まずは召し上がっていただきたいのですが。
エルンハルトは好きな人や感情が動いた人には甘い言葉を無意識にこれでもかとはいてしまう
そんなスキルを持っております。
どうしたものでしょうか・・・。
サラが苦笑いをしている。
わたくしの目の前にいるのは今日からわたくしの護衛としてついてくださるという
アーノルド・グレイス。
レオルド様の息子でそして・・・。
「全くどういうつもりなのですか?突然ナディアレーヌ様の御手に触れようとするなどと!」
厳しい声が発せられたのでわたくしは思わずかばってしまう。
「アンヌ、少し待っていただける?なにか伝えたいことがあったのかもしれないし良からぬことを考えているわけじゃないと思うの。それにアーノルドは陛下のお側にいたのでしょう?」
「そうですが・・・甘やかしてはいけません。護衛騎士ともあろうものが・・・」
じっとアンヌに睨まれてしょぼんとした顔でうつむいている。まさにお母様に叱られている小さな子のようですわね・・・というか。
そう、実際にアンヌの息子でもある。
「も、申し訳ありません・・・。」
叱られた子犬の風情を漂わせすぎですわアーノルド!!
どうしましょう・・・なんてかわいらしい素直な子なのでしょうか・・・。
わたくしよりも2つ年下ということですが、背はわたくしよりも高いのに、そしてさすがはアンヌとレオルド様の息子というかなんというか・・・。
「それにしてもアーノルド様は無駄に麗しいお顔ですよねぇ。」
思っていたことが聞こえてきてびっくりしてしまった。え?わたくし話してないのに話した?!
そんな顔をしていたのがわかったのかサラが呆れたようにこちらを見て答えます。
「レーヌ様はそんな事お気になされなくても大丈夫です。わたくしが話しました。」
ああ・・・・バレている・・。
それにしても。
「陛下に言われてこちらに来たはずですよ。それなのに・・・ナディアレーヌ様お許しくださいませ。愚息はエルンハルト様に心酔しているのです。」
「まあ、陛下に?」
そう言って首を傾げると、まさにアーノルドは見えないしっぽをそうですそのとおりです!!とブンブンと振っているかのごとく。満面の笑みになっております。
あああ・・・癒やされる・・・アーノルドって末っ子のわたくしからしたら弟にしたい感じですわね。このまま仲良くなりたいのだけれど・・・。
「だって母様・・・いや、アンヌ様・・・。」
ギロリと睨まれてシュンとしているところなど、もはやずぶ濡れの子犬状態・・・。
それでも意を決したようにわたくしに向かって言葉を発する了解をとってきたのでわたくしはしっかりと頷いておきました。
「・・・ナディアレーヌ姫様に申し上げます。」
真顔になったアーノルドがわたくしに向かって真っ直ぐに視線を向けてきたのでわたくしもそれをそむけることなく迎え撃つことにしましたの。
迎え撃つってなんなのかという気もしますけれども。
「なんですの?」
「わたしはずっとエルンハルト陛下のお側にて仕えることを目標として騎士になりました。そしてやっと近衛騎士としてお側に上がることができたのです。
憧れのエルンハルト陛下にナディアレーヌ姫様をお守りするようにと・・・わたしは・・・わたしは・・・。」
ああ、ひょっとして不満ということでしょうか?
「ああ、ロウもいますしわたくしの護衛が嫌ならば陛下にいって陛下のお側に・・・。」
「「そういうわけではございません!!」」
なんとアンヌからも二重に声が。
びっくりしているとアーノルドがひざまずいています。いやちょっとまって。可愛らしい美形の護衛騎士がわたくしに跪くとかなんかだめな気がするんですけれども?
「ナディアレーヌ様をお護りすることに誇りこそあれ嫌なはずがございません。」
そういっているアーノルドが真っ赤になっている。はて?
