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276  作者: Nora_
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06

「こら」

「あ、ご飯作りを頑張ってもらったから木戸ちゃんはもういいよ」


 って、送らないと不味いか。

 少し食べすぎて運動したかったところだから丁度いい。


「よし、家まで送るよ」

「そうじゃなくて、先輩がしないといけないのは鳥越先輩と仲直りすることでしょ」

「ん-? 喧嘩をしたなんて言っていないんだけどなー」


 あれ、目がガチだ。

 あのときすぐに離れたように見えたけど実は近いところから見ていたとかだろうか。

 もしそうでも気にする理由は分からないかな、いまは少しでも咲玖君といられるようにした方がいい。


「二人きりになったらすぐに別れたでしょ」

「でも、どんな内容から離れたかなんて――」

「鳥越先輩が私の方がいい的なことを言って先輩がそのまま受け入れたからでしょ」

「盗み聞きとかえっちだね」

「は?」


 うわこわあ……。

 怖いから三島ちゃんとゆっくりしていた咲玖君に話して家まで送ることにした。


「馬鹿先輩」

「木戸ちゃんの――」

「桜でいいよ」

「わ、私も茉莉と名前でお願いします!」

「わ、分かった」


 じゃなくて、茉莉ちゃんが参加してきたことでこの話が終わると考えているなら大間違いだ。


「桜ちゃんのそれはもう言葉で苛めたいだけだよね?」

「別に、大事なところで変な遠慮をしているからじゃん」

「でも、私と桜ちゃんなら桜ちゃんの方がいいのは確定しているでしょ」


 選ばれたのは攻撃だった。

 しかも一回だけで終わらせようとしないから受け止めることになった。


「辻本先輩は鳥越先輩が気になっているんですね」

「気になっているというか楽なんだよね」


 話しやすくて自分の方からもいきやすい。

 あとはあれだ、一人でいることが多い先輩だからそこまで引っかからずにいられることがいい。


「いやそれは鳥越先輩が合わせてくれているだけでしょ」

「それはそうなんだけどさ」

「だけどそれは一緒にいたいからで、鳥越先輩だってほとんど同じだってことでしょ」

「それなら嬉しいけど」


 いやでも、あそこですぐに彼女の名前で出てきてしまうあたりに本音が出てしまっていると思う。

 少しも考えていなければそんなことにはならないんだ、まあ間違っているどころか物凄く正しい選択をしているわけだから貫くのが一番だろう。


「だからあの日のあれは分かりやすい選択ミスだね」

「と言われてもなあ」


 って、私ばかりと話していてどうする。

 が、黙って少し下がると何故か彼が来てしまった。

 そう遠くないのもあって茉莉ちゃんとは別れることになってしまうしで上手くいかない。


「桜ちゃんを送ったら鳥越先輩の家までいこうか」

「くふふ、咲玖君も諦めきれないってことだね?」


 どっちかだけしか無理! なんてことはないだろうから時間さえ貰えればいつかは変わっていく気がする。


「そうだね、いまここで動いておかないと凪が後悔しそうだから諦めきれないんだよ」

「あ、そういう……」

「当たり前でしょ? というか、あれを見せられたら異性に興味がないことはすぐに分かるよ。鳥越先輩はみんなにくっついていたけどやっぱり凪のときは違った気がするんだ」

「いや、昔から一緒にいるからって贔屓発言はいいから……」


 そうじゃなくても終わりかけている状態のときにいまみたいなことを言われても喜べない。

「もう無理かもね」と自分以外のことに関しては冷たいぐらいでも問題なかった。


「桜ちゃんもそう見えたでしょ?」

「んー鳥越先輩がどうこうよりも先輩自身が嬉しそうな顔をしていた気がします」


 うん、これならまだ分かるけどね。

 彼女の家にも着いてついに二人きりとなった。

 彼的には自身の誕生日に私だけじゃなくてあの二人も参加してもらえて嬉しかっただろうし、このまま解散にするのが一番だと言わせてもらう。


「いこう」

「えー絶対?」

「うん、ちゃんとしておいた方がいいよ」


 こちらの肩に触れてから「ちゃんと終わるまで待っているから大丈夫だよ」とありがたいようなそうじゃないようなという微妙な発言をしてくれた。

 これだと門前払いをされた場合にはかなり恥ずかしいことになる、そのときのことを考えたら彼にはもう家に帰ってもらう方がいい……けど夜が得意じゃないのは今日も同じだからいてもらいたい気持ちもある、難しい。


