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あなたも冒険者なら一度や二度死んだことがあるでしょう?

 城の広間には狂気に似た熱気が渦巻いている。

 王様を筆頭に、大臣や、貴族たちが集合して伝統的な羊料理を堪能していた。

 扉が開き、赤黒い布で覆われた台車が中央に運び込まれると、会場にどよめきが起こった。


「今日のメインディッシュでございます」


 司会進行を務める城の道化師が布を剥ぎ取った。

 腐った肉の甘い臭いが溢れ出し、部屋に焚き込められた香と混ざり合ってむせ返る。


「勇者ロロロでございます」


 人々は皆ハンカチで鼻を押さえ、口々に「これは酷い」と言い合った。何人かは気を失い、あるいは吐き気を訴えて、部屋の外に運びだされていった。


「死因は圧死。15階層のミノタウロスにやられました」


 かつて人間だったその頭は胴の中にめり込んでいて、元の形が分からない。

 鎧がべこりとへこみ、肋骨が飛び出していた。

 その守るべき、臓腑《はらわた》は無惨にも引きずり出され、体の回りに巻かれていた。

 足は三倍以上に膨れ上がり突けば今にも破裂しそうである。

 左腕は肩から骨ごと引きちぎられていた。盾は無様にひしゃげ、

 ミノタウロスが与えた衝撃の大きさを物語っていた。


「ああロロロが受けた恐怖はいかほどのものでありましょうか。今宵は、慈悲深き偉大な王の思し召し、彼の活躍を労いまして、この蘇生の儀式を開催した次第でございます」


 慇懃な道化の口上に参加者たちの盛大な拍手が湧き起こる。


「今日の施術者は、魂魄流18代山田宗右衛門様です」


 ファンファーレと共に、黒いローブを纏った老人が現れ、遺体の前で一礼した。

 部屋の照明が落とされる。

 楽隊がムーディーな曲を奏で始める。

 煌びやかでカラフルなスポットライトに照らされて、仮面を被った美女たちが登場した。


 妖艶な踊りが披露され、会場の興奮は一気に高まる。

 彼女たちは、広間に大量の檻をカートに載せて運び入れた。

 部屋を覆う不穏な空気を感じて、生贄の子羊たちが悲鳴をあげて檻を揺らした。


 暗転。


 スポットライトが宗右衛門を照らした。

 仮面の美女が運んで来た黒檀の杖を取り上げる。


「テルニマシュ、レラノーチ、ガワク、アガーメン」


 宗右衛門の低く、しかし、よく響く呪文詠唱が会場の空気を一変させた。

 杖を勇者と呼ばれた物体に突き刺して、撹拌を始める。

 反魂香が香炉にくべられると、宮廷音楽は極彩色の香りを放つ。


「はじまりましたな」


 仮面の美女たちが檻の中の生贄にナイフを突き立てた。

 耳を引き裂く絶命の中で、吹き出した血液が渦を巻き、勇者の死体へと吸い込まれていった。


 勇者の体が脈動を始める。

 粉砕された骨が再生され、神経が迸る。

 筋肉が形成されて、元に戻っていく。

 眼底にめり込んでいた眼球が腐って流れ出し、新たに生じた目玉に向かって血管が新生する。


 宗右衛門が針を振るうと、蜘蛛《アラクネ》糸が煌めいた。

 引き裂かれた腕が、胴体が美しく縫合され、誰もが、宗右衛門の鮮やかな蘇生魔法の手際に目を奪われた。


 しぼんだ風船に空気を送り込むように、勇者の体が元の形を取り戻す。

 呪文詠唱が止み、空中で旋回していた血や肉片が地面へと落下した。


 緊張感のある静寂の中、人間の形を取り戻した勇者にスポットライトが当たる。


 ドラムロール。


 勇者が目をあけた。

 その刹那、勇者の体は跳ねるように立ち上がる。

 もんどり打って突っ伏すと、口から大量の血を吐いた。

 肺に溜まった血液で窒息しそうになり、涙を流して盛大にえずいている。


 ファンファーレが鳴らされる。

 宗右衛門が誇らしそうに両手を広げた。

 仮面の美女たちが、杖を掲げた。

 宗右衛門の合図で一斉に回復魔法が勇者に浴びせられた。


 意識を取り戻した勇者が絶叫する。

 そんな様子を見ながら、会場の貴族たちは盛大な拍手を送った。


「今回の勇者の悲鳴は甘美ですな」

「前回の勇者は回復痛に耐えられず、何度も蘇生をやり直しましたからね」

「いや、流石は宗右衛門。見事な蘇生ですな」


 ぱんぱん


 という渇いた拍手が会場に響いた。


「お、いよいよクライマックスですよ」


 勇者が、衛兵に抱えられ、王様の前に引き立てられた。

 会場中の視線は王様と勇者に注がれた。


 回復魔法で酩酊状態の勇者に、王様は静かに告げた。


「おお勇者、死んでしまうとは情けない」

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