4 拳
クロードが歩く。
赤い雷が地面を焼く。
その瞬間。
記憶がよぎる。
静かな断片。
人生のページ。
22歳。
小さな病院。
赤ん坊。
小さな手。
クロードの指を握る。
「あうあー」
まだ言葉にならない声。
クロードは戸惑いながら
そっと抱き上げた。
24歳。
公園。
春。
小さな子供が全力で走ってくる。
「パパー!」
小さな靴が
砂を蹴る。
クロードが受け止める。
抱き上げる。
空が青い。
30歳。
机の上。
機械部品。
配線。
工具。
クロードが図面を見る。
戦闘補助装置の構想。
異能者の反応速度を
限界まで引き上げるシステム。
クロードが小さく呟く。
「……そうか」
回路が
頭の中で繋がる。
だが。
クロードは
図面を閉じた。
「量産は無理だ」
設計は
そこで止まった。
38歳。
玄関。
出発前。
娘がむくれている。
「一年ってながい」
クロードは短く言う。
「すぐだ」
頭を軽く撫でる。
娘がぼそっと言う。
「パパすぐって言うの好きだよね」
39歳。
学園。
警備員が二人。
その横を
工具箱を抱えた娘が歩いてくる。
制服は支給品。
袖が少し長い。
娘は笑って言う。
「パパ久しぶり!」
クロードは
一瞬だけ目を細めた。
娘はいつもの調子だった。
それを確認すると
視線を戻す。
娘が続ける。
「あとね」
少し得意げ。
「パパの理論、ちょっと借りた」
クロードが眉をひそめる。
「……何を作った」
娘がにやっと笑う。
「ヒミツ!」
40歳。
機関の地下工房。
赤い光。
装置が唸る。
クロードは足を止めた。
見覚えのない装置。
床に散らばる工具。
机の上のノート。
びっしり書かれた数式。
子供の字。
装置の起動ログ。
開発者。
KANON
端末の画面に
装置名が表示される。
GAROU
Genetic
Adaptive
Reaction
Overdrive
Unit
クロードは
静かに装置を見る。
赤い回路が走る。
通常仕様
汎用戦闘補助ユニット
その下。
カノンの追記。
『師匠用に調整しました』
クロードは
小さく息を吐く。
低く呟く。
「……これが」
赤い光が
瞳に映る。
「餓狼か」
そして
今。
同じ光が
クロードの拳を走る。
赤い雷が走る。
低い声。
「……機関」
目が据わる。
「潰す」
低く。
娘に聞かせない声で。
■学園 正門
サイレン。
赤い警告灯。
防衛システム起動。
学生達が走る。
「侵入者!」
「正門が破られた!」
夜の門の向こう。
煙。
その中から
二つの影が歩いてくる。
赤い雷。
そして
黒いコート。
クロード。
マスター。
学生の一人が震える。
「……あれが」
「侵入者?」
クロードが歩く。
一歩。
地面が割れる。
バチバチッ。
赤い雷が走る。
学生の一人が
小さく呟く。
「……あれ」
震える声。
「クロード先生だ」
かつての授業を
思い出すような声。
学生の一人が叫ぶ。
「止めろ!!」
三人の能力者が前に出る。
炎。
風。
重力。
同時に放たれる。
ドォォン!!
爆発。
煙。
学生達が息を呑む。
「やったか――」
煙の中。
赤い雷。
クロードは
一歩も下がっていない。
目が据わっている。
ゆっくり拳を握る。
「邪魔だ」
一歩踏み込む。
ドン!!
拳。
一撃。
炎の能力者が
吹き飛ぶ。
次。
風。
クロードが腕を振る。
雷が弾ける。
能力が散る。
最後。
重力能力者。
クロードの足が止まる。
重力がかかる。
地面が沈む。
学生が叫ぶ。
「止めた!!」
クロード。
静かに言う。
「……そうか」
理解。
出力型の重力。
一点集中。
少しだけ
口角が上がる。
次の瞬間。
餓狼が唸る。
赤い雷が爆発する。
重力が
砕けた。
クロードが踏み込む。
学生の目の前。
低く言う。
「どけ」
拳。
ドォォン!!