「ここだよ」

「うん、じゃあ近くで待っているから」

「……誕生日なんだから帰ってゆっくりすればいいのに」

「凪達のおかげでもう十分ゆっくりできたよ」


 く、くそう、いくしかないか。

 連絡先は交換できていないからチャイムを鳴らすことになった。

 もうそれなりに遅い時間なのにいいのかどうかを鳴らしてから考えるというアホなところもあった。


「はい――まさか後輩ちゃんが直接乗り込んでくるとはね」


 せ、先輩でラッキー……と言えるのかな。

 一気に心臓が慌て始める、下手をしたら向こうからでも分かってしまうぐらいかもしれない。


「すみません、だけど咲玖君に仲直りしておいた方がいいとしつこく言われまして」

「あれって喧嘩じゃなくない?」

「とにかく、大事なところだから動かないと不味かったみたいです」

「それなら後輩ちゃんの意思じゃないんだ」


 あ、これはまた同じ結果になりそうだ。

 それでも? 動いた結果の同じ結果なら咲玖君だって納得してくれるはず。

 

「でも、桜ちゃんの方が上なのは本当のことじゃない――なんです?」

「はは、仲良くできているようでよかったよ」


 め、目が笑っていない……。

 これは逆にすごいな、これも私じゃできないことだ。


「桜ちゃんのことを名前で呼んでいるということは高確率で茉莉ちゃんのことも名前で呼んでいると。なるほどね、楽しめたようでなによりだよ」

「あの、閉める気満々ですよね?」

「だって後輩ちゃんには私なんて必要ないでしょ?」

「別にそんなことはないですけどね」


 こう、煽りたくないんだけど続けたくなってしまう、実は悪い人間だったのかもしれない。


「なにその言い方、気に入らない、可愛くない」

「可愛くない人間にあんなことをしてしまうんですね、鳥越先輩って面白いです」

「は?」

「拗ねていないで戻ってきてくださいよ」


 体が冷えてきたから早く戻りたい。

 まあ、まずなによりも彼を家に帰してあげなければならないんだ。


「分かりやすく調子に乗っているね」

「それでいいですから早く」

「って、もう終わったんでしょ?」

「泊まってください、そうすれば可愛くない私を独り占めできますよ」


 押し倒したり上に乗ったり好きにすればいい。

 私のせいで参加できなくなったとかじゃないけどあんなやり取りがなければ普通に参加して後輩組と楽しんでいただろうから全く気にならないというわけじゃないんだ。


「ぷっ、あははっ、一人じゃ流石の後輩ちゃんでも怖かったから横尾君に付いてきてもらったんだ!」


 え、あ、彼的に限界がきてしまったか。

 急に笑い出すものだから壊れてしまったのかと思った、それよりは遥かにいい結果だ。


「咲玖君のためにも早くしてください」

「ふむ、まあ誕生日の横尾君に悪いから今回は付き合ってあげようかな」


 これからは彼に迷惑がかからない範囲でいてもらおうと決めた。

 対茉莉ちゃん、対桜ちゃんの場合でも有効的すぎる最強のカードだ。


「はい、ありが――ぶぇ」

「許したわけじゃないから勘違いをしないように」

「分かっていますよ」


 今度こそ彼とは別れ二人で家まで歩いていく。


「由良だよ」

「は、はあ」

「由良はね、可愛くない後輩ちゃんのせいで何度も枕を涙で濡らすことになったの」

「多分、悲しかったのは咲玖君だと思います。私なら鳥越先輩を誘えると考えていたでしょうからね。でも、最後まで笑顔で対応できる咲玖君はやっぱり立派です、これはなかなかできることではありません」


 おまけに私のために動いてしまう危険とも言えてしまうぐらいの優しい子だ。

 昔から一緒にいられるのはなんでなのか、本人に聞いても不安になるだけだから違う子が答えを教えてほしい。


「参加だけでもしてもらえたら違うか」

「それはそうですよ、私だって喜びますよ」

「メンバーは横尾君と私と後輩ちゃんの三人だけじゃなかったし、参加すればよかった」

「今日なんて桜ちゃんが美味しいご飯を大量に作ってくれたのにもったいないことをしましたね」


 着いた、今日はもう二度と出ないぞ。

 入浴はもう済ませているみたいだったからさっさと入って出てきた。

 部屋に戻るとベッドに寝転んでいる先輩、私は自分のベッドなのに端の方に遠慮して座る。


「……や、さっきのはマジで嘘じゃなかったのにその間に後輩ちゃんは友達と楽しくやっていたみたいだね」

「でも、私が意地悪をして鳥越先輩を誘わなかったわけではないですからね」

「いま正論を言うのはやめてくれないっ?」

「でも、事実ですからね」


 それよりこの人、結局私がそういうつもりでいるとなにもしてこないようだ。

 だったらたまには私から動くか、また同じようなことになったら咲玖君が不安になってしまうから仕方がない。


「え、なにをするつもり……?」

「鳥越先輩の真似をしているだけです――んー今回は鳥越先輩がうつ伏せに寝転んでいるせいでだいぶやばい感じになりましたね」


 背中を見下ろしていてもなにも楽しくない。

 シングルベッドとはいっても余裕がないわけじゃないから横に寝転んだ。

 そうしたら布団を掛けていなくてもすぐ横に寝転んでいる先輩の体温で温かくてよかった。


「由良先輩」

「なに?」

「もうこのまま寝ますか?」


 まあ、その場合なら歯を磨いてからだけど夜更かしをしても翌日に響いてしまうだけ、泊まってもらったとしてもゆっくりやるのは冬休みになってから――は厳しいのかな?

