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5 境界融合体《パラドクス》


夜の廃ビル。


外壁は古く、 窓はほとんど割れている。

ネオンの光がかすかに反射している。


入口前。

境界堂のメンバーが立っていた。


ファニーが空を見上げる。


「うわー」


指差す。


「いかにも出そう」


シエルが端末を確認する。


「霊波濃度」


画面を見つめる。


「高いです」


カノンの声がインカムから飛ぶ。


『そこです!』

『反射霊波が一点に集中しています!』

『鏡世界の入口の可能性が高いです!』


ファニーがため息をつく。


「可能性じゃなくて確定であってくれ」


クロードが一歩前へ出る。

コートが夜風で揺れる。


「入るぞ」


その時。

後ろから軽い声。


「うん」


空白体が伸びをする。


「ちょうどいいね」


ファニーが振り向く。


「なにが」


空白体 笑う。


「ここ」


ビルを指差す。


「三回くらい壊れる場所なんだよ」


「縁起悪い未来情報!」


シエルが端末を操作する。

画面の中心。

赤い波形。


「ここです」


廊下の奥。

古い扉。


その前に。


巨大な鏡。

壁に立てかけられている。


表面がゆらゆら揺れている。

まるで水面。


「……あれか」


カノンの声。


『触れないでください!』

『構造解析します!』


数秒。

端末がピコンと鳴る。


『解析完了!』

『反射構造です!』

『鏡面を媒介に空間を折り畳んでいます!』


「つまり?」


『飛び込めば入れます!』


「雑!」


シエルが冷静に言う。


「理屈は正しいです」


クロードが鏡を見る。

鏡の奥。

黒い波紋。


『迷える者よ』


低い声が漏れる。

鏡の怪異だ。


ファニーが拳を鳴らす。


「よし」

「殴りに行く」


空白体が笑う。


「順番大事だよ」


指を立てる。


「まず」


自分を指差す。

「ぼく」


次にクロード。

「次」


ファニー。

「その次」


シエル。

「最後」


軽く言う。


「全員」

「雑な指揮!」


クロードは何も言わない。

ただ。

鏡の前へ歩く。


手袋を引く。

黒革が鳴る。


低い声。


「起きろ」


一拍。


「餓狼」


空気が変わる。


次の瞬間。

クロードが鏡を殴る。


ドン。


鏡面が爆発するように波打つ。

水のように崩れる。

空間が裂ける。


白い光。

重力が歪む。


「うお!?」


ファニーが叫ぶ。


足元が消える。

全員が鏡の中へ落ちる。

世界が回転する。


白。

鏡。

破片。

無数の反射。


そして。

着地。


白い空間。

鏡世界。


幾多の鏡。

その中心にマスターが立っている。


周囲には

無数のマスター。


鏡が映した可能性。


マスターが振り向く。

そして。

いつもの調子で言う。


「おや」


軽く手を振る。


「早かったね」


「助けに来たよ!」

「状況説明を」


クロード

周囲を見る。


空白体は笑う。


ファニーが目を丸くする。


「マスターがいっぱいいる」


シエルが冷静に判断する。


「分岐未来の反射体…」


クロードは何も言わない。

ただ。

一歩前へ出る。


奥の鏡が歪む。


ゆっくりと

赤い瞳が開く。


現れる。


鏡空白体。


「うわ」


空白体が

赤い瞳の自分を見る。


「ぼく増えてる」


鏡空白体は

境界堂メンバーを見渡す。


そして。

小さく笑う。


『へえ』


ゆっくり首を傾ける。


視線が

ファニー

シエル

クロード


順番に止まる。


そして。

言う。


『なるほど』


少し楽しそうに。


『君たちが』


一拍。


静寂。


『僕を作ったんだね』


空気が止まる。


「……は?」


「作った?」


カノンの声がインカムから飛ぶ。


『違います!』

『そんな構造は観測されてません!』


鏡空白体が笑う。


『でも事実だ』


赤い瞳が輝く。


『彼がここに来た理由』


マスターを見る。


『彼が壊れた理由』


境界堂を見る。


『全部』


指を鳴らす。

鏡が一斉に鳴る。


『君たちだ』


沈黙。


マスターが頭を掻く。


「いやぁ」


困った顔。


「そこまで言われると」


軽く笑う。


「ちょっと照れるねぇ」


「照れるな!」

「そこじゃありません!」


クロード

一歩前へ出る。

低い声。


「黙れ」


黒革手袋が鳴る。

静かな殺気。


戦闘が始まる直前。


鏡空白体が指を鳴らす。


パチン


その瞬間。


周囲の鏡マスターが

一斉に止まる。


ファニーが気づく。


「……あれ?」


さっきまで動いていた

無数のマスター。


全員が

静止している。


「反応が…止まった?」


次の瞬間。


パキ。

鏡がひび割れる。


一人。

また一人。

鏡マスターが崩れる。

ガラスの破片になる。


そして。


その破片から

黒い影が溢れる。


祈り声。


『教祖様……』

『救いを……』

『導いて……』


「うわ!」


影が床から湧き上がる。


何十。

何百。


「鏡反射体が…」


理解する。


「信徒霊に置換されています」


クロード

低く言う。


「増幅装置か」


鏡空白体が笑う。


『可能性は消えた』


赤い瞳が細まる。


『残るのは信仰だけだ』


―砕ける。


マスターが周囲を見る。


さっきまでいた

無数の自分。

全部いない。


少しだけ目を伏せる。


「……あーあ」


頭を掻く。


「せっかく色んな僕がいたのに」


少し笑う。


「全員ログアウトかぁ」

「そこ感想!?」


その瞬間。

影が襲いかかる。


―戦闘開始。


ファニーが拳を振り抜く。


ドン!

