5 待ち伏せ、確定
■学園 地下二階
エレベーターの扉が開く。
チーン。
クロードたちが降りる。
赤い警報灯。
静かな廊下。
ブツン。
施設の光が一瞬だけ揺れる。
シエルの端末画面が
真っ黒になる。
『え?』
『……あれ?』
もう一度接続。
ピッ
ピッ
エラー。
『ここから先…』
『オフラインゾーン』
「え?」
『ネットワーク断線』
『内部回線も遮断』
『遠隔制御できない』
少し悔しそうに言う。
『ワタクシ…』
『ただの人間になりました』
「急に弱体化!!」
シエルは壁を見る。
手を触れる。
金属。
厚い。
「……理解しました」
「何がだ」
「ここから先は」
「電子能力者対策です」
少し歩く。
そして
それを見つける。
物理防衛区画
対電子能力者
最終隔離ライン
巨大な扉。
分厚い鉄。
横には
古いタイプの
手動ロックハンドル。
その奥。
鉄格子。
さらに
もう一枚の扉。
「急に原始的なんだけど!!」
シエルの端末から声だけが聞こえる。
『文明レベルが急に中世なのです…』
「電子能力、電磁干渉、侵入プログラム」
「全て遮断されています」
全部
無意味。
クロードが
静かに扉を見る。
「えーっと」
「これ鍵いるやつ?」
「おそらく」
「管理室に」
「面倒だねぇ」
その時。
クロード
前に出る。
「どけ」
クロードは
肩を回す。
ゴキッ
骨が鳴る。
「いや待って」
「その顔ダメなやつ」
クロード
拳を握る。
赤い雷が
バチッと走る。
「電子がダメなら」
少し笑う。
「物理だ」
間。
「やっぱりそうなるよね!?」
クロード
一歩踏み込む。
筋肉が
爆ぜる。
拳。
振り抜く。
―ドゴォォォン!!
衝撃。
扉が内側に
大きくへこむ。
クロード
もう一発。
――ドゴォォン!!!
金属が
悲鳴をあげる。
鉄格子が
曲がる。
「開きそう」
「開くんだこれ!?」
クロード
三発目。
―――ドガァァァン!!
ついに扉が吹き飛ぶ。
重い鉄扉が
床に転がる。
ゴゴン…
静寂。
マスター
「……」
ファニー
「……」
シエル
「……」
カノン
『さすが師匠です!』
クロード
普通の声。
「行くぞ」
「文明の否定!!」
「電子戦敗北だねぇ」
シエル
小さく呟く。
「合理的ですね」
「合理的なのこれ!?」
四人は
そのまま
奥へ進む。
■地下二階 奥通路
物理防衛区画 奥通路
吹き飛んだ鉄扉の先。
細長い通路。
照明は暗い。
コツ
コツ
コツ
「ねぇ」
「絶対いるよね」
「いるねぇ」
「高確率で待ち伏せされているかと」
その瞬間。
カチッ
安全装置。
照明が一斉に点灯。
バッ
通路の奥。
武装兵。
十数人。
重機関銃。
防弾装備。
「侵入者確認」
「排除する」
「はい来た!」
「撃て!」
ダダダダダ!!
「散れ」
「了解!」
「回避」
三人が
左右に跳ぶ。
その中央を
マスターだけが
歩いていた。
しかし
マスターには
当たらない。
彼は
歩いているだけだ。
一歩。
弾丸が
横を通り過ぎる。
もう一歩。
銃弾が
背後の壁を砕く。
「当たらない!?」
違う。
マスターが
そこにいない。
ほんの少し
体をずらす。
足を半歩
引く。
それだけで
弾道が
全部外れる。
その時。
胸の奥。
空白の底で
何かが
静かに
目を開く。
――面白い。
――久しぶりだ。
マスターの足取りが
ほんの少しだけ
軽くなる。
一歩。
弾丸の隙間へ。
二歩。
銃弾の流れを
すり抜ける。
三歩。
体が
弾道の間を
選んで歩く。
兵士の一人が
震えた声で言う。
「……待て」
隣の兵士
「撃て!!」
兵士は
青ざめた顔で
マスターを見る。
「こいつ」
マスターの目は
まっすぐ前。
銃口も
弾丸も
一度も見ていない。
兵士すら見ていない。
まるで
別のものを
見ているように。
兵士の喉が
鳴る。
「弾を見てない」
兵士が震える。
「なのに」
喉が鳴る。
「避けてる」
ファニー。
「……あれ?」
シエル
静かに観測する。
「挙動変化しています」
マスターは
気付かない。
ただ
口元が
ほんの少し
上がる。
「……今、笑った?」
ほんの一瞬。
楽しそうな顔。
すぐに
消える。
「……え?」
シエル
小さく呟く。
「空白体反応」
「微増」
「微増って何それ」
マスターは
歩き続ける。
弾丸の雨の中。
まるで
夜道の散歩みたいに。
胸の奥。
空白の底で
何かが
静かに言う。
――もういい。
――飽きた。
マスターが
立ち止まる。
兵士たちが
引き金を引く。
ダダダダダ!!
