9‐E 最後のHR
■境界堂
昼。
新渡戸、書類を机へ置く。
「今日は学園行け」
ファニー、顔を上げる。
「は?」
シエル、視線だけ向ける。
「……最終HRですか」
「そうだ」
マスター、ソファから半分だけ起きる。
「へぇ」
新渡戸、コーヒーを飲む。
「お前は付き添い」
「僕も?」
「放っとくと、こいつら途中で帰る」
「否定しきれない」
夏の光。
揺れる電車。
開けっぱなしの窓から、蝉の声。
マスター、扉横にもたれて半分寝てる。
「……夏って、音うるさいねぇ」
「蝉に文句言う人初めて見た」
ファニー、呆れ顔。
向かい。
シエルは静かにスマホを見ている。
電車が揺れる。
減速。
アナウンス。
『――次は』
マスターは薄く目を開ける。
「着いた?」
「今さら?」
ホーム。
熱気。
アスファルトの照り返し。
学生たちが笑いながら駅を抜けていく。
その流れへ、三人も混ざった。
■学園
放課後。
西日というより、まだ明るい夕方。
窓、開いてる。
ぬるい風。
カーテンが揺れる。
ざわざわ。
笑い声。
スマホのシャッター音。
黒板。
『夏休み!!』
『また二学期!』
『補習組ざまぁ』
『海行こーぜ』
色の違う文字。
雑な落書き。
誰かの似顔絵。
整ってない。
でも、ちゃんと一区切り前の空気だった。
廊下。
笑い声。
開け放たれた窓。
どこかの教室から聞こえる、机を引く音。
「もう完全に夏休み空気だねぇ」
「空気で季節判定しないで」
廊下。
笑い声。
開け放たれた窓。
どこかの教室から聞こえる、机を引く音。
ファニーとシエルの足が、少しだけ止まる。
そこは、以前、自分たちが居た教室。
今はもう、違うクラスが使っている。
開け放たれた扉。
中から、笑い声と熱気が流れてくる。
マスター、二人を見る。
「入りづらい?」
「……別に」
「問題ありません」
でも、返事の間だけ、少し短かった。
ガラッ。
一瞬だけ、視線が集まる。
「あ、来た」
「珍し」
「生きてたんだ」
「第一声それ!?」
マスター、軽く手を振る。
「どうもねぇ」
「遅くない?」
「最終HRなんて、とっくに終わってるけど」
教壇横。
担任、苦笑する。
「いや、お前ら来るかもって、まだ結構残ってたんだよ」
「先生それ言うなって!」
「いやだって来ると思わなかったし」
「写真撮っときたかったんだよ!」
教室、少し笑う。
マスター、瞬きをひとつ。
「……待たれてたんだ」
ファニー、小声。
「そりゃそうでしょ」
担任は肩を竦める。
「お前ら、途中で消えた側だからな。最後くらい顔見せろって、結構言われてたぞ」
マスターは少しだけ思い出したように。
『別にHR出ろとは言ってねえ。終わる空気だけ見てこい』
新渡戸の声。
教室の中。
机を囲んで写真を撮ってるやつ。
黒板へ寄せ書きしてるやつ。
窓際で騒いでる集団。
誰も、もう席についていない。
ざわざわ。
女子生徒、小声。
「……なんか違くない?」
「前もっと怖かったよね」
「今めっちゃ眠そう」
「ていうか、話しかけていい距離感なの?」 「分かんない。なんか普通に居るけど、普通じゃないし」
マスター、窓際へ歩きながら。
「……風ぬるいと眠くなるねぇ」
「そこ!?」
ファニー、小声。
「いや私も思ったけど!!」
カーテンが揺れる。
廊下を誰かが走っていく。
笑い声。
その向こう。
男子生徒と女子生徒が笑ってる。
「だからその時さー」
「あはは!」
距離、近い。
普通のカップル。
通り過ぎる。
一瞬だけ視線。
「……あ」
ファニー、横を見る。
「知り合い?」
「前、告白された子だねぇ」
「軽っ」
シエル、静かに確認。
「感情変動は」
「特に?」
普通に歩いていく二人。
「……まあ」
二人を見ないまま。
「今の方が、楽しそうで良かったんじゃない?」
ファニーが止まる。
