4‐3 師匠、へるぷみー!
境界堂
怪異討伐帰り。
ファニーが大きく伸びをする。
「ふいー!今日も楽勝ー!」
シエルが端末を閉じる。
「コンディションは良好です」
クロードが短く頷く。
「……三位一体だったな」
ファニーが笑う。
「うんうん!連携ばっちり!」
いつもの夜。いつもの仕事。
そのとき。
シエルのモニターが、バチンッ!と音を立てて点いた。
「!」
画面に走るノイズ。
ザザ……ザ……
ファニーが顔を寄せる。
「なにこれ?」
シエルの指が止まる。
「侵入……。……いや、違う」
画面が揺れる。
「接続です」
ノイズの奥から明るい声。
『――あっー!つながったー!』
画面が弾ける。
そこに映ったのは少女の顔。
画面いっぱいのにっこり笑顔。
頬が少しふっくらしている。
元気そう。
『やあやあ境界堂のみなさんこんにちは〜!映像遅延0.3秒、音声同期良好!』
「!?」
「……誰です」
少女は胸を張る。
『ワタクシはカノンさんだよ!』
元気いっぱい。
『クロードの師匠がいつもお世話になってるね!ありがと!』
クロード。
無言で額を押さえた。深く息を吐く。
ファニーがひそひそ。
「知り合い?」
「……師匠だ」
「師匠!?」
シエルの視線が鋭くなる。
「……どうやって回線に?」
カノンは気にしない。
満面の笑み。
『それはさておき!』
クロードが低く言う。
「簡潔に言え」
カノンは笑顔のまま言った。
『機関の地下三階に捕まってます!』
沈黙。
「……え?」
「……は?」
カノンが手を振る。
『いやー捕まっちゃった!』
一拍。
『てへ』
クロードのこめかみが、ピクッと動く。
その瞬間、モニターが大きくノイズを吐く。
ザザザザザッ
映像が崩れる。
カノンの顔が歪む。
『――あ、やば』
回線が弾ける。
そして最後に声だけが飛ぶ。
『師匠、へるぷみー!』
ブツッ。
通信が消えた。
■ 機関 地下三階
警報灯が一瞬だけ点滅する。
「外部接続?」
オペレーターが顔を上げる。
「……遮断しました」
部屋の奥で、藤堂は静かに口を開く。
「予定通りだ」
誰も言葉を返さない。
「通信経路は、私が開けた」
少し間。
「彼女なら必ず使う」
モニターには、境界堂へ発信された通信ログが残っている。
「そして、あの男なら必ず来る」
誰も答えない。
「彼女は、助けを求める相手を間違えない」
モニターを消す。
黒い画面。
藤堂の声は低い。
「来るぞ」
部屋の空気が
少しだけ冷える。
「雷は来る」
少し間を置き、
「そして、観測者も」
オペレーターが眉をひそめる。
「未成熟個体のはずでは?」
「報告書ではな」
藤堂は静かに笑う。
「だが、今のあれは違う。人の形をした空洞だ」
「両方、ここで止める。――あの男を、ここに」
藤堂は端末を一つ操作する。
地下三階の、エレベーターのロックが外れる。
「迷わないように、な」
■境界堂
静寂。
境界堂の空気がほんの少し沈む。
「……え?」
シエルが端末を高速で操作する。
だが、
「通信、消失しました」
静寂。
モニターは黒いまま。
誰も動かない。
マスターは椅子に座ったまま黙っていた。
ほんの数秒。それから、小さく息を吐く。
「へえ」
ほんの少しだけ笑う。
机に指を置く。
トン。
軽く叩く。
「今」
視線を上げる。
「そんな事になってるんだ」
クロードの拳だけが、ゆっくり握られていく。
ミシ。
骨が鳴る。
腕から赤い光が滲む。
バチッ。
雷。
床に細い稲妻が走る。
ファニーが息を飲む。
「……クロード?」
クロードは答えない。
視線は消えたモニターから動かない。
低く呟く。
「……機関」
赤い雷が腕に集まる。
バチバチバチッ。
空気が焦げる匂い。
シエルが静かに言う。
「出力上昇」
端末の画面が警告を出す。
エネルギー異常。
クロードの足元。床にヒビ。雷が漏れる。
「許さない」
声は低い。
けれど、境界堂の壁が震える。
ファニーが思わず言う。
「ちょ、ちょっと待って!境界堂が壊れるってば!」
クロードはゆっくり目を閉じる。
そして、呼吸。深く、ゆっくりと。
その瞬間。
目を開く。
赤い光。
「……起きろ」
一言。
静かに言う。
「餓狼」
ドンッッ!!!
赤い雷が爆発した。
境界堂の空気が揺れる。
雷光がクロードの体を走る。
腕。
肩。
背中。
まるで赤い獣が体の中で目を覚ましたみたいに。
バチバチバチバチッ!!
床のヒビが広がる。
シエルが冷静に言う。
「餓狼モード確認」
「いや確認してる場合じゃないって!!」
クロードが一歩踏み出す。
床が割れる。
雷が尾を引く。
目は完全に据わっている。
「……行く」
その横で、マスターが静かにコーヒーを一口飲んだ。まるで、いつもの夜みたいな顔。
カップを置く。
コト。
立ち上がる。
軽く肩を回す。
「機関ね」
少し笑う。
「久しぶりに壊すか」
「壊す!?」
「学園ですよ」
「うん」
さらっと言う。
「だから」
コートを羽織る。
「正門から行こう」
クロードの雷がさらに強く光る。
バチッ。
「え、ちょ、ちょっと待って!普通こういうの潜入とかじゃない!?」
「うん」
ドアを開けながら言う。
「今日は違う」
振り返る。
少し笑う。
「迎えに行くだけだから」
クロードが低く言う。
「分かってる」
沈黙。
「誘ってるんだろ」
赤い雷が走る。
「藤堂」
マスターは 少しだけ首を傾ける。
「まあ」
静かに笑う。
「藤堂も、来てほしいんでしょ?」
「……」
雷が鳴る。
低く言う。
「潰す」
「潰そっか」
「ちょっとぉぉぉ!!」
ファニーが頭を抱える。
「うち平和な事務所のはずなんだけど!?」
「……戦争ですね」
境界堂の扉が開く。
外は夜。
そして今。
機関の悪夢が始まる。
マスター「者ども、であえ!であえ!討ち入りじゃー!」
ファニー「いや合ってるけどさ!」
シエル「時代錯誤ですね」
マスター「だって言ってみたかったんだもん」
ファニー「もんとか言うな!」
クロード「カノン、今迎えに行く」




