09
「あれ?」
おかしい、いつもの可愛い後輩ちゃん組はいるのに由良がどこにもいない。
教室に確認しにいってもそうだった、まるでこの世界から消えてしまったみたいだ。
あの人がいないと困るんだけどな、もう出会う前とは違うんだ。
「ねえ桜ちゃん、由良がどこにいるのか知らない?」
「連絡先を交換しているんだから電話をかけるなりしてみたらいいと思うけど」
確かに。
でも、あの人なら例えば風邪で休んでいる場合なら自分から送ってきそうなんだけどな。
それすらもできない状態ということなら……不味いね。
「どう?」
「反応はないね」
一時間ぐらいは待とうか。
そもそも授業の時間があるからスマホの利用はここまでだ。
時間がかかっても反応してくれればそれでいい気持ちだったから授業中にそわそわすることもなかった。
逆に謎の集中力の高さで最後までやり切れた、こんなことは初めてだ。
「返事なし、と」
やっぱり体調が悪すぎるのかもしれない。
それでも一時間目と同じように午前中の授業は全て同じような感じだった。
「凪」
「咲玖君どうしたの?」
「今日は一緒にお昼ご飯を食べよう」
「はは、いいよ」
なんかこうして彼とゆっくり過ごすのも久しぶりだあ。
「久しぶりな感じがするよ」
「そう感じるのは友達が増えたからじゃないかな」
茉莉ちゃんから始まって、由良、桜ちゃんと話せる相手が一気に三人も増えた。
話して終わりじゃなくて一緒に遊びにいける仲になっているのもありがたい話だ。
自惚れでもなんでもなく、その中の二人が興味を持ってくれているということもね。
「ずっとお世話になっておきながら友達ができたらそっちばかりを優先しちゃってごめんね?」
「そんなのいいよ、凪が一緒に過ごしたい人と過ごしてよ」
「遠慮しないで来てね」
「うん、凪とはずっといたいから」
魅力的な年上の異性探しはしているのかな?
気になって聞いてみると「いまは特に探していないかな」と普通に答えてくれた。
「またトビー君に会いに来なよ」
「うん、甘えさせてもらうよ」
それなら今日の放課後はまず由良の家に寄ってから駄目そうなら私の家に、という感じかな。
私がイカれているのかトビー君が不思議な力を持っているのかははっきりしていないけど少なくともその可愛さで疲れだけは吹っ飛ぶと思う。
「そうだ、咲玖君に聞いてもらいたいことがあるんだ」
少しだけでも気にしていた彼にこれを言うのは微妙かもしれないものの、彼には知っておいてもらいたかった。
昔からずっとこうだったから、彼に隠し事なんかはしないんだ。
「そっか、応援するよ」
「ありがとう」
彼の笑顔はどこまでも落ち着く、私のはどうなんだろう。
「でも、今日はまだ一度も鳥越先輩は来ていないよね?」
「うん、返事もないんだ。だから放課後になったら家にいってみるよ」
じゃなくて、意外と見られていたりするのかな?
私を追えばすぐに後輩組二人とは会えるのが大きいか。
「僕も付いていっていい?」
「うん、なにもなかったらそのまま咲玖君を家まで連れていくつもりだったからね」
午前中のようにとまではいかなくても最後まで集中力の高さを維持できたことはよかった。
後輩組は来なかったから彼と二人で由良の家へ。
「はい――あ、辻本さん」
「こんにちは、由良さんって……」
「今日は体調が悪かったみたいだから休ませたの、上がってく?」
「はい、少しだけお邪魔させてもらいます」
彼は上がることを選ばなかったから早く戻らなければ。
ただ、部屋の扉をノックしても反応は返ってこなかった。
「入って大丈夫だよ」
「分かりました」
扉を開けて中に入るとベッドの上ですーすー寝ている由良が。
「ん……あれ、凪?」
お、はは、初めて凪って名前だけで呼ばれたなあ。
「ごめん……結構最悪な状態で返せなかった」
「いいですよそんなの」
「消えたわけじゃないからね」
「そ、そんなの当たり前じゃないですか。由良が消えたら嫌ですよ、もう前とは違うんです」
朝のことを思い出して一気に顔が熱くなった。
常にこの状態なら恥ずかしくはあるけどエアコンを使わずに済んで電気代も安くなるかもしれないなんて馬鹿なことを考えた。
「由良――」
「意味はないかもしれないけどあんまり近づかない方がいい――あ……なんで聞いてくれないの?」
「今日は全く一緒にいられなかったからです」
あ、駄目そう、今回は分かりやすく嫌そうな顔をしている。
まあ、これで私が風邪を引いたら治っても気持ちよくいられないからか。
「……治ってからにして」
「分かりました」
待たせているのもあるから今日はここまでにしておいた。
引き留めてこなかったからマシだった、ちゃんとお母さんにも挨拶をしてから出てきた。
「お待たせ」
「元気そうだった?」
「うん、明日には来られそうな感じだったよ。さあ、家にいこう」
構ってもらえなかったからと拗ねているわけじゃない。
これは元々約束していたことだから守っているだけ、絶対にそうとしか言えなかった。
「ふっかーつ!」
「よかったです」
まあ、土日すらも体調が悪くて休んだことで全く一緒にいられなかったけどね。
でも、彼女は別に「明日にして」と口にしたわけじゃない、だからこれは仕方がないことだと片付けるしかない。
「あれだね、やっぱり元気でいられている方がいいね」
「それはそうですね」
「だからくっついちゃう」
私達は元気な状態で集まればすぐにこれだ。
……金から連続して一緒にいられなかったからありがたくはあるけど……なんか恥ずかしくなってくる。
「さ、二人きりになれる場所にいこう――あーあ」
「早く移動を始めてよかったです、学校の時間ぐらいは凪先輩を独占するのはやめてください」
「まあいいか、付いてきたまえ」
しっかり前を見ながら歩いていたらいつの間にか桜ちゃんもいた。
何故か私のスカートの裾を掴んできているけどまだこの前のことを気にしているのだろうか?
「まったく、凪っちと過ごそうと思ったらすぐにこれだ」
「みんな仲良しということです」
「まあ、その方がいいけどさー」
来年になったら本格的に忙しくなるからいまの内に一緒に過ごしておきたいのかもしれない。
だから彼女的には残念でも受け入れてあげてほしかった。
私なんてどうせ暇人なんだからいつだって相手をできるんだからさ、と。




