コンビニが生きがいです。そもそもコンビニというのry
「いらっしゃいませ!」
午前七時。
朝の通勤ラッシュ。
レジ前には十人以上の列ができていた。
「ホットコーヒーのLを一つ。」
「かしこまりました。」
ピッ。
ピッ。
ピッ。
「袋はご利用になりますか?」
「お願いします。」
「ありがとうございます。」
袋詰めは十秒。
会計は五秒。
お釣りを渡す手は一切ぶれない。
「ありがとうございました! いってらっしゃいませ!」
次のお客様。
「宅配便お願い。」
「承りました。」
次。
「公共料金。」
「かしこまりました。」
次。
「肉まん三つ。」
「ただいまお包みします。」
レジには行列ができているというのに、列はまるで流れる川のように消えていく。
「……相変わらず早いな。」
バックヤードから店長が苦笑する。
「神崎くん。」
「はい。」
「今ので三十人目。」
「そうなんですね。」
「勤務開始30分だけど。」
「え?」
神崎遠矢は首をかしげた。
「もうそんなに時間経ったんですか?」
「いや、30分しか経ってない。」
「……?」
「なんで不思議そうなんだ。」
店長は小さくため息をついた。
「品出し終わった?」
「終わりました。」
「え?」
「発注も入力しました。」
「え?」
「床もモップ掛けしました。」
「え?」
「コピー機の紙も補充しました。」
「え?」
「おでんも仕込みました。」
「…………。」
店長は天井を見上げた。
「神様……この子、時でも止めてるんですか?」
遠矢本人は、本気で何を言われているのかわからない顔をしていた。
「普通ですよ?」
「普通じゃないんだよなぁ……。」
店長は笑いながら頭をかいた。
遠矢は二十四歳。
フリーター。
彼女なし。
友達は少ない。
いや…友達…。
いやきっといる( ´・ω・`)
休日に遊びへ行くこともほとんどない。
………月に1度…あるかないか…
その代わり——。
「新商品入りましたよ。」
「本当ですか!」
その一言だけで目が輝く。
「どれですか?」
「このプリン。」
「わぁ……!」
宝石でも見つけたかのような笑顔だった。
「今日の休憩で買います!」
「好きだねぇ。」
「はい!」
遠矢は照れくさそうに笑った。
「コンビニって、いいですよね。」
「急いでる人の朝を助けられるし、困ってる人の役にも立てるし、新商品もあるし。」
「毎日違って、毎日楽しいです。」
店長は少しだけ笑みを浮かべる。
「そんなこと言う店員、お前くらいだよ。」
「そうですか?」
「普通は『休みたい』とか『辞めたい』とか言う。」
遠矢は少し考えてから首を横に振った。
「僕は好きです。」
「ここ。」
その一言には、嘘がなかった。
昼休憩。
遠矢はコンビニで買った新作プリンを、公園のベンチで大事そうに食べていた。
「……おいしい。」
幸せそうに頬を緩める。
スマホを見ると、店長からメッセージが届いていた。
『明日も夜勤お願いできる?』
遠矢はすぐに返信する。
『もちろんです!』
送信してから、少し笑う。
「明日も頑張ろう。」
そう呟いて立ち上がった、その時だった。
道路の向こう側に、小さな男の子が立っていた。
転がっていくボール。
その先へ、大型トラックが近づいてくる。
「あっ……!」
考えるより先に、遠矢の体は動いていた。
「危ない!!」
男の子を思い切り突き飛ばす。
次の瞬間。
——ドォンッ!!
激しい衝撃。
視界が真っ白に染まる。
最後に頭に浮かんだのは、自分のことではなかった。
(あ……。)
(店長……。)
(明日の夜勤……代わり、見つかるかな……。)
そのまま、神崎遠矢の意識は静かに途切れた。