影が弾ける。


「多すぎ!」


シエルが端末を操作する。


「増殖しています」


レンズが光る。

霊弾が撃ち出される。


影が消える。

だが。

また湧く。


クロードが前に出る。

コートが揺れる。


一閃。


影が十体同時に崩れる。


低い声。


「本体を落とす」


その奥。


巨大な鏡。


怪異の影が浮かぶ。

顔のない存在。


空白体がその鏡を見る。


「なるほど」

「本体はあれか」


その隣。

マスターが腕を組む。


「そうだね」


鏡の奥から声。


『愚かな人間』

『救いを拒むのか』


「その宗教ノリやめろ!」


影が一斉に襲いかかる。


「右側です!」

「任せろ」


三人が戦う。


だが。

数が減らない。


マスターが呟く。


「鏡が増幅してるね」


空白体が肩をすくめる。


「決め手に欠けるねぇ」


マスターは肩を回す。


「そうだねぇ」


影が迫る。


マスターが軽く避ける。

空白体が蹴りで吹き飛ばす。 


二人が並ぶ。

少し沈黙。

影が迫る。


マスターが言う。


「……ねえ」


空白体を見る。


「一回やってみる?」


空白体が笑う。


「ああ」


一歩、近づく。


「……もう、分かれてる意味も薄いしね」


二人が向き合う。


ファニーが気付く。

「え」


シエル。

「まさか」


クロード。

「……」


マスターと空白体。


腕を構える。

ポーズ。


そして。

同時に叫ぶ。


「フュージョン!!」


――一瞬、ズレる。


「……もう一回」


もう一度。


「フュージョン!!」


光。


空間が歪む。

鏡が震える。

影が後退する。


光が収まる。 


風が吹く。

鏡の破片が宙に浮く。

影が静かに揺れる。


そこに立っていたのは

一人。


榛色の髪。

そして。


紫の瞳。

アメジスト。


赤と青が溶け合った色。


衝動と理性。

境界と人。


どちらでもあって、どちらでもない色。


瞳の奥で

星が瞬いていた。


シエルが呟く。


「瞳の色が……」

「新規生成されています」


「合体カラーだ……!」


「…融合の証だな」


目を開く。


紫の瞳。


「……いいね」


一歩前へ。


「すごく、しっくりくる」


怪異が震える。


『お前は、何だ』


彼は少し笑う。


「僕ら?」


一歩前に出る。

紫の瞳が光る。


「名前がいるなら」


一拍。


境界融合体(パラドクス)でいい」


苛立つように鏡が軋む。


『人は弱い!』

『私の言う通りにすれば全てうまくいく!』


沈黙。

彼が少し笑う。


「ハハッ」


首をかしげる。


「またそれ?」


一歩踏み出す。


そして。


「うるせえよ」


紫の瞳が細くなる。

その奥で、わずかに赤が滲む。


「説教はもう聞き飽きた」


少し笑う。


「それよりさ」


指を鳴らす。


「戦おうよ」


周囲にある全ての鏡から

蜘蛛の糸のような霊糸が飛ぶ。


彼は霊糸を見上げる。


「へぇ」


「縛るつもり?」


笑う。


「悪いけど」


「僕ら、そういうの嫌いなんだよ」


指を鳴らす。


「それ、捕縛だろ」


指を鳴らす。


「――定義、上書き」


糸がほどける。


『……!』


「え」


「定義改変……」


「やるな」


紫の瞳が輝く。

赤と青が、内側で揺れる。

歩く。

影が近づく。


だが。

触れる前に影が崩れる。


彼が小さく笑う。


「いいね」


「やっぱり戦いは」


紫の瞳が輝く。


「こうでなくちゃ」