その瞬間。
マスターが
振り向く。
何でもない顔。
少しだけ笑う。
「……今だ」
「待ってました!」
ダッシュ。
兵士の間へ
飛び込む。
「ファニーパンチ!!」
ドゴォン!!
兵士が吹き飛ぶ。
クロードも動く。
雷
バチッ。
「邪魔だ」
拳。
ドガァン!!
装甲兵が
壁へ叩きつけられる。
シエル
冷静に指示。
「左二人」
「足」
「りょーかい!」
回し蹴り。
バキッ!!
「ぐっ!」
クロード
もう一人。
ドン!!
銃が砕ける。
そして
マスターは
ゆっくり歩く。
弾丸は
もう飛んでこない。
胸の奥。
空白は
静かに
沈む。
――終わったか。
少し
つまらなそうに。
戦闘は
数十秒で終わる。
最後の兵士が
倒れた。
静寂。
その時。
通路の壁に
光が走る。
ブゥン。
ホログラム起動。
空中に男の姿。
痩せ型。
整ったスーツ。
白髪混じりのオールバック。
金縁眼鏡。
神経質な顔。
「出た」
「管理官」
男は静かに言う。
『侵入者諸君』
『よくここまで来た』
クロード
低く言う。
「……藤堂」
藤堂は
少し笑う。
『待っていたぞ』
視線が
クロードから動く。
マスターを見る。
ほんの一瞬
眉が寄る。
『……妙だな』
少し首を傾げる。
『劣化している』
静かな声。
『未成熟個体』
『少年型能力体』
少し間。
『だが』
目が細くなる。
『昔の方が』
『よほど安定していた』
ファニー。
「え?」
シエル
黙る。
クロード
「……」
藤堂は続ける。
『君は雷』
クロードを見る。
『制御不能の破壊力』
そして
マスターへ視線。
『そしてあなたは』
『出力異常』
『あなたの周囲では』
『異能の出力が不自然に跳ね上がる』
少し間。
『計測不能だ』
『危険だ』
「うわ」
「いきなり危険認定」
『理解している』
『あなたは戦闘型ではない』
目が細くなる。
『だが』
『雷と同時に存在するなら』
『被害は都市規模になる』
「都市!?」
『だから』
『管理する』
後ろのホログラムが
防衛ラインを映す。
『ここは危険物保管区画』
『異能者は』
『番号』
『監視』
『拘束』
静かに続ける。
『必要なら』
『排除』
クロード。
「臆病者」
少し間。
『……そうだ』
『私は怖い』
『だから』
『管理する』
マスターを見る。
『あなたは違う』
『理解しようとする』
『隣に立とうとする』
『愚かだ』
「そうかい?」
『狂人だ』
少し視線を落とす。
『だが』
またマスターを見る。
『興味深い』
ほんの一瞬。
目が
輝く。
「出た研究者!」
藤堂。
『雷』
クロードを見る。
『出力異常』
マスターを見る。
『両方、ここで確保する』
クロード
雷
バチッ。
藤堂は最後に言う。
『安心したまえ』
『排除は最後の手段だ』
ほんのわずかに
笑う。
『まずは収容する』
ホログラムが
鉄格子を指す。
『そこまで来い。理想主義者』
防衛ラインの銃が
一斉に上がる。
『君の世界が』
『どこまで通用するか』
『見てみたい』
ホログラムが
揺れる。
藤堂は
ふと視線を横に向ける。
カノンの拘束モニター。
ほんの一瞬。
『……ああ』
小さく呟く。
『ついでに』
少しだけ笑う。
『うちの天才も』
『回収してくれ』
カノン。
「うわっ」
「ついで扱い!?」
淡々と続ける。
『接続系異能、機関技術、暴走傾向』
少し間。
『極めて有用』
そして。
冷たく。
『極めて危険』
『ワタクシ褒められてる!?』
「半分だけです」
藤堂
最後に言う。
『壊すには惜しい』
ほんの一瞬
マスターを見る。
『あなたと同じだ』
通信
切断。
ブツン。
静寂。
「うわぁ」
「めちゃくちゃ嫌な人」
「合理的恐怖です」
「気に入らない」
マスターは
鉄格子を見る。
その向こう。
カノンがいる。
「迎えに来たよ」
少し笑う。
「さあ、行こうか」
「了解!」
「壊す」
「戦術開始です」
そして。
四人は
防衛ラインへ走った。
―学園初期―
マスター「やあ、君がクロードだね」
「僕はマスターだよ。よろしくね」
クロード「…直人と聞いて―」
マスター「マスターだよ」
クロード「……そうか」
ファニー「押し切った!!」
シエル「合理性で敗北しましたね」