「……え」
後ろ。
女子生徒たち、小声。
「ほらそういうとこだよ」
「なんか今、普通に喋ってない?」
「逆に距離感バグるんだけど」
机。
鞄。
椅子。
いつもと同じ。
机の横に積まれた、空のダンボール。
ロッカーの開いた扉。
片付け途中の教室。
「……」
前の席へ逆向きに座る。
「なんかさ、変な感じしない?」
「変?」
「終わる感じ」
マスターは少し考える。
「……まだ人居るけど」
「そういう話じゃないの!!」
シエル。
荷物を机へ置く。
「現在のクラス配置は、本日で終了します。この座席表も解体されます」
窓際。
後ろの席。
騒いでる集団。
見慣れた席。
誰がどこで騒ぐかまで、なんとなく決まってる教室。
だからこそ。
「……妙だねぇ」
小さく、息が漏れる。
担任。
教壇へ寄りかかる。
「えー……まあ。最後くらい好きにしろ」
雑。
でも、声が少しだけ掠れてる。
皆、ちょっと笑う。
誰も帰らない。
写真。
寄せ書き。
連絡先交換。
帰る理由より、まだ居る理由が残っている。
観察。
誰かが笑う。
泣いてるやつも居る。
黒板を撮ってるやつも居る。
(……なんで黒板撮るんだろ)
数日後には消える。
だから撮る。
理解はできる。
でも。
まだ、実感へ繋がらない。
男子生徒が、机を持ち上げる。
「これ、運ぶってさ」
机が動く。
ガタッ。
空いた場所。
その瞬間。
教室の形が変わる。
視線が止まる。
「……あ」
「ん?」
空いた空間を見る。
さっきまで、誰かが居た場所。
「そこ、空くんだねぇ」
机の脚が、床を擦る。
「……変わるんだ」
シエル。
わずかに視線を向ける。
マスター。
教室を見回す。
「席順、消えるんだ」
ぽつり。
「もう、この並びじゃないんだねぇ」
ファニー、言葉が止まる。
周囲の笑い声だけが遠い。
黒板。
窓。
机。
見慣れたはずの景色。
「……変だねぇ」
ぽつり。
「昔、自分が卒業した時は、教室、振り返りもしなかったのに」
静か。
「連絡先も交換しなかったし。誰とも、その後会ってない」
ファニーが少し目を開く。
「別に嫌いだったわけじゃないよ。ただ」
言葉を探す。
「終わるって感覚が、無かったんだろうねぇ」
「区切りを認識していなかった」
「うん」
教室を見回す。
「だから、今日みたいなの。ちょっと不思議」
「……それだよ」
「感情のラベル未設定を確認」
「あー……」
ゆっくり、息を吐く。
「これ、そうなんだ」
■帰り道
チャイム。
遠く。
誰かの「またなー!」の声。
廊下を歩く。
窓の外、オレンジ寄りの空。
まだ教室には、写真を撮っているグループ。
階段。
下駄箱。
開いた扉の向こうから、少し湿った夏前の風。
夕方。
校舎の外。
三人、並んで歩く。
窓の向こう。
まだ誰かの笑い声。
「なんかさ」
少しだけ前を見る。
「終わるって、嫌だね」
「終わるっていうか」
少し考える。
「配置換え?」
「風情が無い!!」
「ですが、本質的には近い」
「シエルまでそっち行かないで!?」
マスター。
少しだけ笑う。
「でも」
校舎を振り返る。
「嫌ってほどでもなかったよ。今日、ちゃんと変だったし」
「それ褒め言葉?」
マスターは校舎を振り返る。
「……まあ、また二学期になれば、普通に居るんだろうけど」
一拍。
「今のこれは、今だけなんだねぇ」
ファニー、少しだけ笑う。
「やっと分かった?」
「んー……。まだ半分くらい?」
「半分なの!?」
シエル、小さく。
「十分進歩しています」
風。
カーテンが揺れる。
教室は、一度閉じる。
席順も消える。
二学期になれば、また誰かが、同じ教室で笑う。
でも、今の並びは、もう二度と戻らない。
それだけが、少しだけ胸に残った。
■境界堂
夜。
灯りはひとつ。
窓、半分だけ開いてる。
夏前の風。
