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番外編「ロックになる瞬間」

※次章から隔日更新になります。


■境界堂


夜。


スピーカーから、弦がゆるやかに重なる。

空気が整う。

呼吸が揃う。


ファニー、クッション抱えてごろり。


「ねぇマスター、音楽の趣味ってなに?」


シエル、紅茶を一口。


「傾向の分析には有用ですね」


マスター、少し考える。


「クラシックと、ハードロックかな」


「振り幅どうなってるの!?」

「極端ですね」


くすり。


「どっちもね。“構造が綺麗”なんだよ」

「……構造?」


指先が、空に線を引く。


「クラシックは――積み上げる」


一音ずつ、重ねるみたいに。


「音が増えて、意味ができて」

「最後に、“ああ、ここに来るのか”って収束する」


「ふむ」

「じゃあロックは?」


少しだけ間。

マスター、肩をすくめる。


「逆」


「最初から“核”がある」

「そこに全部、叩きつける」


ファニー、目を細める。


「積み上げるか、ぶつけるか」

「そうそう」


シエル、小さく頷く。


「前者は収束系。後者は集中系」

「いいねぇ、その言い方」


にやり。


「で、マスターは?」

「んー」


湯のみをくるり。


「普段はクラシック」


一拍。


「でもね」


視線が少しだけ鋭くなる。


「“ここ”って時は――ロックになる」


空気が、わずかに張る。

静かに。


「……戦闘時の挙動変化と一致」

「なるほどね!最後にドカンってやるやつ!」


「まぁ、そんな感じ」


ファニー、悪い顔。


「じゃあさ」


スマホを取り出す。


「今から試そ?」

「はい来ました」


「興味深い実験です」

「えぇ?」


嫌な予感。 


「クラシックからね。目閉じて」


(数秒)