「ただ。レオンハルト様がナディアレーヌ様をお護りするようにと直々に仰せになったということはナディアレーヌ様はレオンハルト様の大事なお方ということですよね?恐れ多くも。」
ん?はて・・・。
わたくしは確かに陛下のご病気を治すことが使命ですし、大事といえば大事でしょう。だって異国のとは言え皇室の姫ですもの。いちおう皇女ですもの。腐っても皇女ですからね。
大事は大事でしょう。国交にもヒビが入りかねません。何故ならばお兄様方が過保護なので。
わたくしになにかあったら多分お兄様たちが大変な状態にはなります。
「大事・・・かはわかりませんが、国を代表しては来ておりますわね。」
「いや、そういう意味ではなく、陛下がお護りしろと告げるくらいの方でらっしゃいますよね?」
「まあ・・国賓・・・?」
なんとも噛み合わないような会話な気もしますが私にはこれと言って他に言えることがありません。
腑に落ちない顔をしながらも、アーノルドは私のドレスの裾を取り、騎士の挨拶をしてくれました。
「わたしの剣はエルンハルト様のものですが、ナディアレーヌ姫をエルンハルト様の命と同じくしてお護りします。」
と、なんとも素敵な言葉をいってくれました。
それを聞いて喜んでいるわたくしを見て。
ロウとサラはため息を付き、アンヌは苦笑いをしています。
どういうことなのでしょうか・・・。
アーノルドは今後ロウとともにわたくしの護衛騎士として一緒に行動をともにすることになると。
ということは、これから一日四回はエルンハルト陛下のお側に上がるということなんだけど。
「アーノルド、これから陛下に朝のお薬を届けにいくのです。一緒に行きましょう。」
「はい!」
いいお返事ですわねぇ。
サラはわたくしの代わりに荷物を持つので一緒に行きますが、ロウはこちらに残るようで。
アンヌと何らかの話が必要だと言ってわたくしをここから見送る模様です。
とりあえずはお知らせしなければね。
さすがドゥーゼットですわね。廊下までフッカフカの絨毯が敷き詰められておりますしその上美しい模様の織りですわねぇ・・・。
窓の向こうはちょっと今は見えないんですが、きっと素敵な庭園があるはず。
そしてわたくしにも庭園をあたえてくださるとおっしゃっていたわ!
薬草・・・薬草を・・・。
あ、わすれておりましたわ。
アーノルドに伝えなければならないんでしたわ。
すぐ後ろを歩くアーノルドの方を向くために少し立ち止まると、きちんとした距離を取りわたくしが振り返ると同時に跪くアーノルドに苦笑いをしてサラの方を向くと、サラがアーノルドに声をかけてくれました。
わたくしにそんな態度を取ることはないのですからね。
サラがニッコリと笑いながら、恐れ多い・・・とおののいているアーノルドに対しコソッと何かを言うと。
アーノルドが真顔になり立ち上がってわたくしの方を向きました。
サラ・・・あなた何を言ったのかしら・・・アーノルドが怯えているようにしか見えないわ・・・。
ま、まあよろしいことにいたしましょう。
気を取り直し、アーノルドを見上げてわたくしはゆっくりと言いました。
「アーノルド、実はわたくしは陛下のお体の治療を任されておりますの。エルロッドウェイから来たわたくしが陛下をお救いしますわ。
あなたはすぐに陛下のもとに帰れるようにしてあげたいのだけれど陛下の体調は今日から初めてきちんと診ますの。お兄様たちは明日帰ってしまうから今日の見極めはわたくしがしなければなりません。
朝、昼、夜、そして寝る前にお薬を届けますの。
寝る前のお薬は流石にわたくしがお届けするわけには参りませんので、あなたにお願いすることが増えるとおもいますの。届けてくださる?」
それを聞いたアーノルドはその美しい瞳にみるみる涙を浮かべるものだからわたくし焦ってしまいました。
「あ、あのー・・・。アーノルド?」
「もうしわけありません、姫様。エルンハルト様はお薬が効かないのです。」
「あなたも知ってらっしゃるの?」
「わたしは生まれたときから恐れ多くもエルンハルト様のお近くに寄せてもらえましたし母と父はエルンハルト様に非常に親しいところにおります。
わたし達家族は知っておりますが他の方々は限られた方しか知らないはずです。
でも、父はナディアレーヌ様ならお救いくださると。一瞬でも疑ったわたしをお許しください。
そしてエルンハルト様をお願いします。お薬はわたしが寝る前のものは確実に手元にお届けします。
飲むまできちんと見張って、何をしてでも飲ませますから!!」
あ、アーノルド・・・熱すぎるのではない?
とは思いましたがこれもエルンハルト陛下を慕うがためでしょう。わたくしも気合を入れて今日からお世話をしそしてゆくゆくは薬草とできれば修道院に入り、輿入れなどせずに平和に暮らしたい・・・。
そのためにはエルンハルト陛下をきちんと治して差し上げなければ!!
銀目のわたくしができることは、きちんと治し、そして・・・
陛下がわたくしを望まれなければ帰れる・・・のよね?
