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276  作者: Nora_
5/10

05

「茉莉知らない?」

「最近は来ていないかな」

「そうなんだ、毎回毎回教室から出ていくから気になっているんだけど見つからないんだよね」


 咲玖君は教室で男の子の友達とばかり話しているとなると……先輩のところかな?


「それより咲玖君と話さなくていいの?」

「どうせなら話していこうかな」

「それがいいよ、協力するよ」


 咲玖君の友達も優しい子達ばかりだから大して気にせずに近づくことができる、なんなら普通に話しかけられて相手をさせてもらうことになった。


「最近、後輩とよく一緒にいるよな」

「きっかけは咲玖君に興味を持ったことだったんだよ」

「ああ、あいつ興味を持たれるよな。でも、あいつ自身は年上が好きだから進む可能性は低いと、もったいねえな」


 まあ、人によって好みが違うからそこは仕方がない。

 挨拶をして二人を追うとすぐ近くのところで話していたから合流するのは楽だった。


「先輩は意地悪だね」

「へ? 急にどうして?」

「だって横尾先輩の誕生日がもうすぐくることを教えてくれなかったからだよ」


 き、聞かれなかったからだけどそういえばそうだ、十二月一日が彼の誕生日だ。


「そこはほら、ちゃんと咲玖君本人に聞かないとね」

「いま動いた結果の発言だよ」


 去年なんかはご飯を作らせてもらったけど今年はどうなるんだろう。

 どちらにせよ、なにか誕生日プレゼントを買っておかないとな。


「咲玖君的にどうなの?」

「男友達と集まる約束もないからいつもみたいに凪がなにか作ってくれるとありがたいかな」

「分かった。それならちょっと木戸ちゃんを借りるね」


 手を掴んで少し離れる、やっぱり無駄にツンツンはしないみたいでここでも暴れたりはしなかった。


「木戸ちゃんってご飯は作れる?」

「茉莉ほどじゃないけどそれなりには」

「それなら一緒に協力して作ろう」


 やらなければいけないことは変わらないからカレーぐらいしか作れなくても十分だ。

 誕生日のときに誰かが自分のために頑張ってくれたということ自体が嬉しいだろうし、どんな味でも「美味しいよ」と言えてしまうのが彼だった。


「でも、横尾先輩は先輩のご飯を求めているんじゃないの?」

「いいのいいの、それに一人だと結構大変だから協力してくれると助かるよ」

「分かった」


 戻ると彼が彼女に呼びたかったら三島ちゃんを呼んでもいいとぶつけていた。

 やっぱり彼的には後輩組の中じゃ三島ちゃんが一番なのかもしれない。


「咲玖君、鳥越先輩も呼んでいい?」

「うん、呼びたい人を呼んでね」

「ありがとう」

「ううん、こちらこそありがとう」


 よし、これで急に予定が入ったりしなければ楽しい時間になる。

 特になにもないから今日の放課後にでもなにか探しにいこうか。

 一人の方がいいような、他の誰かにいてほしいような。

 またもや授業中にごちゃごちゃ考えているとあっという間に昼休みになった。

 もう本人といって本人が欲しい物を渡すぐらいがいいかもね。


「今日は違うところで食べ――おっと、三島ちゃんじゃん」


 腕を組んで難しそうな顔をしている後輩ちゃん。

 なんとなくじっと見ていると「辻゛本゛先゛輩゛」と今日はやたらと低い声音で面白かった。

 木戸ちゃんからあの話を聞いて急いで来たのだろうか、自由に参加してくれればいいからいつも通りのこの子に戻ってほしい。


「ふぅ、横尾先輩と二人きりというわけではなくてよかったです」

「誕生日のときの話か」

「はい」


 これは……最初に妄想した通りに「私の横尾先輩を取らないでください」というパターン……には見えない。

 類は友を呼ぶというやつなのだろうか、意外と同性もいけてしまう子が多い――は流石に自信過剰すぎるか。


「もちろん、私も参加させてもらいます」

「うん」

「でも、辻本先輩はちゃんと鳥越先輩も誘ってくださいね」

「任せて」


 危ない危ない、何故自分を含めようとしてしまったのか。

 でも、こうしてすぐに本人がヒントを出してくれることがありがたかった。

 だったらいますぐに動こう。


「おっ、丁度いいところに来てくれたね、今日も一緒にお昼ご飯を食べようじゃないか」

「鳥越先輩、十二月一日に付き合ってください」

「ん? それはどうして? ――あ、付き合うこと自体は別に構わないよ」

「咲玖君の誕生日でみんなで集まる約束をしているんです」

「ほほう、この前は少し可哀想な感じになっちゃったからね、参加させてもらおうかな」


 そのまま三人で空き教室に移動してお弁当箱を広げていく。


「それ、今日もお母さんが作ってくれたお弁当ですよね?」

「えっ、あっ、そ、そうなんだよ!」