「はい次ロック。音量上げるよ」


「ちょっ――」


―数分後。


「ねぇ今のどっち?」


マスター、真顔。

「……ロックだねぇ」


シエル、即答。

「クラシックです」


沈黙。


「耳どうなってるの!?」


こめかみを押さえる。


「いやぁ、途中で“構造”の方に意識がいっちゃってねぇ……」


「音ではなく“意味”を聴いていますね」

「もうこの人、音楽じゃなくて概念聴いてるよ……」


マスター、にこり。


「いいでしょ?静かな嵐も、うるさい静寂も――」


「そう言えば」


ファニー、にやり。


「境界融合体の時、口調荒くなるのもそういうこと?」

「あー…、そこ、聞いちゃう?」


「気になりますね」

「やだ。ノーコメントだねぇ」


――その瞬間。

“奥”で、誰かが笑う。

くす、と。


喉の奥じゃない。もっと深い場所から。

空気の裏側に、指先が引っかかる。


「……あーあ」


ひょい、と。

内側から顔を出すみたいに、声が割り込む。


「せっかく面白そうなのに、黙るの?」

『出てくるなって言ってるだろ!?』


「えー?」


楽しそうに笑う。


「今の流れでそれは無理でしょ」


一歩、前に出る“気配”。


「“荒い”んじゃないよ」


一拍。


「それが素」


ファニー、にやり。


「出たね、“中の人”」


シエル、低く。


「……観測対象、切り替わり」


「そんな構えなくていいって」


肩をすくめる。


「どうせもう見えてる」

『…余計なこと言うな』

「余計?」


くすくす。


「じゃあ、もっと余計なこと言おうか」


指で空に線を引く。歪んだまま残す。


「あいつの言葉は“後処理”」


一拍。


「削る」

「丸める」

「嫌われない形にする」


『違うって言ってるだろ』

「違わないよ」


一拍。


「……で?」


視線だけで詰める。


「出す勇気がないだけ」


空気が、冷える。


「……意図的な刺激」


「で、逆」


指を鳴らす。


「ぼくはそのまま出す」


一歩、踏み込む。


「それって荒いの?怖いの?」


沈黙。


「うわ、そこ突く?」

「……再定義を要求します」

「まぁいいや」


軽く流す。


「理由、もう一個」


声が落ちる。


「余裕がない」


「こいつは選べる」

「ぼくは無理」


とん。


「全部、同時」

「順番がない」


「……処理落ち?」

「違う」


一拍。


にやり。


「速すぎる」

「削る暇がない」


「……最短経路出力」


「そう」

「だから当たる」


『それが問題なんだよ』

「問題?」


くす。


「当たると困る?」


一歩。


「でもさ」

「あいつも同じ」

「“ここ”って時、ロックになるでしょ」


間。


「その時の喋り方――」

「ほぼ、ぼく」


沈黙。


「……収束点で一致」

「そういうこと」


にやり。


「普段は削ってるだけ。本気は削らない」

『……だから嫌なんだよそれ』

「嫌っていうか」


一拍。


「バレたくない、でしょ」


静寂。


「うわ……」

「核心到達」


「安心しなよ」


逃がさない声。


「荒くなるのは余裕がない時」


一瞬、笑う。


「あと、“誤魔化すのやめた時”」

『……言い方』

「いいじゃん」


にやり。


「綺麗なのも君。汚いのも君」


一歩引く。


「どっち隠すかは、好きにすれば?」


――少しの沈黙。


「ま、いいや」


軽く流す。


「せっかくだしさ」


ふと、視線を落とす。


「一回ちゃんと混ざる?」

『は?』

「ほら、説明めんどいし」


空白体、ふと視線を落とす。

何もない空間を“見つけた”みたいに。


「……あ、いいのあるじゃん」


にやり。


「押しちゃお」


『待て』


カチ。


『待て待て待て待て――!?』



\軽率フュージョン!/



空気が、ぐにゃっと“混ざる”。


でも、重くない。

炭酸みたいに、弾ける感じ。

輪郭が少しズレて、重なる。


「……あー、これこれ」


顔を上げる。


境界融合体のマスター。

笑ってる。

――少しだけ、遅れて。


「説明するより早いね」


ファニー、目を輝かせる。


「きた!」

「観測強化」

「そんな大げさじゃないって」


肩をすくめる。


「で?」

「僕らに、聞きたいことあるよね」


にやり。


「あるでしょ?」


融合体の声。

温度が少しだけ違う。

混ざってる。


でも、ちゃんと“遊んでる”。


「なんでそんなプリン好きなの?」

「味覚傾向に幼児性が見られます」


「……それ、今聞く?」


にやり。


「まぁいいや」

「単純。“裏切らない味”だから」


一拍。


「再現できる」

「ズレない」

「外さない」


視線が、ほんの少しだけ細くなる。


「安心ってさ」

「コントロールできるってことだよ」


沈黙。


「……不確定性の回避」

「正解」


少し低く。


「僕ら、“外れ”嫌いなんだよ」

「料理も、人も、展開も」

「読める安心、選ぶタイプ」


