批評家たち
「昨日の続きなんだけど」
次の日の昼休み、茜に言われて、私は封筒のことを思い出した。
「封じ手だっけ」
私は、カバンの中から封筒を取り出した。
底の方で教科書に押し潰されていた。
しっかりと糊付けされた口に小指を無理やり挿し入れて、引きちぎるように破った。
「そういうところで性格が出るわよね」
「うるさい」
封筒を覗き込むと中には、綺麗に折り畳まれたルーズリーフが入っていた。
私はそれを取り出して広げた。
確か『パフェと大福とショートケーキとバームクーヘンがあった時、どれか一つを選ぶ』という問題。
私は、便箋に書かれた茜の選択を読み上げた。
「全部」
ルーズリーフをくしゃくしゃに丸めて茜に投げつけた。
「答えになってない」
「仕方ないでしょう。どれも食べたいんだもん。どれが一番良いのかなんて、私には決められない」
「それでも、選ばないといけない。時間内に指せなければ反則負けなんだから。選ばないことは食べることを放棄することと同じよ」
「じゃあ」
「四十秒」
「……」
「五十秒」
「く」
「1、2、3……」
「パ、パ、パ、パフェで」
「ああ、それは悪手だろ」
「え?」
松井君が突然話に割り込んできた。
「オラクルの最善手は大福だよ。大福を選んだ場合の評価値は茜さが+10で、これがパフェだと−3。人間には選ぶのは難しいかもしれないけれど。それなら、せめてショートケーキを選んで欲しかったな。これなら+1でまだまだずっと難しい局面だったよ」
早口で捲し立てられて、私と茜はポカンとしたまま。
いつもは大人しい、クラスの中ではあまり目立たない、単に席が近いだけの松井君ってこんな顔だったんだ。
「それはおかしいぞ」
今度は本郷君の介入。
「それはお前のオラクルが古いんだよ。俺の最新のオラクル11だと、最善手はパフェだよ。これなら茜は+20。寧ろ、大福は+18で悪手だよ」
本郷君はバスケ部員。
背が高くて、成績も良い。クラスの人気者。
私は好みではないけれど。
「ちょっとなんなの」
茜が声を荒げた。
「+20も+10も大差無いでしょ!」
その声でクラス中の視線が集まった。
「え、なになに」
「評価値で揉めてるみたいよ」
「本郷君か松井君どっちと付き合うかって」
「今どっちが勝ってるの」
「51%で本郷が勝勢だよ」
「私なら先手を持ちたいな」
「え、松井? それは悪手じゃん」
謎の会話がヒソヒソと広がる。
悪口みたいな会話も聞こえてきた。
「やめないか君たち!」
すくっと立ちあがった向川原君がメガネを光らせた。
「評価値で他人を評価するなんて最低の行為だよ」
さすが委員長。
「どうせ君たちはオラクルが一番上に示した最善手と同じ選択をできるかどうかしか見て無いだろう。素人は黙っていたまえ」
委員長は確か、プロの教室に通っていた強い人。
今でもネットで論戦を続けているらしい。
彼の評価値が一気にマイナスに振れた。
「人を素人扱いしやがって、お前もプロじゃ無いだろ!」
松井君も負けじと応戦している。
「うるさい!」
とうとう、茜の堪忍袋の緒が切れた。
「私の選択は、私が決めるんだ!」
教室が一瞬静かになった。
その時ちょうどチャイムが鳴った。
全員が静かに着席する。
ガラリと扉を開けて入ってきた英語の邪馬先生が妙な顔をした。
私はノートを開いて、さっき茜が言ったセリフを落書きした。
私の選択は、私が決める。
「でも、決めて無いじゃん」