「いつか辻本先輩が作ったお弁当を見てみたいですね」


 あ、そういえばお弁当を作る約束ってどうなったんだろうか。

 先輩の方を見てみるといつもにこにこしているのに真顔で気になった。


「後輩ちゃん今日はお弁当を交換しようよ」

「いいですよ?」

「えっ、せ、せっかくお母さんが作ってくれたのに丸ごと渡してしまうんですか?」

「ほ、本当はよくないんだけどたまには……うん」

「そういうのはよくないと思いますけど……」


 うっ、いやでもっ、約束をしたから仕方がないんだ。

 分かりましたと受け入れたのにすぐにやらなかった私が悪い、だから彼女に正論を言われても真っすぐに受け止めるしかない。


「うん、美味しいね」

「お母さんも喜ぶと思います」


 もう既に作ったご飯を食べてもらっているのになんか恥ずかしい。

 それに食べさせてもらっているこのお弁当が美味しいからより酷いことになる。

 精神的に苛めて楽しむのだけはやめてもらいたかった。


「あれ、三島ちゃん――だと被るか、茉莉ちゃんは食べないの? 私も後輩ちゃんも食べ終えちゃうよ?」

「……食べます」

「うん、急ぐ必要はないけどささっと食べてゆっくりしよー」


 ただ、次はないだろうな。

 だから恥ずかしがっていないで堂々としていようと切り替え、多分先輩作のお弁当を楽しんだのだった。




「よしいくか」

「いこー」

「いきましょう」


 結局、この三人で誕生日プレゼントを探しにいくことになった。

 彼女に誘ってもらったのとプラスで私も誘ったのに木戸ちゃんからは断られてしまった。

 アドバイスを貰って物を買うのは避けたかったらしい。


「その日で消えるような物がいいよねー残る物とかなんか重いしー」


 私の方は渡したい物を渡すということで咲玖君がよく使っている消耗品を買って渡すことにした。

 いつかは終わるけどすぐには終わらない、そして必ず使うことになる物だから無駄にはならないだろう。


「わ、私もその方がいいですかね?」

「でも、茉莉ちゃんは後輩ちゃんほどじゃなくても前々から一緒にいるんでしょ? だったらいいと思うけど」

「そ、それなら辻本先輩の選択次第で……」

「私は勉強セットかな」

「ありゃ、後輩ちゃんもいつかは消える物かー」


 シャーペンは芯を変えるだけでほとんど変えずに済むからボールペンとかがいいか。

 替え芯がないタイプの物を好むから主にそれを、あとはルーズリーフとかそういうのだ。


「私はお菓子かなー」

「咲玖君はどちらかと言えばしょっぱい系のお菓子が好きですよ」

「なるほどなるほど、情報提供感謝ー」


 さて、彼女は……ああ、固まってしまっている。

 そんなに難しく考える必要はないと思うけどね。

 そりゃ気を遣わせたりするのは気になるかもしれないけど咲玖君ならどうせ笑顔で「ありがとう!」となるはずだから。


「おーい、固まっている場合じゃないよ茉莉ちゃん、早くしないと桜ちゃんに負けちゃうよ」

「桜ちゃんに負ける……ですか?」

「ほら見てあそこ、断っておきながら結局は同じお店に来ているんだよ」


 遠目からでも分かる、物凄く真剣だ。

 店員さんも「なにかお探しですか?」と近づけないぐらいの雰囲気、つまり私達でも無理だ。


「さ、桜ちゃんに負けるのは別にいいんです」

「おいおーい……って、桜ちゃんは横尾君ガチ勢だから勝っても不味いか――あ、買って帰るけどさ」


 それから彼女はうーんうーんうーんと一時間ほど悩み、それでも答えを出さないなんてことはなかった。


「えへへ、いい物を買えてよかったです」

「はは、嬉しそうだね」

「はいっ、付き合ってくれてありがとうございます!」


 はぁ……めちゃかわじゃん。

 これなら無理やりにでも咲玖君を連れていっておくべきだった、これが最高の誕生日プレゼントになったのに。


「あれ? 大きな足音が――きゃ!?」

「茉莉は返してもらいますから」


 同じぐらいのタイミングで出てきたということは見つからなかったのかな? それでもそうしなくちゃいけないぐらいの感じだったと。

 別に私達は彼女を無理やり連れまわしているとかじゃないけどね。


「おーおーもう目的は達成できたから連れていけばいいよ」

「え、ちょ、私はまだ辻本先輩と――あー!」


 珍しくあの子に対して意地悪なところを見せてきた先輩がいる。


「私ならちゃんと相手をしますから意地悪をしないであげてください」

「明らかにデレデレしていたから気になったんだよ、あれ以上一緒にいたら爆発してまた押し倒していたよ」

「別にそれはしたければすればいいと思います」

「ふーん」


 ふーんて……。

 この人もいざ私がその気になったらどこかにいってしまうんだろうな。


「そんなことを言いつつ他の子にデレデレしちゃう後輩ちゃんよりも桜ちゃんの方がいいのかもね」