ぬるい空気が、ゆっくり部屋を通り抜ける。
ファニー、ソファの端。
だらっと寝転がってる。
シエル、椅子。
紅茶。
湯気はもう薄い。
マスター、窓際。
ネクタイを外して、指へ巻きつけて遊んでいる。
「……静かだねぇ。さっきまでうるさかったから余計に」
天井を見る。
「なんかさ、変な感じ」
「配置換え後だから?」
「まだ言うかそれ」
少し笑う。
でも。
否定しきれない。
「実際、近い概念です」
紅茶を置く。
「日常は、変わらない前提で処理されています。だから、区切りが発生すると認識負荷が跳ねる」
「急に脳科学始まった」
窓の外を見る。
遠く。
街の灯り。
「……でも、今日、ちょっとだけ分かったかも」
「え」
「教室さ」
指。
ネクタイを、くるり。
「ずっと同じだと思ってたんだよねぇ。席も、騒ぐ人も、窓際の光も」
少しだけ笑う。
「でも、普通に消えるんだ。……残ると思ってたのに」
肩を竦める。
「……だから、みんな写真撮ってたのかな」
「保存行為です。人は、今しか存在しない形を残そうとします」
「あー……」
少し納得。
「標本みたいなものか」
「情緒を研究施設にするな」
笑い。
小さい。
でも、ちゃんと柔らかい。
ふと。
「……ねえ」
二人を見る。
「もしさ、今日の教室が、明日も全く同じだったら。みんな、あんな顔しなかったのかな」
「……多分ね。終わるって分かってるから、見るんだと思う」
小さく笑う。
「普段って、慣れちゃうし」
「有限性による価値認識です」
「言い方ァ!!」
でも。
今度は否定しない。
「……そっか」
窓の外。
風。
カーテンが、揺れる。
「じゃあ、今日が良い日だったのって」
少し考える。
「終わるからなんだ」
ファニー、少しだけ目を細める。
「……半分正解」
「半分?」
「終わるからじゃなくて、終わるって分かったから、ちゃんと見たの。だから、特別になる」
数秒。
それから、小さく笑う。
「なるほどねぇ」
その声。
少しだけ、今日の教室の温度が残ってる。
時計の音。
ぬるい夜風。
三人、同じ部屋。
何かが終わって、少しだけ形が変わったあと。
それでも、ちゃんと隣に居る。
マスター、ぽつり。
「……まあ、悪くない配置換えだったねぇ」
「最後までそれ!?」
「一貫性を確認」
笑い声。
夜の境界堂へ、静かに溶けていった。
■境界堂
深夜。
灯り、ひとつ。
窓の外。
夏前の夜。
虫の声が、遠い。
時計の音だけが、妙に規則正しい。
ファニー。
ソファ。
毛布、半分だけ蹴ってる。
「んー……」
寝返り。
雑。
シエル。
机。
本は開いたまま。
ペンを持った姿勢で、半分くらい意識が落ちてる。
マスター。
一人。
テーブル。
スマホを手に取る。
理由はない。
ただ、なんとなく。
指が動いた。
■画面
フォルダ名。
『境界堂』
タップ。
一枚目。
ソファ。
ファニー、寝転がって足をばたつかせてる。
シエル、紅茶を置きながら呆れてる。
自分は、画面の端。
少しだけ笑ってる。
「……」
指が止まる。
二枚目。
キッチン。
鍋。
ファニー、味見して変な顔。
シエル、塩を足してる。
自分は後ろ。
ただ見てる。
三枚目。
雨の日。
窓際。
三人、なんとなく外を見てる。
会話はない。
でも、距離が近い。
「……あれ」
小さい声。
自分でも、何に引っかかったのか分からない。
『気づいた?』
写真を見る。
もう一度。
ゆっくり。
「……これ、全部、前の空気だ」
『うん』
優しい声。
『今とは、少し違う』
今も、隣にいる。
距離も近い。
会話もある。
笑ってる。
なのに。
重なり方だけが違う。
指で画面をなぞる。
「……同じ場所なのに、同じじゃないねぇ」
『混ざったからね』
思い出す。
今日の教室。
空いた席。
変わる配置。
「今だけ」の並び。
全部、少しずつ繋がっていく。
