話して聞かせた。
そしてその詳しい話は初耳だったエドも頭を抱える。
「あの部屋に入った瞬間の加護はその意味だったのか?」
「ああ。」
端的な俺の返事にエドが更に頭を抱える。
「あああああああ・・・・宰相になるのにそんな重要なことを・・・。ざっとしか聞かされてないものの身にもなってほしい。」
「すまん。」
そういってエドの背中に手をおいた。
それを見ながらカイン様も苦笑いだ。
同じ立場である以上エドの悶具合が痛いほどによく分かるらしい。
「羽根がふりましたか?」
その静かな声に俺とエドはしばし固まる。
ああ、この返答もナディアレーヌ姫を奪われないためのもう一つの布石なんだろうと・・・
だがしかし正直に答えた。
姫を預けてくれようとしているこの皇子たちにとって。裏切りは一つもないようにしたい。
なにも間違えることはないようにしたいと・・・
何故か俺は思って答えた。
「いえ。羽根ではなく・・・・花が。」
「花・・・。」
目の前の三人がハッとしたように固まる。
どちらかはわからない。正解だったのか不正解だったのか・・・エルン・・・と心のなかで呼んだとき
かすれた声でフレディ様が問いかけた。
「花・・・花が降りましたか。それは・・・。」
「テスカの花です。」
「・・・そう・・・そうですか・・・。」
そういったあとに。
フレディ様とカイン様はこちらが目を瞠るほどに鮮やかに笑った。
ロウ殿はやれやれと言ったように苦笑いだ。
「我が愛おしく聡明な妹は・・・あなた方の王を救うでしょう。そして確かになかなかに会うことは
できなくなるのですね。レーヌは・・・わたしの愛しの妹は、本来あまり体が強くないのです。
温かなこの緑茶が好きなのですよ。これだけは切らさないようにしていただきたいのだけれど。
ああ、それに甘いものが好きなのです。あまり食が太くないので小振りなものを好むのです・・・」
カイン様がそういって寂しそうに笑う。
寂しいと。辛いのだと。離したくはないのだと。
自分の妹はどれだけ愛らしく、そしてどれだけ体が心配なのかをとうとうと話す。
痛々しいほどに辛いと。
体だけじゃなく全てで訴えかける下の弟を見てフレディ様は軽く頭をなでた。
されるがままに当たり前に頭を撫でられるままに小声で続ける。
「レーヌは少し無理をするとすぐに眠る量が増えるんだ。だから・・・だから・・・。」
「ロウもいる。サラもいる。カイン・・・心配しなくても大丈夫だよ。そしてエルンハルト陛下もいる。
この眼の前の二人だってレーヌのことを大事にしてくれる。大丈夫だよ。」
そういってもう一度自分よりも体の大きな弟の美しい銀色の髪を撫でおろした。
ゆっくりと愛おしそうに、そして、自分も同じだと。同じように姫が大事だと伝えるように。
はっと気づく。
そうだ、最初の言葉のとき・・・まだ。とカイン様はおっしゃった。
そしてフレディ様は動かなかった。
ああ・・・この聡明な次の皇国の皇はわかっていたのだ。
私たちが奪うことを。そしてそれを絶対に避けられないことを。そして。
カイン様がそれをまだ受け入れていなかったことを。
自分はそれを飲み込んでもエルロッドウェイの皇としての責務をもう担っていこうとしているのだ。
わたしよりも年若い若者が・・・。
国を背負う責務と重み。側にいるものでは代われない重み。
それをこの若者は背負っていくのだ。
そして我が王も背負っているのだ。
どちらもそばにいるものは自国の王を救いたい。
だからこそ必死なのだ。
カイン様が俺に視線を向けたときに、少し恥ずかしそうに笑った。
おお・・・美青年の微笑み・・・。
直撃を受けて少しなんというかアーノルドに近いものを感じた。
そして神託云々のダメージから立ち直ったであろうエドがカイン様に向かってニッコリと笑う。
ここからはきっと政治的な話だろうか?と思いきや・・・。
「さて、カイン様。エルローズをどうお思いでらっしゃいますか?」
「は?」
