第24話 イケメンだらけの朝食を
確かに。
確かにこの寮はまるで迷路だ。
確かに、あのような敵と対峙するためには必要なのだろう。
水崎泉は迷子になるまいと、あわてて後を着いていく。
確かに。
確かにお腹は空いていた。
ちゃんと食事を取るのは、昨日のお昼を以来だ。
そしてようやく食堂に辿り着いた。
イケメンだ。イケメンだらけだ。
いろんなタイプのイケメンが朝食を食べている。
凸凹コンビのイケメンも仲良く食べている。
果たして自分がここに居ていいのだろうか?
水崎泉はそう思ったが、昨夜すでにマネージャー状態で事務室にいた。
全員のメンバーに伝わっていたのだろうか、誰一人疑問の視線を浴びせてこない。
何よりも、やさしく、当たり前のように接してくれる。
さすがはみんなホストだけある。
だけどそれって『空気』ってこと?
だけど水崎泉はいっぱいいっぱいだったので思考が鈍っていた。
とにかくお腹をいっぱいにしよう。
安心したら、超お腹が空いた。
久々に食事が喉を通る。
美味しい。
食事とはこんなに美味しい物だったのだろうか。
ふと子供の頃を思い出す。
そうか。安心して食べる。
大勢の人たちと一緒に食事する。
いい雰囲気で食事する。
そして自分の好きな人と食事する。
わかってる。
自分でもわかってる。
澤崎は自分にとって手の届かない存在なのはわかってる。
でも嬉しい。
止まることなく食事が喉を通る。
目の前に澤崎さん。
その隣にはチャラ男。
そして食堂ホールいっぱいのイケメンたち。
気がつけば、水崎泉は思わず完食していた。
普通なら目の前に憧れの人がいるのに食欲が?と思うかもしれない。
普通なら満足に食事が喉を通らない、と思うかもしれない。
だが、それよりも空腹が優っていた。
いろいろな出来事が続いてはいたが、どこか安心していた。
澤崎さんとお話がしたいな。
目の前にいる澤崎さんと、いろいろお話をしたい。
でも、なかなかきっかけが掴めない。
お金払えばお喋りしてくれるのかな?
でもそれはお店でのこと。
それにここはホストクラブではない。
視線を泳がせていると、澤崎が席を立つ。
「ごちそうさま。今日はもうお休み。」
澤崎さんのやさしい声かけ。
なんて答えよう。
そう思っていると、チャラ男が割って入る。
「陽が昇ってから眠りにつく、なんて不謹慎ぽいよね。」
え? まあ。なんて答えよう。
「まあ俺たちの仕事は夜の闇が相手だから、昼間は寝てるんだよ。
まるでコウモリか吸血鬼みたいだよね。なんちて。」
席を立った澤崎が自分の部屋に戻ろうとする。
「あ。」
あわてて水崎泉も立ち上がる。
「迷子になるといけないから、案内してあげるよ。」
そう言ってチャラ男が立ち上がる。
確かにそうだけど。
あわてて澤崎を追いかける水崎泉の後にチャラ男。
「あれまあ、連れないね。」
三人は来た道を引き返す。
相変わらず迷路だ。
きっと迷子にならないような目印があるのかもしれない。
それとも身体で覚えるのかな?
確かに敵襲に備えて、このような複雑な迷路は有効だ。
水崎泉はとんでもないところに来てしまったと思った。
だけど、それに悔いはない。
目の前の対象への興味が全てを優っていた。
歩く三人に特に会話はない。
しばらく歩いて、澤崎が角を曲がる。
「じゃ、お休み。」
そう言って手を上げて奥の通路へと進んでいった。
「こっち、こっちだよ。」
チャラ男が水崎泉のいく方向を指差している。
水崎泉はすぐにはそこを動かず不服そうに質問する。
「澤崎さんはあっちの部屋なんですね。」
チャラ男は水崎泉の思惑を理解していないかのように振る舞った。
「あ? そうだねー。澤崎さんの部屋はあっち。君こっち。」
澤崎のことが気になる水崎泉はガンとしてそこを動こうとしない。
「澤崎さんの部屋、気になるー?」
チャラ男はチャラ男ならではの直球質問を繰り出してくる。
「え? まあ、確かに気になります。どんな生活してるのかな、とか。」
チャラ男は鈍感で感が鈍い表情で返してくる。
「気になるでしょー。でもあんまり知らない方がいいこともあるんよ。」
知らない方がいいこと。
引っかかる言葉。
気になる。
水崎泉はいっそう澤崎が立ち去った視線の先を注視した。
「さ、行こ行こー。君の部屋。一人で戻ったら迷子になって、夜になっちゃうよ。」
水崎泉はチャラ男の言葉に従った。
本当は澤崎のことが気になったがそれは後でいい。
なぜなら自分は今日からここに住むのだから。
「じゃ、お休み。起きたらメールしてね。道案内するから。」
そう言ってチャラ男は部屋を出ていき、ドアを閉めた。
この部屋。
初めて住む、新しい自分の部屋。
何が起きたのだろう?
これからどうなるのだろう?
考えてみれば頭の中はぐるぐる回る。
考えれば考えるほど、頭の中が混乱する。
とにかく寝よう。
今は朝だけど。
大きなベッド。
ふわふわな布団。
気持ちよさと不安感が同居する。
ホストクラブの寮に、女の私ただ一人。
予測できない現実と運命の中、夢は膨らんでいく。
水崎泉はいつの間にか、眠りについていた。
第1部 完




