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探し回っても見つからなかったときに後輩ちゃんのあの言葉を思い出した。
まるで世界から消えてしまった感じ、あのときの逆バージョンと言わんばかりに連絡しても反応すらない。
「鳥越先輩凪先輩を見ませんでしたか?」
「それが私も探していたところだったんだよ」
まだ朝だからすぐにいくこともできないから困った。
この高校の一度入ったら放課後まで出られないシステムも影響している。
「今日はお休みなんでしょうか」
「どうだろうね」
やっぱり変に近づいたせいで風邪が移ってしまったか。
連絡が返ってこなければできることはなにもないから教室で大人しくしておこう。
「あ、鳥越戻ってきたな」
「どうしたの?」
「見てくれよこれ」
なんだ……これ。
なんか私の机の上で黒い点がいったりきたり。
対象の前に指を置いてみるとそのまま上ってきて少しゾワッとした。
「んん?」
よく見てみようと指を近づけると今度はぴょんぴょんと飛び跳ね始めた点……じゃなかった。
「教えてくれてありがとう」
「いや気になっただけだから」
落とさないようにしつつ廊下に移動する。
「で、なんでそうなっちゃったの?」
「分からないんです」
あ、普通に話せるのか。
「というかどうやって来たん?」
「気が付いたら由良の机の上にいました」
このまま物みたいに持っておくのも危険なような……。
まったく、後輩ちゃんは本当に色々なことで悩ませてくれる子だった。
あの謎の空間を経由することで変なことになることもあると分かった日となった。
周りの人達はあくまで普通にしているだけなのにこの状態だと巨人に見えて結構怖い。
「桜っち桜っち、いますぐに手を出して」
「なんですか? はい、出しましたけど――って、なんですかこれ!?」
「落ち着いて、その小さいのは凪っちだから大丈夫だよ」
「んー……? あ、本当ですね。ふふ、小さくなっちゃったんだ」
うわこわあ……。
でも、彼女がその気になれば私の命を散らせるんだからやばいね。
もちろん、そんなことをする子とは思っていないけどね。
「茉莉にくっつけておこ」
「そんなストラップとかじゃないんだから……」
「まあ、たまにはそういう時間があってもいいじゃないですか」
それより早く戻らないと。
皆勤賞を目指す! なんて高い目標は掲げていないけど学校はなるべく休まない方がいい。
なんとなく体に力を入れてみたら――ただ疲れただけだった。
「やっぱり茉莉ちゃんには内緒、あと返してもらうからね」
「はあ。まあ先輩が近くにいてもメリットがないのでいいですよ」
うぐはあ……。
「きみは私のものだ」
「机の端にでも座っておきます」
「ん、教科書を捲ったときに発生する微風で吹き飛ばないようにね」
確かめてみた感じじゃそういうので影響は受けないみたいだった。
結局、復活できなかったので発言通り彼女の席でのんびりしておく。
下からじっと見ていると意外と真面目で……よかった。
これぐらいの小ささなら目線は感じないようになっているみたいで邪魔をすることにならなかったのもいい。
ただ、途中からお腹が減りすぎて困っ……って?
「にゃ~」
同サイズのトビー君が現れた。
鳴き声は都合よく周りに聞こえていなかったから近づいて抱き上げた。
彼がもう一度短く「にゃ」と鳴くと、
「あ、戻った」
ベッドの上に無事帰還と。
それでも先程までのことがなくなったわけじゃない。
登校しなければならない時間はオーバーしてしまっているし、実に中途半端な時間でいまから登校するのもなあと微妙な気持ちになる。
だから『戻りました』というメッセージだけを送って、今日はベッドの上で彼とゆっくりしておくことにした――はずだったのに。
「えーなにこの便利なんだか不便なんだか分からないやつ」
学校に着いても制服がなければ意味がないじゃん? と考えながら隣を見たら律儀に制服まで運ばれていた。
しゃーない、トイレにいって着替えて教室へいこう。
同じように遅れた経験は中学生のときにもあったからそのようなやり取りで苦戦することもなかった。
休み時間中にささっと入って大人しくしておけばスルーされるぐらいの存在だから大丈夫。
授業も普通に受けて、また休み時間になったらまずは由良のところにいってみることにした。
廊下から頑張るのも面倒くさいから今日も突撃して廊下に拉致、やっぱりこれが手っ取り早い。
ここから先はお約束の空き教室へ。