「それはそうですよ」

「馬鹿、もう帰るから」


 いやここで「私の方がいいですよ!」みたいに言えるわけがないし、あの子に勝っている部分なんて一ミリもないから認めるしかないんだ。

 だからこれは確実に負ける戦いだった。


「って、歩くの速いな」


 五秒ぐらいしか経過していないのにもう見えないところまでいってしまいそうだ。

 でも、追う気はなかったから任せておいた。

 その気になる前に本人がああして離れてくれてよかった。




「誕生日おめでとう」

「「お誕生日おめでとうございます」」

「ありがとう!」


 結局、後輩組と私、咲玖君だけのメンバー――あ、トビー君も含めて四人と一猫ちゃんだけだった。

 両親は空気を呼んでまだ帰ってきていない、仕事が終わったらそのまま二人で外食にいくそうだ。


「はい、私からはこれね」

「あっ、そろそろ買わなきゃいけないところだったから助かるよ!」

「わ、私からはこれです」


 え、嘘、ラッピングとかってした方がよかったの?

 お店で買ったときにはしていなかった、自分で包んだということか。


「ねえ凪、こういうのってすぐに開けた方がいいの――」

「あ、後で一人のときに見てください」

「わ、分かった――ぶぇ、い、痛いよ桜ちゃん」


 あー出たよこれ、後輩ちゃんの名前を簡単に呼んでしまうチャラ男君の部分が。

 少し前まで呼んでいなかったのになにが起きた、もしかして既に二人はこそこそ一緒に過ごしてきたのか?


「すみません、単なるミスです。私のも後で見てください」

「そ、それでも嬉しいよ、ありがとう」


 まあいい、ご飯作りの方も特に問題なかった点が凄くいい。

 あと、実はいままで三島ちゃんに彼の相手を任せていたから二人でこそこそしてきたのは木戸ちゃんじゃない。


「これ、桜ちゃんが作ってくれたんだよね? この短時間によく一人で作れたね」

「違うよ、先輩と作ったの」

「え」


 そ、そりゃ見るよねー。

 明らかに「嘘をついたんですか?」とでも言いたげな顔で見てきている。


「う、嘘をついちゃってごめんね? だ、だけどあのときは三島ちゃん作のご飯が食べたくなってさ!」

「じゃあ……あの日鳥越先輩に渡したお弁当は……」

「わ、私作の物だったかなー」

「辻本先輩は酷い人です」


 うぐはあ!?

 多分一人で塩をかけられたナメクジ以上に縮んでいると「ま、まあまあっ、冷めてしまう前に食べさせてもらおうよ!」と彼が前に進めてくれようとした。

 その際にトビー君も動いてくれて手をぺろぺろ舐めてくれたから頭を撫でてダメージをなんとかする。


「メイン系は木戸ちゃんが作ってくれたから安心してくれていいよ」


 彼の誕生日だから頑張った方がいいということで誘わせてもらったわけだけどまさかほとんどやってくれるとは思わなかったんだ。

 だから「私も作ったんだよ」とは言いづらい内容となっている、そしてここにも優秀な子がいたということだ。


「美味しい、桜ちゃんもすごいね」

「そういえば横尾先輩も茉莉が作ってくれたご飯を食べたんですよね? 流石に茉莉には負けますが美味しくできているならよかったです」

「みんなすごいよ、僕だったらこんな風には作れないよ」


 いいぞいいぞ!


「でも、これは先輩のおかげでもあるんです。だからありがとうございます」


 え、あ、なんでそうなるのか。

 彼も何故か「凪もありがとね」とか言ってきてしまうし、彼女なんかも「なんてね」みたいに撤回することもなかった。


「い、いいよそんなの」

「そうですか? まあ、やめてほしそうなので今回はやめておきます」


 自分の誕生日でもないのに参加しているメンバーまでも柔らかい態度にさせてしまうイベントパワーというやつが怖い。

 あとやっぱり先輩は無駄に警戒していたくせにこの三人に対しては緩々のトビー君だったのが謎だった。

 いまはなにをしているだろうか。

 まあ、あの人のことだからあのことがなかったかのように余裕綽綽な態度でご飯やお菓子をもしゃもしゃ食べているんだろうな。


「でも、一つ気になることは凪が鳥越先輩を誘わなかったことかな」

「私がいるところでちゃんと誘っていました」

「「つまりなにかがあったということか」」


 二人がばっと見てきたから違うところを見ておいた。

 なにもない、ただ私が微妙な存在でしかないだけ。

 これをそのまま伝えてもいいけどそれこそいい時間に敢えてそんな話をする必要もないから「なにか予定が入ったんだよ」と答えておく。


「怪しい」

「そう? ほら、まだまだあるから食べようよ」


 彼女の手料理もいいなあ。

 私ももう少しぐらいは上手く作れるようになりたかった。

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