能力者が吹き飛ぶ。
地面を転がる。
静寂。
学生達が凍る。
クロードが前を見る。
学園の奥。
地下へ続く建物。
そこに
カノンがいる。
クロードの声。
低い。
「……地下三階」
マスターが隣で言う。
「案内してもらおうか」
少しだけ笑う。
「親切な学生さんがいるみたいだしねぇ」
学生達が
本能的に道を開ける。
赤い雷が
夜の学園を照らす。
■学園内部 深夜
警報。
赤い回転灯。
学生たちが走る。
「侵入者だ!」
「正門が壊された!」
廊下の奥。
煙。
その中から
赤い雷が現れる。
クロード。
餓狼。
バチバチと雷が壁を焼く。
その横を
マスターが普通に歩く。
ファニーが小走り。
「ちょっとクロード!スピード速いって!」
シエルは端末を操作している。
「地下三階へのルートを解析中です」
その時。
端末の画面が
バチッ
と光った。
「……接続?」
画面にノイズ。
そして。
元気な声。
『わーお!!』
モニターいっぱいに
カノンの顔。
少しふっくらした頬。
蒼い瞳。
めちゃくちゃ楽しそう。
『すっごい振動こっちまで来たよー!』
『助けに来てくれたんだね!わーい!』
「元気だなこの子!」
「拘束されている人物のテンションではありません」
カノンが映像を確認する。
そして
クロードを見る。
目が輝く。
『ああ!師匠!』
画面に顔が近づく。
「……」
『それ餓狼の秘密モード!』
身を乗り出す。
『なになに!?ブチギレなの!?』
クロードの雷が
バチッ
床を焼く。
『あ、やっぱり!』
嬉しそう。
シエルが冷静に言う。
「状況説明を」
『はいワタクシ地下三階です!』
『捕まってます!』
「軽い軽い!」
カノンが急に真顔になる。
クロードを見る。
『あ、でも』
指を振る。
『とりあえず落ち着いて!』
「……」
『餓狼その出力だと!』
端末を操作。
画面に餓狼の出力グラフが出る。
ピーク。
『過負荷で壊れちゃうから!!』
指でグラフをつつく。
「……」
『せっかくアップデートしたのに!』
「そこ!?」
「技術者の優先順位ですね」
クロードが
ほんの少しだけ
雷を抑える。
『ありがと師匠!』
嬉しそう。
■学園内部
サイレン。
赤い警告灯。
学生と職員が走る。
「侵入者は二名!」
「正門が破壊された!」
「異能反応Sランク!」
監視室。
研究員が叫ぶ。
「侵入者、校舎へ進入!」
「止めろ!!」
その頃。
廊下。
クロードが歩く。
赤い雷。
バチバチッ。
壁が焦げる。
ファニーが後ろを小走り。
「だから速いって!」
シエルは端末を見ている。
その画面に
カノン。
地下三階の檻の前。
椅子に座ってる。
楽しそう。
『はいはーい!』
『地下三階ナビゲーター、カノンです!』
「なんでそんな元気なの!?」
『だって面白いこと起きてるし!』
「あなた拘束されていますよね」
『はい鉄格子です!』
指でコンコン叩く。
カンカン。
「アナログ!」
『さすが機関!』
「感心するな!」
カノンが指を立てる。
『じゃあ地下三階まで案内するねー!』
「あなたシステムにアクセス出来るのですか」
『もちろん!』
得意げ。
『ワタクシ《接続》持ちですから!』
その瞬間。
カノンの瞳が
蒼く光る。
■学園監視室
研究員
「ん?」
端末を見る。
「ドアロックが…?」
ピッ。
電子ロック解除。
別の研究員
「エレベーター動いた!?」
ログ確認。
アクセス元
地下三階。
研究員
「……は?」
画面がフリーズ。
防衛砲台
停止。
研究員
「侵入経路を塞げ!」
ログを再確認。
また同じ表示。
地下三階。
沈黙。
別の研究員が
小さく言う。
「……カノン」
空気が凍る。
「危険技術者」
その時。
全てのモニターに
一瞬だけ
ノイズが走る。
ザッ。
そして
小さな手書き文字。
『案内中です by カノン』
■学園廊下
クロード達の前の扉。
ガチャッ
自動で開く。
「え?」
カノンの声。
『そこ右ー!』
「誘導されています」
『階段よりエレベーターの方が速いよ!』
砲台が並ぶ通路。
クロードが歩く。
赤い雷。
「撃ってこないね」
『止めた!』
ドヤ顔。
『だって危ないし!』
「いやあなた捕まってる側!!」
■地下二階
カノン。
椅子の上で足をぶらぶら。
モニター越しに言う。
「はい次エレベーター!」
「そこ乗ってー!」
クロード達の前。
エレベーターが
チーン
と開く。
クロードが
小さく呟く。
「……無事か」
小さく。
自分に言うみたいに。
「完全に案内されてる!」
「内部協力者付き侵入ですね」
「……」
赤い雷が
バチッと弾ける。
カノンが嬉しそうに言う。
「師匠!」
「もうすぐ地下三階!」
少し間。
そして
にこっと笑う。
マスター「クロードの人生見ちゃった」
ファニー「ちゃんと人間だったんだね」
シエル「仕事人間ですね」
クロード「…潰す」
マスター「わー逃げろー」
ファニー「逃げるの早っ!」
シエル「判断が合理的です」




