19.そしていとし子は永遠に愛される
セシルがウェッジウッドにきてから暖かな季節を迎えるのは5度目だ。
ウェッジウッドでは短いこの季節。
色とりどりの花を見ながらゆっくりできるようにとつくられた立派な東屋にはセシルの姿。
お気に入りの本のページをめくりながら時折花に目をやる。
穏やかな笑みを浮かべるセシルの視線の端にふと写った人物。その姿を見てセシルはゆっくりと立ち上がる。
「リオネル」
リオネルと呼ばれたその少年はセシルの姿を見てうれしそうに駆け出す。
「母様!」
元気な声を出してセシルの近くまできたリオネルは太陽のような笑顔を見せる。
明るい金色は父親譲りで、グレーに近いブルーの瞳はセシルによく似ている。
「今日もお父様と稽古をしていたの?」
リオネルの右手に持つ小さな木剣を見てセシルがそう問いかける。
「はい。でもお父様にはまだまだ敵いません」
少ししょんぼりするリオネルの髪をゆっくりと撫でるとセシルは視線を合わせるようにその場にしゃがむ。
「リオネルは頑張っているわ。ほら、女神もそう言っているわよ」
セシルがそう言うと、周りに銀色の花が舞う。
「わあ! 女神様のお花!」
嬉しそうに手を伸ばすリオネルを見てセシルは胸の内で感謝を伝える。
セシルは今や完全に女神の力をコントロールしている。いや、コントロールしているというよりはセシルの意思に女神が応じてくれているのだ。そしてセシルもそのことを十分に理解している。
それが顕著に感じるようになったのは4年前にリオネルを産んだとき。セシルにとってかけがえのない出産という経験に女神の感動という感情があふれ出てきたのだ。
その強い感情に部屋が凍るのでは、とセシルがリオネルをかばうように抱きしめたのだが、そのような現象は起こらなかった。代わりにベッドサイドのテーブルに手のひらほどの氷の獅子が現れたのだ。
それは女神からのお祝いだということを感じたセシル。
そして女神は「獅子」の名付け親にもなった。
セシルの中で魔力を暴走させてからというもの、セシルの思いに反して女神の力が出ることはなくなった。そしてリオネルが産まれてからはセシルの意思を感じとって女神が力を発現させるようになったのだ。それはセシルが息をするかのように自然に。
今もセシルの言葉に従い、リオネルを笑顔にさせるため女神は銀色の花を降らせた。そこにはセシルの意思だけでなく、女神の意思もある。女神も自ら名付けることとなったリオネルを大事に思っているのだとセシルは感じている。
そしてそれはおそらくこの子にも……。
セシルは慈しむように大きくなったおなかを撫でる。
「セシル」
柔らかく自らを呼ぶ声にセシルは顔を上げる。
「アレックス様」
立ち上がろうとするセシルに駆け寄りその手を取って体を支えるアレックスにセシルは笑みをこぼす。
「そのように過保護になさらなくとも」
「何を言っているんだ。転んだら大変だ。ただでさえ足下が見えないのだから」
いつでも抱き上げて移動するのに、などとぶつぶつ言うアレックスに「ふふっ」と思わず声が出るセシル。
リオネルを妊娠したときも全く同じことを言っていたのを思い出す。
セシルが笑っているのを見てアレックスは眩しいものを見るかのように目を細める。そしてリオネルも嬉しそうに笑う。
「僕、お母様の笑顔大好き!」
「お、リオネル、奇遇だな。それは私もだ」
「まあ」
アレックスがリオネルと拳を付き合わすのを見てセシルは瞬きをしてまた笑った。
「セシル、今日も愛しているよ」
それは毎日のようにセシルへと伝えられるアレックスからの言葉。
穏やかに流れる時間をともに過ごし、女神の力を気にすることなく感情を出すことに何の違和感もなくなっても。
アレックスからの想いは変わらずずっとセシルに注がれる。
そしてそれはセシルも同じ。
「わたくしもアレックス様を愛しています」
二人見つめ合えば、間からかわいい声が聞こえてくる。
「僕も! 僕もお父様とお母様が大好き」
「もちろん私も好きだよ」
「ええ。わたくしも」
リオネルの手をとった二人は幸せそうに微笑み歩き出す。
空はどこまでも晴れ渡り、未来を照らすような暖かな日差しが3人を包み込んでいた。
完
これにて「氷の女神のいとし子は女嫌いと言われる公爵様に溺愛される」は終了となります。
更新が滞ったりして結構長くかかりましたが、無事最終話まで書き上げられました。
これも読んでくださる方のおかげです。
ありがとうございました。