「……だから“削る”?」


「全部一緒」


指を鳴らす。


「ズレないラインに寄せてる」

「リスク最小化」


「うん。でもさ」

「そればっかだと?」


「はい来た」

「“当たらなくなる”」


間。


「プリンしか選ばなくなる」

「出た、拡張解釈」

「でも嫌いじゃない」


少しだけ柔らぐ。


「ちゃんと守れてる」

「ただ」


にやり。


「たまには外れ引けよ」


一歩近づく。


「じゃないとさ」

「本当に当たった時、分かんなくなるよ?」


少しだけ笑う。


「それ、もったいなくない?」


一拍。


「……それさ、“外れ”引かされる側の気持ちは?」

「リスクの外部転嫁が含まれています」


にやり。


「でしょ?」


肩をすくめる。


「だから言ってるじゃん。“たまに”って」


少しだけ柔らぐ。


「全部やれとは言わないよ」

「偏るな、ってだけ」


くす、と笑う。


「これが“削らない思考”」

「そのまま、当てにいくやつ」



ファニー、腕を組む。


「じゃあさ」


少しだけ覗き込む。


「“読めないやつ”はどうすんの?」

「子供とか」


「んー……苦手」


即答、

だけどちょっとだけ柔らかい。


「感情、フルスロットルで来るから」

「綺麗なんだけどね」


少しだけ首を傾ける。


「処理できない」

「だから距離取る」


ファニー、少しだけ口を尖らせる。


「……それ、ちょっと寂しくない?」


シエル、横から。


「合理性はありますが、情緒的損失が発生しますね」


融合体、少しだけ笑う。


「うん、するよ」


あっさり。


「でも処理できないまま抱える方が、もっと面倒」


肩をすくめる。


「だから距離取るだけ」

「嫌いっていうより、“不得意”かな」


「……なるほどね」


「でも例外」


視線を向ける。


「君たちはいける」

「ちゃんと、読めるから」


にやり。


「扱える」


「根拠は?」

「読めるから」


「合わせられる」

「同調可能性」


「そう」

「完全ランダムじゃない」


「結局、扱えるかどうか?」


一瞬。

そして笑う。


「うん」

「それ以外いる?」


「出た合理主義モンスター!」

「制御性優先」


「だってさ」


少し肩をすくめる。


「扱えないもの、増やすの面倒でしょ」


にやり。


「――あ」


一瞬、視線がズレる。

何もない場所を見る。


「……今の、いいや」


すぐ戻る。


「続けよっか」


一拍。


ファニー、ぴたりと動きを止める。


「……今のなに?」


シエル、わずかに目を細める。


「観測不能領域への一時接続を確認」


融合体、首を傾ける。


「気にするほどじゃないって」

「……たぶん」


ほんの一瞬だけ、笑い方がズレる。


すぐ戻る。


「続けよっか」


「だから最初から選んでるだけ」


「急に現実的!」

「処理資源の問題ですね」


肩をすくめる。


「まぁ安心していいよ」


笑う。


「余裕ある時なら、大丈夫」


一拍。


「余裕ないやつが相手すると――」


少しだけ、間。


視線だけが、合う。


「壊れるけど」


「言い方ァ!!」

「的確ですが夢がありません」



空気が、ふっとほどける。

混ざりものは消える。


残るのは、静かな夜と――マスター。

耳が、ほんのり赤い。


「イイ話だったねー」

「ええ」


「……どのへんが?」


「全部」

「“削らない方が本質”の部分ですね」


「……忘れてくれない?」


「無理」

「記録済みです」


「ですよねぇ……」


「守る時荒くなるの、バレたね?」

「言ってない、あいつが言った」


「同一人物です」

「そこ分けてほしいなぁ……」


「プリンも核心だったね?」

「やめて」


「予測可能性依存」

「やめて」


「子供の話も」

「やめてってば」


沈黙。


「……なんでこうなるかなぁ」

「境界踏んだからだよ」


「構造を語る者は、自身も露呈する」

「名言っぽく言わないでくれる?」


一拍。


「ま、いいじゃん」

「削ってるのも、削ってないのも、どっちもマスターでしょ?」


「ええ。両方観測済みです」


マスター、目を細める。

少しだけ、安堵。


「……参ったなぁ」

「逃げ場ないじゃないか」


「最初からだよ」


「ええ、最初からです」

「逃げ道、ありませんでしたね」


音楽が流れる。

今度はちゃんと、“音”として。


――ほんの一瞬だけ、

さっきと同じ“ズレ”が混じる。



マスター「じゃあ、プリンの新作食べてみようかな」

ファニー「へー、何味?」

マスター「パクチーコーヒー味」

シエル「…挑戦し過ぎでは?」

マスター「大丈夫だいじょうぶ」


数分後。


マスター「…人を選ぶ味だったねぇ」「うっ、鼻からパクチー…」

シエル「何故これが商品として成立しているのでしょうか」

マスター「……次は普通のにするねぇ」

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