カイン様が先手を打たれたように呆然としている。
そりゃそうだろう、今の今まで妹のことで頭がいっぱいだった若者に何たるカウンターを咬ますのかと
エドの方をびっくりして見てしまった。
「エルローズ・グリルフォントは・・・そう、グリルフォント侯爵家は我がアズムディルの家と親戚続き
なのですよ。うちの母とエルローズの父がいとこ同志でして。
そしてこのままだとわたしの末の弟のアルフォンス、三男なのですがエルローズの婿としてグリルフォントに入る可能性が非常に高いのです。」
「・・・確かにエルローズ嬢は一人娘だとお伺いしております。そしてご家族の仲も大変に良好であられました。」
「そうです。ですが、実はアズムディル家は基本好きな人に一途なのです。そしてこの度なんの音沙汰もなかった末の弟に好きな女性が現れたと・・・わたしに相談してきたのですよ。まあ、アルフォンスは見目も良く、成績もよく、そして三男なため家を継がないだろうと騎士でも良いとも思っておりましたが・・・。」
そこまで聞いたカイン様はハッとしたように顔を上げてエドを見る。
「婿に入らずに好きな方と添い遂げたいと言う場合は・・・グリルフォントの家にそのまま養子として
入ってもよいのではないかとわたしは思っているのですよ。縁続きでもありますしね。」
そういってエドがニヤリと笑う。
その顔を見て今度はカイン様も意を得たとばかりにニヤリと笑う。
なんだろうこの二人。本当はとても気が合うのではないだろうか。
ナディアレーヌがいたらうなずくだろう。カインお兄様は腹黒なのですよ、と。
そんな予感を抱えながらふっとフレディ様と目が合うと、苦笑いが帰ってきた。
ロウ殿はやれやれと言った風情。
この二人に任せておけば、カイン様の恋は成就し、アルフォンスの恋も成就しそうな気はする。
「エドガルド殿とはきっちりと話をしたいと思うのですが兄上、よろしいですか?」
「ああ、構わないよ。エドガルド殿、カインと詰めたい話がありますか?わたしはカインが決めたことならそれで構わないのだが。」
「では、フレディ様、場を移してカイン様とお話をさせていただきとうございますれば。ここを辞去させていただきます。」
そういって紳士の礼をとり、鮮やかに身を翻す。
それに続いてカイン様がでは。とこちらも美しい礼をとってその後に続いた。
「カインは他国の重籍のご令嬢であるために攻めあぐねていたが、世継ぎ問題が解決するならエルローズ嬢を手に入れることができるのだろうかね。」
「さあ、若君はこれと決めたらどうやっても手に入れるお方ですからねぇ。大丈夫でしょう。それに。
今回はエドガルド様がついてらっしゃるから。まあ、ナディアレーヌ様にどれだけ執心していたかエドガルド様も思い知ったでしょうし。なら、何があってもエルローズ様のお気持ちさえカイン様が動かせれば・・・・ねぇ?」
そういってニヤリと笑う。
そのとおりだとわたしも軽くうなずいた。
十中八九、エルローズ嬢の気持ちさえ傾いたならばエルロッドウェイに嫁ぐことになるだろう。
なんせエドが決めたことなのだ。
そうか、これも言いに来たわけだなエドは。
やれやれと言ったふうに苦笑いをする俺に、フレディ様は言った。
「カインを許してくれないだろうか。そしてわたしも。やはりわたしだってレーヌと離れるのは
辛いのだ。わたしだってカインだって皇族だから表情を出さない訓練くらい受けている。
それでも思うがままに顔にも態度にも出させてもらったのは一重に我が愛しの妹を預けるためだ。」
その言葉を聞いて。
こちらも中途半端な言葉を言うわけにはならないと騎士の礼を取る。
「我が生命をとしても、ナディアレーヌ姫をおまもりします。そして我が息子アーノルドが常に影に日向にナディアレーヌ姫をお守りします。」
「優秀だと聞いておりますよ、サラから。サラはわたしの妹です。」
そう言ってロウ殿が笑う。
ああ、よく似た面差しだと思っていたらやはりそうかと腑に落ちた。