『教祖様……』


彼が静かに言う。


「それ」


「誰が決めた?」


影が消える。

怪異が叫ぶ。


『愚かな!』


巨大な鏡が砕ける。

無数の鏡片。

すべてから怪異の顔が現れる。


彼は鏡の破片を見る。

少し笑う。


「綺麗だね」


「でもさ」


肩を回す。


「楽しい時間は」


一歩踏み出す。


「もう終わりだ」


紫の瞳が、わずかに淡くなる。


「僕らの時間は短い」

「だから」



「――全部、終わらせよう」



次の瞬間。


鏡世界が割れる。


衝撃。

光。

怪異の悲鳴。


境界堂のメンバーが目を細める。


そして。


静寂。


光が消える。


紫の瞳が揺れる。

色が、ゆっくりほどけていく。


彼が息を吐く。


「……終わりだ」



白い光がほどける。


意識が離れていく。


その奥で。

声が重なる。


『楽しかったね』


「……ああ」


――少しだけ、静寂。


空白体が笑う。


『――また、やろうか』


光がほどける。

姿が分かれる。


―マスター。


―空白体。



沈黙。



「マスター!」


「境界安定しました」


「無事か」


「……」


止まる。


顔が赤くなる。

両手で顔を覆う。


「今の全部聞いてた?」


「聞いてた!」

「全部記録されています」

「見事だった」


「違うそうじゃない!!」


しゃがみ込む。


「僕らとか言った!?」

「うるせえよとか言った!?」


「言った!」

「明確に言いました」


「うわあああああ!!!」


「可愛い!」

「ねえシエル録音ちょうだい!」


「ギャップが大きいですね」

「慣れろ」


空白体だけが笑う。


『いやぁ』


肩をすくめる。


『楽しかったね』


「お前も言うな!!」


鏡の破片が散らばり、光が乱反射する中。

穏やかな笑い声が響いていた。


光の届かない廃ビルの奥。


最後の鏡が

静かに割れる。


その一瞬。


鏡の中で。

紫の瞳が

微笑んだ。


そして。


誰にも聞こえない声で

小さく呟く。


鏡の中。

紫の瞳が、わずかに細くなる。


「――またやろう」


鏡が砕ける。


完全な静寂。




■境界堂


「いやー!今回はいいデータが取れましたね!ホント、ワタクシも現地に居たかったくらい!」


目を輝かせて身を乗り出す。


境界融合体(パラドクス)のマスターは攻撃的でしたね!なにを感じて、なにを考えていたのですか!?是非教えて下さい!」


「……聞かないで」


「なるほどなるほど!」


嬉しそうにメモを取る。


「人格は同一!しかし後に羞恥が残る!」


「つまり融合中は空白体側の気質が優勢!テンションMAXの戦闘モード!」


ペンが止まらない。


「融合体の制限時間としては……3分ほどでしょうか?実に解析しがいのあるモードですね!」


「……その辺りにしておけ」

「え?」


「被験者が壊れる」

「もうヤダ」


「ちなみに融合中の音声データは全て保存済みです!」

「消して」


「研究資料なので無理です!」

「後で俺が消してやる」


「師匠!?」




マスター「楽しかったよ!楽しかったけどさぁ!」

ファニー「言ってた!」

シエル「記録されています」

カノン「バッチリ録音しました!」

マスター「消して!!」

クロード「無理だ」

マスター「うわああああん!!」

空白体「……これはクセになるねぇ」「ふふ」


シロ「録音とは良い文化じゃな」

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