3 師匠、へるぷみー!
境界堂
怪異討伐帰り。
ファニーが大きく伸びをする。
「ふいー!今日も楽勝ー!」
シエルが端末を閉じる。
「コンディションは良好です」
クロードが短く頷く。
「……三位一体だったな」
ファニーが笑う。
「うんうん!連携ばっちり!」
境界堂。
いつもの夜。
いつもの仕事。
そのとき。
シエルのモニターが
バチン
と音を立てて点いた。
「!」
画面に走るノイズ。
ザザ……ザ……
ファニーが顔を寄せる。
「なにこれ?」
シエルの指が止まる。
「侵入……」
少し間。
「……いや、違う」
画面が揺れる。
「接続です」
ノイズの奥から
明るい声。
『――あっー!つながったー!』
画面が弾ける。
そこに映ったのは
少女の顔。
画面いっぱい。
にっこり笑顔。
頬が少しふっくらしている。
元気そう。
『やあやあ境界堂のみなさんこんにちは〜!』
『映像遅延0.3秒、音声同期良好!』
「!?」
「……誰です」
少女は胸を張る。
『ワタクシはカノンさんだよ!』
元気いっぱい。
『クロードの師匠がいつもお世話になってるね!ありがと!』
クロード。
無言で
額を押さえた。
深く息を吐く。
ファニーがひそひそ。
「知り合い?」
「……師匠だ」
「師匠!?」
シエルの視線が鋭くなる。
「……どうやって回線に?」
カノンは気にしない。
満面の笑み。
『それはさておき!』
クロードが低く言う。
「簡潔に言え」
カノン。
笑顔のまま。
言った。
『機関の地下三階に捕まってます!』
沈黙。
「……え?」
「……は?」
カノンが手を振る。
『いやー捕まっちゃった!』
一拍。
『てへ』
クロードのこめかみが
ピクッ
と動く。
その瞬間。
モニターが大きくノイズを吐く。
ザザザザザッ
映像が崩れる。
カノンの顔が歪む。
『――あ、やば』
回線が弾ける。
そして最後に
声だけが飛ぶ。
『師匠、へるぷみー!』
ブツッ。
通信が消えた。
■ 機関 地下三階
警報灯が一瞬だけ点滅する。
監視室の端末に 通信ログが走った。
「外部接続?」
オペレーターが顔を上げる。
「……遮断しました」
沈黙。
部屋の奥。 一人の男が立っている。
藤堂。
腕を組み、 モニターを見ている。
そこには ほんの一瞬だけ映った。
カノンの顔。
藤堂は静かに言う。
「わざとだ」
誰も答えない。
「彼女は分かっている」
少し間。
「誰に届くか」
モニターを消す。
黒い画面。
藤堂の声は低い。
「来るぞ」
部屋の空気が
少しだけ冷える。
「雷が、来る」
「そしてもう一人」
オペレーターが顔を上げる。
「もう一人?」
「あの男の隣にいる」
「異常な出力の個体だ」
藤堂は
少しだけ目を細める。
モニターに残った
通信ログを見る。
「……妙だな」
「未成熟個体と報告されているが」
「昔の方が」
「よほど安定していた」
少し間。
「今のあれは」
「人間の形をした」
「空洞に近い」
「両方」
「ここで止める」
「――あの男を、ここに」
藤堂は
端末を一つ操作する。
地下三階。
エレベーターの
ロックが外れる。
「迷わないように、な」
■境界堂
静寂。
境界堂の空気が
ほんの少し沈む。
「……え?」
シエルが端末を操作する。
高速。
だが。
「通信」
短く言う。
「消失」
静寂。
モニターは黒いまま。
誰も動かない。
マスターは
椅子に座ったまま
黙っていた。
ほんの数秒。
それから
小さく息を吐く。
「へえ」
ほんの少しだけ
笑う。
机に指を置く。
トン。
軽く叩く。
「今」
視線を上げる。
「そんな事になってるんだ」
クロードの拳だけが
ゆっくり握られていく。
ミシ。
骨が鳴る。
腕から
赤い光が滲む。
バチッ。
雷。
床に細い稲妻が走る。
ファニーが息を飲む。
「……クロード?」
クロードは答えない。
視線は
消えたモニター。
そこから動かない。
低く
呟く。
「……機関」
赤い雷が腕に集まる。
バチバチバチッ。
空気が焦げる匂い。
シエルが静かに言う。
「出力上昇」
端末の画面が警告を出す。
エネルギー異常
クロードの足元。
床にヒビ。
雷が漏れる。
「許さない」
声は低い。
けれど
境界堂の壁が震える。
ファニーが思わず言う。
「ちょ、ちょっと待って」
「境界堂壊れる壊れる!」
クロードはゆっくり目を閉じる。
そして
呼吸。
深く。
ゆっくり。
その瞬間。
目を開く。
赤い光。
「……起きろ」
一言。
静かに言う。
「餓狼」
ドンッ
赤い雷が爆発した。
境界堂の空気が揺れる。
雷光がクロードの体を走る。
腕。
肩。
背中。
まるで
赤い獣が体の中で目を覚ましたみたいに。
バチバチバチバチッ!!
床のヒビが広がる。
シエルが冷静に言う。
「餓狼モード確認」
「いや確認してる場合じゃないって!!」
クロードが一歩踏み出す。
床が割れる。
雷が尾を引く。
目は
完全に据わっている。
「……行く」
その横で。
マスターが
コーヒーを一口飲んだ。
静か。
まるで
いつもの夜みたいな顔。
カップを置く。
コト。
立ち上がる。
軽く肩を回す。
「機関ね」
少し笑う。
「久しぶりに壊すか」
コーヒーをもう一口飲む。
「たまにはいいよね」
「壊す!?」
「学園ですよ」
「うん」
さらっと言う。
「だから」
コートを羽織る。
「正門から行こう」
クロードの雷が
さらに強く光る。
バチッ。
「え、ちょ、ちょっと待って」
「普通こういうの潜入とかじゃない!?」
「うん」
ドアを開けながら言う。
「今日は違う」
振り返る。
少し笑う。
「迎えに行くだけだから」
クロードが低く言う。
「分かってる」
沈黙。
「誘ってるんだろ」
赤い雷が走る。
「藤堂」
マスターは 少しだけ首を傾ける。
「まあ」
静かに笑う。
「藤堂も、来てほしいんでしょ?」
「……」
雷が鳴る。
低く言う。
「潰す」
「潰そっか」
「ちょっとぉぉぉ!!」
ファニーが頭を抱える。
「うち平和な事務所のはずなんだけど!?」
「……戦争ですね」
境界堂の扉が開く。
外は夜。
そして今。
機関の悪夢が始まる。
マスター「者ども、であえ!であえ!討ち入りじゃー!」
ファニー「いや合ってるけどさ!」
シエル「時代錯誤ですね」
マスター「だって言ってみたかったんだもん」
クロード「もんとか言うな」
シロ「楽しそうで何よりじゃ」




