注文
「なんにしようかな」
講義終わりはスイーツ。
疲れた頭には糖分が必要。
故に、ファミレスでスイーツ。
「新しいメニューがネットでバズってたね」
「あーこれ? 日本国憲法とコラボした」
「普通に美味しそうだよね」
「じゃあ、これにしようかな」
「私はいつも通り、チーズケーキにアールグレイ」
「じゃあ、呼ぶね」
茜ちゃんがテーブルのボタンを押した。
待つこと数分。
「お待たせしました。ご注文をどうぞ」
「チーズケーキにアールグレイ」
「チーズケーキですね。お飲み物はなんにしますか」
「だから、アールグレイ」
「アールグレイですね」
「私はこの、えーと、『日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、 国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふモンブラン』」
「憲法前文モンブランですね」
「え、ああ、うん」
「申し訳ありません。モンブランは売り切れです」
「え?」
茜ちゃんは明らかに慌てていた。
やりとりの間にも団体の客が押し寄せて、レジの前が混み出している。
「じゃあ、この、ドッキリもっちり、ぽってりどーなっちゅを」
それまで無愛想だった店員が笑ったように見えた。
「ドーナッツ、一つ」
「お飲み物は?」
「……ホットコーヒーで」
「かしこまりました。それでは注文を繰り返します、チーズケーキとアールグレイ。ドーナッツにホットコーヒーでお間違えないですか?」
「ええ」
私と茜ちゃんは頷いた。
ウエイトレスの後ろ姿を見ていたら、茜ちゃんがテーブルを小さく叩いた。
「売り切れなら先に言いなさいよ」
「分かってるはずなのにね」
「それに、メニューの名前が恥ずかしいのよ」
「あるよねー」
「何よりも、むかつくのはさ」
「うんうん」
「こっちは恥ずかしい思いして言っているのに、勝手に短縮されること」
「わかる」
「お前も恥ずかしい思いをしろ」
「ちょっと茜ちゃん! 今はそれ、カスハラだよ」
私はメニューを戻す。
その時、小さな紙が抜け落ちた。
「大変だよ、茜ちゃん」
「何?」
「ここモバイルオーダーできるみたい」




