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10-4 女子校の怪異


■境界堂・昼


一枚の依頼書が机の上にある。

ファニーは紙を持ったまま固まる。


「……女子校潜入?」


シエルが横から読む。


「聖アグネス女学院。全寮制。男子禁制」


マスターはソファでごろり。


「青春だねぇ」

「潜入する側なんだよ!?」

「しかも怪異案件です」


依頼内容は生徒の失踪、記憶から抜け落ちる違和感、祈祷後の人格均質化。


「絶対ヤバいやつじゃん……」

「ですが、潜入自体は合理的です。内部観測が必要になります」


シエルは視線を上げる。


「問題は、マスターですね」

「ん?」

「どう見ても男性です」

「そうだねぇ」


「私とシエルはまあ何とかなるとして……」

「俺は女装で対応可能です」

「適応力どうなってんの?」

「訓練です」


マスターはのんびり。


「じゃあ僕は外で待機?」

「「ダメです」」


「中枢対応要員が必要です」

「ええ〜」


二人がはっと顔を上げる。


「あ」

「……あ」


同時に同じ方向を見る。


「嫌な予感しかしないねぇ」



■地下ラボ


重厚な隔壁。機械音。謎の蒸気。

そして、満面の笑みのカノン。


「待ってましたーーーーーッ!!!!」


「うわ出た」

「目が輝いていますね」


カノン、両手を広げる。


「ついに来ましたか!!第二次・女体化計画!!」

「計画にされてたんだ」


びしっと奥を指差す。


「前回の装置は簡易版!今回は安定性重視です!!」


奥の巨大装置。

妙に丸い。妙にピンク。妙にハート型。

中央には、怪しく発光する台座。


「なんでこの見た目なの!?」

「ノリです!」


「意味はないのですか」

「ありません!!」


無駄に堂々としている。

マスターは装置を見上げる。


「なんか悪の組織っぽいねぇ」

「最先端です!!」


装置の周囲で、光が脈動する。

得意げ。


「女体化時の骨格再編、筋出力調整、重心補正、衣服最適化まで完全対応!!」


「無駄に技術力高いなぁ……」

「問題は信頼性ですが」


サムズアップ。


「理論値は完璧です!」


「理論値って言った」

「言いましたね」


くるり。


「ではマスターさん!!ここの台座に乗ってください!!」


ハート型台座。ピンク発光。謎のキラキラ演出。

マスターは静かに見る。


「……帰っていい?」

「ダメです!!」


押される。


「わっ」


台座へ。

ピコン、と起動音。


「なんか認証された!?」

「嫌な予感しかしません」


カノン、端末操作。


「安定化補助としてトルクさん製カフスも接続します!」


耳元の銀色のイヤーカフ。

カチ。


「これ必要?」

「位相固定です!!女体化中の身体安定に使います!!」

「さらっと危ない単語が出ましたね」


テンション上昇。


「最終安全確認!!」


装置、展開。

ガコン!! ギュイイイイン!! バチバチバチッ!!


「いや絶対音が危ない!!」

「演出過剰です」


カノンはスイッチめがけて両手を振り上げる。


「それでは行きますよーーーーーっ!!」

「待っ――」

「おりゃーーーーーっ!!!!」


光。轟音。沈黙。


ふわり、と。

榛色の髪がほどけるように伸びる。肩を流れ、腰まで落ちる。


骨格が静かに変わる。肩が細くなり、腰がくびれる。重心が滑る。


服が音もなく変質する。白のノースリーブタートルネック。身体に沿うタイトロングスカート。


空気が止まる。


「…………は?」

「…………」

「おお……」


台座の上。

長髪の女性。

目元の空気感や表情。マスターだと、一瞬で分かる。


「……うん?終わった?」


本人だけ平常。

一歩踏み出す。

つま先がガッ。


「いっっっ!!??」


即つまずく。しゃがみ込む。足を押さえる。


「いたいよー……」

「中身そのままだ!!」

「運動適応が追いついていませんね」


マスターは顔をしかめながら立ち上がる。

スカートを押さえる。重心を探る。


「……前より動かしやすいねぇ」

「それは良かったです!!」


ファニーがじーっと見る。


「……なんか普通に美人なの腹立つな」

「理不尽だねぇ」


シエルも冷静に観察。


「声帯変化も自然です。違和感は少ない」


マスターは自分の髪を摘まむ。


「長いねぇ」


そのまま振り向き、装置に引っかかる。


「痛っ」

「ポンコツ!!」


カノン、ぱちんと指を鳴らす。


「ちなみに戻る時は、またこの台座に乗ってくださいね!そしてここのボタンを押せば激痛と共に戻れます!」


沈黙。


「今なんて?」

「聞き捨てなりませんね」

「激痛なんだ」


「人体再編ですからね!!」

「そこ笑顔で言うんだ……」


さらに笑顔。


「安心してください!死にはしません!!」

「安心材料が最低ライン!!」


その横で。女体化マスターが慎重に一歩。

ふらり。シエルが即支える。


「危ないですよ」

「ありがとう。ヒール慣れないねぇ」


ファニー、じっと見る。


「……ねえシエル」

「なんですか」

「これ、女子校に投入して大丈夫?」


シエルは静かに答える。


「……多分、別方向で問題が起きます」

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