「やっぱり凪は大きい方がいいよ」
「私もそう思います」
「あと本当に貰うから」
「由良ならいいですよ」
彼女がその気になってどんどん前に進めていってくれるのはいいけどトビー君の存在が謎すぎて困っている部分もある。
まあ? 害を与えてくるどころか最初からいままで助けてくれてばかりだからその点は安心できるところだ。
「トビー君にお礼を言わないとね」
「そうですね」
勝手にワープしたからお礼を言えなかった。
帰ったらしっかり言おうと決めた。
「おめでとう凪」
「ありがとう咲玖君」
今日も今日とて柔らかな表情だ。
何度も言うけど無理やり浮かべているとかでもなければこうであってほしいと思うレベルのそれだ。
「ま、いいことなんじゃないの、先輩には鳥越先輩みたいな人がいてくれた方がいいでしょ」
「はは、ありがとね」
「はあ? はぁ……意味が分からないけど――ねっ!?」
ああ、桜ちゃんがぐしゃりとぉ……。
「凪先輩、私は悔しいです」
「ははは……ま、まあ、私がいなくなるわけじゃないからさ」
「学校では私のもの学校では私のもの学校では私のもの」
ひぇ、少し離れておこう。
「よく集まってくれたねみんな、私はそのことが嬉しいよ。トビー君もほら、そんなところにいないでこっちに来てよ」
「にゃ」
少し不満なところがあるのか由良の足にガシガシ爪を立てながら上って「いたたっ、痛いよトビー君!」と言わせていた。
「ふ、ふぅ……私達は付き合い始めたわけだけどあくまで今日のメインは私達じゃない、今日のメインはこの机に並べられた料理さ!」
「なんで私と茉莉が作らないといけなかったのか……」
「自分でも作ることができるけど人に作ってもらえた方が嬉しいだろう?」
「結局それって祝ってもらいたいということじゃないですか」
「あはは、たまたまさ」
一応二人が作り始める前に「やろうか?」とは聞いてみたのに「いいからじっとしてて」と戦力外通告になってしまっただけだった。
なので今回のこれもツンにしておかないといけないなにかがあるということにしておこう。
「こうしてまた作ってあげれば先輩ならちゃんと相手をしてくれるでしょ、だからそんな暗い顔をしないの」
「うぅ……凪先輩に相手をしてもらえないときは桜ちゃんに相手をしてもらう」
「いままでずっとそうしてきたでしょ? そこに先輩も加わっているだけだと思えば楽だよね」
お、お姉さんがいる。
そういうのもあって期待した目で見ていると「先輩はちゃんと茉莉のことを忘れないようにね」と。
「桜ちゃんのことも忘れないよ」
「まあ……相手ぐらいならしてあげるよ」
「「怪しい……」」
「べ、別にまた抱きしめたいとか考えていないけどね!」
なにかを抱きしめたいならトビー君を抱きしめた方がいい。
あの子はいい、それとなにかと有能だ。
それこそ学校に来られるような存在だったら「人間の先輩よりもいいじゃん」とか言いそう。
「ん……? 抱きしめる……?」
「ねえ桜ちゃん、もしかして凪先輩を抱きしめたことがあるの?」
「い、一回だけお試しでねっ――えっ、女子同士ならそういうことだってするでしょ!?」
んー相変わらず二人が作ってくれるご飯は美味しいな。
私ももっと練習して思わず「美味しい」と言葉を漏らしてしまうようなぐらいにしたい。
結構食いしん坊なところがあるからまずは由良に――あ、咲玖君にも食べてもらいたいかな。
「やっぱり桜ちゃんは凪のことが好きだったみたいだね」
「人としてでも好きになってもらえたら嬉しいよ」
「可愛い女の子達ばかりの相手をするのもいいけど僕のことも忘れないでね、この前もこんな話をした気がするけど」
「大丈夫だよ、これからもよろしくお願いします」
握手をしていたらその手にびしっと攻撃が。
「凪は私と手を繋いでおけばいいんだよ」
「片手は私が貰います」
「私は参加するのやめておく。さ、ご飯を食べよーっと」
刺激していざこちらに意識が向かったら「私関係ないです」みたいな態度で過ごそうとするのはどうなのか。
気に入らなかったから桜ちゃんに向かってダイブする、するとかなり大きな声で「なにしているの!」と叫んできた。
「ふふ、桜ちゃんが悪いんだよ」
「確かに、一番は桜っちだね」
「……こそこそ仲良くしていて変態なんだね」
「な、なんで私がこんなことを言われなくちゃいけないの!」
「「「ははは!」」」「にゃ~」
あ、涙目になってしまったからここいらでやめておこう。
その後はみんなで平和にご飯を食べた。
にこにこ笑顔ばかりで最高の時間となったのだった。




