第2話 女神様、シフト代わってもらえますか?
「…………。」
真っ白だった。
どこまでも真っ白な空間。
床も白。
天井も白。
「……あれ。」
遠矢はゆっくり体を起こした。
「ここ……病院?」
周りを見渡しても、ベッドはない。
壁もない。
「えっと……。」
すると、どこからともなく柔らかな光が降りてきた。
「ようこそ。」
光の中から、美しい女性が現れる。
金色の長い髪。
純白のドレス。
背中には大きな翼。
まさに神話に出てくる女神そのものだった。
「私は女神、ルミナ。あなたは残念ながら命を落としました。」
遠矢は数秒黙る。
「……え?」
「あなたは死にました。」
「…………。」
遠矢はもう一度考える。
「……え?」
「二回言わせないでください。」
「え、死んだんですか?」
「はい。」
「本当に?」
「本当です。」
「確認なんですが。」
「はい。」
「今日って何日ですか?」
女神は少し首を傾げた。
「七月四日ですが?」
遠矢の顔色が変わる。
「店長!!」
「第一声それですか!?」
「今日、夜勤入ってるんです!」
「そこなの!?」
「代わり探さないと……。」
「あなたもう死んでるんですよ!?」
「でも無断欠勤は……。」
「欠勤じゃありません!事故です!」
「それでも連絡くらいは……。」
女神は頭を抱えた。
「真面目すぎる……。」
遠矢はポケットを探る。
「スマホ……。」
ごそごそ。
「ない。」
「死んでますから。」
「充電器も……。」
「そこじゃない。」
「Wi-Fiあります?」
「ありません。」
「じゃあ電波は?」
「ありません。」
「……。」
「……。」
「詰みました。」
「諦めてください。」
遠矢は小さく肩を落とした。
「店長怒るかなぁ……。」
「絶対怒りません。心配してくれます。」
「そうだといいんですけど……。」
女神は深呼吸した。
「話を進めます。」
「はい。」
「あなたは勇気ある行動を取りました。」
「その善行を認め、新しい世界へ転生させます。」
「異世界です。」
遠矢は少し考えた。
「質問いいですか?」
「どうぞ。」
「コンビニあります?」
女神は固まった。
「…………。」
「あります?」
「第一質問がそれ?」
「大事なので。」
「異世界ですよ?」
「はい。」
「ドラゴンいます。」
「はい。」
「魔法あります。」
「はい。」
「魔王います。」
「はい。」
「でもコンビニはありません。」
遠矢は人生最大級のショックを受けた。
「…………。」
膝から崩れ落ちる。
「そんな……。」
「いやそんなって。」
「公共料金どうするんですか。」
「知らないですよ!」
「夜中にアイス食べたくなったら?」
「我慢してください!」
「お腹痛くなったら?」
「薬屋があります!」
「コピー機は?」
「ないです!」
「ATMは?」
「ないです!」
「宅配便は?」
「ないです!」
「……。」
「……。」
遠矢は静かに立ち上がった。
「すみません。」
「はい?」
「僕、転生辞退できますか?」
「ダメです。」
「ですよね。」
女神は額に手を当てた。
「普通、『剣が欲しい』『最強の魔法が欲しい』って言うんですよ。」
「そうなんですか。」
「ええ!」
「あなたは?」
遠矢は真顔で答えた。
「コンビニが欲しいです。」
「…………。」
女神は五秒ほど停止した。
「え?」
「コンビニください。」
「いやいやいや!!!!!!能力じゃなくて?」
「能力で。」
「もっとこう……。」
「炎を操るとか。」
「いえ。」
「時間停止とか。」
「いえ。」
「無限魔力とか。」
「いえ。」
「コンビニで。」
「コンビニ。」
「はい。」
「……コンビニ?」
「はい。」
女神は天を仰いだ。
「何百年も女神やってきたけど……。」
「初めてだわ、こんな転生者。」
遠矢は首をかしげる。
「変ですか?」
「変です。」
「かなり変です。」
「そうなんですね。」
本人だけは、最後まで本気で不思議そうな顔をしていた。




