第10話 不愉快な噂
噂をしている。
噂話が聞こえてくる。
「この間、あの子、イケメンホストの駅までのお見送りがあったんだって。」
「いつもの彼氏ってイケメンホストだったっけ?」
「違う違う。あんなダメ男じゃない。ダメ男だったらお似合いだったのに。」
「それがイケメンホストにエスコートされて始発電車に乗ったんだって。」
「えーじゃあ、お持ち帰りされたんだ。」
「ちがうわよ、きっとラブホよラブホ。」
「見た目大人しそうなのに、結構やばいタイプよね。」
「彼ぴいるのにホストに貢ぐとは不謹慎なやつ。」
不愉快だ。
非常に不愉快だ。
イケメンホストにエスコートされて始発電車に乗ったのは事実だ。
たしかに水崎泉の身体しか興味がなかったダメ男は確かにダメ男だった。
だがお似合いとは不愉快だ。
ふざけんな。
こっちは身体目的のダメ男と別れて訳わからん体験してんだ。
あの体験がテーマパークのアトラクションだったら面白がってリピーターになるが冗談じゃない。
ふざけんな。
聞こえてるし。
自分は女子大生。たぶん普通のJD。
どっちにしても、水崎泉はその噂が広まってから、ずっとずっと不愉快だった。
お昼ご飯。
ギャルJDが話しかけてくる。
見るからにゴージャスなギャルJDが私に話しかけてくる。
ちょっと、すごいな、その盛り用。あなたは夜職か?
一応JD。
大学生でしょ。
そのギャルJDとはほぼ面識がなかったけれど。
と言うか、こんな子が同じ学内にいるのも知らなかった。
興味深そうにギャルJDが私に話しかける。
「えー、すごい、あなた。イケメンホストと朝帰りだって?」
違うし。なんでそんな話、知ってんの?
口コミ噂の速さはSNSと同等なの?
「すごいじゃん。」
まるで自分の仲間を見つけたかのように親交的でグイグイと話しかけてくる。
「え? いや、それ違う。」
速攻否定するもギャルJDは諦めない。
「えー、みんな見たって噂してるよ。エスコートされて始発電車? それまで何してたの?」
みんな見たって、なんだそれ?
日本語は正しく使って。
「どこのホストクラブ? なんか話では輝エリミネーターズのホストじゃないかって、みんな。」
輝エリミネーターズ?
何それ?
そう言えば、あまりにもドタバタして『お店』の名前は覚えてなんかいない。
あまりに衝撃的だったので、お店の場所もうる覚えだった。
困った表情を浮かべる水崎泉を無視してギャルJDはぐいぐい来る。
「見てこれ。私のお気に入りのホスト。お店のナンバー1。
あ、今そう言っちゃいけないんだっけ? なんだっけ、『スゴイ人』?だっけ?」
知らないわよ。
グイグイイケイケギャルJDはスマホで撮った写真を見せてきた。
「見て! 私のイチオシ!」
私は驚いた。
スマホの画面に写っている写真。
明らかにあのお店の中で撮られた澤崎とのツーショットであった。
「あ、澤崎さん!」
思わず水崎泉は声を上げた。
普通こう言う時はスルーすべきかと思うが、水崎泉にはそのスキルがなかった。
ギャルJDはなんとも言えない表情をあげて続けた。
「ほら~、やっぱり輝エリミネーターズに行ってたんじゃん。」
水崎泉はギャルJDの手中にハマってしまったようだ。
「え? でも。」
輝エリミネーターズなんて名前知らない。
記憶を呼び起こせば、なんかそんな文字も見たような気がする。
だが覚えてなんかいない。
「澤崎さんの名前をすぐに言えるなんて、ビンゴだね。」
困惑する私の目の前でニコニコしているギャルJD。
私はどう対応していいかわからなかった。
「私と同担だね。今度、いっしょにお店行こうよ。」
どう答えていいかわからないうちに、ギャルJDは風のように去っていった。