 咲玖君のことを出してほとんど無理やり連れてきた私だけど先輩はよく付き合ってくれていると思う。

 でも、先輩はカサカサ君なのか真っ暗になってから動き出す人だと知ることになった。


「後輩ちゃんが悪いんだよ?」

「このベッドはそんなに広いわけじゃないから仕方がないですよ」

「あ、あれ」


 布団だけだと温まりづらい場所でも先輩が抱き着いてきてくれているおかげでぬくぬくだ。

 だから朝まですぐだった。

 ただ、起きたらこっちを睨んできている先輩がいたけどね。




「うーん」


 仲直り的なことをしてまた一緒にいられるようになったのはいいけどそこまで時間が残っていないことが気になることだった、また時間を重ねることができれば先輩のことを気に入っている私としては求めていってしまうだろう。


「後輩ちゃーん」

「いまって大事な時期ですよね?」

「んーまあそうかも?」

「私の存在って邪魔になっていません?」

「いや? 寧ろ近くにいてまたお弁当を作ってもらいたいぐらいなんだよね。流石の私でもテストなんかが近づくとそわそわしてくるんですよ、そういうときに後輩ちゃんパワーを貰えたら嬉しいわけですよ」


 お弁当か、それで力になれるなら何回でも作ろう。

 あれだあれ、先輩にその気があれば卒業した後でもちゃんと付き合ってくれるだろう。

 あの魅力的な後輩組を見てもそちらには飛びつかずにこちらのところに何回も来ている先輩のことだ、期待をしてしまっても残念な結果に終わる可能性は低い。


「あ・と・は」


 手を掴まれているのでなすがままとなっていると薄暗い場所まで連れていかれて抱きしめられた。


「後輩ちゃん成分を補充しないとね」


 同性に抱きしめられて安心しているとか明らかに変なのに抵抗しようとする自分が出てこない。

 それどころかそのまま抱きしめ返したい気持ちになってくるのはやっぱり私が先輩のことを気に……なっているからかもしれない。

 んーここだと薄暗くてアレだ、なんか変な気持ちになる。

 いますぐにでもツッコミを入れることができる桜ちゃんに、


「学校でなに変なことをしているの」


 きたー! 最高の存在だ!


「教育に悪いから茉莉にはとてもじゃないけど見せられないね」

「ありがとう桜ちゃん」

「いやいいから早く離れなよ」


 とは言われても先輩にぎゅっと抱きしめられていて離れられ――あっさりとこちらを離したうえに彼女に抱き着いていた。


「ふむふむ、抱きしめたときの性能は桜ちゃ――桜っちの方が高いね」


 私は細いだけだから細くて出るところも出ている彼女は違うだろうな。

 ……私がやったらいまみたいに暴れないでいてくれるかな? って、……先輩がよくくっついてくるようになってからやばい思考をするようになってしまっているな。

 想像《妄想》が得意な私だからこそ影響されるのは早いのかもしれない。


「それより茉莉ですよ、なんか知らない女子が近づいてきて困っているんです」

「ほほう、どういう子なんだい?」

「髪は長くて眼鏡をかけていて……あっ、顔は鳥越先輩に似ているかもしれません」


 なんとなく、それでも先輩みたいな話し方はしなさそうだと思った。

 年下だからというのもあるけど髪が長いなら丁寧な、なんなら敬語で話しそう。


「興味が出てきた、いまいけば見ることはできるだろうか?」

「すぐに見れますよ」

「それなら案内してほしい、茉莉っちが困っているようなら助けようじゃないか」


 本当に困っているときなら彼女がそのままにしておくわけがないから問題はないのだ、もう友達で邪魔をすることになってしまうだけかもしれない。

 ただ? こういうときにちゃんと付き合っておかないと拗ねてしまいそうだから付いていく。

 なにもなければないでそれが一番だ。


「あれ、茉莉はもう一人でいますね」


 先輩は教室に入ることを選択せずに気づいてくれるのを待つみたいだった。

 そしてこういうところでも優秀な――ただ視線を感じただけかな? とにかく、茉莉ちゃんは気づいて出てきてくれた。


「桜ちゃんと一緒にいたんですね」

「桜っちに『茉莉ちゃんが困っているんでチュー助けてくださいでチュー』って頼まれてね」

「あー……ある意味ででは困っていましたね」

「言ってみなさい、協力できることなら協力しよう」

「実は――」


 キャラが壊れているのによく冷静に続けられるものだ。

 まあでも、ちゃんと聞いておいた方がいいだろうから壊れた先輩のことを考えるのはここまでにしておいた。

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