完璧に近づいた分だけ。
理解できることは増えた。
でも、余白は減った。
写真は、その余白ごと残っている。
曖昧さ。
距離感。
言葉になってない空気。
全部。
そのまま。
「……あ」
呼吸が止まる。
ほんの一瞬。
「これ」
喉の奥。
少しだけ詰まる。
「もう、戻らないやつだ」
『そうだね』
逃がさない声。
でも、急かさない。
「……うん」
笑おうとして、少し崩れる。
ぽと。
画面へ落ちる。
写真の中の光が、少し滲む。
「あー……」
困ったみたいに。
でも、否定せず。
「これ、好きだったなぁ」
『ぼくも。これは、良かった』
今の自分。
前の自分。
境界堂の空気。
全部、一瞬だけ重なる。
完全には、もう一致しない。
「……そっか」
もう一滴。
今度は止めない。
「変わったんだねぇ」
軽い声。
でも、ちゃんと認めてる。
『うん』
少しだけ、嬉しそうに。
『でもさ、無くなったわけじゃない』
マスター、顔を上げる。
ソファ。
ファニー、寝ぼけながら毛布を抱えてる。
机。
シエル、舟を漕ぎながら、ギリギリでペンを落とさない。
同じ場所。
違う形。
違う距離。
でも。
ちゃんと、ここにある。
小さく笑う。
今度は、無理じゃない。
「……まあ、いっか」
涙を拭う。
雑に。
スマホを伏せる。
灯りの下。
三人分の空気が、静かに重なる。
変わってしまったことに泣いて。
それでも、残っているものを見ていた。
「……近いってば……」
「……距離は適正です」
『ね、悪くないでしょ』
「うん」
今度は。
ちゃんと“今”を見ながら、笑っていた。
……
…
■こぼれ話:絶対にハマらないはずだったもの
■境界堂
夜。
テレビの光だけが、部屋を照らす。
ソファ。
ファニーは完全に前のめり。
ポップコーン、抱えてる。
マスター、リモコン片手にのんびり。
シエル。
距離を取って、椅子。腕組み。
完全に観察者の姿勢。
\絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時/
デレデレデレデレデーン
\田中タイキック!/
バチン!!
しなる。
空気が鳴る。
骨に響く音。
田中、崩れる。
「アハハハハハ!!!」
「うわ、えぐいねぇこれ」
「……」
無言。
眉、わずかに寄る。
「……理解不能です。痛覚刺激を笑いに変換する構造は、倫理的に問題があります」
画面。
再び。
\タイキック!/
別の出演者。
バチン!!
崩れる。
間。
微妙な“間”。
「……」
口元。
ほんの一瞬、動く。
でも。
視線は画面に固定。
「いやでもこれ、絶妙だよね」
「痛そうなのに、ちょっとズレてる」
「……タイミングの問題です。予測と実際の衝撃にズレがある。それが――」
\デレデレデーン!/
予告だけで間を取る。
誰も蹴られない。
無音。
出演者、ビビる。
「……」
目、わずかに見開く。
バチン!!
遅れて、ヒット。
「……ふっ」
咳払い。
視線を逸らす。
「……気道に空気が入りました」
「言い訳が雑になった!!」
ファニー。
見逃さない。
「今笑った!!!」
「笑っていません」
即答。
だが。
ほんの少し、呼吸が乱れてる。
「……これは」
言葉を選ぶ。
「純粋な暴力ではなく、構造化された落差です」
「言い訳が高度」
連続タイキック。
タイミングをズラす。
フェイント。
フェイントからの本命。
観客の笑いが重なる。
目が、追ってる。
完全に。
(……来る)
(ここで来る)
(いや、来ない)
(来た)
バチン!!
「……っ、ふ」
肩が、ほんの少し揺れる。
「崩れた!!」
「崩れていません」
「……タイミング制御が上手いですね」
「急に分析始まった」
「予告音で緊張を作り、衝撃を遅延させて解放している」
\デレデレデーン!/
「……来ますね」
バチン!!
