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1 藤堂と双子


南の島。

昼。


強い日差し。

波の音。


風はぬるく、どこか退屈。


砂浜に、男が一人。

藤堂。


サングラス。

ため息。


「……なぜ私はここにいるのだろうな」


息抜きで来たはずだった。

仕事は無い。

残ったのは、時間だけ。

——使い道のない時間。


その時。


「ねぇ」


声。

振り向く。

子供が二人。


金髪。ヘーゼルの瞳。

焼けた肌。

同じ顔。

双子。


「おっさん、暇?」

「見てわかるよね」


「……何者だ」


お互いを指さす。

撫でつけられた短髪。


「オレはカイリ」


肩口で切り揃えられたボブカット。


「私はリオ」


藤堂

沈黙。


波の音。


「で、暇?」


「……まぁな」


「じゃあ遊ぼ」


「断る」


二人、顔を見合わせる。

小さく頷く。


「この人、押せばいけるタイプ」


「だな」


「聞こえているぞ」


数分後。

なぜか。

砂浜に三人。


懐かれている。


「……なぜだ」


「ねぇ、なんで一人なの?」


「仕事だ」


「終わってるよね」


「……」


「じゃあ帰らないの?」


「帰る理由もない」


少しの間。


「じゃあ一緒だ」


「……何がだ」


「帰る理由、ない」

「だって、あそこに“居場所”ないし」


同じ“空白”を見抜く。

藤堂、わずかに視線を逸らす。

——見られたくないものを見られた顔。


その時。


足音。

砂を踏む音が、やけに静か。


振り向く。


一人の老人。

背筋が伸びている。

無駄がない。

目が鋭い。


「……やはりここでしたか」


双子、特に驚かない。


「爺や遅い」


「見つけるの下手」


「……知り合いか」


爺や、軽く頭を下げる。


「お見苦しいところを。…家出でございます」


「理由は」


「ないよ」


「なんとなく」


「……そうか」


否定しない。


爺や、二人を見る。

ほんの一瞬だけ。

柔らかく。


「……そうでしょうな」


藤堂、眉をひそめる。


「屋敷は」


少し言葉を選ぶ。


「この子たちには、少々……」


言い切らない。

“息苦しさ”だけ伝わる。


爺や、藤堂を見る。

まっすぐ。


「お願いがございます」


「断る」


「まだ何も申し上げておりません」


「だいたいわかる」


一拍。


爺や、わずかに笑う。


「……では、その通りでございます」


察している。


「この子たちを、少しの間で構いません」

「よろしくお願いいたします」


沈黙。

波の音。


「ねぇ」


藤堂を見る。


「この人、悪くないよ」


「うん」

「暇そうだし」


「……理由になっていない」


爺や、深く頭を下げる。

藤堂、空を見る。


眩しい。

ため息。


「……好きにしろ」


頷いた。


「感謝いたします」


去っていく。

迷いがない。


「……いいのか、あれで」


「いいんじゃない」


「どうせ戻るし」


「戻るのか」


「「そのうちね」」


“帰る場所はある”


でも


“今はここじゃない”


