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ドアを勢い良く開く音が、部屋に鳴り響く。あまりに強引に開けられたドアは、壊れるのではないかと心配になるほどの勢いでグラグラと揺れている。まるで、怪獣か何かが進撃してきたかのようだった。
「おい十条!たまにはこっちから出向いてやったぜ!って、あれ?」
ずかずかと部屋に押し入ってきた廿樂は、中を見渡して首を傾げる。そこにいたのは、大人しく席について食事をしているオペレーターただ一人で、彼女は何事かという表情で、突然の進入者に目を見開いていた。
「なんだ、お前一人か?」
廿樂は勝手にオペレーターの正面の席に座りながら尋ねる。遠慮も何もない言動に、オペレーターは眉をひそめていた。無論、廿樂はそんなものを微塵も気にする素振りはない。
「はい。お兄さんは今日、研究所の方に向かっています」
「ほー。研究所ねぇ。ってかお前、あいつのこと『お兄さん』って呼んでんのかよ」
廿樂がニヤニヤと笑いながら指摘すると、オペレーターはほんのりと頬を赤らめながら、プイッとそっぽを向いた。軽く咳払いしてから、彼女は尋ねる。
「それより、どうやって勝手に入ってきたんですか?まさか、また鍵を壊したとかじゃ……」
「お前、あたしが管理人だってこと忘れてないか?」
そう言いながら、廿樂は鍵の束を見せつける。ニンマリと笑いながら、彼女はそれをジャラジャラと鳴らした。
「……職権乱用です」
「ふははは!何とでも言え!……お?何だこりゃ」
廿樂はテーブルの上に一枚の紙切れが落ちているのを見つけると、それを拾い上げる。メモ用紙らしきそれを目の前まで持ち上げると、彼女はそれを声に出し始めた。
「なになに……『朝食は冷蔵庫に入っているので、電子レンジで温めて食べてください。味噌汁はコンロの上の鍋に入っています。温めなおすときは換気扇を回すこと』……って、字キレイだなこいつ」
大して興味も無さそうに、彼女は呟く。何なら、空いている方の左手の小指を耳の穴に突っ込んで、ごそごそとその中を掻き始める始末だった。
「……『昼食は、圧力鍋にカレーが入っています。それと、デザートにシュークリームを作っておきました』……って、シュークリーム!?手作りで!?」
「はい。最近よくオーブンでいろいろ焼いてくれます。甘くておいしいです」
廿樂は呆気に取られたようにポカンと口を開け、席を立つ。キッチンの方に回りこむと、彼女はシンクの上にある戸棚を開けた。中には様々なキッチン用品が丁寧に収納されており、それを見た廿樂は目を白黒させる。
「……あいつあの顔で料理得意なのかよ。何て言うか、女子以上に几帳面だし……ひょっとして、ソッチ系じゃないだろうな」
中にあった強力粉と薄力粉を手に取ると、それを見比べる。何がどう違うのかすら、廿樂には分からなかった。
「……うし、今度からあいつにツマミ作らせるか」
当人がいないところで、十条九の仕事が一つ増えた瞬間だった。
「それにしても」
廿樂は再びオペレーターの向かい側の席に腰掛ける。オペレーターが怪訝そうに眉をひそめていたが、廿樂の方にはそれを気にする様子もなかった。
「十条から聞いてたけど、お前本当にメシ食ってんだな」
言うが早いか、廿樂は、オペレーターの皿の上に残っていた卵焼きを指でつまみ上げると、自らの口に放り込む。止める間もなく強奪された食事を見て、オペレーターは目を見開く。
「あ……」
「ん、結構うまいじゃん」
舌なめずりをした後で、再び廿樂が手を伸ばす。オペレーターは素早く皿を取り上げると、それをかわした。
「……これはボクのです。あげません」
ジトッとした目で廿樂を睨みながら、彼女は不機嫌そうに口を尖らせた。頬をわずかに膨らませ、彼女は廿樂の魔の手を警戒している。
「はいはい。分かったからそんな顔すんな。お前がそんな風にしても、可愛いだけだから」
廿樂はテーブルの隅で指を擦る。先ほど卵焼きをつまんだ時に付いた油を、拭っているようだ。それを見て、オペレーターの眉がピクピクと震える。
「……用がないなら帰ってくれますか?お兄さんは夜まで帰ってこないので」
「んー、そうなのか。じゃあまあ、この際お前でもいいや。ゲームの相手しろよ」
「ボクには仕事があります。あなたとは違って」
オペレーターは数瞬の間も挟まず、ピシャリと言い放つ。突き放された態度に、廿樂は困ったように頭を掻いた。
「いやいや、こうやってお前の様子を確認するのだって私の仕事じゃん?」
「だったら、他の人の確認でもしに行ったらどうですか?」
無下にそう言うと、オペレーターは持っていた皿をテーブルに下ろし、食事を再開する。
「だって、お前と十条以外にまともに相手してくれる奴いないんだもーん」
悪びれもなく口を尖らせながら、彼女はテーブルに突っ伏す。その時ふと、彼女は何かに気付いたように、食事をするオペレーターの様子を眺める。視線に気づいたらしく、オペレーターも警戒の込められた目で彼女を見返していた。
「……あげませんよ」
「そうじゃねえよ。ただ、箸の使い方が妙に綺麗だからさ」
ダボダボの白衣の袖をまくり、オペレーターは小さな手で器用に箸を握っている。ほんの少し前まで食事をしたことがなかったのにしては、その使い方は卓越しすぎている。
「お兄さんに教えてもらいました」
「そら、そうなんだろうけどよ。それにしてもうまいっつーか……たぶんあたしより綺麗だと思うぞ」
そう言われて、オペレーターは自らの箸を持つ手を見つめる。
「教え方の問題ではないでしょうか。お兄さんは丁寧に、わざわざボクの手を握りながら教えてくれましたから」
「ほーん……手を握りながら、ねー……」
その言葉を聞いた瞬間、廿樂は怪訝そうに眉をひそめる。ほんの一瞬ではあるが、彼女は十条九がオペレーターの手を握っている場面を想像してみた。男子高校生が、同居している小学生の女の子の手を握っている。見方によっては、それとなく犯罪臭が漂っている気がしないでもない。
「あいつにそういう趣味があるってわけではないよな……?というより、そもそもシチュエーション的には薄い本が熱くなる展開なんだよなー。幼女と同棲……ロリロリか……」
廿樂はそう呟きながら、首を小さく傾げる。いくら度胸の無さそうな十条九といえど、一応彼も年頃の男子であることには変わりないのだ。
「なあオペレーター、まさかとは思うが、あいつに変なことされてはいないよな?」
そう尋ねると、よく分かっていない様子のオペレーターは首を傾げた。
「変なこと?」
「ああ、いや、うーんと……例えば、お前がシャワーを浴びているのを覗くとか、お前の下着を盗るとか、寝室に入ってくるとか……」
廿樂は顎に手を当て、考え込むような素振りを見せながら、そう口にする。言われている事の真意を汲み取れず、オペレーターは首を傾げた。
「いえ、そんなことはありませんが」
「そうか?んー、でもなあ……もし何かあってからだと遅いんだよなー……あたしの責任になりそうだし」
「何か、とは?」
「え?そりゃ、作戦司令塔のお前がその歳にして…………いや、何でもない」
咳払いをしながら、彼女は何かを誤魔化す。廿樂はその後、「帰ってきたら、ちょっくら去勢するかな」と呟いていた。