でも、陛下がまた悪くなったときのことのためにわたくしをここにおいておきたいとおっしゃったらわたくしは断るすべをもたないのでしたわ・・・。
なのできちんと。今後一切体調不良に悩まされないようにきちんと治してしまえば!!
わたくしなぞ必要なくなりますもの!!!
目指せ全快!!目指せ健康体!!!
あんなにお美しい陛下ですもの。
わたくしなぞのようなものなど見慣れているでしょうし。
あのヘザー様とおっしゃったかしら?あのお美しいけど少し怖い方。
あの方にも少し注意をいただきましたわよねわたくし昨日の夜会で。
それにしてもどうしてあの方はあんなにも怒っていらっしゃったのかしら?
陛下の体調はよくご存じなかったとしても踊らないという選択をした、お疲れになったということは臣下ならば気遣って然るべきではないのかしら・・・?
ふと考え込んでいるナディアレーヌを見ながら昨日情報収集していたサラはこっそりと嘆息する。
ナディアレーヌ様は本当に純真無垢な方だ。
エルンハルトがいつも体調不良を隠し笑顔であそこにいただなんてナディアレーヌはあまり思い至らないのだろう。
王族であるならば不調を悟られてはいけないのはわかってはいたけれどあまりにも自然なことで特別なことだとも思っていなかった。
それにいつものエルンハルトと全く違う行動をしていたとも思い至らない。
昨日の情報収集の賜物とも言えるが、夜会に出ていた侍女たちも合流してからの怒涛の情報にサラは頭を抱えてしまった。
なんてことをやらかしてしまったのかしら・・・。
兄のロウに更に詳細に聞いたときには今後の計画をどうしたらいいのかと頭を抱えてしまった。
ナディアレーヌ様はご存知ではないのだ。エルンハルト陛下と踊ったときにあまりにも心地よく、あまりにも自然に踊れたためそれが普通だと思ってしまったのだ。
サラは軽くため息を付いて、ロウと苦笑いのフレディ様を軽く睨んでしまった。
過保護なくせに、ナディアレーヌ様の幸せを見極めようとするのは正しいと思うけど、少し早い!
そう思って睨むサラに二人は軽く申し訳ないと懺悔をした。
エルンハルトは自ら抱きしめることも触れることもないことをナディアレーヌはわかっていなかった。
そりゃそうだ、サラが聞いただけでも機械的な接触を好む陛下だなとおもったのだから。
それが違ったと。
どれだけの令嬢や貴族に驚愕のインパクトを与えたのかとサラは頭を抱えたくなった。
エルンハルトがどういった意図であれ、自然に受け入れたのはひとえに自国での兄たちからの過保護な接触のためであり、それが当たり前だと思ってしまっていたことが原因だろう。
自分に触れる男性をあまり警戒しないのはナディアレーヌの悪い癖だったが、フレディとカインとロウのせいといっても過言ではなかったのでこれは仕方がない。
後で我が国の皇にもお伝えしなければ・・・そして皇妃様にも。
ニンマリと笑う皇妃様の笑顔が目に浮かんで更に遠い目をしてしまう。
そんなサラをうるうるの瞳で見つめるアーノルドだったがサラは全く気が付かない。
いつのまにかアーノルドがニコニコしているのでサラもニッコリと笑顔を返す。
しっかり仕事してね?の笑いだったが、同い年の美少女に微笑まれた全く免疫のない少年が恋に落ちるにはあまりにもテンプレ通りの微笑みだった。
そのアーノルドを放おって置いてサラは更に思案する。
全く自分の容姿に興味のないナディアレーヌ様は自分が絶世の美少女だとわかっていない。
あれほど美形の兄たちに囲まれていて溺愛されていても自分の容姿はそうではないと思っている。
なぜかと言えば、体が弱かったナディアレーヌ様は社交界にほぼ出ていないから。
そしてその自分の容姿への興味のなさが・・・
エルンハルトの興味を更に強く引いてしまい兼ねないことを注意するのをうっかりと忘れてしまったことを
後悔しているサラだったのだけど流石にここまではまだ思い至らなかった。
うっかりとそのエルンハルトに溺愛で囚われてしまい。
そしてナディアレーヌの生涯の殆どをこの地で過ごすようになるなんてことは。
まだ誰も知らないことだった。
逡巡の間。
はっとしてしまいましたわ。考え込んでいるとにっこにこのアーノルドはサラを眺めている気がしたのはきのせいでしょうか?