「アンヌからよく聞いております。サラ嬢は非常にできる方だと。我が妻が認めたご令嬢ですから。」
「ああ、アンヌ様はレオルド様の奥様でしたね。」
その言葉を聞いてくすっとフレディ様が笑う。
「ああ、ロウはね、我が国に愛する妻を残してきているのだよ、それが不満なんだ。
エドガルド殿にいってロウの家族も受け入れてもらえないかを聞くところだったのにカインに連れ立って
いってしまったからねぇ・・・。」
そうのんびりいうフレディ様は先程の雰囲気とはまた違う柔らかな雰囲気だ。
「ロウの奥さんはね、看護師なんだよ。だからレーヌのそばに置きたいのだ。夫婦と妹まですべて
この国に受け入れてくれと言い出し難いと、ロウの奥さんが言ってね。だから我が国に残ったんだ。
でも彼女はとても優れた看護師で、レーヌの役に立つ。だからこの国に私たちが帰ったあとに入れ替わりに入るように手続きを取るよ。そうすればロウもとても優れた力を更に発揮するよ。」
そういってくすっと笑った。
それが年相応の可愛らしい微笑みだったから・・・俺も思わず笑ってしまった。
ロウ殿だけが顔を真赤にしてそんなことない!だのと叫んでいたけれど。
兄弟二人きりになった部屋で、フレディとカインはレーヌの大好きな緑茶を飲みながら愛しい妹が
エルンハルト陛下の世話を焼いてからこの部屋に来るのを待っていた。
「エルローズ嬢のことはどうなりそうだ?」
「エドが力を尽くしてくれるとのことですよ。わたしももちろん全力を尽くして落とします。」
「・・・まあ、まだ若いご令嬢なのだから手加減してやりなさい。」
「何を言われますか!フレディ兄様。なりふりかまっていてはエルローズ嬢はてにはいりません!」
「まあそうだが・・・。」
これがあの周りを翻弄していた弟の姿だろうかとほんのちょっとびっくりしたのは内緒だ。
「それにしてもエドとは・・・そんなに気を許したのか?」
「ああ、彼は本当にわかりやすい現実主義者で効率主義者です。とても・・・気が合います。」
「だろうな。そしてエルンハルト陛下の側近でもある。」
「フレディ兄様、何が言いたいんですか。」
憮然とした顔をする弟を可愛く思う。
最後まで嫌だといい倒したのはこの弟だ。わたしが言えないからその分いい倒した。
父と母に食って掛かったのはこの弟だ。
レーヌの前では物分りの良い優しい兄のくせに。わたしの前でだけ本音を漏らす。そこがレーヌと同じくらいわたしが弟を可愛く思う所以だ。
その弟が家族以外に執心する女性を見つけた。わたしが手を尽くさないわけには行かない。
あとに示されたエルンハルト陛下との二人きりの謁見はある意味正念場だ。
それに。
「花がふったのだ。羽根ではなく、花だったのだから認めないわけには行かない。」
「それは・・・わかっています。エルンハルト陛下を疑うわけではないです。レーヌは幸せになるでしょう。でも・・・。」
「なんだ?」
やや不機嫌そうに。そして仕方なさそうにつぶやく。
「ただ、ちょっとだけ・・・悔しいだけです。レーヌはわたしの妹なのに。」
ふふっと吹き出してしまった。
ああ、かわいいなわたしの弟妹は。
そう思ってしまった午後のひととき。
ー比翼のエルンハルトがナディアレーヌを唯一無二の者として愛すると確信したならテスカの花を降らせるわ、羽根ではなくねー
そう、神託の女神は言った。
そして、花が降ったとレオルド殿は言った。エドガルド殿も認めた。
なら、エルンハルト陛下はナディアレーヌを望むだろう。
そして、望まれればレーヌは断れない。
願わくば。レーヌもエルンハルト陛下を愛しますように。
愛し愛され側にいられますように。
「わたしも少しだけ、悔しいな。」
そういったら、カインも笑った。
ああ、悔しくて仕方ない。わたしの大事な妹よ。
幸せになってほしい。
その眼鏡にかなうのかは・・・・このあとの謁見で確かになる。
お兄ちゃんたちはどうしても陛下を試したいようです。




