第9話 永遠の別れ?
よくわからないまま時が過ぎていく。
店内にある時計が始発電車が走っているだろう時刻を告げている。
澤崎が落ち着いたように私に声をかける。
「さっきはとんでもない事に巻き込んでしまった。どうもすまない。」
何が起きたのか、よくわからずにいる水崎泉。
心の整理がつかない水崎泉に、澤崎は強烈な一言をぶっ込んできた。
「もう二度と、ここら辺に近づかない方がいい。特に新月の夜は。」
「え?」
水崎泉の気の抜けた驚きの声に畳み掛けるように澤崎は続けた。
それは本当に失礼な一言だった。
まるで口うるさい父親のことを思い出すかのような言葉だった。
「もう二度と、夜にここら辺には来ないように。」
* * * * * * * *
朝の日差しが眩しい。
初夏を告げる陽光がほんのりと蒸し暑く焦げた空気の香りがする。
水崎泉は澤崎にエスコートされて駅まで向かった。
気が動転していて、他人の視線などなぜか彼女の目には入らなかった。
会話はない。
たぶん昨夜?と言うか、早朝?と言うか。
あんなことがあったので気を使って駅まで
着いてきてくれているのだろう。
だけど会話はない。
異常なほどの出来事を思い起こさないためなのか。
それとも話せる内容でないからなのか、どっちにしても尋常ではない出来事だ。
二人とも会話はなかった。
やがて『例の』スクランブル交差点を渡って駅へと向かう。
ここで異変が起きた。
ここで異常な出来事が起きた。
一瞬足を進めるのに躊躇した。
またあれが起きるのでは?
またあの異常事態が起きるのでは?
そう思い一瞬不安になったが、エスコートしてくれる澤崎は足を止めず、
水崎泉と並んで駅の改札へと向かっていく。
「じゃあ、ここで。お疲れさまでした。」
改札前、澤崎がそう語る。
水崎泉の口は動かず言葉を探していた。
だが澤崎は、右手を挙げて別れの挨拶をすると踵を返し着た方向へと戻っていく。
行っちゃうの? 帰っちゃうの?
あんなことがあったのに?
不満で不安な気持ちはいっぱいあったが、水崎泉は話す言葉が見つからなかった。
差し込む朝陽の眩しい逆光の中、澤崎はスクランブル交差点の雑踏の中へと消えていった。