ですがうごきださないわけにはまいりませんわね。
うるうるとまだ瞳が潤んでいる美少年を連れ歩いているのはどうかとおもうのですが、陛下の執務室に赴くには時間が決まっている。
自分が思っているよりも少し遅めの8時。
それが陛下の行動開始の時間らしい。
わたくし的には朝から薬草園の手入れをしていたりもしましたものね。朝の五時半にはすっきりですわ。
でもあまりにも早すぎると侍女やサラたちが非常に嫌そうにしますので頑張ってこちらでは六時半までなんとかベットの中で過ごしておりますが、薬草園を手に入れた暁にはもう開き直ることにいたしますわ!
わたくしはやっぱり自分で手を入れた薬草がいちばんすきですしね。
それにしても、陛下の昨日の香り・・・陛下はバラがお好きということかしら?
ということはローズヒップはお好みかしら?
薬草茶は最初からは癖があるから飲んではいただけないかもしれないのだけれど・・・。
うーん・・・。
と考えながら歩いていると、サラに声をかけられてしまいました。
「レーヌ様。それ以上進むと陛下の執務室をこえてしまいます。」
「え?」
「執務室です。こちらです。」
そういってアーノルドが指し示す先は、他の扉よりも少し大きな扉で、たしかに護衛の騎士が立っていましたわ。
あぶないですわ・・・。
ニッコリと護衛騎士の方に微笑んで来たことを告げてもらい、中にはいるのを許してもらう許可を取る。
騎士の方が固まってしまったのがなぜか分からず不思議な気がしましたけれどもサラが言うにはそのままでいらしてくださいということだったので気にしないことにいたします。
広めのカウチにゆったりと腰掛けている陛下がいた。
朝なのに・・・朝なのにですよ・・・。
なんなんでしょうか、直視しづらい程に麗しいとかもうどういうことなのでしょうか陛下?
後ろのサラから小さな声で聞こえたことに激しく同意したいですわ!!
「朝からどうしてあんなに色気を垂れ流してらっしゃるんですかね。」
もう、目の毒・・・に近いですわ・・・これでもかという風情で気怠げに優雅にこしかけてらっしゃると。
長い足をゆったりと汲んでらっしゃるけれど、もはやご自分の足が迷惑なほど長いのではないかと心配したくなる状態です。
柔らかな白いシャツは首元はきちんと詰まっているのに、体の線を拾わない程度に柔らかなシルエットで外に出してらっしゃるのが我が国ではないことだと思い思わず見てしまいましたわ。
細身の黒いズボンはきちんとしたかっちりの形で余計上着のシャツが柔らかな手触りだろうなと思わせる生地なのですもの。
そのゆったりとしたシルエットの中で、きちんとした骨格の体が線を思わせるのがもう朝からどうなのかと思ってしまう現状ですわね・・・。
服を着替えていただきたい・・・無理でしょうけれども。
今後わたくしは毎日この陛下にお会いしなければならないと。
なんでしょうか・・・頑張ろうと思います。何がといわれてもわたくしにはよくわかりませんけれども。
レオルド様とアズムディル様が普通にしてらっしゃるということはこれがつうじょうということであるとおっしゃるのかしら?
朝なのに夜の雰囲気ですわ・・・。でも仕方がありません。
陛下に近づいて、淑女の礼を軽く取ろうとした瞬間、カウチからわたくしを見上げた陛下が。
にっこり。
もう、満面の笑みくらいの状態で微笑まれました。
・・・・と、戸惑ってしまったわたくしは女性としてどうかとは思いましたが戸惑ってしまいました。
何故こんなに笑いかけていただけるのか。
それとも誰かと間違えているのか、いや、それとも急に目が覚めたのか逆にまだ寝ているのか。
わたくしには判別が付きませんの。
レオルド様に目を向けると、真顔であり、アズムディル様はまた笑ってらっしゃると。
軽く後ろを振り返ると、アーノルドはニッコリと満面の笑みでしたわ。
ああ、わたくしったら何たる失態を。
陛下はアーノルドに向かって微笑んでらっしゃったのね!申し訳ありませんわ陛下。
わたくし女性としては少し背も高いほうなのでお座りになられた状態ではアーノルドにご挨拶ができるほどみえませんでしたのね?
申し訳なくて仕方ありませんわ。
「エルンハルト陛下、ご機嫌麗しゅうございます。よく寝られましたか?」
「ああ、姫。朝からあなたは美しいな。」
は?何をおっしゃっておりますの?
わたくしのその顔を見て、陛下はくくっとお笑いになりました。
「ああ、あなたはやはり面白い。戸惑うのだなわたしが笑いかければ。どうすればいいのだろうか?