風が吹く。

波が揺れる。



……



朝。


潮の匂い。

波の音。

柔らかい光。


簡素な家。


藤堂、起きている。

すでに着替えている。

無駄がない。


机の上。朝食。

三人分。


沈黙。


「……起きろ」


奥の部屋。

反応なし。

もう一度。


「起きろ」


布団から足が生えている。

くぐもった声。


「……無理」


「なぜだ」


「今は寝る時間だから」


「朝だ」


「オレの中では夜」


「そうか」


一拍。


「……起きろ」


引きずり出す。



リオは起きている。


ただし。

髪、爆発。


「……」


「おはようございます」


「……その頭はなんだ」


「仕様です」


「違う」


カイリを起こす

リオの髪を整える


完全に保護者。



■午前。


外。


島の自然。

木。岩。斜面。

カイリ、解放。


「よーし!」


走る。

登る。

跳ぶ。


「オレを捕まえてみろ藤堂!!」


「断る」


数秒後。

追っている。


なぜか付き合ってしまう。


「はっはっはっ!」


木から木へ。

ほぼ猿。


「……落ちるぞ」


カイリ

落ちない。

……落ちかける。


「うおっ」


落ちない。


その頃。

地面。


リオ、座る。

スカート。

関係ない。

胡座。


アリ、行列。


「じーっ……」


「何をしている」


「観察です」


「なぜそこに座る」


「ここがいいので」


「服が汚れる」


「問題ありません」


「この子たち、無駄がないですね。……人間より」


「……そうか」


会話が成立しているようでしていない。



■昼


藤堂、息を整える。


「まだいける!」


「私はいけない」


「軟弱ですね」


「…サンドイッチを食え。水分も」


「「わーい」」



■夕方


夕焼け。

オレンジ。

藤堂、座る。


体が重い。


「……私は何をさせられているのだ」


遠い目。


一方。

双子。

ツヤツヤ。

元気。


「楽しかったな!」


「有意義でした」


エネルギー保存則がバグってる。


藤堂、ふと見る。


二人。

笑っている。


何でもない日。

何でもない時間。

学園ではなかったもの。


管理。規律。成果。

ここにはない。

代わりにあるもの。


「……ふっ」


口角が、少しだけ上がる。


「お腹がすきました」


「帰ろうぜ、藤堂!」


「……ああ」


立ち上がる。

夕焼けの中、三人。

ゆっくり歩く。



……



南の島。

午後。


潮の匂い。

ゆるい風。

遠くで波が砕ける音。


藤堂は縁側に腰を下ろしていた。

手元には湯呑み。中身はもう冷めている。


視線の先では、双子。


カイリが木から木へ飛び移っている。

もはや人間というより小型の野生動物だ。


「おれを捕まえてみろ藤堂!」


「……断る」


だが、立ち上がる。

すでに靴紐は結んである。

——最初から、追うつもりだ。


少し離れた場所では、

リオが地面にしゃがみ込んでいる。


スカートのまま胡座。蟻の行列をじっと観察。


「この子たち、すごいです。無駄がない」

「今日はこっちの列が面白いです」


「お前の方が無駄がないように見えるがな……」


ぼそりと返す。


二週間。

振り回されているはずなのに。

気づけば——

こちらが“合わせている”。


その時。

足音が一つ、静かに近づく。


「……藤堂様」


振り返ると、爺やが立っていた。


背筋は伸び、呼吸すら乱れていない。

いつの間に来たのか分からない。


「……来たか」


短く返す。


爺やは一礼し、双子へ一瞬だけ視線を向ける。

その目に、わずかな安堵。


「お二人とも、こちらでは……よく笑っておられるようで」


「そうか」


藤堂はそれ以上言わない。

爺やは続ける。


「本日は、正式なお話を持って参りました」


空気が少しだけ変わる。

波音は変わらない。

だが、会話の温度が一段下がる。


「“家”の件でございます」


藤堂の視線が細くなる。


「……聞こう」


「現在、親族間での“遺産”に関する動きが活発化しております」


「金か」


「ええ。ですが」


一拍。


「本質は、そこではございません」


爺やの声は、静かに、だが確かに重い。


「お二人は、“継ぐ側”として扱われております」


その言葉に、藤堂は双子を見る。


カイリはまだ木の上で笑っている。

リオは蟻の列を追いかけている。


“継ぐ側”。


その言葉が、あまりにも似合わない。


「……本人たちは理解しているのか」


