表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/70

2 グルメ怪異のあと、覗き返す鏡


街灯が並ぶ歩道。

自販機の前。


ファニーがボタンを見つめている。


手には缶。


ラベル。

お茶。


「コーラ押したのにお茶出た!」


カノンの目が輝く。


「怪異ですね!!」


「ただの故障です」


「いや三回連続だぞ!」


足元。

缶。

またお茶。


カノンが自販機に顔を近づける。


「霊波測定します!」


端末を出す。

ピッ。

装置が光る。


さらに近づく。


突然。

ガタン。


また缶が落ちる。


ラベル。

お茶。


「ほらああ!!」


「反応ありました!!」


「やっぱ怪異じゃねえか!」


シエルが画面を見る。


「弱い霊的反応」


クロードが腕を組む。


「つまり怪異だ」


マスターが自販機を見る。

暗いガラス。

心の奥で声。


『いるね』


(いるね)


自販機の中。

ガラスの奥。


影。


小さな黒い影が

缶の隙間を

ぴょこぴょこ動いている。


目を細める。


「今なんか動いた」


「捕獲しましょう!!」


「壊す」


「早い早い」


マスターが近づく。

自販機に手を置く。


「観測」


光がわずかに揺れる。

影が震える。

自販機の奥から

小さな声。


『にがい……』


沈黙。


「喋った!?」


「意思持ち怪異です!!」


「分類:低級です」


マスターが少し首を傾ける。


「コーラ嫌いなの?」


『にがい……』


影が

缶の間を

もぞもぞ動く。


『あまいのがいい……』


「甘党かよ!」


カノンがハッとする。


「なるほど!」


目が輝く。


興奮。


「この怪異、飲み物を選んでいる可能性があります!」


「は?」


「甘いものが欲しくて」


自販機を指差す。


「中で動いているのでは!」


その瞬間。

自販機の中。


コーラの缶が

ぐらっ

揺れる。


しかし。

横の缶が落ちる。

ガタン。


お茶。


「ずれてる!!」


「干渉が弱いんです!」

「低級怪異なので!」


「つまり」


自販機を指差す。


「コーラを取ろうとして」


画面を見る。


「隣の缶を落としている」


「ポンコツ店員じゃねえか」


クロードが自販機を軽く叩く。

ガン。


『ひぃ』


「脅すな!」


マスターが少し考える。


「じゃあこうしよう」


ボタンを押す。

カチ。

落ちる缶。

コーラ。


『……』


静止。

影が

ゆっくり近づく。


『……』


影が

コーラに触れる。

ぷるぷる震える。


『あまい……』


声が少し嬉しそう。


「飲んでるのか?」


「物理摂取ではありません」


「味覚の記憶を吸収していると推測されます」


『あまい……』


満足そうに

ふわっと浮く。


『あまい……』


そのまま

空気に溶ける。

消える。


沈黙。


「……帰った?」


「霊反応消失です」


カノンがメモを書く。


「未練解消型の消失です!」

「甘味欲求が満たされた可能性!」


「ただのグルメ怪異じゃねえか!」


「平和だな」


マスターが空の缶を見る。

心の奥の声。


『変なの』


(確かに)


その時。

シエルの端末が

ピッ

光る。


画面を見る。


「新しい怪異反応」


「また?」


「弱い反応」


画面拡大。

住宅街の表示。


「この先の路地」


「行くぞ」


五人が歩き出す。

その先。

街灯の少ない住宅街。

静かな路地。


遠くで車の音が一度だけ通り過ぎる。


ファニーが歩く。

缶コーラを片手に。


プシュ。

一口。


「さっきの自販機怪異」


肩をすくめる。


「平和すぎだろ」


カノンが横で胸を張る。


「怪異にも個性があります!」


シエルが端末を見る。

歩きながら。

その足が

ふと止まる。


「……」


静かな声。


「弱い霊反応です」


空気が少し変わる。

住宅街の路地。

街灯が一つ。


その下に

影。


小さな少女。

街灯の光に溶けるように

影が揺れている。


顔だけが

暗くて見えない。


『帰りたい』


声は小さい。

風に混ざる。


カノンが慌てて呼吸を整える。


「感情残滓型怪異です……はぁ……」


肩で息。


「事故や事件など……強い感情が残ると……」


ゼェ。


「こういう形で……現れることがあります……」


「また説明しながら息切れしてる!」


「体力は……研究対象外です……」


少女の影が

ゆらりと揺れる。

顔は見えない。


でも

口だけが動く。


『帰りたい』


静かな声。

マスターが一歩前に出る。

靴の音が小さく鳴る。


「家?」


少女の影が揺れる。

ほんの少し。

頷くように。


『うん』


間。


『ままが待ってる』


沈黙。


住宅街の夜が

やけに静かになる。


シエルが端末を操作する。

淡い光。


「周辺データ検索」


少しして。

シエル


「三年前」


画面を見たまま。


「この交差点で交通事故」


「……あー」


視線が下に落ちる。

少女の足元。


アスファルトに

うっすら。

白い横断歩道の線。

消えかけている。


マスターがしゃがむ。

少女と同じ高さになる。

緑の瞳。

静か。


「もう」


少しだけ考える。


言葉を選ぶ。


「帰る時間は終わってる」


影が揺れる。

ゆっくり。


『……』


間。


小さな声。


『じゃあ』


影が揺れる。


『どこにいけばいいの』


マスターの瞳が

わずかに光る。


「次の場所」


静かな声。


「観測」


空気が変わる。

影が

一瞬だけ震える。


「君は」


指を鳴らす。

小さな音。

パチン。


「帰れないんじゃない」


影がほどけ始める。


「もう」


「帰った後なんだ」


その瞬間。

少女の輪郭が

ふっと浮かぶ。


影じゃない。


人の形。

小さな女の子。

三年前のまま。


少女が

少しだけ笑う。


『……そっか』


風。


街灯が

カチ、と小さく鳴る。


影がほどける。

光に溶ける。


そして

消える。


街灯の下には

誰もいない。

静かな路地。


ファニーが空を見る。


「成仏ってやつ?」


カノンが嬉しそうにメモを取る。


「浄化成功例です!」


「霊反応消失です」


そのとき。


マスターが

一度だけ

横断歩道を見る。

消えかけた白線。


小さく。


「……おやすみ」


夜風が吹く。

誰もいない横断歩道。


でも


一瞬だけ


子供の足音が

聞こえた気がした。


横断歩道を

渡る音だった。


「帰るか」


その時。

シエルの端末。


ピッ。


画面。

大きな波形。


「……」


「まだあるの?」


「規模が違います」


画面を見せる。

位置。

廃ビル。


カノンが画面を見る。

息を呑む。


「……これは」


少し沈黙。

そして。

カノンが言う。


「私、境界堂に戻ります」


「え?」


「観測機器をフル稼働させます」


息を整える。


「遠隔解析が必要なレベルです」


クロードが頷く。


「わかった」


マスターが夜空を見る。


遠く。

廃ビルの窓。

月が映る。


まるで

鏡のように。


マスター「コーラ!炭酸!鼻がぁ!」

ファニー「炭酸逃がすの失敗してる」

シエル「下手くそですね」

カノン「観測します!」

クロード「拭け」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