あなたはいつでも美しいのだから美しいものを見ればわたしだって心がおどるのに。」
「まあ、陛下。そんな朝からわたくしにお言葉を賜るとはうれしゅうございますわ。」
「・・・ふふっ。流石に姫は返しも心地よいな。それにしても寂しい。何故昨日の夜のように砕けて話してくれないのか?わたしは言ったではないか、あのように話してくれと。」
「まあ陛下・・・。」
どういったスキルで、口を開くごとにわたくしをほめていただけるのでしょうか。
そうですか、やはり陛下ともなれば皇女の機嫌を取る言葉は息をするようにできるのですね。
そしてわたくしの皇女かぶりはあまりお好きではないと。
遠回しに注意してくださったということですのね。
出来得る限り陛下のお気に障らないようにしなければ!そうしなければなりませんわ。
わたくしの自由のためには。
そう言われてしまえばわたくし普通に接していくことにしましょうとも。
だいたいわたくしの皇女っぷりはなかなかに外交に絶えづらいと父や兄も心配しておりましたし。
ふっと力が抜けたことをサラが感じたのはわかりましたけれどももう仕方ありませんわね。
カウチに腰掛けている陛下の少し斜め前に立ち、軽く礼をしたあとに陛下の足元に座り込むことにしましたの。
あっけにとられた陛下は長い足を解こうとなさいましたけれどもわたくしに当たるのを心配してかそのまま身じろぎもできません。
後ろに控えるレオルド様も吃驚した顔をしてらっしゃいます。アズムディル様はまた笑ってらっしゃる。
よく笑う方でらっしゃるのですね。
陛下を見上げるようにしてじっくりとお顔の色を見ていると陛下に手を差し伸べられました。
あら、やっぱりだめでしたかしら?
「姫・・・せめて隣りに座ってもらえないだろうか?わたしに美しい人に膝まづかせるような無粋な真似をさせないでほしい。わたしのためだと思って隣に。」
ああ、陛下のお言葉にもはやなれてまいりましたわ。私にはよく似た発言をする兄が二人おりますもの。
どちらかと言えばなれておりますのがどうかとはおもいますけれども。
そう言われて手を取ると、ぐっと引き上げられてしまいました。
その瞬間体がよろけて陛下に少しだけ寄りかかってしまったのですが今日は陛下からはラベンダーの香りがします。ああ、いい香りですわねラベンダー。
それよりもですわ!
「陛下、朝ごはんはお召し上がりになりました?」
わたくしの声に普通に答えたのは信じがたい言葉でした。
「朝?わたしはあまり朝は食べないのだけれど。ハーブ水は飲むが朝はあまり食べられないのだ。」
何ということですの・・・。私唖然としてしまいました。
「陛下・・・お手も冷たくてらっしゃいますわ。わたくし陛下の顔色を診ておりますが朝お体がひえてらっしゃるということは夜きちんと寝られてないのでは?」
わたくしの言葉に気まずそうな表情を一瞬された陛下は穏やかに笑って答えました。
「姫、わたしは本当にあまり食が太くないのだよ。咳が出た日はもう何も食べられないこともある。
もともと食に興味がないからか食べやすいものを選ぶだけで好きなものもないのだ。
余り食べるのが楽しいと思ったこともない。兄上がいなくなってからはここにいるレオルドやエド、それからもう少し幼いときのアーノルドがいれば少しは食べる気にもなる。」
「エルンハルト様!」
アーノルドが心配そうに咄嗟にと言ったように声を出した。
それをわたくしは見ながら、ゆったりと陛下に伝えました。
「これから一日、朝、昼、夜、寝る前にわたくしとサラ、それからアーノルドが参りますわ。
お寂しいことはございません。お忙しいときはじゃまになることもあるかもしれません。その時はおっしゃっていただけたらすぐにお薬だけお渡しして辞しますわね。
まずは陛下・・・朝のご飯を召し上がっていただきたいんですの。わたくしと。」
「姫と?」
「はい、わたくしと。」
ご飯をきちんと食べていただかなければ体力も戻らないし免疫力も強くなりませんわ。
まずは少しでも好きなものを発見し、陛下の食を整え、それに栄養価が高いものを薬草園で育てましょう。
まずは薬よりも先に大事なのは・・・。
「わたくしが作りますわ。」
そのことばにびっくりとなさった陛下は真顔になった後。
こちらも釣られて笑顔になるほどに、嬉しそうに笑ったのです。
食って大事ですもんね。うん。