「いいえ」


即答。


「ですが、“場”に戻れば、理解させられるでしょう」


風が止む。


「限界でございます」


爺やの一言は、それだけだった。

説明は不要だった。


藤堂は少しだけ目を閉じる。


学園。管理。矯正。

思考の枠に押し込む日々。

あの場所と、同じ匂いがする。


「……逃がしたのか」


「はい」


迷いのない返答。


「逃がした、ではなく」


わずかに言葉を選び、


「“出した”と申し上げた方が近いかと」


「……本来であれば。逃がすべきではありませんでしたが」


沈黙。


遠くでカイリが落ちる音がした。


「ぐえっ!」


「……ほら言わんこっちゃないです」


リオの冷静な声。

藤堂は小さく息を吐く。

そして、立ち上がる。


「……で、私に何をさせたい」


爺やは深く頭を下げた。


「お二人を、預かっていただきたい」


「……」


「正式に」


重い言葉。


だが、その中にあるのは命令ではない。

委ねる覚悟。


藤堂は双子を見る。

笑っている。

自由に動いている。

何にも縛られていない。


その光景が、妙に胸に引っかかる。


「……私は」


一度、言葉を切る。


自分探しの旅。

燃え尽き。空白。

何者でもない時間。


その中に、今この二人がいる。


「……適任には見えんがな」


「ですが」


爺やは顔を上げる。


「“今の藤堂様”だからこそ、お願いしております」

「管理する者ではなく——」

「“隣に立てる方”として」


視線がぶつかる。

評価でも、命令でもない。

ただの事実。


藤堂は小さく笑う。


「……面倒を押し付ける顔ではないな」


「ええ。押し付けてはおりません」

「任せているだけです」


沈黙の後。

藤堂は肩をすくめる。


「……任せるか」


短く。

だが、確定の言葉。


爺やは深く頭を下げた。


「感謝いたします」


そのまま、もう一つ。


「もう一点」


「……まだあるのか」


「はい。“家”としての正式な依頼を、外部へ出す予定でございます」


藤堂の眉がわずかに動く。


「内容は」


「“遺産”の確認と保護」


ああ、と藤堂は理解する。


「……金銀財宝探しか」


「そのように誤解されておりますが」


「実際は違います」


一瞬の沈黙。


爺やの言葉が落ちる。


「“場所”でございます」


藤堂は、わずかに目を細める。


「……具体的には」


「南の丘にございます」


一拍。


「“勿忘草(わすれなぐさ)の群生地”」


風が吹く。

遠く、青い花が揺れる。


「……観光地か?」


「表向きは」


少しだけ間を置いて、


「ですが、一定以上近づいた者は」

「“戻ってきておりません”」


藤堂の視線が止まる。


「……死んだのか」


「いいえ。…確認が取れないのです」


消えたわけではない

痕跡もある

だが、“確定しない”。


「“戻ってきた者もおります”」

「ただし——“戻る前の自分ではなかった”」


藤堂、双子を見る。

カイリ、走る。

リオ、観察する。


「本来であれば、お二人が関わるべき案件です」

「“継ぐ側”として」


「……無理だな」


爺や、静かに頷く。


「承知しております」


藤堂、少し考える。

そして、

小さく息を吐く。


「……私一人では対処出来ん」


その言葉に、爺やは何も言わない。

否定もしない。


藤堂、続ける。


「専門外だ。だが」


ほんの少しだけ、口角が上がる。


「適任はいる」


「なにそれ、誰だ?」


「……面倒な連中だ」


「信頼しているんですね」


「していない」


一拍。


「だが、“出来る”」


手紙を出す。

境界堂へ。


「……来るだろうな」

「あの連中は、“放っておかない”」


「——厄介なことに」



マスター「南の島回!バカンス!」

シエル「燃え尽きた大人が一名いますね」

ファニー「哀愁だね」

マスター「気のせい気のせい!たぶん!」


シエル「“戻ってこない花畑”とか言っていましたが」 「観光地、なのですよね」

ファニー「花畑見たい!」

マスター「綺麗だとは思うけど、お腹は膨れないよ?」

ファニー「情緒!?」

シエル「満たされるものが、別にあるのでしょう」

マスター「その言い方ちょっと怖い」


ファニー「でも行こ!」

シエル「ええ。そのための準備は、しておきます」

マスター「準備ってなに」

シエル「“戻るための準備”です」

ファニー「ピクニックじゃないの!?」

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