「……予備動作、消しましたね」
「感想そこ!?」
でも。
視線を逸らさない。
「適性あるねぇ」
「ありません。これは一過性の――」
スロー再生。
しなる脚。
避けられない軌道。
無駄に美しいフォーム。
「……綺麗ですね」
「感想そこ!?」
本人、数秒止まる。
「……違います。今のは、運動効率の話です」
「ハマったねぇ」
「ハマっていません」
だが、座り方が少し前に寄る。
「……絶対に、ハマりません」
\デレデレデーン!/
シエル、チラッ。
数分後。
完全に無言で見続けるシエル。
笑わない。
でも。
見逃さない。
理性は否定する。
でも、目は正直だった。
「今度ムエタイ体験行こうね!!」
「行きません」
「でもフォーム綺麗だったよ」
「……それは、認めます」
『ほらもう半分きてるねぇ』
ぴたり。
ファニー、止まる。
「……出た」
マスターの口が、少し遅れて動く。
笑っているのはマスター。
でも、声だけがわずかに重なる。
『ちなみにさ』
音程が、同じで違う。
『未来だと、これキッカケでシエル鍛え始めるよ』
「……は?」
「さらっと未来バラすな!?」
マスター、一拍遅れて瞬きをする。
「……ん、今ちょっと深かったねぇ」
『楽しくなってきたからね』
「原因そこなんだ……」
『最初は効率的な身体操作に興味持つんだよね』
画面。
スロー再生。
しなる脚。
軸。
重心移動。
『無駄が少ない、予備動作が小さい、伝達効率が高い』
シエル、無言。
『で、理論上は人体でも可能って言い出す』
「嫌な始まり方したな!?」
『そこから筋トレ始めて』
『体幹、柔軟、瞬発力、重心制御。最終的に、普通に蹴りが重くなる』
「……やりません」
『いややる』
「いや、やるねぇこれ」
二重。
シエル、じっと見る。
「……どちらの意見ですか」
「半々かなぁ」
『未来視点だと確定事項』
「怖っ」
『しかも途中から、フォーム研究し始める』
「研究対象そこなんだ……」
『あと、ぼくも巻き込まれる』
「僕も?」
『最初、人体効率の検証とか言って付き合うんだけど。途中から普通に楽しくなる』
「終わった」
『深夜の境界堂でさ、二人で動画止めながら』
『今の重心移動おかしい、でも再現は可能。とかやってる』
「……」
『で、最終的に、シエルは蹴り主体、ぼくは崩しと関節制御側に行く』
「…役割分担されてるねぇ」
『あと二人とも、妙にフォーム綺麗』
「嫌すぎる!!」
少し笑う。
『でもねぇ。シエル、最初は絶対こう言うんだよ』
シエルを見る。
『ハマりません』
「…………」
画面。
\デレデレデーン!/
バチン!!
画面。
スロー再生。
シエル、無意識に。
「……踏み込みで重心を切ってますね」
沈黙。
「もう完全に研究者の顔なんだけど?」
「未来、確定かなぁ」
『うん』
楽しそうに。
『そのうち二人で、タイキックのフォーム褒め始めるよ』
「そのうち二人で、タイキックのフォーム褒め始めるかもねぇ」
声が重なる。
ほぼ同時。
「増えるな!!」
「説得力が!!」
シエル、無言で画面を見る。
タイミング。
軸。
踏み込み。
視線。
もう、完全に分析対象。
理性は拒否する。
でも。
「……軸が、綺麗ですね」
誰も蹴りの痛さを話していない。
その時点で、もう手遅れだった。
マスター「写真って見返すと面白いものだねぇ」
「今度アルバムでも開いてみようかな」
ファニー「お、珍しい」
マスター「今もう、同級生の名前と顔ほとんど一致してないしねぇ」
ファニー「どういうこと!?」
「卒アル意味無いじゃん!」
シエル「記憶の圧縮処理ですね」
マスター「いやいや、だって何年前だと思ってるの」
「一度も会ってないなら、忘れてても問題無いしねぇ」
ファニー「いや問題あるでしょ普通!」
シエル「ですが、“空気”だけ残ることはあります」
マスター「あー……それは、ちょっと分かるかも」
ファニー「急にしんみり戻るな!!」




