第20話 霊園へと
昼間の霊園。
鬼公子が澤崎を捉え、自身の領地とした霊園。
陽光が降り注ぎ、木々や草花の心地よい香りが漂う。
だが、誰一人霊園にはいない。
お墓参りに来た者。
近くの住人の散歩姿。
ランニングをする者。
なぜかみな、一様に直前で引き返す。
「あれ? 今日じゃなかったっけ?」
「今日は別の散歩ルートにしよう。」
「このルートも飽きたな。」
そう言って、霊園には人っこ一人入ってこない。
これが鬼公子が貼ったトバリ・結界である。
無意識のうちに目の前にある物が見えなくなる。
突然目的を失い目の前にある物の興味が失せる。
なぜそこに来たか、記憶を失ってしまう。
事実上『人の目に映らない場所』。
まさに『人の目に忘れ去られた場所』となる。
鬼公子が領地拡大し、勢力をつけるための手法だ。
人はそれを『魔法』と言う。
* * * * * * * *
チャラ男が乗るSUVは一路、鬼公子の霊園に向かっていた。
そこには囚われた澤崎もいる。
車内には運転手の他に、水崎泉と凛。
ともに会話はない。
いつもであったらチャラ男がチャラいことを言って盛り上げていた。
とても暗い雰囲気であったが、無理して明るくする必要もない。
澤崎救出メンバーの車列は一路目的地に向かっていく。
陽が傾き、空が茜入りに染まり始めていた。
* * * * * * * *
水崎泉は凛に興味を持った。
もちろん、それ以前から色々な意味で興味を持っていた。
だが、今は違った。
もっと知りたい。
悪い意味ではなくいい意味で。
自分のあこがれの澤崎と深い関係のある凛。
その凛に対して不愉快だったから知りたかった。
だが今は違う。
以前は澤崎と凛の関係が羨ましく壊したかった。
嫉妬である。
だが今は違う。
純粋に『凛個人』に興味を持っていた。
「まもなくです。」
水崎泉たちが乗るSUVが目的地付近に近づく。
水崎泉の思考が止まり、車窓の外を見る。
陽が沈み始め、あたりはだんだんと薄暗くなる。
カラスの鳴き声が響き渡る。
見ると茜色の空のきれいな雲のバックにカラスが無数飛んでいる。
物の見事に霊園をかこむように輪を描いて空を回遊している。
黒いカラスの身体に夕日が当たってエッジが赤い。
霊園の入り口に到達する一同。
基本黒スーツの服装にそれぞれの装甲を着け、武器を手にしている。
普通なら、それこそヤクザの抗争やカチコミの様相だ。
だが不思議だ。
霊園の周りには人はいない。
車の往来もない。
それはチャラ男たちが当局に手配したわけではない。
それは鬼公子が展開したトバリの効果だ。
ここに来てはいけない。
ここには何もない。
ここには用はない。
無意識のうちに周辺の人々に影響していた。




